調査開始
いつもの通り僕はギルドに向かった。しかしあんなことを聞いてしまった後ということもあり、自然と目が泳いでしまう。それでも表立った場所に奴隷を置いているわけもなくいつも通り、多くの人が仕事を求めてここを訪れていた。僕も一応はその中の一人なので、いつも通り適当に仕事を見繕い、受付に持っていく。
「例の犯人の件、どうなりましたか?」
僕の中ではすっかりおなじみになった人の待つカウンターでいつも通り世間話をするつもりが、いきなり痛いところを突いてきた。
「いえ、昨日はあれから普通に帰れましたよ」
「それはよかった、でいいんですよね」
「ええ、流石に二日連続で盗まれてはたまったものではありませんから」
僕はもうすっかり慣れた手つきで必要事項を記入していく。まさに片手間の作業といった感じになっていたので、さらに僕は探りを入れてみることにした。
「しかし、一体あれは何物なんですか」
僕が尋ねたことに対して受付嬢はしきりにあたりを気にする仕草を見せると、僕の服の襟をつかむとそのまま顔を寄せた。
「実は、ここだけの話ですよ。前に犯人の姿を少しだけ見たって言う人がいまして。その人の話によると、獣人だったらしいんですよ。全く嫌な話ですよね」
「それは、きついですね~」
なんて心に思っていないことを平然といい話を合わせる。それもこれも今目の前にいる受付嬢からより多くの情報を引き出すために仕方なくやっていることなのだ。しかし誰かを明確に差別するなんて、生まれて初めての経験だった。
「それでですよ。このことをうちの支配人に報告したんですよ。するとですね」
受付嬢はそこで一旦言葉を区切ると椅子から立ち上がり僕にさらに近くに寄るように手をまげて合図を送る、でもこれ以上近づくと本当に肌同士が当たってしまいそうだ。それでもそんなことを気にするそぶりが一切見えないことから、きっとこの先はかなり重要な情報であるのだろう。僕は彼女に促されるまま、顔を近づける。やがて彼女の唇が僕の耳の真横に来たところでその口が開いた。
「このことは誰にも話すなって、提出した資料ごともみ消されました」
それを聞いて僕は自分でも己の瞳孔が大きく開いたことを自覚した。だが幸い今僕の顔は今彼女の死角にあるため、その動揺を悟られずに済んだ。
「それって」
「そこから先はわたしにも分かりません」
そこまで話すと受付嬢は椅子に座り直した。
「どうして僕にそんなことを・・・」
「じつはですね」
今度は先ほどまでの重い雰囲気とは打って変わって、にこやかな営業スマイルを浮かべて
「私もう少しで昇進出来そうなんです」
「へっ、それは一体」
「いえ、あなた様はこの町に来てからずっと依頼の達成率が100%を保ち続けているんですよ。そう言った人を捕まえてきたということで私の評価が今うなぎ上りでして、このままいくと、お給料がさらに高くなるんですよ。ですのであなたには感謝してるんですよ」
「あはは、お役たてたようで何よりです」
「はい、ぜひ今後とも私のもとで依頼をこなして、私の出世に貢献してください」
「何てがめつい」
「何を言ってるんですか、これくらいじゃないとやっていけませんから」
「大変ですね」
「ええ、でも案外楽しいものですよ」
久しぶりに肝っ玉が据わった人と出会ったなと思いながら、僕は依頼書を手に館を後にした。もちろん今日もあまり危険の少ない仕事を選ぶ、こんな簡単なものでも仕事をこなせば、あのギルドでの信頼度が上がっていき、それに伴って多くの情報がもたらされる。その可能性を感じることが出来ただけでも御の字であると言える。しかしこれでは
「まるでギャルゲーみたいだな」




