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仮契約

 そうして無我夢中で進んでいると、やっと町の街頭が見えた。そのままそこに向かって走った。そして私はあの館から逃げ出した私だった。町の外へ出るには衛兵たちをやり過ごさないといけないため、ずっとこの町にとどまったままだった。


 どれほどの月日がたったのだろうか、雪が降り出したあたりから数えるのをやめた。代わりに生きていくためにゴミを漁り、その中から食べ物を探す日々が続いた。幸か不幸かあそこで日々腐りかけの飯を食っていたおかげで私の胃袋はそんじゃそこから細菌には屈しないほど強くなっていた。


 それでも、時折体調を崩すことがあり、それを直すための薬を買うためのお金を手に入れうるために、初めて私は強盗を働いた。それをきっかけに私の中で何かが吹っ切れた。そうだこれは生きるための行為だと、自分で自分を正当化し始めた。



 語り終えると、フィリアは酒を一気に飲み干した。ダラスはタダ黙って最後まで話を聞いていた。


「で、これから私をどうするんだ。あいつに突き出すのか。もしそうなら覚悟しろよ。そこの商人ぶっ殺して、ギルドの長の男もあの世に送ってやる」


「ううん、それはやっぱりやめにする」


「しかし、それでは盗られたお金が」


「そう、問題はそれなんだ。君が僕達から盗みを働いた事実は変わらない。だから盗った分のお金は返してもらわないといけない。それは分かるね」


「・・・・何が言いたいんだよ」


「僕のもとで働いてみるのどうかなって思って、それと同時にあのギルドについて探りをいれる。つまり互いに利用し合うんだ」


「商人お前もなかなかの悪党だな」


「そうじゃないよただ」


 力不足なだけだ。もし可能ならあのギルドから彼女の母親を救い出して、二人ともそろって故郷に送り返したい。だがあの館の中にフィリアが話していたような施設はなかった。もし彼女たちがとらえらえれていたのが、一般人に入れない場所なら、僕らが介入することは困難だ。


 そこから推測できることはあのギルドは表向き奴隷の所持を隠している可能性が高い。そんな状況で彼女一人を突撃させても犬死に終わる。そんなことをさせてはまだ見ぬ彼女の母親に申し訳が立たない。形はどうであれ関わってしまい、事情を知ってしまった以上、彼女のその後にはある程度責任を持たないといけないと、勝手ながら僕は思った。


「でも、私はありだと思うぜ」


「珍しいねダラスが僕のことを肯定するなんて」


「ただの気まぐれだ」


「まあ、それでいいか。で、どうするフィリア」


「こいつのところが嫌なら、私の盗賊団に入るか」


 まさに究極の二択と言っても差し支えないのではないかと思うが、それでもフィリアは迷うことなく僕の方を見た。


「これは、あくまで仮契約だ。決してお前の奴隷になったわけじゃないからな。勘違いするなよ」


「うん、これからよろしくフィリア」


 僕たちは初めて手を取り合った。しかしすぐに彼女は倒れてしまった。


「フィリア、大丈夫フィリア」


 僕を押しのけチセがフィリアの様子を見る。そしてあきれた様子でため息をついた。


「アルコールにやられましたね。ただ酔って眠ってしまっただけなので、頭を冷やしながら寝かせれば、問題ないかと」


「よかった~」


「よかったじゃないですよ。体がまだ未発達は人に酒を飲ませるなど下手したら命を落としていたかもしれないんですよ。二人ともしっかり反省してください」


「ほぉ~このダラス様に説教とは、なかなか度胸があるな、ガキ」


「ガキではありません、チセです。この一団の専属医です」


「へ~そんな年で医者か、これから世話になりそうだな。よろしくなチセ」


「よろしくお願いします。ダラスさん」


 強者以外認めない戦闘狂の悩筋というのが僕がダラスに抱いているイメージだったが、彼女は彼女なりにいろいろと考えているということが今日一日で分かった。それもそのはずだ。今でこそ団を離れているが、元々は盗賊団のリーダーをしていたのだから。しかしそんな彼女がどうして僕たちについてくるようになったのか、実はそのあたりの記憶がない。

 


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