犯人の正体
次の日、今日も何かできそうな仕事はない物かと、ハロワークを訪れる。ここでは掲示板に貼ってある依頼書をはがし、それをカウンターに持っていき依頼を受注する。そして依頼が完了すれば再び依頼書と依頼の完了を証明できるものを持ってカウンターに行くと、報酬と交換してもらえる。ここまでが基本的な流れである。
いつも通り掲示板を物色していると、一つ気になるものを見つけた。依頼内容は単なる犯罪者の捕縛なのだが、その相手の特徴が僕の目に留まった。全身黒ずくめで背丈も不明、性別も不明、だが金銭の強奪という反抗内容だけが、明白になっていた。
僕はこの依頼書をはがすと受付に持っていった。
「あの、この依頼についてお伺いしたいのですが」
「こちらは等ギルド会館の主直属の依頼でして、この町の人間を長く苦しめる極悪人なのですが、これまで何度も逮捕に失敗しているのです。だからこそ我こそはという方にはこぞって受注頂いている物であります。報酬は早いもの勝ち、そして等ギルドマスターから直々に感謝状なんかも贈られます」
感謝状はともかく、依頼書に書かれていた莫大な報奨金は実に魅力的だった。これだけの額があれば、僕らはしばらくの間旅の資金に困ることはないだろう。
「受けます」
「ありがとうございます。それではこちらにお名前を」
僕は机に広げられた名簿に名前を書く、すでに多くの物がこの報奨金目当てに受注しているようで。僕の名前は名簿のかなり後半の方に書かれることになった。
「でも。どうして急に犯罪者の確保なんて危ない依頼を受けるようになったのですが。昨日まで比較的安全な依頼ばかり受けていらっしゃったのに」
「じつは、昨日この犯人と思われる人に襲われてしまって」
「それは災難ですね。でしたらもし確保できた際には、奪われたお金の返還も合わせてお願いしますね」
「そんなこともできるんですか」
「はい、当館のマスターはこの町の平和のためならお金を惜しまないお人なので、必ずや返してくれると思いますよ」
「そうですか、よかった」
僕はペンを返し、窓口から離れる
「この町の平和のため、頑張ってくださいね」
「は、はーい」
受付嬢の明るいに笑顔に乗せられ、僕はウキウキで館を出た。実際にはかなり危ない依頼を受けたにも関わらず、僕は気合十分といった面持ちだった。
「ずいぶんと楽しそうでしたね」
「えっとどうしたのウー、もしかして機嫌悪いの」
「別にただ、ご主人様はあのような人間がお好きなのですね。よかったですねご主人様」
「いや、そうじゃなくて。てかウーもしかして妬いてる」
「別に、そう言うことではありません」
「いや絶対に妬いてるよね、ねえ」
なぜか機嫌が悪くなったウーのために、鶏肉の串焼きを買って上げた後、僕らは作戦を開始した。昨日同様僕は麻袋に小石を入れ、あたかも収益があったかのように、偽った。そして僕の少し後ろからウーがついてきていた。そしてぼくに何かがあれば彼女が駆けつけてくれる算段だ。
まさかこの僕がオトリとなるとは全く予想だにしなかった。でもこれは僕が立てた作戦だ。一番効率がよく、一番安全な策なのだ。それでも怖くないと言えばうそになる。でもそれでも僕のすぐ後ろには僕が一番信頼できる仲間がいる。だからこそこんなことが出来るのだ。
そんなことを考えながら街を歩いていると、昨日とはまた違う路地から腕が伸びてきた。僕は横に飛びかわそうとするが、やはり僕の反射神経では間に合うはずがなく、そのままくらい裏路地へと引き込まれてしまう。
「お前、昨日も引っ掛かったよな。こんな私が言うのはなんだが、少しは対策をしたらどうだ」
「ご忠告どうも、でも流石に対策くらいはしてきたさ。ウー頼んだ」
「お任せをご主人様、さあ観念しろ悪党」
ウーの容赦のない一突きが襲い掛かるが犯人は僕の背を蹴り華麗に躱す。その隙に僕はウーの後ろに隠れる。そして犯人は壁を蹴り不規則に跳ねまわる。そのあまりの速さに僕の目は一切追いつくことはできないが、ウーはしっかりと捉えていた。そして犯人がウーにとびかかったとたん、ウーは槍の柄で犯人を地面にたたきつけた。
「お疲れ、怪我はなかった」
「はい、何ともあとはこいつを引き渡せば。ここを旅立てますね」
「そうだね」
ウーは全身を黒のローブで包んだ。犯人を持ち上げようとして、そしてそのまま手が止まった。
「どうしたのウー」
「あの、大変申し訳ないのですが、私にはこのものを人間たちに突き出すことはできません」
「どうして? あっ」
ウーが掴んだ際に顔の部分のローブが取れ、暗がりの中でもはっきり見える白色のケモミミが姿を現した。
「彼女は・・・・」
「はい、獣人です」
僕は言葉を失った。




