迷うことのない決意
僕の言葉がどこまで彼女たちに響いたのかは分からない。それでも二人とも笑顔で言ってくれた。
「わかったのです」
「任せて~」
それを見て二人のことを本当にいい子たちだと思った。それと同時にこのまま健やかに大きくなって欲しいとも思った。
「二人とも、成長しましたね」
ウーが二人の頭を撫でている。それはこれまでも何度も見てきた光景だが。今はただあのどん底から再びここまで戻ってきたのだということを証明しているように思える。
「それで本当にうまくいくのかよ」
分かってはいたが、それでもフィリアは僕の作戦に疑問を抱かずにいられなかった。それは百も承知だ。でもいまだ無力な僕はただ言葉を尽くすしかなかった。
「確証はない。でも今は僕と、仲間たちを信じてほしい」
「もし、うまくいかなっから。末代まで呪うからな」
「ああ、そうしてくれてかまわない」
きっと代案があるわけではなかったのだろう。それでも自分の不安を口にせざるを得なかったのだろう。そんな彼女がこれ以上傷つかないためにも、僕らは必ずこの作戦を成功させないといけない。そのためにも
「よし、僕からの作戦の提案は終わり、なにかほかに聞きたいことは?」
「な~し」
「私も問題ありません」
「…」
「よし、それでは今日はご飯をしっかり食べて早く寝よう。明日は誰にとっても大変な一日になるし」
「…他人事だからって気楽な奴め」
フィリアはそう悪態をついたが、いざ食事に配給を始めると、しれっと器を持って列に並んでいた。まあ腹は減っては戦はできぬというし、大事なことなので僕は何も言わなかった。
そして食事が終わってからは各々必要なことをして時間を過ごしていた。一方の僕はと言うと特にこれと言ってできることがなさそうだったので、食器の後片付けをしたりしていた。するとちょうどそれが終わったタイミングでウーから声をかけられた。
「ご主人様、今お時間よろしいでしょうか」
「いいけど、どうしたの」
「明日のことで少しお話したくて」
「分かった」
僕は綺麗にしたお皿を馬車に詰め込むと、そのままウーの元へ戻る。彼女は焚火の傍の地面にこしかける。僕もそれにならって隣に座る。すぐに話が始まるのかと思ったが、ウーは僕から目をそらし、ひたすら自身の槍の手入れを行っていた。しばらく砥石の音をBGMに焚火に当たっていたが、あまりにもそれが長すぎるで、流石に僕から切り出した。
「ウー、話って何」
「えっ、私そんなこと言いましたでしょうか」
「うん、言ってた。だから僕がここにいる」
「そうでしたか、申し訳ございません」
「で、話ってなに?」
「それはですね、えっと」
ウーは先ほどまで砥いでいた槍の刃を天に向け、そして本体を肩にかける。
「今日は、ありがとうございました。あのような言葉をかけていただいて」
「ああ、そのことね」
僕はきっとこれからそれなりに恥ずかしいことを長い時間をかけていうことになるだろう。それを見越して先に目の前に焚火に枝を投げ入れておく
「あれは別に特別なことをしたわけではないよ、ただ僕は自分が思ったことを言っただけ。それでウーが立ち直れるきっかけになれたなら、よかったって正直思ってる」
「いいえ、あなたは特別なお方です。私にとってもこの世界にとっても」
「そんな、大げさだよ」
「今は…そうかもしれません。でもいずれその時が来ます。なのでその時まで、いいえその先もずっと私をあなたのおそばに置いておいてください」
「うんでもね、君に傍にいてほしいのは僕の方なんだよ。今のところ僕にできることはただ言葉を尽くすことだけ、だからもし争いごとに巻き込まれたらどうしようもないからね。そこは頼りにしてる。でもそれだけじゃなくてもっといっぱいあるんだよ。だってウーはしっかり者でなおかつ優しくて、それで、それで」
「うふふ、もうわかりましたよ。ご主人様」
必死な僕とは対極にウーは笑っていた。その理由は分からなかったがそれでも僕は嬉しかった。
「ご心配なさらなくとも、わたくしはずっとあなたの傍にいます。先のことはどうなるかはわかりません。でもそこだけは、もう二度と迷いません」
ウーはその場から立ち上がると明日は大変だからと僕にも早く寝るように促しそのまま眠りに就いてしまった。なんだが腑に落ちない点があるような気もするがまあ、今はどうでもいいやと思える。それよりもはるかに大切なものが今目の前にある。僕はそっとウーの髪を撫でると、その場を後にした。




