予想外
自らのアイデアにほくそ笑むイベルでしたが……
(イベル視点)
身動きを封じられた哀れな侵入者にアラクネアが足を振り上げる! よし、串刺──
ザン──ッ!
は?
ドドド……ズサッ
音がしたかと思うとアラクネアの体が真っ二つにされて地面に落ちる。お、おい! 何が起こったんだ!?
「あの人間に袈裟斬りにされたようだな」「うるさい、分かってる!」
頼みもしないのにしゃしゃり出てきたオズを怒鳴りながら俺は念話で他のアラクネアに一斉攻撃を命じた!
(まぐれで一体はどうにかなったようだが、次はそうはいかないぞ!)
そうこうする間にアラクネアが三体集まって来た! よし、これだけいれば瞬殺だ!
ザンッ! ザンッ!
さっきの音が再び鳴ると、胴薙ぎにされたアラクネアの体が地面に落ちる。馬鹿な! 二体同時にだと!?
(だが、隙だらけだ! やれっ!)
先行していた奴らの影で難を逃れた三体目のアラクネアが人間に襲いかかる! ちょうど人間は攻撃直後で隙を見せている! よし、今なら!
シュッ! シュッ! シュッ!
アラクネアは速さと手数を重視した足攻撃を仕掛ける! よし、これなら奴も穴だらけに……
ガン!
攻撃が人間やな当たった瞬間、爆発するような音が! 何だ? 盾で防御したのか?
「ギギギッ!」
アラクネアが悲鳴を上げてるだと! 一体……
(な、何ぃ!? アラクネアの足が……)
何とさっき人間を攻撃した足が爆発か何かで消し飛ばされたように無くなっているのだ!
(何故だ……くそ、スキルか?)
だが、俺が答えを出す前に光の壁が現れるとアラクネアの動きを完全に拘束。いや、次々に脚を切り裂いていく! そして……
ドンッ!
圧縮された魔力により急所を撃ち抜かれ、三体目のアラクネアも事切れた。
(何だ、今のは……)
あのカッターみたいな防壁も訳が分からないが、最後のスキル、あれは魔法なのか?
(魔力そのもので攻撃、だと……)
本来、魔力はそれそのものは万物に対して非情に微弱な影響しか与えない。だから、呪文や魔法陣なんかで魔力というエネルギーを自然現象に似た性質を持つ魔法に変換して使うのだが……
(一体どうやればそんなこと出来るんだよ!)
魔を極めた魔王──つまり今の俺でもそんなことは出来ない。一体どうなってるんだよ!?
くっそぉ……
(しかし、まだアラクネアはまだまだいる!)
それに魔道具によるトラップもあるし、ダンジョンは複雑怪奇な迷路なんだ! ここまで来られるはずがない!
*
(ルーカス視点 : 連合軍発足会議場)
「こ、こいつらは魔族ではないか! こんな奴らを呼ぶだなんて聞いてないぞ!」
「私は全ての国の代表をこの場に呼ぶと申し上げたはずですが?」
「魔族を呼ぶなどと思うわけが……それに我が国は魔族の集まりを国とは認めていない!」
魔王に対する連合軍を作るために国々の代表を集めたはいいが、予想通り……いや、予想以上の大混乱だ。
(さて……どうする、レイナ殿)
魔族代表として同席してくれたのはレイナ殿だ。勿論彼女だけに全てを任せるつもりはない。が、それでも彼女がどう言うつもりなのかは私も興味があるな。
「おっしゃることは分かります。今までの人と魔族の争いの歴史を考えれば、魔族を責めるあなたの気持ちは分かります」
意外だな。そうくるか……
(レイナ殿は冷静だな)
が、相手は魔族嫌いの急先鋒、聖王国の教皇だ。さらに勢いづいてくるかもしれないぞ……
「そうだろう! 我々は過去にお前達魔族から甚大な被害を受けてきたのだ!」
「しかし、それは今を生きるあなた方に対してではありません」
「何だと!」
調子に乗って責めたてていた教皇が激昂した声を上げた。
「あなたが今おっしゃった魔族から受けた被害、それはあなたが受けたものですか? それとも家族が?」
「我らの先祖だ! 血の繋がりのある家族だろうが!」
「だとしても、何の被害も受けていないあなたが何の害も与えていない私達に償いを求めることが正しいのでしょうか?」
「ぐ……責任逃れをするつもりか」
「負うべき責任は負いましょう。しかし、生まれる前に起こったことの責任まで問うのは不公平ではありませんか? それとも我々が魔族として生を受けた事自体が罪だと言われるのですか?」
「そうだ! お前達魔族は生まれながらに罪深い存在なのだ!」
「ならば私達はあなたが今、我々魔族に行っている罪について問わねばなりませんね」
「罪だと!?」
「まずは聖王国が各国に要求している魔都との交易の禁止、そして各国に義務づけている反魔族的な教育、それから……」
「それが何故罪なのだ! 魔族は生まれながら罪を背負った悪なのだ。それを……」
「もうやめましょう、教皇」
そう言ったのはローダリア連邦の王。この国も過去に魔族から甚大な被害を受けているはずだが……
「確かに私は魔族に対してあまり良い印象は持っていません。が、それはあくまで過去の出来事を見てのこと。今を生きる魔族を見ててのものではありません」
「なにぃ! 魔族の甘言にのせられたか、ローダニア王!」
「私もローダニア王に賛成だ。過去は過去だが……確かに今の我々の行動を考えれば魔族から恨まれても仕方がない。まずはそこから改めるべきだ」
「ヴァルス連合長! 貴様、我々の政策を否定するのか!」
そう喚く教皇に対する各国代表の視線の温度は次第に低く、冷たくなっていく。どちらに理があるのか、それは時間が経つにつれて明らかになっていく……
(見事だ、レイナ殿!)
私が心の中で喝采をあげていると、突然不愉快な声が聞こえてきた!
”おはよう! 愚民共!“
念話! これはイベルか!
今回の話は現実世界で起こっている問題を扱ったものではなく、特定の主義主張をするものではありませんので、よろしくお願いします。
ただ、個人的には原罪よりも現在の罪の方を考えるべきだと思ってますが。自分が経験したわけでもないのに被害者面ってのはあまりに格好悪すぎです。
読んで頂きありがとうございました! 次話は来週月曜日の朝7時に投稿します!
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