黒幕
呪いのおかげ(?)で苦行を乗り切ったアバロン(アハロン)。彼の行く先に待つ者は……
それから数日。ようやく目的地である神殿にたどり着いた。……が、俺は既に身も心もボロボロだった。
(何なんだよ、この国は……)
朝、昼、晩と苦行が待ってるのだ。しかも、どれもこれも目的が分からない上にやたらときつい。
(ハリセンで叩かれるのはまだましだったな……)
下りそうになる腹を抱えて耐えたのはもはや遠い思い出だ。何せその後には……
「懐かしいな」
目的地である『デルフォイ神殿』は神殿というよりもはや王城じゃねぇかってくらいのでかさ。俺達にしたら目を疑う光景だが、ドレイクにしたら懐かしいらしいな。
(しかし、流石に並んでるな)
『デルフォイ神殿』に入ろうとする奴らが列を作って衛兵からのチェックを受けている。まあ、これはお決まりの光景だ。ここがしんでんではなく王城なら、だが。
「……何かおかしくないか」
「デルフォイ神殿は神聖オズワルド共和国の行政も担ってる。この警備と行列は仕方ない」
ノーマンの呟きにドレイクが答える。が、ノーマンはすぐに首を振った。
「違う。ここまでの道中だ」
ん? どういうことだ?
「見たところ俺達が受けたような苦行は誰も受けていないようだ」
「何故分かる?」
「あんな意味わからない苦行に耐えられる人間がこんなにいる訳がない」
ノーマンはイーサンの疑問に淡々と答える。なるほど……行列には女や子どもも並んでいるしな。
「意味が分からないのはまだ悟りを開いてないからだ。それに苦行は勇者一行が神の加護を得るためのもの。一般人には必要ないだろ」
ドレイクが諭すように説明するが、ノーマンは納得した様子はない。
「なら聞くが、前からこうだったのか?」
ノーマンがイーサンにそう尋ねる。すると、イーサンは首を振った。
「まさか。苦行と名のつくものはあったが、全部形だけだ。こんなことをさせられるなら公認勇者になんてならねーよ」
苦難を耐え切った感満載で何故かドヤ顔をするイーサンだが、こいつはやり切れていない。というか、二日目以降は俺以外は開幕五分でギブアップしたのだ。ちなみにイリーナは何故か苦難を免除されている。本当に何故だ?
「……だろうな」
俺が最後まで耐え抜いた……いや、耐え抜けたのは他にどうしようもないからだ。まともに生きる術のある奴なら絶対に選ばないだろうし、ましてや勇者になれるような力のある冒険者なら余計にそうだろう。
「この苦行……もしかして神聖オズワルド共和国に入れるためじゃなく、追い出すために作られたんじゃないか?」
「何……?」
ノーマンの発言はあまりに突拍子もないものだが……確かにそう考えるとあの試練の辻褄は合う。
(だが、そうだとすると何故だ?)
分からない。が、そもそもイーサンの持っていた聖剣エクステリアに悪魔の力が宿っているところからしておかしいんだ。何かが起こっていてもおかしくはないな。
*
(イベル視点)
「おい、抜かりはないな」
「大丈夫。万に一つも失敗はあり得ない」
俺にそう答えたのは魔星将ロザリア。俺と共にレイナによる粛清の場にいた魔星将で、今回同じ作戦を行うことになった仲間……だ。
(こいつが俺をどう思ってるかは知らないがな……)
粛清の場にいた魔星将は死んだ奴を除けば四人。後二人は別の任務についている。まさか俺達が協力して任務をやるなんて……とは思うが、次に失敗すれば確実に死。背に腹は代えられない。
(俺達の任務……それは勇者や聖騎士誕生の芽を摘むこと)
人間は聖剣に選ばれることで勇者や聖騎士へとクラスチェンジすると言われている。だから、全ての聖剣を邪なオーラで汚してしまえば……という作戦だ。
(が、偽物を渡すような今までのちゃちな作戦とは違うからな……)
成功すれば地上の全ての聖剣が邪剣になる。そんな大作戦だ。
(そうすれば……くくく、あのフェイとかいう人間の聖剣も駄目になるはずだ)
あのくそ生意気な人間に一泡吹かせられると思うと気分がスカッとするな!
「私は行く。そっちの準備は?」
「完璧だ。明日は人間どもの目は見世物に釘付けだろうよ」
丁度おあつらえ向きに聖剣に選ばれた勇者がやってきた。追い返そうとして目中々上手く行かなかったが……逆に良かったぜ。
「じゃあ、その隙に私が……」
「ああ、俺を転移させてくれ」
俺達は段取りをもう一度確認する。何せ今度こそ絶対に失敗するわけには行かないのだ。
読んで頂きありがとうございました! 次話は来週月曜日の朝7時に投稿します! ただ、テンションが高まったら早まるかも! その時はご容赦頂きたいm(_ _)m
何? ブクマ登録しているから大丈夫ですと?
ありがとうございます!
※大切なお願い
皆様のブクマやポイントが執筆の原動力です。「あ、忘れてた」という方がおられたら、是非御一考下さいませ( ´◡‿ゝ◡`)




