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人間・魔法使い・宇宙戦艦  作者: 田舎流星群
2/2

2915年 歴史の授業 〜 2927年 初陣




魔導暦2927年 

魔導帝国領 首都星最終防衛ライン宙域 

第7魔導艦隊旗艦 魔導宇宙戦艦セーラム



 夢を見ていた、いや走馬灯というやつかもしれない。


 走馬灯だとしても、なぜ10年以上前に見た教育ビデオの内容を思い出していたのだろう。


「全艦戦闘配置、敵艦隊が射程に入り次第直ちに攻撃を開始する」


 私の横にいる第七艦隊司令にして勇者である、ハキム・ディスタンス大将が号令をかける。意識が一気に現実へと引き戻された。

 

 私、メリル・スタンプは今、第七艦隊旗艦セーラムのブリッジにある司令長官用の指揮座の隣に用意された参謀席にパーティー用のドレス姿で座り、ヴィンテージ物の魔導ワインのボトルを抱えながら正面に設置された戦況モニターを固唾を飲んで見守っていた。


 戦況モニターには敵である電導連盟のニ個艦隊が赤い識別マークとして表示され、十万キロほど離れた地点からこちらに迫ってきていることがわかる。


 今、私たちがいる宙域は首都星の最終防衛ラインとされている。

 

 この地点から数回のジャンプで首都星まで辿り着けてしまう上に、ここが突破されれば首都を守る戦力は「おかざり艦隊」である近衛艦隊のみだ。その他の地方に配備された艦隊が援軍に駆けつける前に、敵艦隊は首都星のことごくを火の海にすることができる。


 首都星が落ちれば、私たち魔導帝国は統制を失いこの戦争に負けるだろう。

 

 つまり、私たち魔法使いは人族との一万年に及ぶ戦争に王手をかけられているということになる。


 元々、私は士官学校の教育課程の最終行程である、艦隊勤務実習のために、この第七艦隊に配属された。


 いや、正確には「配属されるようにした」というのが正しいかもしれない。最新鋭で居住性の高い艦が揃い、首都防衛という接敵のリスクが少ない任務に就く第七艦隊に配属されるよう艦隊勤務実習担当のハゲ教官と「交渉」したのだ。


 しかし、配属初日のガイダンスの場でハキム大将から「顔が良い」という理由で側付きに任命されて以来、艦隊勤務の実習などろくにしないまま、彼の接待をしている。


 側付きにされた時は彼の濡れた黒髪と端正な顔立ちやその体つきに見惚れて、玉の輿狙っちゃうか!と有頂天だったが今はそれどころではない。


 ちなみにドレス姿なのは、「軍服は無骨で好かん」という彼の趣味によるものだ。


「メリル、そう緊張するんじゃない酒が不味くなる。勇者であるこの私が指揮を執るのだ負けるはずはない」


 ハキム大将が魔導ワインの入ったグラスを片手に自信たっぷりの様子で話しかけてくる。


「は、はい」


 慌てて返事をした。ろくな返答ができない。緊張するに決まっている、私は初陣なのだ。しかもこの初陣に首都星、ひいては帝国の命運が掛かっている。


 それに、首都星にはお母さんがいる。お母さんとは艦隊実習が始まった、1月前から連絡が取れていない。

 

 首都星では敵艦隊の接近に伴い避難が3日前から開始されているが、お母さんは貧しい平民だ。


 自分の船を持つ貴族と違って、帝国が用意する避難船に間に合わない可能性は十分にある。


「敵艦隊、主砲有効射程距離に入ります!」


 魔導レーダー担当の声がブリッジに、響いた。


「よろしい…各艦魔導障壁を展開!打ち方始め!」


 ハキム大将が嬉しそうに、魔導ワイン中毒者らしいニヤついた笑みを浮かべながら号令を下すと、鈍い地響きのような音と軽い振動を感じた。主砲から対艦魔導徹甲弾が発射されたのだ。


 ついに戦闘が始まった、一発で魔法使いも人族も区別なく数万人を蒸発させることのできるエネルギーを持った宇宙戦艦の主砲を何千発と撃ち合う醜い争いがスクーリーンを通して繰り広げられる。


