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こんな未来も悪くないかもしれないという 夢の話

「今日もお疲れ様でした」


 一通りやることを終えた、僕たちは今日もいつも通り野原で夜を明かす。潤沢とは言わないがそれなりに資金も集まったので、毛布やテントなどの屋外でも過ごしやすくなるものを多くそろえたため、最近は野宿をあまり苦に感じることはなくなった。


「それじゃあ、お休み」


 そう言うと僕はあっという間に眠りについた。


「ご主人様、ご主人様起きてください」


 誰かが僕をゆする。でもそれは起きることを急かすというよりかは目覚める時間が来たというだけに思えた。僕は声の主に従い体を起こす。そしてすぐに違和感を覚えた。僕が寝ていたのはテントの中だったはずなのに、今の僕はベッドに上にいた。それもきれいなシーツがかけられている。


「あれ、ここは」


「あ、やっと起きた。ご主人様ちょうど朝食が出来ましたよ」


 やっと視界がはっきりしてきたおかげであたりを見回せるようになった。しかしそこは僕が眠る前にいたところとは何もかもが異なっていた。僕は確かにテントで眠っていたはずなのに、僕が今いるのは丸太を何本の重ね合わせて作ったようなログハウスの中だった。


「さあ、早く冷めてしまいますよ」


 僕はベッドから起き上がり、食べ物の匂いがする方へ足を進める。そしてすぐ近くのテーブルの前にたどり着いた。あたりを見回しても椅子はなかったので、僕はそのままマットの敷かれた床に腰かける。


 今僕の目の前にあるのはいつもよく食べているお肉いりのスープだが、器がいつも使っている木製ではなく、陶器製のものになっていた。


「さあ、これですべてそろいましたよ」


 先ほどからずっと声を僕に声をかけてくれていたのはエプロン姿のウーだった。冷静に考えたら、それもおかしい。今までウーのエプロン姿なんて見たことがないし、そもそもエプロンなんて買った覚えがない。でも今僕の目の前にいるウーはエプロンを来て僕の目の前に焼き立てのパンが乗ったお皿を置いてくれている。


「ああ、ありがとう」


 ウーは自分の分の料理をテーブルに乗せるとぼくの向かい側に座った。


「えっと、ウーこれだけ?」


「えっと、足りなかったでしょうか。それでしたら果物も出しましょうか」


「いや、そうじゃなくて。僕らの分しかご飯がないなって思って」


 とうとう我慢できなくなって僕は感じていた違和感の一部をウーに吐き出した。しかし彼女は逆に僕の方がおかしなことを言っているような顔を浮かべた


「えっと、どうしてそんなことを聞くのですか、ご主人様」


「嫌だって、僕らは旅をしていて」


「懐かしいですね。私も昨日のことのように思い出せます」


「そうじゃなくて。みんなはどこに」


「えっと、覚えていらっしゃらないのですか。ご主人様」


 そう言ってウーは一度席を立つと、すぐそばのタンスを開け、中から一通の封筒を取り出した。


「ダラスは大国直属の傭兵になりました。チセは研鑽を重ねるため医術の専門学校へ行って、フィリアは獣人の孤児院での仕事に励んでいます。そしてチマとポタの二人はともに親元を離れ全寮制のアカデミーへと通っています。そしてつい昨日二人から久しぶりに手紙が届きました」


 そう言われてみると、確かに封筒にはすでに開けられた形跡があった。僕はおそるおそる中身を取り出すと、そこにはチマとポタの二人が寮の部屋で撮ったと思われる写真と共に新たな環境で元気に勉強に励んでいるとの旨の手紙が添えられていた。


 それを見て、彼女のしている話は本当なんだと信じざるを得なかった。


「昨日、二人で大喜びしたではありませんか、あの子たちも立派になったなーと」


「そうだ、そうだった。忘れてたよ」


「思い出してくださったみたいでホッとしました」


 ウーは安心した様子で手紙を元にあった場所に戻した。


「そんな話をしているうちにかなり冷めてしまいましたね。早めにいただきましょう」


「うん、いただきます」


「いただきます」


 目が覚めてから違和感だらけの世界に放り込まれたわけだが、それでもウーが作るスープの味は変わらず優しく、そしてちょうどいいくらいに体にしみわたるおいしさだった。


「あ~おいしい」


「相変わらずよい食べっぷりですね。お代わりよそいましょうか」


「お願い」


「少しお待ちくださいね」


 温かいスープを飲んで柔らかいパンを食べて、あっという間にお腹いっぱいになった頃には僕が今まで感じていた違和感なんてどうでもいいと思い始めていた。それにこれはきっと夢なのだと今更ながら考えるようになった。


 おなかが膨れすっかり上機嫌になった僕は、この家に調理場と流し台があることにもはや一切の疑問を抱かずウーに言われるがまま、食器を置いた。


「ご主人様、薪が少なくなっていますので、取ってきていただけますか」


「いいよ」


 ウー曰く、扉を出てすぐ右に小さな倉庫があって、そこに薪が大量に保存されているらしい。一応外に出てみればすぐにわかるそうなので、言われるがまま外に出ようとする


「お待ちください、ご主人様」


 ウーが慌てた様子で厨房からとびだしてくると、僕の背にコートをかぶせた。


「外には大量の雪が積もっています。なのでそのままでは体を壊してしまいますよ」


「そうだったねありがとう」


「それではお気をつけて」


 ウーに送り出されて、外に出ると、彼女の話通り外は完全に吹雪に覆われており、かなり視界が悪くなっていた。それでも薪があると言われている倉庫は直ぐ近くにあったので、何とか見ることが出来た。そして全身雪まみれになりながら薪を抱えて戻ると、ウーがタオルを広げて待っていた。


