七行詩 511.~520.
『七行詩』
511.
故郷を発ち 都会で拾ったたくさんのもの
鞄いっぱいに宝石を詰め
私の小屋へと持ち帰ります
そこはアトリエ 私は一枚の絵を描くために
色を覚え 顔料を揃え
何度も試作を繰り返しては
自分にはまだ足りないと 気づき 町へと出るのです
512.
風を受け こびりつく砂を 洗い流し
喉を潤す 貴方の声は
私には恵みの水であり
貴方は湧き出る泉のようだ
その泉を絶やさぬようにと
私は鉄を拾い集め 埃にまみれて 町を目指し
私と貴方の パンへと替えてもらうのです
513.
貴方の前には 何人もの詩人が
貴方に歌を捧げたでしょう
私はその騎士達とともに
あらゆる災厄から 貴方をお守りできればいい
私の歌が そこで埋もれてしまっても
貴方を無理に 引き寄せようとするものでなく
貴方を最も高嶺へと 押し上げるものが私の歌です
514.
私が称える美しさは 私が作り上げたもので
本当の 貴方ではないといいますが
貴方の知らない側面を 私は見ているのでしょう
茨の道を裸足で歩み 痛みを見せず佇む姿
意思を持ち 生きているだけで美しい
貴方の存在が 詩であるから
私は見つめ 詠み上げているだけなのです
515.
貴方が誰かに いつか過去を打ち明けるとき
貴方が私を 惨めに思わず済むように
何か人の目に映るものを 人の心に残るものを
一つずつ この町で作り上げてゆく
そして その惨めさが 私の輝きであるとさえ
貴方が認めるその日まで
寒さも 貧しさも 喜んで迎え入れましょう
516.
小さな靴で 早足で 私の前を過ぎていくのは
見上げる雲のような人
貴方は 私が見えますか
貴方は私を照らすことなく
それどころか 影の中へと閉じ込めて
紛れる人ごみ 私はそれでも
貴方の影に ただ一色に染まりたい
517.
受け取る手のひらがなければ
愛は行き場を 失い迷子になるけれど
貴方を想い 流れた涙を集めた壺に
活けた花々を見てください
それらはいつまで 貴方に微笑んでくれるでしょう
私の代わりに 貴方を見つめ
貴方の傍に居てくれるでしょう
518.
貴方が一度 捨てることをためらった
思い出は今も お持ちでしょうか
その中に 私の名前を見つけたら
声に出し 読み上げてください
貴方はあの日 引き出しにしまったのか
それとも 火の中に投げ入れたのか
貴方は覚えているでしょうか
519.
私の喉は あれから何度
その名を呼ぶために 震えたか
いつか上手に歌えるようになったら
貴方は聞いてくれますか
叫び声も 独り言さえも そう思う
いつものよう 知らない顔で 通り過ぎながら
どこかで貴方が 聞いていればいいのに
520.
ガラスは元には戻らない
割れる度 新たに張り替えた
時間は元には戻らない
過ぎる度 頭を切り替えた
再びこの手には戻らない
桜の花びらと似たようなもの
紅い落ち葉と似たようなもの