最下層への道
それからウーとダラスの二人は怒涛の快進撃で地下を進んでいった。それなりに強い兵隊たちが待ち受けいたが、それでも彼女たちの前では雑兵でしかなかった。それにダラスの部下たちのかなりの強者ぞろいで、二人がうち漏らした敵を次々と処理していく。
「それにしても、なかなか警備が多いな」
「それだけ需要な施設と言う事でしょう」
「重要と言うよりかは、闇が深いと言えるかもね」
用事がないので通り抜けたが、先ほどから時々尋問部屋や厨房など生活感と非生活感が入り乱れたこの施設の内情を視線の端々に捉えることが出来る。
「ここが奴隷を扱う施設というのは本当のようですね」
「うん、話に聞いた通りだ」
ここではずっとフィリアたちをはじめとした奴隷たちが日々、過酷な生活を強いられていたのだろう。その痕跡を見るだけでも気分が悪くなっていく。
「しっかし、ずっと降りてるのになかなか収容エリアにたどり着かねぇ」
「おそらくは一番下なのでしょう。ですが警備の数はかなり削ったはずです。今の私達なら容易にたどり着けるかと」
「そうならいいんだけど」
僕たちの目的は最下層にたどり着くことではない。その中にいるはずのフィリアの母親を探すことなのだ。なのでたどり着けたとしても、今度はまた別の不安要素があるかもしれない。そのことを肝に銘じておかないといけない。ウーやダラス達とは違って僕はまだまだ戦えないからだ。一応自衛のための短剣を持たせてもらってはいるが、いざ戦闘になるとこれを使って敵を倒すことは今の僕にはまだできない。あくまで誰かが助けてくれるまでの時間を稼ぐことしかできない。
「お頭、また扉だ」
「おう気を付けて開けろよ」
「了解」
扉の真正面には立たずそのすぐ横の壁に陣取りゆっくりと扉を開く。すると人がやっと一人通れるくらいの隙間ができた時、扉の向こう側から矢が飛んできた。しかしそれらすべてはダラスの斧によってはじかれ、僕らにダメージをあたえることはできなかった。
だがこれだけのことで、扉の向こう側には敵の兵が待ち伏せをしていることが明らかだった。ダラスの部下がこっそりと扉の隙間から顔を出し部屋の中を確認する。するとまた矢が飛んできたが、うまくかわす。
「どうだ?」
「まずいですね。部屋の中には弓兵と騎士がびっしりだ。そしてその奥にまた扉がある。恐らくあそこから降りられるんだろうが、敵が多すぎる。ここは流石にお頭たちだけじゃあ無理だ。」
「あたしの実力分かって言ってんだよな」
「ああ、そうだ。明らかに部が悪すぎる。それにあっしらにもそろそろ戦わせてくだせぇよ。ずっとお頭ばっかりでいい思いしてるから疼いてしかたがねぇ」
「まったくこの戦闘馬鹿どもめ。仕方がねぇな」
ダラスは斧を構えると目の前に扉に手を置いた
「おい商人あたしらが道を開く。その隙にそこの子供狼連れて下へ行け」
「でもそれじゃあ」
「あたしらの事舐めてんのか、ボケが素人のお前らと違ってこっちは全員が軍隊崩れなんだよ。だからここはあたしらがやる。お前らは先に行け」
「分かった」
そう言うとダラスはその斧を持って力いっぱいドアを吹き飛ばした。その扉が待ち構えていた敵陣の中央にぶつかった。そのせいで敵陣は隊形を崩した。
「いまだ、お前らやっちまえ」
その隙をダラス達は見逃さない。軽めの武器を持っている物から順々に各々が敵にとびかかかる。たった一瞬のことにも関わらず、あたりは混乱に包まれた
「今のうちに行こう」
僕はフィリアの手を引き、混沌とした戦火の中を突っ切る
「行かせるものか」
途中騎士の一人が僕らに襲い掛かる。もはや戦闘は避けられないと判断した僕はとっさに短剣に手を伸ばす。
「させません」
しかしそれよりも早くウーの槍が敵の攻撃を受け止めた。
「ありがとうウー」
「礼は不要です。それよりもお早く先へ」
「分かった。ウーも気を付けて」
「お気遣いありがとうございます。でも」
ウーは敵の剣を押し返すと、そのまま敵の胸を突いた。
「ご心配に及びません」
「そっかよかった」
「さあ早く、これだけの兵が集っているということはおそらくもう奇襲による混乱はなくなっています」
「わかった」
僕はフィリアを連れて、奥の扉を開ける。そこにはダラスの部下の読み通り下へ続く階段がほの暗い闇の底へ向けて伸びていた。僕らはそこへ向けて歩みを進めた。