「ご主人様、ご苦労様です。さあ早く体が冷えてきってしまう前に、雪を落としますのでこちらへ」


 ウーにタオルでわしゃわしゃしてもらい、上着と頭に着いた雪を落とす。柔らかなタオルとウーの慣れた手つきの御かげかなんだか優しく撫でてもらっているようで、一瞬童心に帰りそうになった。


「さあ、お風呂は沸いていないので、暖炉の前へ行きましょう」


 一応雪は落としたが、まだ体が震えるほどに寒かったので、正直ありがたい。ウーにつれられるまま再び朝食を取った部屋に戻ってきた。扉を開けた途端パチパチと火花が飛び散る音が聞こえてきた。


 僕は火の前に座り手を伸ばす。目のまえの日で熱せられた空気が僕の体へ向かって流れてくる、それを浴びるだけど何とも言えない幸せが僕の中を駆け巡る。


「ふ~あたたまる~」


 僕が暖を取っていると笑いながらウーがやってきた


「ご主人様、コートを脱がないといつまでも体が温まりませんよ」


「あ、そっか」


 いつまでも湿ったコートを着ていては温まった先からまた冷えて行ってしまう。そんな簡単な事さえ、僕は忘れていた。夢の中くらいそれくらいは都合してくれてもいいとは思うが、あいにくそうはいかないらしい。一応ウーにコートを戻しに行くと申し出たが、彼女にやんわり断られコートを没収された。


 ウーがコートを片付けている間、僕は一人になってしまったので。どうしてこんな夢を見ているのかということを考える。夢という物は本来その本人が心の中に抱えている物を具現化するものだと前に聞いたことがあるような気がする。


 でもそれが具体的にどういったメカニズムなのかということまでは正直把握していない。でもこの世界では皆それぞれ、自らの手で幸せと言えるような道を歩んでいるような気がする。それは確かに僕が望んだ未来だが、そうなると一つ疑問が残る。


「ご主人様、私の火にあたりたいのですが、よろしいでしょうか」


「うん、いいよ」


 振り返ってウーの顔を見ながら返事をする。その時彼女はどこから取ってきたのか大きな毛布と水の入ったケトルを持って戻ってきた。


「それでは失礼して」


 ウーはケトルを暖炉の上に置いた。そして毛布を広げ僕の前面に欠ける。そして等の本人は僕の後ろからあすなろ抱きにて体を寄せた。


「ちょっとウーさんどうしたの」


「いえ、この方がご主人様も安心できると思いまして。それになんだか今日のご主人様なんだか様子がおかしかったので」


 僕を安心させたいと言いながら実際はウー自身の方が不安で仕方がなかったのだ。それを誘発させたのが僕の言動なので、その責任を取らねばならない気がする。


「ごめんね、すこし疲れているかもしれないね。それでちょっと記憶がまとまらなかったんだと思う」


「そうですか、なら今日は一日中ずっとここにいましょうか。幸いにも外は吹雪なのでとても出られる状態ではないので」


「まあ、その状況でも庭くらいなら出られるかもね」


 僕の冗談にウーは頬を膨らませた。恐らくなにか気に障ることを言ってしまったのだろうけど、完全に怒っているわけではないのだろう。


「では皿洗いで冷えた私の手を、温めていただきましょうか」


 そう言って僕の手を使って暖を取る。ウーの手は人間の物とそう違いはないが掌の部分だけが、特別柔らかくできていた。そのためかなり触り心地がよかった。


「この手が冷えたら、ココアを入れましょう。だいぶ前ですがご主人様が町で買ってきたものです。それを飲みながらゆっくりとお話をして、おなかがすいたら食事にして、眠くなったら眠りましょう。一日ぐらいそう言った堕落に満ちた生活をしても罰は当たりません」


 そう言われるとそんな気がしてきた。そう思いだすとどんどん体の力が抜けていき瞼も重くなっていく。そうして僕は完全にウーに体を預けた。そんな僕を彼女は何も言わずにただ受け止めてくれた。ずるずると下へ下へとからだがずり落ちていき、そんな僕の体をウーはしっかりとホールドしてくれる。受け止められた僕は反射的に力の主の顔を見る。重力に従って垂れ落ちたきれいな髪の中心に柔らかな笑顔でこちらを見つめるウーがいた。


 彼女の笑顔を見ていると、こんな日々も悪くないと思ってしまう。もしすべての目的を果すことが出来たら・・・


「何もおっしゃらずともかまいません。私は全て見てきましたから。あなたの全てをあなた様は・・・」


 ウーの言葉を聞く前に僕は意識を手放してしまった。



「ご主人様、起きてください。朝食が出来ましたよ」


 聞き覚えのある声とセリフがまたしても聞こえてくる。だが今度は一切躊躇することなく体を起こしテントの外へと出た。


そこで待っていたのはいつも通りの姿で朝食を皆にふるまうウーの姿だった。





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