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63話:おとなになるってかなしいことなの……




2日後。

九尾と天狼の接触はなく、商隊はドピューの町を出発した。


ここから王都に行くには、2つの道がある。

・・・が1つは現実的ではないので、実質1つしか道はない。

商隊はこの実質の方の遠回りルートを行く事になる。


では、この現実的でない方のルートとは何か?

それはRPGのド定番であるが、みんな大嫌いな場所。通称“迷いの森”という密林を突っ切るルートだ。


前にも言ったが、僕達は迷いの森には行った事がある。湿原から直接行けるし、許可を取るのが面倒だったので、当時はドピューの町に寄らなかったな。

この世界に迷いの森があるって聞いた時は、あっ!絶対行かなきゃ!と思ったもんだよね。


・・・で、実際に行って後悔したよね。ジャングルってのを完全に舐めてたよ。

当然、道という道は無いし、意外に高低差がある。

極めつきはファンタジー特有の、生息している魔物と植物と地形だ。出て来る魔物はほぼ状態異常持ち。トラップかのように配置してある毒持ち植物と毒の沼。

漏れなく全員、毒になったよ。あのルシルでさえ毒になった。

当時はまだ毒弱点のとくせいが残っていたルシルは、毒になった瞬間に僕の腕の中で死のうとしていたな。

「ご、ご主人様。せめて、お情けを一度、いただきたかったです・・・。」

と、毒を口実に僕の身体を要求した彼女は、すぐに毒消し草を口に捩じ込まれて回復していた。


もうあそこまでいくと、迷いの森っていうか毒の森だよね。

確かに直線距離でいったら王都への一番の道だろう。だが全く現実的な道ではない。ましてや商隊で行くなんて考えられないね。




さて。ジャングルを横目に一行は整備された道をひたすら東へ。

ここから2日かけて、“ペズリーの村”へ。そこから山をくり抜いたトンネルを通って“タマティーの町”へ。最後に、“ナナニペウスの町”を経由して、王都“アノール”へと到着する。


・・・・・・いやいや、何もおかしい事はないよ。僕は地名を言っただけなんで。

パイマーンから、ドピュー、ペズリー、タマティー、ナナニペウスを経由して王都アノールへの旅だよ。

僕はおかしくない。おかしいのはこの国の人間だ。



そして肝心の、この旅に同行していた九尾のおねいさんだが・・・


「・・・来ませんでしたね、ルナ様。」

「そうね。もう目的は果たしたんじゃないかしら?」


九尾は集合場所に現れなかった。

ルシルを連れているのが僕ではなかったと、まんまと思い違いをしたらしい。

王都まで付いて来る理由もないだろう。もうこの辺りから去ってしまったようだ。


その証拠に、ルシルはルナ様から解放された。今はメイコの代わりに馬車と並走している。

どうやらルナ様のフォレストウルフに誤認させる魔法は、対象に触れていないと効果が発揮しないようだ。

流石のルナ様でも遠隔では無理なのか。だが九尾のような強大な魔族をも騙せる事が出来るとは、とんでもない魔法だ。


「リョウ〜。マボロシチョウって何処で捕れるの〜?」

「農場とか森丘・・・って、いつのゲームやってんすか?僕がこっちに来て、もう10年くらい経ちますよ?新しいのとか出てるでしょ。」

「あによ〜ぅ、黙ってなさいよぉ〜・・・・・・ああーー!もうっ!!!大体なんで防具加工するのに虫が要るのよ!チョウ一匹くらい他の素材で代用しなさいよ!せめて防具の何処に使ってるかだけ教えて!まさか腰の白いとこのワンポイントに使ってるわけじゃないわよねえ!?ねえ!!?」


