表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

56/187

決闘、ぶつかり合う拳 求められる変化

 格闘素人の僕でもダラスの構えからパンチが飛んでくることは直ぐに分かった。ならばその拳に僕の拳をぶつける。それで力の証明なるかは分からないが、それでも正面から迎え撃つことが正しいのだと、この時は疑うことすらしなかった。それに搦め手なんて僕には使えないし、そんなものを使っては真剣勝負ではなくなる。そしてダラスはそれを嫌う



 足で地面を強く踏み、体を固定しひねりを加える。後は拳を前に出すだけだが、それでは力負けしてしまう。だからその前になんのために拳を振るうのか思い出す。フィリアとその母親を助けるのにダラスの協力は必要不可欠だ。だがそのためだけでは足りない。今僕の後ろにはダラスに言葉によって自身の進む道を失っているウーがいる、彼女に魅せる必要がある。それ以外にも今の僕はあっちの世界にいた時とは違う。今は守るべき仲間がいて、彼らのために命をかける覚悟がある。そんなもの今までの僕からは考えられなかった。それでも




「ご主人様」



「ご主人~」



「ご主人!!」



「商人様」



 頭の中でみんなの声がする。こんな未熟な僕のことを信じてついてきてくれた仲間がいる。彼女たちをこの旅の終わりまで守り抜きたい。これが今の僕の力の源であり、戦う理由だ。



「お前それは」



 ダラスが僕を見て驚く、それは僕も同じだった。僕は淡く輝いていた。それは眩しい皆を照らす太陽のようなものではなく、夜の街角に灯る街頭のごとく、弱くそれでも暖かな輝きだった。でもそれにいつまでも感動している時間はない。振り上げたこぶしは収まらないのだ。だがもはや不安や恐怖なんて感じなかった。抱いた思いと共に僕はダラスに拳を合わせた。



「こんなこと、あんのかよ」



 空中でぶつかった僕らの拳はすさまじいエネルギーを生み、そしてそれはやがて衝撃波となってあたりに拡散した。普通ならひょろひょろな僕が吹き飛んでもおかしくないが、僕らは二人ともそのままたがいに拳を合わせたまま一歩も引くことなく、制止した。



「ふー何とかできた」




『導き手の祈り』




 これが僕の新たな技、ただ己の願いを仲間と共有しそれを力に変える。ただそれだけの技、爆発的破壊力を持つわけでもなく、誰かを癒すわけでもない。ただ誰かが傷つかないように守るための力なのだ。



「お前、そんな力いったいどこで」



「正直僕もよくわかってないんだ。でももしかしたらいけるかな思ってやってみた」



「何だよ。それ」



 先にダラスが拳を引いた。どうやら僕に負けたというよりかは僕に呆れたという方が正しいらしい。



「でもまあ、お前の力は分かった。正直まだまだ足りないとは思うが、この作戦においては及第点だろう。力を貸してやる」



「本当!? ありがとう」



「だが少し時間をくれ、仲間たちと連絡を取る」



「えっ、もしかして」



「そりゃそうだろ、流石にこれだけの人数で人間の町一つ襲おうなんて考えるほどあたしはバカじゃねぇよ」



「そっか、そうだよね」



 新技を使った余韻で僕は立っているのもやっとなほど疲れ切ってしまっていた。一応成功したもののこれではまだまだ実戦向きとは言えない。それでもコツは掴んだと思う。



「じゃあ、あたしは少し抜けるぜ、心配すんな明日の日の出までには戻る」



「作戦は聞かなくていいの?」



「明日聞く。それまでにじっくり考えておくんだな」



「あと、そこの狼女」




「お前はこのままでいいのかよ」




 そう言ってダラスは一人森の方へと消えていった。彼女のことについてはまだ分からないことが多いが、それでも今は信じて待つほかないだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