 こんな景色をその当事者として見たくなかったから、あの禿げ面オヤジの実習担当大佐と一夜の「交渉」をしたというのに。



 私にとって起こるはずでなかった戦闘が起こった理由は、電導連盟に対する大規模攻勢作戦、通称「電気ショック作戦」に失敗したからだ。


 敵の前線防衛拠点である、トラフル星系を帝国の要する艦隊の三分の一にあたる四個魔導艦隊を持って制圧し、そこを拠点に一気に敵首都星メイチェまでの航路を確保することを目的としたこの作戦は、第一段階であるトラフル星系制圧を達成することすら出来ず味方艦隊との通信が途絶、逆に敵二個艦隊からなる侵攻部隊が、帝国の黄金期に敷設されたとされる超広範囲索敵結界と魔導機雷群による強固な警備と国境守備兼補給支援の任に当たる第六、第十艦隊を突破、首都防衛ラインに迫っていた。


 勝利は確実と言われ、「魔神艦隊の再来」と広報にもてはやされた四個艦隊が僅かな生き残りを残して全滅。国境守備にあたった二個艦隊と古代の結界を運用する陸軍部隊はどういうわけか敵艦隊を察知できず通り抜けられた。


 敵艦隊を捕捉できたのは、見慣れない艦隊を不審に思ったテンペスト辺境惑星州の代表である州政府知事からの「予定にない演習を控えてくれ」という軍への苦情の通信文を受け、最終防衛ラインで演習を行っていた第七艦隊がハキム大将の指示にもと確認のための偵察を行ったからだ。



 レーダー照射の警告音が鳴り響いた直後、衝撃が走りブリッジの床が軽く揺れる。


「左舷前方に被弾、魔導障壁の損害は軽微」


「続けて、直撃弾及び至近弾多数接近します」


 クルー達が努めて冷静に報告を告げた。


 最初の被弾から間も無く、矢継ぎ早に敵の陽電子カノンから放たれた高出力のビームが魔導障壁を焦がしていった。障壁が閃光を放ち、不快な振動が艦全体を襲う。


 一個艦隊対二個艦隊、敵はこちらの二倍もいる。その火力の優位性を余すところなく発揮して、狂ったようにこのセーラムに襲いかかってきた。


「大人気だな、敵はよほどこの勇者の首が欲しいらしい」 


 このセーラムは旗艦であるだけでなく、ハキム大将という誉ある勇者の愛艦だ。


 セーラムの優美な曲線を持つ船外壁に刻まれた、雄々しい刺青の数々が勇者勲章を授与されるに値する魔法使いがここにいると敵に大声で宣伝しているようなものだ。


 勇者の首を取ったとなれば、その当事者たちは電導連盟で幾千万の同胞の仇をとり最高の栄誉を得るだけでなく、帝国最大の戦力を削ぎ連盟の勝利に大きく貢献したこととなる。


 敵の砲火がただでさえ集中しやすいのに、二倍の敵を前にしているとなれば、旗艦として陣形の最も安全な場所に配置されているにもかかわらず、蜂の巣にせんとばかりに敵のビームを撃ち込まれている。


「魔導レーダーは正常に作動しているか?」


 ハキム大将が尋ねた。


「はい、魔導レーダーに異常ありません」


 レーダー技師が簡潔に答える。


 私たちは、敵には魔導レーダーを何らかの手段で誤魔化す手段があると考えている。そうでないと、帝国が前線と定めるトラフル線の結界と守備艦隊に察知されない理由が説明できない。トラフル線を避け魔導熱感知式である機雷群を突破したとは考えにくい。


 陸軍はともかく二個艦隊がまるまる裏切り、敵を素通りさせた。という可能性をもないではないが、魔導反逆罪が適応され得る大罪を、その刑罰の恐ろしさを知るものなら犯さないはずだ。


 ジェイド大将は額に手を当て、いかにも難しいことを考えていると言いたげな表情で少しの間黙り込み、後退の命令を下した。


「後退しつつ陣形を再編、セーラムを先頭に戦艦群による密集陣形を取り艦隊中央を一枚の盾とせよ」


 彼の命令を聞き、ブリッジの全員が目を丸くした。


「閣下お考え直しください!敵の砲火はこのセーラムに集中しております。密集陣形の先頭に立つ、という勇者らしい勇敢な振る舞いご立派ですが、敵は二倍の数を擁しているのですぞ!皇帝陛下より賜ったこのセーラムの防御力を持ってしても一時間と持ちません!」


