浸水
お越し頂きありがとうございます! 今回はあの人視点の話です!
(アバロン視点)
一番艦に追い抜かれそうになり、ステータスアップの秘薬を飲んだ俺達は今、その副反応に苦しんでいた。
(いや、“俺達”じゃないな。俺は飲んでないからな……)
だが、体がきついことには変わりがない。飲んでないことがばれないように秘薬を飲んだ奴らと同じようにオールを漕いだからな。
「あ、アバロン兄……」
顔面蒼白で息も絶え絶えなドレイクが俺の名を呼ぶので少し起こしてやる。全く……俺は止めたんだぜ?
「アバロン兄の言うことを聞けば良──オエッ!」
「!」
き、汚ねぇ! 吐きやがった。
だが、これはドレイクだけじゃない。あちこちで身動き一つ取れずに横になっている冒険者達はゲエゲエ吐いていて、汚れていない床を見つけるのに苦労する状態だ。これが副反応なのだろうが……とにかく臭い。
(これがなけりゃ、正気を保てなかっただろうな……)
俺は今、豹炎悪魔のオーラを薄く伸ばして風船のようにしてすっぽり被っている。中にあるのは上のフロアにある新鮮な空気だ。この風船、薄い分かなり大きくできたので、上のフロアまで広げられたのだ。
(しかし、一体どうなったんだ?)
何度か船体が揺れた後、俺達に指示を出していた奴までいなくなっちまった。
(大王烏賊は倒せたのか? しかし、それならもっと大騒ぎしても良いはずだ)
大王烏賊はどう見てもSランクの魔物。討伐した冒険者は一気に英雄だからな。
(嫌な予感がするな……)
俺がそう思った瞬間、大騒ぎする声と共に上の階から海水が流れ込んできた!
「なっ!」
やばい、船体に穴が開いたのか! 俺はドレイクを担ぐと、上の階へと連れて行った。
※
【五番艦 : 資材置き場】
「ここなら大丈夫か」
海水が侵入して来る場所より甲板に近いからまあ、今のところ大丈夫だろう。
「アバロン兄……済まない」
「いいから寝てろ」
全く……手間のかかる奴だ。大の男を担いて階段を何段も上がるっていうのはなかなかに難儀な仕事だぜ。
「アバロン兄……他の……奴ら……は」
「あん? まだだぜ」
俺の他には誰も動いちゃいないからな。
(あのままじゃ十分保つかどうかといったところだが、奴らも冒険者だ。自分のケツくらい自分で拭くだろ)
死ぬまでに意識を取り戻して逃げるのも良し、間に合わなければそれまでの──
「“まだ”か、流石アバロン兄、全員助けるつもりなんだな」
は?
「我が身を顧みず見も知らずの相手を助ける……アバロン兄は常に神の意志に沿った行動を取るんだな」
神の意志? 何だそりゃ?
「“救い求めたる者から逃げることなかれ”、全員助けるつもりなんだろ、アバロン兄……」
え? 何これ。俺があいつらを全員助ける流れなのか? あと十分で二〜三十人の大の男を全員ここまで? いくらなんでも無理ゲーだろ!
「ゲホゲホッ! すまねぇ、アバロン兄。ちょっと休ませて貰うぜ」
お、おい、ちょっと……
(ええいっ! くそめんどくせーことになっちまったぜ!)
あの部屋が海水でいっぱいになるまでさほど時間がないぞ!
※
(ひどい目にあった……)
結局、全員運び込んだのだが、直後に船が沈没。俺は急いで空気を集め、豹炎悪魔のオーラで作った風船の中に皆の頭を入れた。何とか時間稼ぎをしている内に別の船──確か一番艦だったか?──に救助されたのだ。
「うっ……なんだこいつら。臭せぇ!」
救助された小舟で白い目を向けられる俺。何せ汚物まみれの部屋で汚物まみれの奴らを運んでたんだ。必然的に誰よりも汚物まみれになっているのだ。
「良く洗ってから上がれよ」
不潔な俺達に対する船員たちの目は冷たい。その冷たさといったらもう、同じ人間を見る目とは言えないくらいだ。
(そりゃこの姿じゃな……)
ちなみに他の奴らは海水をかけられても意識が戻らないため、何を言われても気づいていない。
(何だか俺だけ貧乏くじを引いてる気がするな……)
言われた通り、体を海水で洗ってから甲板へ上がっると、ちょっとした騒ぎが起こっていた。
「おい、あれは何だ?」
少し離れた場所に人が浮いてる……というか、浮いてる人間が何か騒いでるぞ?
「あれ、イーサンじゃないか?」
「何だ? 何か言ってるぞ」
俺は豹炎悪魔のオーラで望遠鏡を作り、目にあてた。このオーラは固くすることは難しいが、それ以外のことなら割と自由が利くのだ。
(何だ? タ • ス • ケ • テ ?)
自分の意志でああなってるわけじゃないってことか? 一体なんであんなことになってるんだ?
「あ、落ちた!」
騒いているうちに、突如イーサンは海水に墜落した。よく分からんが、助けたほうがいいのか?
読んで頂きありがとうございました! 次話は来週月曜日の朝7時に投稿します!
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