生死の境
芋虫をお腹いっぱい食べたアバロン……いや、アハロン(笑) 次に彼を待つ試練は……
(ぐぇ……気持ち悪)
食事が終わると、俺達は神殿へ向かう馬車へと載せられた。普段なら”歩くより楽だ”とか思っただろうが、正直今はそれどころじゃない。
(まだ口の中に芋虫がいるような感じがするぜ)
あれから水を何杯も飲んだが、口内は芋虫の体液の味しかしない。そりゃそうだ。俺が食った芋虫は十匹やそこらじゃないんだから。
「勇者アハロン、神殿までは数日かかる。だが、この道程も儀式と思われよ」
「こ、心得ました」
俺は気合いで何とか言葉を振り絞るが、ヒキガエルが潰れたような声しか出ない。が、幸いなことに衛兵はイリーナと喋るのに夢中で何も気づかなかったようだ。
”アバロン大兄、しっかりして下さい!“
ドレイク……今は何も話しかけないでくれよ。
“確かに食事があれでは物足りないが、シャンとしろよ。勇者たるもの『腹が減っても爪楊枝』だ!”
イーサンもうるさい! ってか、爪楊枝って何だよ! 絶対間違ってるぞ、それ。
”今日泊まる前にも試練があるんだろ? 今からそんなんで保つのかよ“
そう言って来たのはクロムウェルで出会った男──名をノーマンと言うらしい──だ。ちなみにこいつはイリーナと同じくらい聖典を理解している。多分、頭がおかしいんだろうな。
(いや、今は何でもいいから休ませてくれ)
今は何も聞きたくない、見たくない。とにかく外界からの情報をシャットダウンしたいんだ!
”次の試練は確か………“
“ああ、アレだ。まあ、問題ないと思うが”
”やはり明日からが山場だな“
俺の願いとは裏腹に奴らは作戦会議を始める。特にドレイクとイーサンの熱が半端ない。俺は二人からかけられるうっとおしい激励に耐えながら、一刻も早く時が過ぎるのを待った。
*
「ここでは礼の試練を行う。準備は良いか、アハロン」
目的地に着くと、早速試練の間へ連れて行かれた。ほんと、面倒くさい国だよ。
(だが、流石にあの感触は少し消えてきたな)
勿論完全に消えたわけじゃない。あくまでもましなったというレベルだが……うぐ、思い出すとまた……
「試練じゃからビシビシ行くぞ! では起立ッ!」
俺達は試練を担当する婆さんの号令で立ち上がる。この試練では正しい所作を習う……という名目だが、実際には直されることが目的だとドレイクは言っていた。つまり……
(黙って文句を言われるってことだな)
意味あんのか? 初代勇者に習うことが目的らしいが、時間の無駄じゃねーか。
(っと、余計なことを考えてるとやばいな)
ビシィッ!
紙で作られた”ハリセン“とか言う道具が空を裂く音を立てる。ドレイクが早速やられたな。
「シャンとせい、シャンと! お主もじゃ!」
ビシィッ!
「ぐっ……」
今度はイーサンだ。おいおい、お前ら経験者じゃねーのかよ。
「声が出るのは未熟の証ッ、叩き直してくれるッ!」
ビシィッ! ビシィッ! ビシィッ!
婆さんは奇声を上げながらドレイクとイーサンを滅多打ちにする。これ、叩きたいから叩いてるって訳じゃないよな?
「そなたは……くっ!」
イリーナを見た瞬間、婆さんは急に振り上げたハリセンを降ろした。
「そなたは……よい。完璧じゃ」
な、なぬ……!?
(叩いてるだけじゃなく、何か基準があるのか?)
まあ、確かにイリーナはいい姿勢で立っているが、一体イーサン達と何が違って……
ゴロゴロ……
ぐっ……やべぇ、腹が……
(まさかあの芋虫か?)
十分に火が通ってなかったのか? いや、通っていたとしてもやばいか……って今はそんなことどうでも良い!
(や、やばい。漏れる……)
こんな場所で漏らせば俺の人生は終わり。何とか堪えやすい姿勢を探──
ビシィッ!
がっ……
「姿勢を乱すな! 試練の最中じゃぞッ!」
も、漏れそうなだけだ! お前だって人間なら分かるだろ? 俺は今、生と死の瀬戸際にいんだよ!
バシィ!
「今度はここじゃ!」
ががっ……やめろ。尻を刺激するな!!! こういうのらバランスだ。俺は今、腹がこれ以上悪化しないように細心の注意を払っ──
「ここも!」
ビシィッ! バシィ!
婆さんのハリセンが今度は腹を強打する。痛みがあるわけじゃないが、とにかく今は余計な刺激があると腹が……
「勇者アハロン! シャキッといたせぇ!」
ビシィッ! バシィ! ビシィッ!
う……あぁぁ……
読んで頂きありがとうございました! 次話は来週月曜日の朝7時に投稿します! ただ、テンションが高まったら早まるかも! その時はご容赦頂きたいm(_ _)m
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