と、メイコに膝枕をさせ、イムを熱さまシートとして使いながらゲームに怒っている、この世界の神様であろう御方。

残念ながら腰の白いとこのワンポイントらしいですよ。そういうデザインで加工屋のセンス問われとるらしいんで。


・・・はぁ、せっかくスゴい魔法が使えるのに。

偉大な方だと思うんだけどなぁ。こういうところが胡散臭さを加速させるんだよ。




結局、九尾のおねいさんを見捨てて商隊は出発した訳だが、商人達は慌ただしく動いていた。

今も早馬が商隊に追い付いて来た。ドピューから来たガチムチ兄貴商人が、九尾の代わりに僕と同じ馬車に乗っている少女の商人に報告している。


「お嬢、やはり見付かりません。」

「お疲れ様です。後はドピューとパイマーンに居る方々に任せておきましょう。」

「お嬢、本部の方へは?」

「さっき伝書鳩飛ばしてましたよ?ブラックリストには入るでしょうけど、捕まらないでしょうね。」



・・・どうも傍から聞いていると、九尾はインチキ商会を騙してこの馬車に乗っていたらしい。


パイマーンにて僕と同じ馬車に無理矢理乗るため、通常ではありえない金額を商会に払っていたようだ。

その後、ドピューの町で九尾は去った。その時に商会へ払った金を、全部鉄屑に変えて。


詐欺にあった商会は必死になって探しているようだが、ルナ様は絶対に捕まえられるわけないと言っている。


そう、絶対だ。

先程、このロリ商人が九尾の人相書を僕にみせてきたが、まずそこから間違っているらしい。

九尾は変化自在。九尾の性別に関係無く、老若男女なんにでも化けれるので、人相書などまったく意味が無い。

金を鉄屑に変えられたっていうのも、最初から金ではなく鉄屑を掴まされていたのだろうという事らしい。


幻術ってのは恐ろしいな。ルシルも見破れてなかったし・・・僕だってルナ様が居てくれなかったら分からなかった。

おそらく、幻術を見破れるのはルナ様くらいなんだろう。



「すみません、お客様。もうちょっとだけお聞きしてもよろしいですか?」


と言って思わずドキッとする笑顔を向ける、お嬢と呼ばれていたロリ商人。まぁ見た目は少女でも中身は大人な種族なんだろうが。

亜麻色の長いサラサラ髪を風が優しく包んd・・・可愛らしいリボンを結んで、フリフリのついたスカートを身に付けたあざてぇロリキャラだ。

更にあざてぇ事に、対面に座ってるのに体育座りしやがる。

何だコラァ見せてんのかインチキ商会ってのはそれで商売すんのか枕営業かよ上等じゃねぇかガン見してやる!!


「ここに居た女性、何か変わった事をしてませんでしたか?」

「そうですね・・・ずっと書き物をしていましたよ。」

「書き物・・・?」


あざとい商人は小首を傾げている。

書き物してたって言われたぐらいじゃ、そりゃ何も分かんねぇよなぁ。


この問答に関してルナ様の指示は無い。つまりは好きに答えてよいのだろうが、なんでもかんでも正直に言うつもりは無い。

あの女は九尾だなんて言えないし・・・言えても、ダンジョン制覇をした人間を探していたってくらいか?



「では・・・その女性と何かお話しませんでしたか?」

「お話って言っても、一方的に質問されただけですよ。お前は魔物使いか〜?とか、ダンジョン制覇したのはお前か〜?とか言ってましたよ。」

「ふむふむ・・・。ではその答えに関しては何と?」

「何も。ダンジョン制覇したのは僕じゃないと答えたら、無視して黙ってしまいました。」

「おや?ダンジョン制覇したのは隠されたのですか?」


・・・なんだ。このあざとい商人は、僕が悪霊の屋敷を制覇した事を知っていたか。

あざとい商人をチラッと見た。それに気付いた商人はまたもニコッと微笑む。


「情報がお金を生むことがありますから、ウチ等は一生懸命情報収集をしているんです。 当然知っていますよ。ゲバルド=トクレンコ様のご子息、レアクラス“魔物使い”のリョウ様。」

「・・・僕は孤児院出身ですよ。本当の息子じゃない。」

「当然存じてますよ。ご息女のエカテリーナ様とも懇意にしていらっしゃる事も。」


それを踏まえての息子だと?

いやだなぁ。僕とカティはまだそんな関係じゃありません!照れるなぁデュフッフッフ・・・。



あざとい商人は、サラサラっとメモを取ると、そのメモを隣のガチムチ兄貴に渡した。ガチムチ兄貴は前を走る馬車の方に向かって行った。


「申し遅れました。ウチはロリ=リュングベリと申します。以後お見知りおきを。」


ろ・・・おっく・・・た、耐えろ。堪えろ、僕!

笑っちゃ駄目だ。普通に欧米圏ではある名前だ。ロリがロリって名乗ってもこの人に罪はないだろ!

・・・・・・ふう、耐えたぞ。よくやったぞ私の腹筋。



「貴重な情報ありがとうございます。では・・・次は個人的にお話をさせてもらってもいいですか?」


握手を交わした後、ロリさんはルナ様を見ながら話をする。

まさか・・・ルナ様の正体まで知っているんじゃないだろうな?


