”もう飽きた“
魔王の衝撃の能力に打つ手はあるのか!?
それから色々と助言を貰って目覚めた俺は再び皆と今後の方針を話し合ったが、良いアイデアは出なかった。
「ふむ……悔しいが、手も足も出ないな」
師匠がこんな弱気な発言をするのは始めてだ。ちなみに夜にも色々と〔セルフィッシュエデン〕から物資が略奪されたらしく、師匠の家も色々な日用品が無くなっている。
(魔都のみんなに〔アイテムボックス+〕の中にある物資のあまりを配った方が良いかもな)
かなりの量を龍人族のために置いてきたとはいえ、まだそれなりの量はある。まあ、焼け石に水程度なのだろうが、魔都は外部との接触がほとんどないため、とにかく物資が不足しがちなのだ。
「魔都に今ある物資を整理して分配した方が良いかもしれん。そろそろ食料が足りない人達も出てきているかもしれんしの」
「そうですね」
師匠の言葉にリィナが頷く。全く見つからない〔セルフィッシュエデン〕を破る方法以上に食料不足の方が問題かも知れないな。
”ピーガガガ!“
くっ……この耳障りな念話は!
“起きてるか、凡夫ども! 偉大なる魔王イベル様だぞ!”
相変わらず不愉快な奴だ。どれだけ他の人に迷惑をかけてると思ってるんだ!
”しっかし、魔都にはほんと物がねーな。食い物さえ碌なものがない。お前らよく生活出来てるな!“
物がないのはお前が取ったせいだろ! 魔都の魔族達の慎ましい生活を馬鹿にするな!
“ま、お前らのことはどうでも良いんだけどな。俺はもうここには飽きた”
あ、飽きただと……
”もっと色々な物がある賑やかな場所こそ魔王イベル様に相応しい。だから、お前らとはさよならだ。じゃあな! これからも貧乏暮らしを続けてくれ! アハハハ!“
聞くに堪えない発言にあっけにとられている俺達を置き去りにして魔都の上空にあった雲が移動していく。
「「「「………」」」」」
やがて〔セルフィッシュエデン〕は消え、魔都の空は正常に戻った。
“! マスター、ネットワークが!”
(使えるようになったのか!?)
”少々お待ちを! 書き込みが溜まっているみたいです!“
そうか、繋がらない時間が長かったから送られてきたメッセージが溜まってるのか。
「とりあえず被害状況を確認しましょう。足りない物がある人にはフェイ兄が持ってる物資を渡せますし」
フリーズからいち早く立ち直ったリィナがテキパキと動き始める。ネットワークからの情報も気になるが、まずはこっちに集中するか。
※
「ありがとう、助かったよ」
「済まない。まだ黒血鰐と異形象の礼も出来てないのに」
「お兄ちゃん、お姉ちゃん。ご飯をありがとう」
口々に丁寧なお礼を言いながら物資を受け取っていく魔都の魔族達。あまりに丁寧なので、逆に恐縮してしまうな。
(それにこれって元々ルーカスさんやクラウディアさんが用意してくれたものだしな)
この状況で配ることは二人とも賛成してくれそうだけど、俺達だけ良い格好をした感じになってるのはちょっとな……
“ま、ええじゃろ。役得じゃ”
役得って……
(そう言えばミアはどんな感じだ?)
ミアはあれから反応がない。メッセージってそんなに溜まってたのか?
”なんやら忙しそうじゃの。しばらくほっておくしかあるまい“
確かに。何か手伝える訳でもないしな。
「フェイ、大体配り終わったから帰りましょ」
「ああ、分かった」
レイアにそう返事をして俺達は師匠の家へと戻り始めた。
(そういや、レイナさんの件はちょっとずつ説明するっていってたな)
師匠の家にいる人には既に伝えているらしいが、そうとうショッキングな話な上にあの魔王の騒動だからな。聞いた人の頭がついていけないだろうからな。
(レイナさんも当分は外に出ないって言ってたし、まあ大丈夫か)
傷は言えたが、体力が元に戻った訳ではないし……何より長い間無理をしてきたのだ。ゆっくりしながらこれからのことを考えるべきだろう。
「あ、フェイ。これ返しておくわ。ありがとう」
道中レイアから渡されたのは……託宣の聖印!
「ピンチに使えばもしかして……という話だったけど結局使わなかったし」
実は師匠は”ピンチの時に使えばエクストラスキルが手に入るんじゃないか“という仮説を立てていたのだ。
(確かに俺がパラディンロードを手に入れた時は大ピンチだったからな)
戦闘中にそんな隙があるかとか色んな問題はあるが、とりあえず渡しておいたのだ。
「持っててくれ。もしかしたらまた使う機会があるかもだし」
「でも……」
「いいって、いいって」
遠慮するレイアに半ば無理矢理託宣の聖印を渡すのは中々骨が折れた。変なとこで律儀だからな、レイアは。
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