「ぶらこん」と「しすこん」
リュドミーラさんから試練を受けないかと言われたリィナの返事は……
「駄目だ!」
無意識に発した言葉。その声の大きさに俺自身が一番驚いた。
「フ、フェイ兄?」
急に大きな声を出したからだろう。リィナが驚いた顔をしている。いや、驚いているのはリィナだけじゃないが……
「危険すぎる。試練なんて受けちゃ駄目だ!」
だが、誰にどう思われてもおれの意見は変わらない。危険すぎる龍人族の試練にリィナが挑むなんてあり得ないだろ!
「フェイ、気持ちはわかるけど……それはリィナが決めることじゃない?」
………グッ
“心配されるお気持ちは分かりますが……”
“何をうろたえておるのじゃ、マスター!”
何か言いたげな表情をしたミアと呆れた顔をしたネアの姿が脳裏に浮かぶ。でも……
「ふふふ……」
リュドミーラさんまで!
「リィナのお兄さん、優しい方なのですね」
「はい、フェイ兄は私の自慢の家族です」
リィナがそう言うとリュドミーラさんはますます楽しそうな声を上げた。
「貴方まで……全く素敵な兄妹ね、貴方達。古文書にあった“ぶらこん”とか“しすこん”とかっていうのは貴方達のことを指すのかも」
「ぶらこ……?」
何だって?
「そうね……まだまだ話していたいのだけど、実は時間に限りがあるの。こちら都合で申し訳ないのだけど、試練に挑む意志があるかどうかを教えて貰えるかしら」
「お願いいたします。私に試練を受けさせて下さい」
「リィナ!」
何で試練なんて危険なことを!
「フェイ殿、まずは理由を聞こうではないか。リ……リュドミーラ様もお尋ねになるおつもりでしょう?」
最後の部分はリュドミーラさんに向けての言葉だったらしい。クロードさんの言葉にリュドミーラさんは頷いた。
「私、ブリゲイド大陸に来て思ったんです。みんな、凄く素敵な人達ばかりだなって。ニーナちゃんもグレゴリーさんも何も知らない私達にギアス荒地のことを色々教えてくれて、大地の裂け目に行くためのルートの確保にも協力してくれました」
「つまり、恩返しがしたいってこと?」
リュドミーラさんの言葉にリィナはちょっと首を傾げた。
「慥かにそれもありますが……私の思いとしてはもっと幸せになって欲しいって感じです」
「確かに聖域が滅んでからの獣人達の生活は幸せとは言えないけど……貴方の思う幸せな生活ってどんな生活かしら」
確かに幸せの定義なんて色々だしな。
「押しつけかもしれませんが、ちゃんとした家に住んで、ご飯が食べられて、子ども達は働くことなく夢が見られる……そんな生活を送って欲しいんです」
リィナ……
「勿論、食べるのに困る生活を送っているから不幸だなんて言うつもりはありません」
俺がパラディンロードにクラスチェンジする前は食うにも困る生活でリィナが何とかやりくりしてくれたから乗り切れている状態だった。でも、そんな生活を不幸だと思ったことは無かったな。
「だけど……そうですね、こんなに良い人達が苦しい生活を送ってるのっておかしいんじゃないかなって」
確かに獣人達は苦しい生活に文句を言わず、聖域の復興という希望にすがりつつ前を向いて生きている。俺もそんな獣人達にもう少し良い暮らしをして欲しいと思う。
「確かに今の獣人達の待遇には私も思うところがあるし、率直に言えば、私の想いに近いわ」
リュドミーラさんの口調は静かなため、内心でどう思ってるかは分からない。が、多分その心の中には色んな感情が渦巻いてるんだろう。
(後悔、恨み……人間に対する憎しみだってあってもおかしくないよな)
ブリゲイド大陸の人間には思うことが色々あるが……人間以外の種族からみたらどっちも同じはずだ。
「でも、私にとって獣人達は親族も同然の存在だけど、あなたにとっては違う。見ず知らずとは言えないにしても、長い時間付き合った訳でもない人達はず。なのにそこまで想えるなんて、貴方はまさしく聖女ね」
「確かに私のクラスは聖女ですが……私は聖女なんかじゃありません。私は好きになった人には幸せになって欲しいだけです。それにその手伝いが出来る力を持った自分でありたいんです」
……リィナ
(誰かがしてくれるのでは駄目ってことか)
願うだけ、祈るだけでは不十分。自分の力で成し遂げたい、か。
(勿論自分だけって話ではないんだろうけど……)
今までリィナの言葉に静かに頷いていたリュドミーラさんもハッとした顔をする。
「そう……貴方はそういう人なのね……」
読んで頂きありがとうございました!グレゴリーさんとはニーナちゃんのお父さんです!
次話は来週月曜日の朝7時に投稿します! ただ、テンションが高まったら早まるかも! その時はご容赦頂きたいm(_ _)m
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