 彼の命令を聞き、参謀の一人である老少将が早口で喚き立てる。少将の言う通りだ、この勇者は、二倍の敵を前にして、艦隊の全員が処刑執行の列に並んでいるに等しいのにその先頭に自分から進んで並びたがっている。


「少将、今の状況で二倍の敵に勝つには援軍を待つしかないのだ。そのくらいのことは貴様も承知しているだろう?私という餌を敵にちらつかせて冷静さを奪い、援軍到着までの時間を稼ぐ」


 ここまで説明せねばダメか?とでも言いたげな様子でハキム大将が眉を潜めた。


 援軍到着までの時間を稼ぐ。最も現実的な策だ。開戦直前に入った報告では本来、防衛の任に就くはずだった第六艦隊と第十艦隊が死ぬ物狂いでこちらに向かっている。しかし、旗艦を含む艦隊の首脳陣を失うリスクは大きすぎる。ハキム大将の返答に対して、参謀たちはなおも食い下がり罵倒とも取れる反論を繰り返したが、ハキム大将は以降誰の言葉にも応じず、魔導ワインをちびちびと飲むだけだった。


 敵はこちらの後退に合わせる形で陣形を半球の薄いドーム状に変えた、数の利を生かして半包囲を図る構えだ。


 その真正面にセーラムを含む防御力の高い五十隻ほどの戦艦群が大将の命令により配置される、この五十隻の戦艦は第七艦隊の配属された戦艦の半数にあたるものを各分隊からかき集めたものだ。戦艦の群はゴンズイのように密集しその陣形の最大の利点を発揮させた。互いの魔導障壁を連結させ単艦では発揮できない分厚く広範囲にわたる一つの高密度魔導障壁を展開する。最終的に群は盾というよりは蛹ような形となって敵に対峙した。


 ハキム大将との議論の間も無く、陣形を再編し終えた敵の前進が始まった。蛹となった戦艦群に対して、ビームの乱打がその殻を打ち破ろうと襲いかかった。ハキム大将の「釣り」に敵は引っ掛かったようだ。敵の砲火の半数がこの蛹目掛けて発射されていることが、敵火線の強弱と指向範囲を表示する戦況スクリーンから読み取れる。


 セーラムのブリッジは敵の圧倒的な砲火の集中攻撃を受け、敵レーダー照射の警告音や被弾の報告が忙しなく飛び交っていた。外の景色を艦内に取り込む、船外の魔導カメラが蛹の殻である、高密度魔導障壁と敵のビームがぶつかり、鮮やかな虹色の反応光を散らしている様子をとらえた。その美しくも恐ろしい光が、球状のブリッジを囲むスクリーンを通して私たちの顔を照らしている。


 戦艦五十隻の密集した蛹が一斉に打ち返した。敵の陣形に小さな穴が開く、魔導戦艦五十隻の圧倒的ともいえる火力に耐えられる艦艇は人族には建造できないらしく、局所的に有利な場面が続き次々と敵艦轟沈の報がもたらされ、ブリッジが湧いた。


 勇者の首を前にし高い士気を持った彼らは怯むことなく、我々をすり潰そうとさらに接近し、包囲を狭めてきた。砲火の激しさが増し障壁に負荷が溜まっていく。


「て、敵誘導弾多数接近!」


「こちらも誘導弾で応射しろ!」


 ついに誘導弾の有効射程までお互いの距離が縮まった。敵の駆逐艦や巡洋艦から成る近接戦闘に長けた部隊が眼前に躍り出て誘導弾を一斉に発射した。


「障壁右翼に亀裂発生!戦艦エンリケ……加えてユタも轟沈!」


「連結障壁、出力六十三パーセントまで低下します」


「デブリによる被害多数報告あり、サンマルティン、ワンカベリ、イーカ大破!魔導機関に損傷あり、行き足止まります!」


「他にも、中破、小破の艦が多数でています!右翼被害甚大!」


 ついに蛹のからが破られ、密集している故の連鎖的な被害が報告されていく。エンリケの轟沈により最も近くに布陣していたユタがエンリケの残骸に衝突し沈み、発生したデブリが各艦に設置された近接防御用の魔力砲塔による防御を掻い潜り、襲いかかった。かつての僚艦の破片をモロに浴びた三隻の戦艦が戦線をはなれる損傷を被り、右翼に穴が開いた。魔導帝国の誇る魔導宇宙戦艦の二隻が一気に葬られた。この事実は、連盟の連中を奮起させたらしく、敵の駆逐艦や巡洋艦が一気に群がって誘導弾を競うように発射してきた。


