エピローグ
エピローグ
わたしは、砂時計が大好きだ。
さらさら、さらさらと流れ落ちていく砂。
それを見つめながら、わたしは時間の流れを感じる。
今、わたしはたくさんの笑顔に囲まれながら生きている。
そして、わたしの目には……あの日から。
奇跡が起きたあの日から、砂時計が消えていた。
何で見えなくなったのか、それはよく分からない。
……けれど、なんとなく――わたしには、砂時計が見える意味がなくなったんだろうと……そう思った。
砂時計は、ずっと確実だった。
どんな時でも、誰であっても……確実に命を見せていた。
――それが、確実ではなくなったから。
わたしは、砂時計が見せる確実な死を、確実ではなくしてしまったから。
だから、もうわたしには、砂時計が必要ないのだろう。
――結局、砂時計は何だったのだろう。
何でわたしに、命を見せる必要があったのだろう。
それは、全くわからない。
見えなくなってしまってからは、元々わたしに砂時計が見えていたのだということすらも、確実な証拠はない。
命の砂時計は、完全に消えてしまったんだ。
そうして時間は流れていき……わたしたちは高校三年生になった。
ヒカリは……体のリハビリを終えて、作家活動を再開。今では天才女子高生作家として、多くの賞を受賞し……最近では、テレビにも出演するような――いわゆるアイドル作家へと成長していた。
退院してから発表した新作は、ヒカリの作家生活の中でも一番の注目を浴び、ヒカリの代表作となった。
命の価値を扱ったその作品は、幅広い年齢層に愛され、そして感動を与えていた。
ノゾミは……。
「新入生の皆さん、御入学おめでとうございます!」
……ノゾミは、生徒会長になっていた。
「ミコトもヒカリも皆すごく頑張っているんだから、私も負けてられない!」
……とのことで、突然立候補し――見事に当選を果たしたのだ。
その応援演説は、殆ど強制的にわたしがすることになったのだけど。
生徒会長となったノゾミは、今までにないような楽しい学校を作りたい――と、日々努力を重ねていた。
その頑張りと、ノゾミの明るさから、下級生、同級生問わず支持を集め、学校内でその存在を知らない人はいない――とまで言われるようになった。
ヒカリもノゾミも、どんどん成長していく……。時間の流れに乗って、どんどん――どんどん。
――そして……わたしは。
「ミコトー! 頑張れー!」
「絶対勝つんだぞー! ミコトー!」
わたしの耳に聞こえる、ヒカリとノゾミの声。
――うん、優勝するよ……!
陸上――女子百メートル……全国大会の、決勝戦。
わたしは今、その舞台に居た。
心地よい緊張……周囲の声、音。
まるで、今のこの時間だけが、ゆっくり動いているような、そんな感覚。
――ピストルがなる。
さあ、スタートだ……!
地面を蹴る!
強く蹴る!
そして風を切り、前へ前へ……!
誰よりも速く――!
走る、走る!
前だけを見つめて……!
『わあああああああぁぁぁ!』
大きな歓声、喜ぶ声、悲しむ声……悔しがる声。
そんな声の中から、わたしは探し出す。
「ミコトォー! すごかったぞぉー!」
「おめでとー! ミコト、おめでとー!」
どんな時でも、わたしを呼んで……一緒に喜び、一緒に泣いて……。
――わたしと一緒に生きる、大好きな親友達の声を。
「ありがとうー! ノゾミー! ヒカリー!」
――命は、生きることを望み……そして光る!
水上夕日です。
この作品は既に書き上げてあった作品なので、一気に全章公開としました。
何かしらのメッセージが届いていたら幸いです。