新たな魔王。その名は……
魔王の力に飲み込まれたイベルの運命やいかに……
(魔星将イベル視点)
(……ここは)
周りに何もないただの空間。そんな場所に俺は立っていた。
(確かに俺は聖王国で人間と闘っていて……ロゼの空間転移に巻き込まれたんだよな)
邪魔ばかりする人間に腹を立てた魔星将ロゼは自身のスキル、〔空間転移〕で邪魔な人間──名前は確かアバ……なんだっけ?──を排除しようとした。
(で、あのバカ! 俺を巻き込みやがったんだ!)
で、こんなとこまで飛ばされて……ってここは何処だ?
”そちの望む世界の姿を語れ……“
ん? 何だ?
何処からともなく声が聞こえてくる。
”そちの望む世界の姿を語れ……我はそれを実現するための力となろう“
あ、分かった。これは夢だな。
(まあ、夢なら別に何しても大丈夫だな)
それにしても景気のいい夢だな。俺の理想の世界を創ってくれるなんてな!
「そうだな……まずは俺の言ったことは絶対だ。逆らうやつには容赦なし! それに俺を馬鹿にする奴も許さない!」
そう、俺は凄いんだ! なのにどいつもこいつも……
「俺は世界の帝王として贅沢三昧のウッハウハの生活を送る! 望むのものは何でも手に入る! ノンストレス生活の始まりだ!」
そう! 誰も俺をジャマしない!だって、俺は王様なんだ!
“……それがそちの望む世界か?”
「ああ、最高だろ?」
誰にも邪魔されず全てを独り占めにする。これ以上の幸福があるものか!
”いささか拍子抜けしたが……理解した。元より新たな魔王の願いに意見する権限はないのでな“
ん? 魔王?
“では、新たな魔王イベルよ。そちにはそちの願いを叶えるための力を授ける。その力、存分に振るうがよい!”
何だ!? 光が……
※
「!!!」
目覚めると、俺は一人だった。
(ここは俺が転移してきた場所……)
元々はどんな場所だったのかが分からないほど破壊され、今やただの平地となった場所。俺は今、そんな場所にいた。
(それにしても、いい気分だな)
腹の底から力が湧いてくる。今なら何でも出来そうだ。
”当たり前だ。今、お前は魔王なのだからな“
あれ、夢の声……
“私はそなたの力。魔王の力は膨大ゆえ、時に制御する存在が要るのだ”
ふぅん。まあ、こいつのことはどうでもいいが……
(夢でも空耳でもないとしたら……俺は魔王になったってことか!?)
伝説に語られる魔王は地を割り、海を裂き、空をも意のままにしたという。そんな力が手に入ったということはつまり……
(俺、やりたい放題じゃねぇか?)
もう怖いものなんて何もない。俺に出来ないことなんてないんだ!
(ふん……ならまずはここの奴らに俺……いや、俺様こそが魔王だと教えてやらなきゃならないな)
何のことはない。単に誰かに自慢したかっただけだが。
”あ〜 テステステス。聞こえるか、凡夫ども”
魔都にいる奴らへの一方的な念話。魔王の力があれば、こんな離れ業も簡単に出来る。
魔都にいる奴らの注目が俺に向くのが分かる。
”魔王様……“
”魔王様の声だ!“
”何と凛々しい声……“
いいね、誰もが俺を崇めている。最高の気分だ。
“俺の名はイベル。知っての通り新たな魔王だ。で……お前らに言っておくことがある”
魔都中が俺に注目しているのが分かる。ふふふ……聞いて驚けよ!
”俺は魔王の力を使って好き放題に生きることにした! お前らは全てを俺にささげろ! 以上!“
ぐははは! 言ってやったぞ。
(では早速……)
俺は自分の魔王の力を発動した!
※
(フェイ視点)
(な、何だって……)
あまりにも予想外な宣言の後、突然地響きが始まった。
「外に出るぞ!」
師匠の声で我に返った俺達は急いで外に出る。すると……
「あ、あれは……?」
地響きと共に雲のようなものが空に広がり始める。それらが魔都の空を覆い尽くすと、地響きは止まった。
「あれは……結界じゃな。強度は儂のものとは比べ物にならんが」
結界!? 何でそんなものを……
“喉が乾いたな”
ん? これは魔王の……
ビュッ! ビュッ! ビュッ!
突然魔都中から樽やら瓶やらが雲の中に吸い込まれていく。これは魔王が命じたからか!?
(”お前らは全てを俺にささげろ!“ってまさかこう言う事か?)
とんでもなく迷惑な魔王だが、一体これからどうなるんだ!?
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