「近づきすぎだ!中央は急速後退、陣形を立て直し右翼の穴を埋め障壁を張りなおせ!両翼は前進!突撃し、近接戦闘に持ち込み敵を内側から食い荒らせ!」


 ハキム大将が叫びながら命令を下す。中央後方の戦艦五隻が右翼の穴を埋め両翼からさらに五十隻の戦艦を中央に加え陣形の再編が終わる頃、両翼は敵の懐に飛び込み熾烈な格闘戦を繰り広げていた。


 誘導弾の有効射程内に突進した、両翼の艦隊の各艦はセーラムらが敵の攻撃を引き付けている間に温存した火力を存分に発揮し、敵の薄い半球上のドームを食い破りながら誘導弾、主砲、副砲、近接防御火器、射出アンカー、揚陸歩兵部隊をそこら中に撒き散らし、時には艦そのものを武器にして暴れ狂った。中には駆逐艦や巡洋艦を突っ込ませ、混乱に満ちた戦場を、そのまま味方ごと高速戦艦の主砲で薙ぎ払うという無茶苦茶な戦法をとる分艦隊もいた。


 突撃した時点では、敵の照準がセーラムに集中していたため、一瞬の隙ができ味方が優勢にみえたが、混沌を極めた戦闘の末に味方両翼艦隊の四割が損失した時、同等以上の数の艦を失った敵が平静を取り戻し、後退しつつの統制射撃によって味方の前進は阻まれ、両翼は後退を命じられた。


「敵艦隊、後退します……敵陣形を再編、艦隊を二つに分けるようです」


「敵はこちらの釣りに付き合ってくれないようだな」


 異様に硬い勇者の旗艦を含む戦艦群との戦闘と両翼の艦隊の突撃による損害を経て、敵の司令官は冷静になったようだ、こちらの狙いが時間稼ぎであると気づき、今なお、数の上で十分以上にこちらを上回る艦隊を二分し半数を殿として残しもう半数を首都星へと向かわせようとしている。


「餌が足りないらしい……セーラムを前に突出させろ。単艦でだ」


 ハキム大将が舌打ちをしながら、忌々しそうに命令を呟く。すると参謀たちが一斉に騒がしくなり、上官批判とも取れるような罵詈雑言を並べ当てて大将を非難し、命令を撤回するよう迫った。


「撤回はしない………黙れと言っている!これ以降の反論は敵前逃亡の示唆とみなし軍規に則って厳罰を下す!この場でだ!」


 老参謀たちを黙らせると、ハキム大将は深くため息をつき私に空になったワイングラスを突きつけてきた。


「このセーラムで飲む最後のワインになるかもしれん、丁寧に注いでくれ」


 彼は注がれたワインを一気に飲み干すと、まっすぐ正面を見据えた。



 赤く痛々しい光が私を照らしている。ブリッジに設置された非常灯の光だ、艦が激しい損壊を受けていることを知らせる警告音がけたたましく鳴り響き耳障りだった。


 頭に何かの破片が当たったのだろうか、額から血が流れているのが分かった。腕に装着されたデバイスを見ると、彼がワインを飲み干してから三十分が経過していた。重力制御が切れたのだろう、ワイングラスが視界の端に漂っっている。


 敵艦隊は結局、すべての艦艇がこの宙域にとどまった。勇者の首という餌を無視することができなかったのだ。


 ハキム大将はこれまで、何万という数の人族を殺す莫大な戦果を上げることで、勇者という称号を得た。敵の艦隊にも友人や肉親を殺された人々が大勢いたのだろう、もしかしたら敵の司令官も復讐に燃えていたのかもしれない。


 これまでの三十分で、セーラムは二百発以上の直撃弾を受け大破、機関室付近にまで損害が及んだため、魔力融合炉の暴発を恐れ緊急停止した。これはセーラムが本来は皇族専用であるエルフリート級戦艦を改装したものであり、通常の戦艦より格段に頑丈に作られているからこの程度の損害で済んでいるのだろう。特に機関室とブリッジはもっとも安全な区画とされている。