「ウチ、従魔に興味がありまして、色々聞いてみたいのです。」


・・・どうやらロリさんはルナ様ではなく、イムとメイコを見ていたようだ。

流石にルナ様の情報なんて持ってる訳ないか。


「いいですけど・・・ちょっと答えづらい事もありますよ?」

「それは当然です。勿論、話せる事だけで結構ですよ。魔物使いの方のお話は貴重なので、勉強になります。」


そんなもんかね。

確かに魔物使いはレアクラスだから、貴重なお話になるんだろうか。



「では、この変わったスライムさんは何処で従魔にしたのですか?」

「えーっと、翡翠の湖っていう魔力溜まり・・・の付近です。」

「なるほど。確かにレア種は魔力溜まりの中に入れると聞いた事があります。そこで出会ったのですか?」

「あー、うん。まぁそんなとこです。」


・・・せっかく付近って濁して言ったのに。

初対面で従魔をレア種だとはっきり言われたのは初めてではないだろうか。ただし、豚トロ大好きおじさんはないものとして考える。


「魔物使いは、クラスを授かる前から魔物と運命的な出逢いをすると聞きますけど、リョウ様はどうでしたか?」

「そうですね、僕の場合は3匹と事前に出逢ってます。・・・運が良かったんだと思います。」

「素晴らしいです!だからそんなにお若いのに、従魔が沢山いらっしゃるんですね!スライムさんもその中の1匹ですか?」

「えーっと、スライムは僕が5歳の時に・・・。」


『・・・・・・フッ♪』

『くッ!!何故あの時の私はパイマーンに居なかったのですか!!!』


・・・なんか念話でイムがルシルを煽っている。

よく気にしているが、従魔ってのはそんなに順番が大事かね?

・・・いや、気にしてるのこの2匹だけだな。




ロリさんは本当に色んな事を知っていた。

僕がジュスタンと一緒に誘拐されていた事も知っていたし、フィリップさんの事も詳しく知っていた。

・・・そうだな。今後の生活で、こういう知り合いが1人でもいたら助かるかもしれない。お嬢と呼ばれていたし、多分インチキ商会の中でも偉い人だとは思う。

だが、勝手に何でも知られ過ぎていて怖い感じもする。

食えない人物だな。あざといし。何より可愛い。パンツは水色。


後は話し方も上手だ。結構喋らされた気がする。

特にイムの事をよく聞かれた。何か理由があるのだろうか?


「・・・あ、あの。もしよろしかったら、ウチにスライムさん、抱っこさせてもらってもいいですか?」


・・・ただのスライム好きだったか。

触るならルシルの方がいいと思うけどね。


『やだ。』

「・・・スライムは嫌なんだそうです。」

「で、では!撫でるのは?触るだけならどうですか?」

『・・・・・・イムは、そんなに安くない。』


何が安くないだよ。熱さまシートの姿で言ってんじゃねえ。



こうして、魔族の件が片付き、道中の話し相手ができた。

商隊はゆっくりと、確実に王都へと向かう。


・・・しかし、僕達は知らなかった。

この時、王都ではとんでもない事件が起こっていた事を・・・。





◆◆◆





「・・・・・・飽きたわ。」

「そりゃそんな古いゲームいつまでもやってるからでしょ。」

「違うわよ!この馬車の移動に飽きたと言っているのです!!」


急にルナ様が駄々をこねだす。


パイマーンを出て7日目。タマティーの町を出てすぐの事であった。

せっかくさっき王都ではとんでもない事件が〜って締めたところなのに・・・。もう次の場面は王都って展開でしょ。


「そんな事件ある訳ないでしょ。勝手に捏造しないでほしいわ。」


あ、はい・・・。



「あーもう・・・私ってもう居なくていいんじゃないかしら。魔族は帰ったじゃない。だったら私も帰っていいわよね?」

「・・・ルナ様がそう思うなら、それでいいんじゃないですか?」

「なによ!女のコが帰るって言ったら、引き止めるのが男ってもんでしょ!?」


理不尽だ。なんでルナ様なんかにそんな事。


「とっととアノールに飛んでもいいかしら?」

「なんすかそれ?ルナ様はテレポートみたいな魔法が使えるんですか?」

「そりゃそうよ。神託の時に世界各地を馬車で回る訳ないでしょ。」

「そういえばそうですね。でもその魔法って、僕等は連れて行ってもらえるんですか?」

「・・・・・・・・・・・・。」


・・・その沈黙は無理って事ですね。

ちょっとだけ期待したのに。


「・・・・・・アノールに着くまでセリスと交代していい?」


そんな理由で!?

一体何の為に出て来たんだこの女神?


「あーもー!退屈なのよ!何か面白い事件起きないかしら!?」


メチャクチャな事を言いながら、メイコの膝枕でふて寝しだす。

メイコは何でそんなルナ様に膝を提供しているんだ?僕がやってくれって言ったら、絶対呪おうとしてくるクセに・・・。




「セリス〜。やっぱり交代して〜・・・・・・あっ。」


急に何かを思い付いた様子のルナ様が、顔を上げて馬車の外を見ている。

セリスか?・・・いや違うか。変な事思い付いてませんように。


『ご主人様、少し気になる事がございます。』


と、ルナ様が何か言い出すかと思ったら、ルシルが念話で話し掛けてきた。


『何だルシル?』

『はい。迷いの森から人の気配がします。かなり弱っているようでございますが・・・。』


迷いの森に人が?

