晩餐のスープと、チセが見ている世界
「お肉!!」
「食べる~」
「はいはいすぐに用意しますから、器を持って並びなさい」
「「は~い」」
さっきまでしっかりとしかりつけていたと思えば、今ではすっかり二人に甘くなっている。そういう飴と鞭の使い分けの才能がきっと彼女には備わっていたのかもしれない。
「お肉とろとろ~」
「あっさりしてるけど、具材のおかげで食べ応えがある」
昨日から食べている子分猪肉に加え、ぶつ切りのジャガイモが入っており、大変腹持ちが良い。だがそれ以外にも町の市場では見たことがないような、香草か山菜がふんだんに使われていた。そのことから僕はある結論に至った。
「これを作ったのはチセだね」
「はい、意外にもご主人様が元気そうだったので、手が空いているチセに私がお願いしておいたんです」
「元気そうって」
一体彼女には今の僕がどう映っているのかだろうか、少なくともだれが見ても元気いっぱいとういうふうには見えないはずだが。絶対にチセの了解を得ていない。その証拠に僕にスープを渡したチセが僕に
「あまり無理をしないでくださいね。回復が遅れる可能性があります」
そう言ってきた。絶対に裏でウーが何かしていたに違いない。でもその何かは分からない。それにプラスして、鎮痛剤をもらった。正直僕らのパーティーで薬は貴重品であるにも関わらず。それを惜しげもなく渡してきたということは相当僕は重症なのだろう。と言うか正直いろんな箇所が痛い。
「大丈夫ですか、ご主人様食べられますか」
「うん、何とか」
しつこい味ではないが、それでも食べれば自然と体が温まり力が湧いてくる。医学と山菜の知識を合わせた、まさにチセにしか作れない料理のおかげで、自然とさじが進む。それにあの山で食べて以来なので、まだそんなに日付が立ったわけではないのだが、この優しい味に僕はノスタルジーを感じていた。
一通り全員に食事が行き渡ったところで、私は馬車の中で一人お酒を飲んでいる。獣人の方の元へと向かった。
「あなたもどうですか、お酒ばかり飲んでいては体を壊しますよ」
「いいんだよ。あたしにとって酒は燃料みたいなものだからな」
皆さんはあまりはなしかけないのですが、話してみると意外にも会話は成立するので、決して根っからの悪人というわけではないのでしょうけど、彼女の素性が盗賊ということは、商人様からお聞きしており。そのため気が抜けない。
「そうですか、ではこれ以上はなにも言いません。ここに置いておきますね」
ついさきほどまで、お休みになると言っていましたが、私の作った料理が気になったのか、お酒の入った器を置き、スープにさじを入れた。
「うまいなこれ、お前うち団の医者になれよ」
「お断りましす。私はあの人についていくと決めたので」
いくら世間知らずの私でも盗賊行為が法に反していることは分かっているので、犯罪の片棒を担ぐ気はない。
「そっか。てかお前人間のくせに変わってるな」
「どういうことですか」
「あたしがいうのもなんだけどよ。人間は本来獣人を差別するもんじゃあねぇのか?」
「さあ、どうなのでしょうか。少なくとも私はそのような教えは受けていませんので」
「そうかよ」
私は獣人だけでなく、人間社会からも隔絶されたところで育ったため、まだまだ社会常識や情勢という物には疎い。だからどうして人と獣人は憎み合いけなしあっているのか、理解できていない。でもその理由もいずれこの世界を旅する中で理解できるのかもしれない。でも正直理解したくはない。
「なあ、お前はあの商人をどう思う」
いきなり、ダラスさんが尋ねてきた。私は荷台のふちに座り考えこむ。
「そうですね。あの人は自分に付き従う者たちをとても大切にしています。ですがそれは長所でもあり、短所でもあります」
「自分に付き従う物ね」
「そうなると、私は大事にされていないということになるだろうな」
「それは・・・・・よくわかりません」
だって私もこの人と同じくらいの時間しか商人様と過ごしていないのだから。それでその人となりを理解しろという方が難しい話だ。
「そうか、まあいいや」
ダラスさんはいつの間にか空になった器を馬車の中に置くと。そのまま寝転がった。
「それじゃあ今度こそ私は寝るから。朝になったら起こしてくれ。あと、めしごちそうさん」
そういって本当にダラスさんはねむりについてしまった。きっと先ほどまで飲んでいたお酒の影響なのだろうけど、あまりにも早すぎる気がするが、きっとこの人にとって。これが正常運転なのだろう。私は彼女分の食器を持って皆さんの元へと戻った。




