あなたのおかげ
自らの内に眠る獣と対峙し、対話したレイア。その力は一体……そして戦いの行方は如何に!?
(レイア視点)
アドンが砲弾のように迫る。宣言通りの全力攻撃……本当に律儀な人ね。
(凄いスピードと破壊力……)
だが、彼が本当に凄いのはこのスピードを完全にものにしていることだ。ただ突っ込むだけではなく、状況によって急旋回や急停止を思いのままにやってのける。
(しかも……)
体の軸をずらし、微かにフェイントをかける。そんな些細な動きにさえアドンは対応してくる。もはやその反応は人間技じゃない。
(凄い……本当に凄い)
だけど……
「これで終わりだ!」
アドンの突進のスピードが乗ったアドンの剣が私に向けて振り下ろされる。最高のスピードを持ち、かつ全てを断ち切る力を持った斬撃なのだが……
スッ……
私はそれを紙一重でかわし、アドンの後ろに立つ。そう言えば、アドンの背中って見るのは初めてね。
「先程までとは動きが違う……習得したようだな」
背を見たのは一瞬。完全にかわしてみせたというのにアドンは転倒どころかほとんど姿勢を崩さずに私に向き直っている。
「ええ。あなたのおかげね」
闘っている相手に言う言葉じゃない。けど、アドンは声を上げて笑った。
「殺す気で仕掛けて感謝されたのは初めてだ! 面白い、本当に面白い奴だな!」
楽しそうに、そう心底楽しそうに笑いながらアドンは剣を構える。気持ちは分かる。だって私も同じ思いだから。
「悪いが手は抜けんぞ。こんなに楽しい戦いは久しぶりだからな!」
「私もよ」
そう、楽しい。一歩間違えば死んでしまう真剣勝負なのに楽しいのだ。それは多分、自分がどんどん強くなるのが分かるから。
ブン!
なんの予備動作もない斬撃! 辛くもかわすと同時に距離を取る。
(今までと違う剣……)
速さと威力を重視した技とは正反対。こんな相手の隙をつくような技も使えるなんて……
(! しまった!)
かわせたことに一瞬安心したけど、違った! 今の剣は私にかわさせるための……いや、距離を取らせるための剣!
ドンッ!
再びアドンの突進! こんな僅かな助走距離でも目にも止まらぬ速さと触れれば吹き飛ぶ威力!
(こんなの防御も回避も出来るわけがない)
でも……
スッ……
私は体を僅かにひねってその突進を回避する。だが、ただ回避するのではなく、アドンの重心が軸足にある時に切り返して……
グラッ
アドンが片膝をつく。流石ね……転倒させるつもりだったんだけど。
「くっ……やられたな」
「一瞬片膝つかせたくらいじゃ威張れないわ」
今の今まで押されっぱなしだったんだし……
「そうか……君の〔竜剣〕の真の力は目だな」
流石……
「周りの状況、相手の状態を感覚的に把握する……まるで猫のようだな」
私の獣は臆病だから周りや相手に常に気を使ってる。相手の呼吸、脈拍、筋肉の収縮……それを活用すれば相手の動きを操ることも可能。
「面白い! 君は本当に面白い! 我が身を焦がすほどの激情の裏にこんなものを隠していたのか!」
正確にはそんな自分が嫌だったからかき消そうとした結果の激情、という部分はあるんだろう。
(まあ、それだけが怒りや憎しみの原因って訳じゃないけど)
持て余していたのは、裏に恐怖があることを認めたくなかったからだ。でも、認めてしまえば、それは武器になる。だって、恐怖もまた戦いには必要なものだから。
“恐れてるだけの剣士では何もできん。が、恐れのない剣士はすぐに死ぬ”
お爺ちゃんに言われた時には意味がよく分からなかったけど、今なら何となく分かる気がする。
「永遠に闘っていたいが、そうもいかん……」
「!?」
アドンの右腕が消え……いや、直ぐに戻った!
「時間制限があるんだ。今の私は仮初めの存在でな」
多分龍人の魔法か何かなんだろう。既に死んでしまったことを知りながらこの世に留まる……よほどの未練があるのかも知れない。
「だが、だからこそ君と戦えるのだ。感謝こそすれ、気を遣う必要はないぞ」
……確かに。戦う相手に同情するなんて失礼な話。私はアドンと全力で戦うことだけを考えなきゃ!
「よし、いい目だ。君達も忙しいだろうし、次で決めるとするか」
!!!
(来る!)
肌が粟立つのを感じる……何てプレッシャーなの!?
「私の二つ名、“迫撃”の意味を見せてやろう……」
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