 現在は非常用魔力源を用いて艦内の生命維持システムをかろうじて機能させているが、それも後十分で魔力が尽きる。今使える宇宙空間用の緊急用生命維持術式は持って一時間、つまり、このまま援軍が来なければ後一時間と十分とちょっとが私に残された時間だ。もっともブリッジに敵の直撃弾が来るか、敵歩兵部隊が勇者の生首を取るために制圧に来たらこの計算は成り立たないが。


 通信はまだ生きているのか、僚艦からの指示を乞う声がノイズまじりに通信機のスピーカーから聞こえてくる。船外の魔導カメラ、熱、魔力感知センサー類もほとんど機能していないため、外の様子が詳細には分からない。味方艦隊は残りどのくらいなのだろう?援軍はまだ到着していないのだろうか?


 ブリッジではハキム大将(自己修復術式が自動展開したため怪我は完治)以外の誰もが負傷して、呻き声を上げていた。敵の直撃弾があまりに多かったため戦闘開始から二十分で魔導障壁は消失、敵のビームがセーラムの艦体を食い散らかしていった、セーラムの美しかった外観は見る影もなくズタズタになっているだろう。


 艦全体が激しく揺れ、ブリッジの天井からスクリーンパネルの固定が緩み私の三十センチ手前に落ちてきた。機関が作動しておらず、すべての砲塔が沈黙しているセーラムに対していまだに攻撃を続けている。敵は、ハキム大将を生け捕りにして交渉の材料にする気はないらしい。元々、人族と魔法使いとは互いに共存できない種族だ、今回は同族、魔法使い同士の戦争ではなく生存競争、動物同士の生き残りをかけた喧嘩だ、外交などそもそもないのだから捕虜に価値はない。期待するだけ無駄だ、死を前にして動転しているのだろうか?当たり前のことを頭の中で再確認してしまう。それともこれも走馬灯だろうか…


「通信手、まだ生きているか?」


 ハキム大将がまるで何事もなかったかのような顔で尋ねた。


「………はい、大将閣下」


「よし、通信だ、敵艦隊旗艦と繋げ」


 彼のこの命令にに対しては老参謀たちも異論を唱えなかった。というよりも、ブリッジにいる誰もが消耗し、各々の内心はどうであれ、この元気な勇者に意見する気力がなかったのである。


「私は、魔導帝国海軍第7艦隊司令、ハキム・ディスタンス大将である。人族の艦隊司令官に告げる。降伏せよ。潔く負けを認めれば、魔神より祝福されし種族である魔法使いきっての勇者である私が、下等種族である貴様らに、我が領地の家畜としての身分を保証してやろう」


 通信手が魔力を用いない人族仕様の通信機を操作し、通信の周波数帯を合わせると、彼はとても頭の悪いセリフを並べ立てた、明らかすぎる挑発行為だ。


「……敵艦応答ありません」


 二分ほど持っても応答はなく、攻撃は止まなかった、艦そのものが軋むような気味の悪い音が響いた。艦の竜骨に負荷がかかっているのだろう、間も無くこの船は完全に沈むだろう。


「…………艦長、機関再始動だ。第七艦隊残存全艦に命じる。魔導機関制御術式を破棄、融合炉をぼうそ

「魔導レーダーに新たなる艦影あり!……これは…戦艦モルドネス!第六、第十艦隊です!味方艦隊の援軍が到着しました!」


「映像出ます!」


 かろうじて生きていたカメラが捉えた、砂嵐の混じった映像がスクリーンに出た。援軍は通常空間に出現すると同時に敵に猛攻撃を加えている。


 陣形もまともに取らず、映画の中に登場する海賊のようにやたらめったらと打ちまくり、敵の側面に卒倒していく様が同士討ちという醜態を晒す部隊もあった。


 敵は援軍が到着するとすぐこちらへの砲撃を止め、手堅く陣形を固めるとあっさり国境方面へと撤退していった。味方もそれを追撃しようとはしない。


 先ほどまで胸の中を埋め尽くしていた、冷たい死への恐怖がどこかへ消え去り、暖かな生の喜びで胸が包まれていく。




 私は生き残ったのだ。






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