消えた三人と現れたヌシ
僕は慌てて飛び起きすぐさまあたりを探しまわった。しかし痕跡一つみつからなかった。やがて騒がしい僕らを見て、チセとダラスが起きてきた。
「どうしたのですか、商人さん」
「えっと」
僕は二人にも状況を説明するが、ダラスは興味なしという様子で二度寝を決め込んだ。チセは自分はここで帰りを待つといい、僕ら二人を捜索に送り出してくれた。しかし二人とも彼女たちの行き先に当てがあるわけではない。分かっているのは少なくとも町に向かっている可能性は低いということだけだった。だから僕らはほんの少しの希望をかかえ、昨日まで狩りをしていた。森へと向かう。
「しかしどうして急に、フィリアだけなら分かりますが、あの子たちまで抜け出すなんて」
「おそらくは、フィリアが連れて行ったんだと思う。あの二人ウーと同じくらい、フィリアに懐いていたから」
「それを利用して、あの狼戻ってきたらタダではおきません」
いや、君も狼だよ。というツッコミは一旦飲み込んでおく。
「いや、無理やり連れて行ったわけではないと思う。多分あの二人からついて言ったんだと思う」
「なぜそう思うのですか」
そう聞かれても正直理由が分からない。ただフィリアの性格や生い立ちから考えてそんな小賢しい行動に出るような人ではない。ただそんな気がしたのだ。
「わからない。でもただそんな気がするってだけ」
「なら、あの子たちにもお説教が必要ですね」
「ふふっ」
こんな状況でも自然と笑いが出てしまう。それは今隣にいるのが、僕らの仲間の中で誰よりも頼もしいウーだからなのだろうか
「どうしたのですか、ご主人様」
「いや、ウーはいつでもお姉さんだなって思って」
「そうでもありませんよ。それよりもご主人様つきました」
会話に中途半端なオチが付いたところで僕らは昨日猪を狩った罠が設置されている一角にたどり着いていた。しかしここに来てもなお三人の痕跡一つ見あたらなかった。
「ここにもいないのでしょうか?」
「分からない。でもフィリアの目的はおそらくヌシを狩ることだと思う」
「おっしゃりたいことは分かりますが、しかしフィリアが直接町に向かうということはないのでしょうか」
「それはないと思う。たとえ町に言っても彼女が母親の元にたどり着ける可能性はかなり低いと思う。それが分からないほどフィリアはバカではないと思うよ」
ウーへの説明を終え、僕らはそろって山に入ろうとした。その時、大地が大きく揺らめいた。それと同時に鳥たちが一斉に飛び立った。これは明らかにおかしい。僕らは一度その場を離れ、改めて山を見ると、ある一角から土煙が立ち上り、木々がなぎ倒されていくのが見えた。明らかにあそこに何かがある。
「ウー」
僕の意図を察したウーがすぐさま頷く。お互いそれ以上の言葉を交わさず山の中へと入っていった。
僕らが木々をかき分けて進む。それに反するように小動物や鳥たちが逃げていく姿を見ることが出来た。それ等がこの先にいかに危険なものが潜んでいるのかということを想像させる。やがて木々がなぎ倒され、あたり一面まったいらな場所に出てきた。そこであたりを見回してみると、いきなり空中から地上へと降り立つフィリアがいた。
「フィリア!!」
「商人、どうしてここに」
「いや、それよりも今はこいつをどうにかしないと」
フィリアにばかり視線が集まっていたことで全く気が付かなかったが、あたり一帯に咆哮が響いたことで、僕らの体に鳥肌が走る。その声のヌシはただ僕らをにらみつけていた。
「まさかこいつが」
「そのようだ」
白い体毛に立派な牙、そして他の猪とは違う赤い瞳、そして木々すら軽く凌駕する巨大な体。それはまさにヌシと呼ぶにふさわしいものだった。




