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ギルドの歴史

 そうして案内されたソファに腰かけた。あっちの世界でもこんなシチュエーションに陥ることなんてなかったので、手に汗がにじむほど緊張する。僕の向かい側に紙の束を持って銀縁眼鏡が座った。


「まずは本日、お越しいただいたこと。そしてこの町の発展に従事していただいたこと、重ねてお礼申し上げます」


 銀縁眼鏡が頭を下げるので、僕も真似をする。正直こういった場所での所作なんて全く知らないので、田舎者に見えていないかという不安がずっと付きまとっている。だがそんな僕の気持ちなど全く知らないという様子で、銀縁眼鏡のご自慢の眼鏡は紙の束にばかり意識が注がれていた。


「それで、本日お呼びだてした本当の目的ですが。等ギルドはあなた様のことを大変高く評価しています。しかしながら同時にもったいないとも思っています」


「と言いますと」


「はい、受付の子にも言われたと思いますが、あなた様の依頼達成率は現在のところ100%です。ご自覚があるかはわかりませんが、これは大変すばらしいものです。多くの方が途中で達成不可能と判断し依頼をキャンセルするという経験をしています。ひどい場合になると依頼未達成のまま放置、逃亡を行うということもあります。そんなことが続けばとうギルドはこの町の人々からの信頼を失います」


 このギルドでの仕事のことは僕の中ではあっちの世界でいう日雇いバイトのようなものだと思っていたので、みんなそつなくこなしているのかと思っていたが、案外サボりなどが頻発していることに驚いた。そんなことをしていると自分たちの生活だって危うくなってしまうのにそれでもそんなことをしてしまうのは一体なぜだろうか。気になったのでそれをそのまま銀縁眼鏡に尋ねてみた。


「それはですね。ご覧の通りこの町は非常に発展しています。なので地方から大変多くの人が出稼ぎに来ています。しかしそんな方の多くは雇用してくれる場所が見つからず、結果として路上生活者になってしまう方が続出しました。そんなある時、そんな路上生活者と、この町に連れ込まれ、そして捨てられた獣人奴隷並びにその奴隷が産んだ子供たちが互いの住処をめぐって争いが起こりました。結果としてその人間が勝ちましたが。再発防止が急務であると判断され、そして路上生活者に仕事を与えるためにここが出来ました」


 なんだか話がだいぶ脱線している気がするが、それでも僕はその話に聞き入ってしまった。そして同時になんて悲しい話なんだろうと思った。


 路上生活者と獣人奴隷ともに故郷を負われこの町にやってきたもの同士が生きる場所をかけて血で血を洗う。そんなことしても誰も得しない。勝者なんていないも同然の闘い、戦う理由はないのに、だが互いに引けない理由だけがある。これほどむなしく悲しいことがあるのか。


「あの、大丈夫ですか。顔色がすぐれないようですが」


「はい、大丈夫ですよ」


「申し訳ありません、話がそれてしまったせいですね。えっとなぜ依頼をキャンセルしてしまうとかという事でしたね。ここが出来てすぐのころはまだ依頼の数も少なく、簡単なものが多かったですが、次第に数も増え内容も複雑化していき、それに対応できない方が増えてきて、それで」


「ああなるほど」


 要は身の丈に合っていない、背伸びをしてしまったがゆえにそのようなことが起こってしまっていたのだ。この世界の教育基準がどのようになっているのかは分からないが、もしかすると住む場所によって学力の差があるのかもしれない。そう感じざるをえなかった。


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