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三人の夜、秘密の作戦

 あの日の夜、私は焦りと苛立ちからか、まったく寝付けなかった。それもそのはずだ。あの商人は人間だから、わたしの境遇なんて理解できるはずがないんだ。だからあんなに悠長に行動しているんだ。それにあの獣人たちの商人の言葉を真に受けて、ただ従順になっている。


これではまるで獣人としても誇りなどとうの昔に捨ててしまっているのだろう。そんな奴らと足並みをそろえていては、母さんの救出など夢のまた夢だ。ならば私一人でもやるしかない。幸い猪なら、幼いころから沢山狩っている。だから習性など知り尽くしている。



 私は体を起こすと改めて、自分のナイフを確認する。もともとこれは母さんの持ち物だったため、一体どんな材質でできているのか分からないが、今のところ刃こぼれ一つない。


 私はそれをケースにしまうと、足音を立てないように、その場から離れようとした。


「あれ、フィリアどこに行くの~」


一体どこで音を立ててしまったのだろうか、気が付くと、子供たちが目を覚ましていた。

「ああ、えっとトイレだよ。それよりも起こして悪かった」


「嘘ついてる」


「いや、嘘じゃないよ」


「でも武器持ってる」


「それは、ほらここも一応自然の中だから何が襲ってくるか分からないから。それで」


 そう言っても二人は納得する様子はなく、ふくれっ面になりながら、私の方へとじりじりとにじり寄ってくる。これはもう何を言っても納得してもらえそうにない。


「分かった。二人には隠し事はできないな。話すから一旦落ち着いてくれ」


 私の言葉を聞き、二人の顔は先ほどまでのふくれっ面とは一転笑顔に変わった。その後二人はあっという間に三人分の座る箇所を確保し、焚火に薪を足した。


 私はとりあえず座り込む。二人はそんな私が逃げないように両サイドに座り、シッカリと腕に体を預けた。


「私のことは、一応理解しているね」


「うん」


「もちろん~」


「君たちのご主人さまを悪く言う気はないんだが、だが彼のやり方にどうしても納得がいかなくてね、だからやはり私一人でもヌシを狩りに行こうと思って。ああでも君たちは危険だからここで皆が起きるまで待っていてほしい」


「「嫌だ」」


「え、いやあのね」


 二人とも今回我々が狩ろうとしている獲物の危険度については重々承知しているはずだ。それにあの商人からの獲物についての話があった時、二人も確かにその場にいて話を聞いていたはずだ。なのにそれを踏まえてもなお、嫌だというのか。


「フィリアを一人では行かせない」


「危ないから」


「危ないって。私はこの中で誰よりも山のことを知っていて。それに猪の狩りかたも同じくだ」


「それでも、一人はダメ」


「ダメって言われたって」


 私にはもう時間がないんだ。だからもうこれ以上止めないでくれ。私は自らの腕が意識せずナイフに伸びていることを今さらながら知覚した。だがここでこれを使えば、母さんとの約束を破ることになる。でもそれでも・・・あの日常を取り戻せるなら。私は何だってやる。


 なにちょっと刃を見せれば、彼女たちの足はすくむ。その一瞬をついてここから脱出すれば、だれも傷つくことなく私は目的を果せる。だから許してほしい子供たちよ。


 だが私はナイフを抜けなかった。決して彼女たちに妨害されたわけではない。ただ私の手に焚火で温まった彼女たちの手が添えられた。ただそれだけだった。だがその熱が私の心にあった焦りを消し去った。


 そうだ私は何をしようとしていたんだ。こんな幼い子供を脅してそれで目的を果したとしても母さんと笑い合えるのだろうか。


「ありがとう。すこし落ち着いた」


「よかった~」


「ピリピリしちゃだめ」


「そうだな、悪かった」


 心がほんの少しだけ。軽くなった。だが状況は何も変わらない。


「ところで話は変わるが、まさか私についてくる気じゃないだろうね。言っておくが私がは君たちが止めてもいくよ」


「「ついていく」」


 やっぱりか、私はため息をついたがすぐに気持ちを切り替える


「分かった。それも止めない。だがいざとなれば君たちを守れる自信はないぞ」


「大丈夫。危なくなったら」


「逃げる~」


「そっか、ならいいが。でもついてくるからにはある程度は役に立ってもらうぞ。そのためにも二人とも、何ができるかを教えてくれ」


 そして私たちは日が昇るよりもはやく作戦を立て、ヌシ討伐に向かったのだった。



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