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焚火と温もり

 フィリアが目を覚ますと、そこには二人の子供獣人がいた。すぐ隣の桶に水を汲みその中に布を浸している。ゆっくりと体を起こすと二人は慌てて飛び出してしまった。初めてとは言え酒を飲んだ後はこんなに気分が悪くなるのか、これなら町で喰った残飯の方がまだましだと思いながら、ゆっくりと体を動かす。どうやら私は馬車の中で眠っていたようで、背中に木の板の感触が伝わってくる。


「起きたようですね、頭は痛くないですか」


 今度は別の少女、それも人間の子供が出てきた。


「ああ、問題ない」


 聞かれたことに素直に答えると、今度は顔に触れ、オデコを重ねた。


「問題ないようですね、ではこの後のことは商人様に聞いてください」


 そう言って又少女は降りていった。私はゆっくり体を起こすと、外へ出た。あれからかなりの時間眠っていたのか、日は落ち、あたりはすっかり真っ暗になっていった。その中で焚火の明かりだけが、その場にいた面々を照らしていた。


「やあ起きたんだねフィリア」


 フィリアは返答しないまま、焚火の前に座り込んだ。


「お腹すいてるでしょ。まずは食べて」


 僕はフィリアにお手製のスープが入った椀を差し出す。それでも又彼女は無言を貫き、椀を受け取ると、無言で中身をすする。表情は一切変化がないが、彼女の耳がピクピクと動いた。


「お代わり」


「はいはい」


 彼女の話から、それまでの食生活がまともなものではないということは知っていたため、少しでも英気を養ってもらおうと、チセと相談して栄養満点な物を作ったのだが、喜んでもらえたようで、安心した。


「それで、明日からどうしますか。ご主人様」


「とりあえずは、みんなで仕事を頑張るしかないね。いろいろと事情が変わったからね」


「そうするしかないですね。ということで二人とも明日からも頑張りましょうね」


「はい」


「は~い」


「まあ、ほどほどにね」


 フィリアは目の前の光景に非常に驚いていたようだった。それもそうだ、だって獣人と人間が同じ釜の食べ物を食べているだけでなく、対等に意見を言い合っているのだ。この世界から見ても異様な光景であることは僕も自覚している。だがこれが僕らの当たり前なのだ。だからできれば、フィリアにも、その母親にも馴染んでほしいと思う。


「よし、てな感じで今日は寝ようか」


「それでは失礼します」


「うん、お休み」


 ウーはいつも通り地べたにそのまま寝そべった。一応下に布は敷いているので、体にダメージは残らないと思うが、それでも不安になることはある。


「就寝環境の改善は、私達の急務ですね」


「そうなんだけどさ~、どうしたものかな」


「町で何かないか見てましょう」


「そうだね、其れじゃあ僕も寝る」


「私も疲れました」


 チセと僕はほとんど同時に目を閉じた。残されたチマとポタと、そしてフィリアに火の始末をお願いする形になってしまったが、今日の僕はそんなことを考えられないほど、疲れていた。


 私も、この子供たちも一切口を開かないでの、ただ目の前の焚火がパチパチと火の粉を飛ばす音だけがあたりに響いた。恐らくこのまま薪を足さなければ、自然とこの火は消えてしまうだろう。


 やることがないため、ただ目の前の焚火に手を伸ばす。私の手に確かな温もりが伝わってくる。これまではずっと、マントを羽織ったまま地面に座って眠るしかなかった。だからその時よりは今ははるかに暖かい。しかし何かがあの時とは違った。母さんと一緒に眠った夜よりも今の方が圧倒的に体が冷える。あの牢獄には火どころか、明かりすらなかったのに


「フィリアちゃん、泣いてるの?」


「いや、そんなことは」


 犬人族の子供に言われて、目元を拭う。すると、私の手は確かに湿っていた。そんなはずはないと今度は指で触れてみる。今度はその上に水滴が一滴乗り、そして砕けた。


「お母さんと会えないの、寂しいよね」


「そんなこと、私はお前らと違う。強くないといけないんだだから」


「無理しちゃダメ~ってご主人様がよく言ってるよ」


 そう言って猫人族の子供が私に抱き着いた。あまり強く振り払っては怪我をさせてしまうため、手を伸ばして払おうとするが、それをするりと躱されてしまった。


「ポタとチマね~、もうずっとお母さんたちと合ってないの。だからフィリアの気持ち分かる。でも今はウーお姉ちゃんやご主人様がいるから大丈夫だけど、フィリアは違うでしょ」


「でもきっとご主人様が、フィリアちゃんのお母さんを見つけてくれます。だからそれまでチマ達が一緒に居るのです」


「情けないな私は、こんな子供に気を使わせてしまうとは」


 私はとうとう流れだす涙を停められなくなっていた。そんな私をポタとチマは憐れむことなく、ただ頭を撫で、肌を寄せてくれた。


「みんなで一緒におうちに帰ろう」


「帰ろう」


「ああ、そうだな」


 私達三人は互いに手を取り合い、そしてそのまま眠りに就いた。


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