新たな依頼、ヌシ猪捕獲作戦~前編~
翌日僕は再びギルドを訪れていた。今日も又新たな仕事を探しに来たのだが、どうやら今日からはギルドの方で事前に用意された仕事の中から選んでいく形式に変更になった。なので受付に赴き、用紙を確認するが、犯罪者の確保、貿易船の荷降ろし、巨大猪の捕獲どれも一筋縄ではいかないようなものばかりだった。その中でもかろうじて何とかなりそうな巨大猪の捕獲について受付嬢に話を聞いてみることにした。
「そちらはですね、近年山の生き物の成長が著しく、その中でもヌシと言われるほどに成長した猪が、子分を連れてこの辺りの畑を襲ったり、田畑を荒らしたりしていまして。皆さんには生態調査のための捕獲、最悪でも撃退をお願いします。ちなみに過去にこの町の傭兵団が三つ壊滅してます」
「ちなみに、その人たちは」
「生きてはいますよ、ただ骨を何か所か折っただけです」
「いや、それでも十分重症ですよね」
「皆さんなら大丈夫ですよ」
「そんなこと言われても…」
だが何度見ても、今の僕らにできることはこれしかない。だって犯罪者の確保は怪我人が出る危険性が高いうえに、町での活動は獣人のみんなではどうして制限されてしまうし、嫌な思いはしてほしくない。荷降ろしは僕が手伝えない上に、チマとポタ、そしてフィリアには重労働になってしまう。あと当然ダラスはサボるだろうし、となるとこれしかないのに
「えっと、ちなみに子分はどうしたらいいんですか」
「そうですね。特に依頼書には子分に処遇については特に書かれていないので、皆さんで食べちゃっても問題ないと思います」
「ほんとですか!!」
これで長い間僕らを苦しめていた食料問題も金銭問題も解決に向けて大きく前進する。なんだ以外にもチャンスは目の前にあるじゃないか。ならば迷うことはない。
「こちらにします」
「分かりました。それではよろしくお願いします。あ、それと例の強盗はどうなりましたか」
「あ~えっと」
言われるまで本気で忘れていた。だが言えるわけがない。その強盗と仲間として寝食を共にしているなんて
「あれからばったり足取りが消えました。全く手ごわいですね」
「まあ、仕方ないですよ。もう長い間手掛かりなしなんですから。それでは手続きは終わりです」
僕は受付嬢から依頼書をもらい、ギルドを後にした。
拠点に戻るとすぐに全員と作戦会議をした。今日からはこれまでの依頼書を見ていれば依頼がこなせるわけではないため、念密に作戦を立てる必要がある。
「さてと、どうしたものかな」
当然あっちの世界で猪なんて狩ったことはないし、それどころか実物を見たこともない僕からすれば、相手は全く未知な存在だ。
「ちょっといいか」
僕らの会議において初めて、フィリアが自ら口を開いた。
「猪なら故郷でよく狩っていた。だから習性とかもある程度は知ってる」
「本当フィリア!!」
「ああ、だがもう何年もやっていないから。うまくいくかは分からないが」
「それでもいいよ。教えてフィリアどうすればいいの」
フィリアはため息をついてから口を開いた。
僕はウーと草むらに隠れていた。僕が隠れている近く木の上にはチマとポタが自慢の耳と鼻をフル稼働しながらあたりの様子を探っていた。かれこれ十数分こうしているわけだが、一向に状況は変わらない。だが焦っても仕方がないので、ただ今は作戦通りに待機している。
「ご主人様来た」
「たくさん」
「了解ふたりともありがとう。いくよウー」
「はい」
ウーは茂みから飛び出すと、お手製の槍を構える。流石にここまで近づかれると、木の上の二人ほどの感覚器官がなくとも、目に見える砂煙や足音で相手の存在を認識できる。そしてこれも又作戦通りに目の前の草むらからフィリアが飛び出してきた。彼女はその身軽なフットワークであっという間に木の上に退避した。
「合図するまで、引くなよ商人」
「分かってる」
チマとポタに混ざり、フィリアもじっと自分が出てきた草むらを見つめている。僕が利いている音の発生源はその草むらの向こうなのだが、その音がどんどん近く大きくなっている、それに合わせて僕の体に緊張が走る。やがて群衆の先頭を走っていた子分猪が草むらから飛び出してきた。
「今だ、引け」
フィリアに言われるのとほぼ同時に。僕の体もこのタイミングだと叫んでいた。僕は足元のロープを思いきり引く。するとウーの目の前に突如猪の視界を覆いつくすほどの巨大な布が出現した。それに驚いた猪たちはそろって足を止めた。
「ウーあとはお願い」
「お任せ下さい」
布を飛び越え、飛び出したウーの体を淡い光が包む。どうやらダラスと闘った時に会得したスキルを使っているようだ。そのおかげが先ほどから僕の目はウーのやり捌きを全くとらえることが出来ていない。
「終わりました」
本当にあっという間にウーは子分猪を五頭仕留めてしまった。




