さらに奥へ
本日の依頼は町はずれの道に立っている柵の修理だ。修理と言っても木製の杭のようなものを地面に打ち込み、それらをひもでつなぐだけの簡単なもので、正直専門的な知識がなくてもできそうだったからこれを受けることにした。
とりあえずダラスがさぼるのいつも通りとして、打ち込み担当が僕とウーで、ひも担当がチマ、ポタ、フィリアの三人だ。チセはダラスと共に留守番を任せた。ギルドで依頼書に一通りの手順が書いてあるので、それに従って作業を進めていく。しかしあっちの世界でも陰キャで運動不足だった。僕に比べ、ウーは先ほど僕の何倍もの効率で杭を打っている
「はぁ、はぁ、はぁ」
なんなら掛け声から違う。彼女の声からはなんだか力こぶのようなものを感じるのに対し
「はい、よいしょ、どっこしょ」
完全に老人会の餅つきイベント並みの覇気のなさを誇っている。チマポタの二人はそもそもこのハンマーを持つことすら叶わなかったため、僕らがやることになった。それを今さら無理でしたなんて言うと、この依頼を達成できどうかも怪しくなてしまう。
「しかし、久しぶりにこんな重いものを持ったのですが。意外と何とかなるものですね」
「へ~、流石ウーだね」
「それほどでもありません」
「さてと、少し休んだらまた作業再開しようか。何とか今日中にこれを終わらせるぞ~」
「「お~」」
そう言って僕はその場に座り込んでしまった。
あれから僕はほとんど役立たずになってしまった。きっとあの時にはすでに体力がそこをついてしまった様で、あとのことはウーにやってもらった。もちろん僕だって何もしなかったわけではないが、それでも彼女の方がこなした仕事量の方がはるかに多い。それでも依頼達成には変わりないので、僕はいつも通り報酬を受け取りに行く。みんなと別れて一人きりで街へ向かいギルドに入る。だが今日に限っていつもと対応が異なっていた。
「おかえりなさい」
対応してくれたのは昼も僕の面倒を見てくれていた。人なのだが、昼間の笑顔とは打って変わってひきつった表情をしている。その原因となっているであろう人物が彼女の後ろに控えていた。同じ女性であるにも関わらず、彼女より一回り大きく。それでもって鋭い目が銀縁眼鏡が光っていた。
「あなたが、例の商人ですか」
「はい、おそらく」
「一応聞いていた特徴とは一致しますね」
銀縁眼鏡が受付嬢を見ると、彼女はおびえながら首を縦に何度も振った。
「なるほど、少しお話がありますので、お時間いただいても」
僕の意見など聞いてくれなさそうだなと思い、とりあえずは受付嬢の真似をして首を縦に振った。
「ありがとうございます。それでは詳しいことは奥の部屋で」
そう言って彼女は振り返ると僕のことなど一切視界にしれずに進みだした。そこに言葉はないが、とにかくついてこいということなのだろう。
「頑張ってくださいね」
震えながら受付嬢に見送られ、僕は初めてこのギルド奥へと進んでいった。前を歩く銀縁眼鏡は先ほどから歩くリズムを一切狂わせない。まさに人間メトロノームと言ったところだろうか、
長い長い廊下が続くばかりでいい加減歩くことにも飽きてきてしまったため、そんな変なことを考えるようになってしまった。だがこの女がまとっているオーラはこれまで僕がこのギルドで接してきた人たちは明らかに違う。これはもしかするとと淡い期待を抱いてしまう。
「こちらです」
濃い色の木製の扉に着いた金色の取っ手を掴み、それに力込めて押す。そして開いた扉の中に僕は招かれた。そこはこれまで僕が利用していた受付とは違い、長机にソファがあるが、それ以外は特に変わったものはなかった。つまりは商談スペースというわけだ。しかし一体なにを話すというのだろうか
「おかけください」




