僕らの作戦とその前に必要な事
「お疲れ様です。まずはお水でも飲んで下さい」
まだ何も事情を知らないウーが僕にコップを差し出してくれる。取りあえず変な汗をかいたために消費した水分を補充しておく。
「それで、どうなったんだ。交渉しに行ったんだろ」
今日唯一あの場にいなかったダラスが不用心に話題を振ってくる。でも今の僕からすればそれくらいぶしつけな方が話を切り出しやすかった。
「結果だけ言えば、考えていた中で一番最悪な事態になった」
「それは一体どういう」
「まず、僕らがフィリアをかくまっていることが向こうにばれた」
「そんな、ここは町からそれなりに離れているというのに」
「そこは多分金に物をいせて密偵なんかを雇ったんだと思う。というか大事なのはそこじゃないよ」
「そうですね」
「そして、向こうはフィリア君を差し出せて要求してきた。それを拒めば僕らをお尋ね者にすると」
僕の言葉を聞くや否や、フィリアはナイフを取り出し、大きく後ずさった。
「ちょっと、落ち着いてまだ引き渡すなんて言ってないだろ」
「でも、そうする可能性もあるってことだろ」
「それをどうするかって話を今からするんじゃないか。それと」
僕を含め、今の状況に対して一つだけツッコミを入れたいと思える場所があったが、だれもそれに触れようとしなかったが、僕は我慢の限界なので、とりあえず訳を確かめておく。
「チマ、ポタ。二人までどうしてそっち側にいるわけ」
「フィリアは大切な仲間」
「だから絶対に渡さない~」
彼女達の言い分も行動の訳もその一言で理解できた。このパーティーの中で短期間の間にフィリアと絆を深めた二人からすれば、彼女を引き渡す行為は選択肢としてはありえないのだろう。それでもこの二人の主張は現状を全く理解していないから出てくる者であることはその場にいた大人たちは誰しもが分かっていた。だがそれでも、この子たちの願いを叶えたいと、その場の誰しもが思っていた。
「チマ、ポタ安心して端から僕らはフィリアを渡すなんて考えてないよ。でも今まで通りに行かなくなってしまったから、これからどうするかってことを皆で考えたいんだ。だから二人も手伝ってくれるかな」
「あい」
「ご主人様のことを信じていたのです」
安心させるためチマとポタの撫でてあげる。これでひとまずはパーティー内分裂の危機は去ったと言える。だが事態は全く進んでいない。
「それで、いったいどうするってんだ」
「一応言っておきますが、あなたが依然言っていた作戦はダメですからね」
ダラスが依然言っていた。武力行使によるフィリアの母親の奪取。それは戦力差そしてチマポタをはじめとする。非戦闘員がいることを理由に却下されたものだった。だがそれがいよいよ現実味を帯びてきてしまったと思う。だからと言って問題が解決したわけではない。
「あの、よろしいのでしょうか。もし、そのフィリアさんを引き渡さないとなると、私達は犯罪者になるわけですよね。それならばこの町にはもういられないのではないでしょうか」
そこにさらにチセが示唆した可能性が追加される。確かにこの町でのお尋ね者になってしまえば、もう二度とあの町の門をくぐることはかなわないだろう。それ以上に今後人間の領土にい続けることすら困難になる。そうすれば僕らの旅はあっという間に修羅の道となる。そうなれば間違いなくチマとポタはついてこられなくなる。
そうなると、やはり引き渡すしかないのか。そんな悪魔のささやきが頭に響く。だがそれを僕は振り払う。ではどうするのか、もう僕らに打てる手はかなり少ない。
「ダラスの案で行こう」
「ちょとご主人様まで何を言い出すのですか、それが出来ないことはあなたが一番分かっているはずでしょ」
「うん、だからダラスの案をそのまま実行するわけじゃない。ある程度は変える」
一応何とか策をひねり出したが、それを実行するには今の僕らには足りないものがあまりにも多すぎる
「そのためにはダラス。あなたの協力が必要不可欠です。だけど僕らには明確な主従関係はない。だからお願いです協力してください」
僕のお願いにダラスはため息で返した




