進捗
ネアの仲間がいるという大地の裂け目に向かうための拠点作りの進捗は……
(フェイ<アリステッド男爵>視点)
(いよいよか……)
拠点作りは遂に予定通りに完成。いや、実際には予定よりかなり早かったし、クロムウェルに一番近い第一拠点を初めとした幾つかの拠点はもう規模としては街といっていい規模になっているから予定以上の出来になっている。
(ちょっとは獣人達の助けになれたかな……)
岩塩や蛇竜獣を使った日焼け止めなどの交易も順調で、ジーナさんやリィナによれば全て合わせればもはや小さな国レベルに近い規模の経済になっているらしい。
(メルヴィルさんには感謝だな……)
この異様な成長速度に一役かっているのが、オルタシュとの交易だ。俺達の船は魔物に一匹も遭遇しないため、行き来が極めてスムーズなのだ。
(獣人達の団結力にも助けられてるよな)
これだけ爆発的に人が増えると治安も悪くなるのが普通だ。が、獣人達は仲間意識が強い上、聖域の復活という目標があるために結束が強く、トラブルがほとんど起きないのだ。
(あの新しい商会も一役買ってくれてる)
俺達以外で獣人から岩塩を買い取り、生活用品を売っている商会……確か赤枝商会とかいったかな。
(物資の補給は勿論嬉しいが、それだけでなく獣人達の信用もあるのが凄いよな)
赤枝商会は細かくて手が届きにくいところを上手くやってくれているらしいのだ。おかげで各拠点は目立ったトラブルもなく成長してるって訳だ。
(でも、呼び名は何とかならないかな……)
実は第一拠点を一部の獣人が“男爵都市アリステッド”等と呼び始めているのだ。
(気持ちは嬉しいんだけどな……)
みんなの力で出来たことで、俺だけの力じゃないのにな……
“何を言っておるのじゃ、マスター! マスターの活躍が一番なのは明らかじゃろ!”
“もう、ネアは! この謙虚さがマスターの数ある長所の一つなんです!”
ミアとネアの言い争う声が聞こえるが……う~ん、謙虚かなぁ?
“……でも、皆さんがマスターに感謝してるのは本当ですよ”
それは分かるんだけどな。あ、そう言えば……
(……ひょっとして、そろそろメルヴィルさんやクロードさんと約束してる時間かな)
“そうですね、行きましょう!”
“うむ”
二人の同意も得たので俺達は新たに建設中の聖殿へと歩き始めた。元々獣人の街には聖獣と交信するための聖殿があったらしく、それを再現しているらしいのだ。
(まあ、流石に簡易的なものらしいけど)
丁寧に石が積まれた小屋に入ると、既にクロードさんが俺を待っていてくれた。
「すみません、遅れましたか?」
「いや、私の方が少し早かったんだ。気にすることはない」
ほっ、良かった。
“お待ちしていました、フェイ様。いえ、アリステッド男爵と及びした方がよろしいですか?”
名を呼ぶと、メルヴィルさんが姿を表し、そう声をかけてきてくれた。
(今はこの格好だからだよな……)
今はクエストでここにいるので、俺は仮面にマントというアリステッド男爵スタイルをしているのだ。
「今はクロードさんしかいないので、どちらでも大丈夫です」
“では、今はフェイ様とお呼びしましょう”
そう応えると、メルヴィルさんはニッコリと微笑んだ。以前と違い、まるで目の前にいるかのようにハッキリした姿なのはギアス荒地が少しずつ豊かになり、遺跡の機能が回復してきたかららしい。
「……お初にお目にかかります。龍人族のクロードと申します」
ちょっと間があったのはメルヴィルさんの笑顔に見惚れただろうか。……いや、余計な詮索は止めよう。
“龍人族のクロード様。ひょっとしてアタカマ様とは……”
「守人をさせて頂いておりました。現在の聖域の有り様は私に責任があります」
守人?
“聖獣の加護を受け、聖獣に仕える者のことです”
俺の疑問にミアがすかさず答えをくれる。
“聖獣メルヴィルにとってのマスターみたいなものか?”
あ、俺も今それを思ったよ、ネア。
“メルヴィル様はマスターに加護をお与えになられただけです。守人は聖域に留まり、聖獣を守護しなければなりませんから”
ふむ、つまり、守人というのは力と仕事をセットで受け取るってことかな。
“貴方に責任はありません。魔の持つ力が強すぎたのです。魔星将には私とて不覚を取り、フェリドゥーン様とフェイ様のお手を煩わせたのですから”
「メ、メルヴィル様にまで害をなすとは……魔星将とは神をも恐れぬ集団ですな」
クロードさんがこんなに動揺するのは珍しいな……
“メルヴィル様は聖獣の中でも高い位置におられる方ですから……私も驚きました”
なるほど。クロードさんの動揺は事情が分かっているからこそってことか。
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