戦いの後宴のはずが、別のことに
無事、ヌシを討伐した僕らはその大きな遺体を何とか馬車で持ち帰り、せめてもの罪滅ぼしに手血抜きをして置き、腐るのを遅らせ、そしてくたくたになりながら互いの活躍をたたえ合い祝杯を交わす。そして晴れてダラスも僕らの仲間入りを果たす。そうなるはずだったのだが、
「ダラスとチセ以外の全員、そこに正座しなさい」
「あの…ウーさんもしかして僕もですか? だって僕怪我人なんですけど」
「チセ、今ご主人様を動かしても問題ないですね」
チセは言葉を返すわけでもなく、ただウーの剣幕におびえながら親指を立てた。その瞬間僕はチセに裏切られたような気がした。まあでもチセに何の罪もなく、ただ勝手に僕が一方的にそう思っただけだ。
「なら、ご主人様もです。さあ早く」
とうとう逆らえなくなり、僕とチマ、ポタはウーの前に座った。だがフィリアだけがこっそり逃げようとしたが、あっさりウーにつかまった。
本当はもっとこう、朝までバカ騒ぎ的なことを予想していたが、これはもう完全に別物の予感だ。正直自分は何も知りませんという顔で干し肉をつまみに一人酒を飲むダラスがうらやましい、できることならあっちに混ざりたい。
「ご主人様どこを見ておられるのですか」
ウーが槍の持ち手で大地を鳴らす。その瞬間先ほどのヌシとの戦闘では感じ得なかった緊張感が僕らを包む。
「大体あなたはもっとご自分を第一に考えてください。あなたが倒れてしまっては私たちの夢はどうなるのですか、それにチマとポタのことも、私達には無茶をするなと言っておきながら、自分は無茶ばかりして。それでもしものことがあったらどうするんですか」
「でも、あの時はあれが最善だと思ったから」
「言い訳しない!!」
「…はい」
まさか、あんな温厚でお姉さん気質で、優しいウーが怒るとこんなにも恐ろしくなるとは、もう先ほどから僕の体から震えが止まらない。でもそれとは違う感情も同時に僕は感じていた。
「そのせいで、こんなボロボロになって、命があったのは奇跡としか言えないくらいですよ。ほかに何か反論がありますか」
「ありません」
「よろしい」
ウーの言う通り、僕は一度目の衝突の怪我に加え、腕や足の血管のいくつかが損傷する怪我をしている。だから彼女の言う通りどうして今生きているいるのか、本当に不思議なくらいだ。
そんなことを考え終り、ウーを改めてみると、なにかを催促するように僕を見下ろしていた。そっか、僕は彼女に心配をかけてしまったんだ。そんな分かり切ったことを改めて思う。なら僕がするべきことは一つだ。
「ごめんなさい」
こんなすがすがしくこの言葉を口にしてのはいつぶりだろうか、でもあっちの世界で口にするだけで汚泥が喉奥から上がってくるような感覚に襲われるのに、なぜかウーに対してはあっさりと口にすることが出来た。
「はい、その言葉が聞けたので、許してあげます。それと、あの時はチマとポタを守って下さってありがとうございます」
なぜかやらかしたはずの僕にウーは丁寧に頭を下げ、感謝の意を表した。そうか僕が受けた最初の一撃はあの二人を守るために受けたものだった。ある意味名誉の負傷と言えなくもない。まあただその代償はあまりにも高かった。
でもそれがあったから今皆がここにいる。そしてこんな優しいウーの顔を見ることが出来たのだから良しとしよう。
「それで、あなたたちはどうして、私達に相談せずに勝手な行動をしたんですか。あなたたち三人であれを仕留められると思ったのですか」
「いや、できると思ったけど。以外にも大きくて」
「そんなことではないでしょ。群れの規模から、ヌシがいかに強力であるかは私より、あなたの方が理解できたはずです」
そう言われて、フィリアは一切反論できなくなってしまった。
「それにチマ、ポタあなたたちもいきなりいなくなっては心配するでしょ。あなたたちはフィリアと違って、戦えないんですから。もしものことがあった時、一番危ないのはあなたたちなんですよ」
「それは」
「うー」
幼い二人にこれに言い返せなんて、相当きついと思う。だって自慢じゃないけど、僕ですら言い返せなかったのに、僕よりもはるかに幼い二人にできるはずがない。そう決めつけていた。
「でも、チマはフィリアの役に立ちたかったのです」
「一人では戦わせない~」
「そうポタそれなのです」
彼女達なりに必死に考えて発言したんだろうか、震える声で二人はそう答えた。しかし僕が聞いてもその発言の意味が全く理解できない。
「それは一体どういう事か、答えてもらいましょうか。フィリア」
「ああ、言われなくてもそうするさ。あれは昨晩のことだ」
フィリアは語りだした。




