会議
四章前最後のSSです。視点はまさかの……
(魔星将イビル視点)
(くっそぉぉ……折角の気分が台無しだぜ……)
一瞬前まで俺の気分は最高だった。理由は簡単、ユベルが死んたからだ。
(あのクソ嫌味な野郎、偉そうなこと言っておきながら死んでんじゃねーか……とか思ってたのに)
しかも相手はただの人間。止む無く魔星将で集まり、会議を始めたのだが……
(これほど愉快な会議も無かったっけてのに!)
何せユベルを殺したと思われるアリステッド男爵の情報を持っているのは俺だけ。皆がこぞって俺に情報をねだる姿はきっと……
「どうしたの? さっきまでは随分議論が活発だったように見えたんだけど」
俺の幸せを一瞬でぶち壊わされた原因……それがこの声の主の登場だ。
(魔星将第三席レイナ……くそっ、魔都にいるんじゃなかったのかよ!)
実は魔星将にも序列がある。俺やユベル、この場にいる奴らのような実行部隊と方針を考え命令する者と言った具合に。レイナは後者だが、その中でもかなりたちが悪い。何故なら……
「私はてっきりあなた達が奮起してるとばかり思っていたのだけど……?」
「も、勿──ギャッ!」
隣りにいた奴が悲鳴を上げて倒れる。何をされたのかは分からない。それほど、レイナと俺たちの間には力の差があるのだ。
「同志を討たれたというのに、取るに足らない人間の話ばかり……貴方達本当に魔星将なのかしら?」
ズン!
辺りの空気が重くなる。心理的な意味じゃない。実際に重くなってるだ、これは。
(がはっ……広範囲にこれほどの威力の重力を!)
ピシッ、ピシッ……ビキキ!
床が、壁が、悲鳴を上げる。部屋中のは俺達の力に耐えられる特殊な鉱石で作られてるはずだが、レイナの力に耐えられるはずもない。
「も、申し訳ご……さいま……せん、レイナ様! 計画に……遅れは出し……ません……ので………」
さっきとは別の奴が声を振り絞る。すると、それまで俺達を縛っていた重力が嘘みたいに消えた。
「そう……私達魔星将の目的を忘れてもらっては困るわ。計画の遂行よりも人間のことに気を取られていたら困るのよ。特に私は立場的に」
さっき言った“その中でもかなりたちが悪い”という言葉の意味がこれだ。レイナは俺達の監督役なのだ。
「で? 計画の進捗は?」
問われるままに答えていく──それしか俺達に出来ることはない──うちにレイナの顔はどんどん曇っていく……
「あなた達、実は私に怒られたいからわざとやってる……とかじゃないのよね?」
ぐっ……そんな訳あるか!
(これでもアリステッドに狂わされた計画の辻褄合わせのために頑張ったんだよ!)
だが、奴がいなくなっても今度はあの大聖騎士と大聖女がいるんだから状況は中々好転しない。こちらの意図を読み、確実に封殺してくるあの知略……マジで厄介だ。
「表に出れないとはいえ、まさか人間相手にここまで手こずるなんて……メンバーの入れ替えを考えた方が良いかもしれないわね」
……!!!
(やばい!)
レイナの言葉は脅しじゃない。実際、こいつに粛清された魔星将が何人もいるのだ。
「仕方ないわね……じゃあ、あなた達がやる気になる話をしてあげるわ」
やる気になる話、だと?
ゴト……
何気なくレイナが床に置いたのは、何とユベルの首だ!
「彼の話をしましょう。きっと元気が出ると思うわ」
おいおい、嘘だろ……
*
「どう? 少しは意欲的になれたかしら」
レイナから語られたのはユベルがいかに下劣な手段を取って作戦を遂行したのかと、その末路だ。
「我ら魔星将は他種族とは次元を異にする上位種族。そうよね?」
「「「は、はい!」」」
「なら、他種族のように騙したり、嘘をついたりなんてする必要があるかしら?」
「「「ありません!」」」
「ましてや人質などという品性に欠いた真似が必要かしら?」
ユベルの頭部を踏みつけるレイナの足に力がこもる。こいつ、それでレイナの逆鱗に触れたのか……
(レイナは弱者を許さない。が、何より誇りを汚すことを嫌う)
レイナの理屈では恐らく誇りを汚すことが弱さなのだろうが、まあそんなことはどうでもいい。とにかく言われた通りにしないと、俺もああなるってことだ。
「「「ありません!」」」
俺達が声を揃えて唱和すると、ようやくレイナは満足げな表情を浮かべた。
「良かったわ……まだ腐りきってはいないようね」
ほっ……
「あなた達の仇、アリステッド男爵は生かしてあるわ。彼を倒せば、頑張りを認めてあげる。分かってると思うけど、他は駄目よ。無差別な殺戮は上位種族らしくない」
そう言うとレイナは現れた時と同様、唐突に消えた。
(とりあえずは乗りきったか……)
だが、くそ……またもやアリステッド男爵か!
(あいつは俺が殺す!)
恐らく同じことを思っている他の奴らと今後のことを話し合うが、頭は上の空。俺はひたすらアリステッド男爵を倒すことばかりを考えていた。
*
(レイナ視点)
汚らわしい……
何もかもが汚らわしい。魔星将も、魔族も、ここも、私自身も!
(でも、我慢。全てを浄化するのは今じゃない)
どれだけ苦痛でもこれだけはやり遂げなくては……
「……やり過ぎではないか、レイナ?」
背後から声がかけられても動じることはない。だって最初から気づいていたから。
「私、何か間違ったことを言ったかしら?」
「いや……全く」
当たり前だ。そうなるように気をつけているのだから。
「だが、奴らは所詮雑兵。どんな形でも結果さえ出せば、後は斬り捨てれば良いではないか」
「やってるつもりだけど?」
私の言わんとする所を汲み取り、相手は不精不精頷いた。
「まあ、大事の前の小事ではないかと言いたくなっただけだ。君のやり方にけちをつけたいわけじゃない」
「そう。安心したわ」
確かにこいつの言うことにも一理ある。イベル達を牽制するよりも大事なことは他にある。
「我ら魔星将の悲願がまもなく、もうまもなく叶うのだ。興奮しないか、レイナ」
「勿論」
そうまもなく。まもなくだ……
「早く殺して差し上げたいね。我が親愛なる王であり、愛しの君である魔王様を……」
読んで頂きありがとうございました! 次話は来週月曜日の朝7時に投稿します! ただ、テンションが高まったら早まるかも! その時はご容赦頂きたいm(_ _)m
何? ブクマ登録しているから大丈夫ですと?
ありがとうございます!
※大切なお願い
皆様のブクマやポイントが執筆の原動力です。「あ、忘れてた」という方がおられたら、是非御一考下さいませ( ´◡‿ゝ◡`)




