二人の夢とウーのルーツ
それよりも今はウーのほうが心配だ。今にも倒れそうな体に鞭をうちウーの元へ歩み寄る
「ご主人様、先ほどの決闘見事なものでした」
本人はいつも通りのテンションのつもりなのだろうが、だれがどう見ても今の彼女の言葉には覇気も生気もない。ただ絞り出すようにして無理やり口から吐き出したようにしか見えない。
「ウー、無理しないで」
「無理など」
いつも通り接しても結果は変わらない。それでも心のどこかできっと彼女なら大丈夫という信頼、というか甘えのようなものがあったのかもしれない。そうなるとこれは僕の咎だならばもう甘えは許されない。時には非情を持って接することも必用なのだ。
「ウー命令だ。無理はするな」
「ご主人様私は・・・」
「分かってる。だから何も言わずただ聞いていて」
僕はその場に跪き彼女と顔の高さをそろえ、ただまっすぐに彼女の瞳を見つめる。今まで何度も見てきたはずなのに、今日の彼女は今にも泣きだしそうで今まで見た中で一番情けない姿だった。だがそれでも僕はそんな彼女すら、大切だと思う。
「確かに僕は奴隷商人で、君は僕が所有する奴隷だ」
正直こういう言い方をするのは大嫌いだが、それでもこれはかえようのない事実だ。
「だけどそれだけの関係じゃないと僕は思ってる。だってウーは僕の夢を笑わなかった。きっとこの世界だとダラスの反応の方が普通なんだと思う。でも君は違う。嬉しかったなーあの時は本当に、それにこっちに来て一人で来て行く宛も変える場所もない僕に君は居場所をくれた」
そう僕はあっちの世界でもこっちの世界でも一人ボッチになるところだった。だがそんな僕の前に彼女は現れそして僕に心のよりどころをくれた
「でも、それはただこの世界で生き抜くために、ご主人様を利用したまでに過ぎなくて」
「ああ、それなら僕もそうだね」
とたんウーが豆鉄砲を喰らった顔をした。それがおかしくて思わず吹いてしまった。だって僕もこっちの世界の知識の大半を彼女からもらっているのだから。そこはお互い様だ。
「それに、それの何が悪いのさ。生きていくために助け合うなんて誰でもやっていることじゃないか。そんなこと気にしない~気にしない。それよりもこれを機に一つ教えて欲しいんだ。どうして君は僕と同じ夢を抱いているのか」
「それは」
ウーは初めてダラスと闘った時に観た夢の話、そして自らが幼いころの話を立て続けに聞かせてくれた。そこには彼女のルーツとこれまた僕が知らないはるか昔の物語の二つがあった。ついでにいうと彼女が軍隊経験者だということも初めて知った。だからあの町でフィリアを捕らえることが出来たのだと今更納得がいった。
「なるほどね。よーくわかった」
「申し訳ありませんつまらない話で」
「ううんそんなことはない。というか嬉しいんだ。ウーのことが知れて。それにそのおとぎ話僕も好きかも、できれば原作を読んでみたい」
「もし、まだ私の集落にあるのならお見せすることはできると思います」
「そっか、なら旅の目的がまた一つ増えたってわけだ」
僕はゆっくりと立ち上がった。楽しみがあるのはいいことだと思う。それだけで生きている意味が見つかるし、嫌な事を乗り越えるための力になる。だからこそ娯楽という文化が衰退することなく進化し続けたのだと思う。まあ今はその話は関係ないけど。
「さあ、立ってウー。僕たちの夢はまだ終わってないよ。これは僕達二人から始まったものでしょ、君がいないと始まらないよ」
僕が差し出した手にウーはそっと自身の手を重ねた。それは今でも小刻みに震えておりそれが彼女の自信のなさを表していた。僕はその手を強くつかみ彼女を立ち上がらせる。しかしまだまだウーの足取りは定まっていないようで、立ったと思いきやそのまま僕に向かって倒れこんできた。
「ありがとうございますご主人様、でも今はもうすこしだけこのままでいさせてください」
「うん、いいよ今日はいろいろありすぎて疲れたでしょ」
「それは、あなたの方では」
「それもそうだね」
僕らはひとしきり抱き合った後、皆に向き直った。




