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授業料


 それから数日の間、僕らがトクシンさんの姿を見ることは一切なかった。だがウーの治療のほとんど終わっていたようで、僕がトクシンさんとあってから数日のうちに彼女はとうとう立って動けるほどに回復していた。なのでいつもの山菜取りのメンバーからチセが抜け、代わりにウーが参加するようになった。久しぶりに動けるようになったウーに姿を見て、チマとポタは大いに喜び、なぜか山の中で先輩風を吹かせるようになったらしい、まあそれもあの子たちなりの感情表現なのだろう。


「ただいま戻りましたご主人様」


 山から山菜いっぱいの籠を持ってウーたちが帰ってくる。本当は僕も行きたかったのだが、あいにく今日は薪割りの当番なので同行することはできなかった。


「見てください本日も大量ですよ」


「おお、これはありがたい」


 自由な体を取り戻したウーはここ最近、ずっと気分が良い。それはこれまでずっとみんなのお世話になってばかりだったのが、元気を取り戻したことで再び年上らしい行動ができるようになったことが原因だろう。


「なにかお手伝いできることはありませんか、ご主人様」


「いや、特にはないかな。それにウーは病み上がりなんだからあまり無理しちゃだめだよ」


「お気遣い痛み入ります。しかし散々皆さんにご迷惑をおかけしたのですから、その分しっかりと働かなければいけませんので」


 全く頼もしすぎる仲間が帰ってきたものだとすこし胸をなでおろす。しかし一体いつのタイミングでチセのことを彼女たちに告げればいいのだろうか。それが本当に分からない。後トクシンさんはこのことをきちんとチセに告げたのだろうが、こればかりは僕がやっていいことではない。


「あのご主人様」


「どうしたの」


「私のまちがいであればよろしいのですが、ここ数日トクシン殿の姿を見ていないような気がするのですが、何かあったのでしょうか。この治療のお礼をいつかしたいなとずっと思っていまして」


「ああ、えっと」


 ここで告げるべきなのか、まさかいきなり考えることになるとは思わず、僕の頭はパニック状態になる。もちろんそんな状態でまともな判断ができるわけもないので、一旦ごまかしておくことにする。


「トクシンさんは、チセさんに医術の授業をしてるんだって。ほら僕らが着てからずっと治療に専念してくださってから」


「それは、申し訳ないことをしてしまいましたね」


「いや、それに関してはもう僕とトクシンさんで話がついてるから、ウーは何も気にしなくてもいいよ、うん」


「そう・・・なのですね。分かりました。ご主人様がそうおっしゃるのなら」


「それよりも、いいの? 僕にかまけてあの二人がこっちを見てるよ」


 僕もついさっき気が付いたのだが、どうやらずっとチマとポタが僕らのことをじっと見つめていたようだ。どうやらまだまだあの二人はウーにかまって欲しいらしい。


「全くあの子たちは、この旅でずいぶんたくましくなったと思ったのですが、まだまだ根は子供ということですね」


「そう言ってあげないでよ、あの子たちがいなければここまでたどり着けなかったかもしれないんだし」


「そうですね、では無理しない程度にあの子たちと遊んできます」


「うん行ってらっしゃい」


 そう言ってウーは籠をウッドデッキに置くと二人のもとへ戻っていった。そしてすぐに二人を連れて、手洗い場に向かっていった。そう言えば、この薪割りが終わったら、採ってきた山菜を下茹でしなければならなかったはずだ。僕とウーの二人がかりで監視すれば危ないことにはならないだろうから、もし二人がいいというならば、手伝ってもらおう。そんなことを考えていると、館からチセが出てきた。


「調子はどう」


「どっちのですか?」


「両方」


 チセは湯呑にお茶を注ぐと、一気に飲み干した。よく見ると、相当な量の汗をかいている。あまりよく分からないが、医術はかなりの集中力を要求されるものだから、知らず知らずのうちに鼓動と体温が上がり、汗をかくなんてこともあるのかもしれない。


「師匠は変わりありません。いい意味でも悪い意味でも。しかし、それでも残された時間はそんなにないのではないかと思います」


「そっか」


「それによりも、もうお仲間さんは大丈夫なようですね」


「そう・・・みたいだね。チセとトクシンさんには、だいぶお世話になりました」

発つ

「いえ、これが仕事ですから。ところで怪我が治ったので、もうここを発つんですか?」


「いいや、まだもう少しいさせてもらうかと思います。もちろんその分働かせていただきますが」


「そうですか、本来ならお断りするところですが。私も師匠の授業に集中できるので助かっているので許してあげます」


「それはどうも」


「ところであの三人、特に仲がよさそうですが」


「まあ、僕の方が新参者って感じですので」


「そうなのですか」


「ええ、元々は彼女達三人で行動していたようでして」


 彼女達が元のあるじからどのように扱われてきたか、想像に難くないが、僕が語る内容ではないことは、簡単に分かった。とはいう物の実際彼女たちがどのように出会い、関係を深めていったのか、そこのあたりはあくまで想像に過ぎず、真実は何も知らない。


「彼女がなにか」


「いいえ、特に何も。そろそろ戻ります。あまり時間を無駄にできませんので」


 チセは立ち上がり、そのまま再び館の中に戻っていった。トクシンさんからあの話を聞いていこう、チセの顔は一段と厳しくなったような気がする。それは焦りによるものなのか、それとも別の感情によるものなのか、どちらにしても僕にはまだ理解できない感情だろう。


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