・・・確かに、タマティーの町まで来てから、また左側に迷いの森が見えるようになった。

商隊はこの迷いの森の左側に沿って、最後の中継地点ナナニペウスの町に向かうのだが・・・。


『・・・いいんじゃないか、放って置いて。』

『かしこまりました。』


誰彼構わず助けてられないよ。正義の味方じゃあるまいし、知った事じゃない。あっしには関わりのねぇことでございやす。



「・・・ちょっとちょっと!かしこまりましたじゃないわよ!女神の前で、救えそうな人間を見捨てようっての!?」

『私はご主人様のご意向に従うのみでございます。他の人間など知った事ではございません。』


慌てるルナ様に、外を走るルシルが胸を張って答える。

まぁ魔族ならそうだろうな。僕だって自分の知り合い以外なら割とどうでもいいが。


「リョウ!行くわよ!支度なさい!」

「はぁ・・・商隊はどうするんですか?」

「行くのは私とリョウとメイドさんよ。他の従魔は置いておきなさい。メイドさんに乗っけてもらえばすぐに終わって追い付くわよ。」


・・・そんなもんか。

でも、行きはルシルに2人で乗ればいいけど、帰りの助けた人はどうするんだ?



丁度退屈していたところに事件が起きたからなのか、人助けをするからなのか、やる気満々のルナ様を追って重い腰を上げる。


「おや?何処か行かれるのですか?」


一緒の馬車に乗ってはいるが、ルナ様関連の会話が全く聞こえていないロリさんが尋ねてくる。


「ちょっと迷いの森に人助けへ。必ず戻って来ますんで、従魔達をお願いします。」

「はえ?迷いの森に・・・人助けですか?」


ロリさんの返事を待たずに、僕とルナ様はルシルに跨がる。

ルシルは2人乗っているとは思えないスピードで駆けだした。


あへ!?

ち、ちょ・・・!速すぎいいいィィィィィィ!!!?





◆◆◆





銀色の狼は背に子供を2人乗せ、ジャングルを駆ける。

生い茂る草や木が勝手に避けているかように、鮮やかに駆け抜ける。


サラマンダーよりはずっとはやいだろう。

でもちょっと飛ばし過ぎじゃないですかね?

それだけ助けるべき人間は危ない状況なのだろうか?

その人間がくたばるのが先か。僕がリバースするのが先か。どっちですかね?

ああもう、何で今朝はおかわりしちゃったかな。


コレ・・・吐く時は右ですか?左ですか?

いやいやルナ様。私に掛かるでしょ!じゃないんですよ。

正面に吐いたら全員に掛かる大惨事ですよ。人助けどころじゃないよ。

ルシルも慌てだすんじゃないよ、まったく・・・・・

おっぷ・・・・・・




・・・・・・見えた!?

倒れてる人間に・・・群がっている、腰巻きだけを巻いた紫色の肌の小人・・・間違いない!奴等はゴブリンさんだ!!

ゴブリンさん4匹とクッコロオークさん1匹の魔物群れが、倒れた人間に今にも襲い掛かろうとしている!


バカヤローてめぇら!僕も混ぜr・・・

バカヤロー!この作品は18禁じゃねーんだよ!!腰巻きちゃんと巻けやあああああああああ!!!


「ルシル!急・・・おっぷ・・・」

『ひィィィィィ!?喋らないで下さい!!』


ご主人様のありがたい吐き気に戦慄を走らせているルシルだが、やる事はきっちりやる。


まずはゴブリン達が、地面から突然飛び出した土製の槍に串刺しとなる。

発見されてから一瞬で絶命する、この世界最弱の魔物。ルシルにとってゴブリンなど道端の小石でしかない。


そして、土製の槍には耐えたクッコロオークだったが、続いて放たれた風の刃に首を飛ばされる。

子供を背中に2人乗せ、可愛らしい悲鳴を上げながらも、軽々と全滅させてしまった。

まぁ今となっては驚く事ではない。ルシルなら当然の事だ。




「んふふっ。流石ですわね、メイドさん。 さてリョウ、この娘どうしようかしら?好きにしていいわよ?」


・・・好きにしていいわよ?

それじゃあ遠慮なく・・・って、やらんわ!!何してくれてんねん!?

ルナ様が助けに行こうって言うから来たんだろ!何故僕に判断を委ねるのか。


うつ伏せに倒れたまま、未だに動かない人間を見る。

魔物にしては珍しく繁殖機能を持った、ゴブリンとクッコロオークに囲まれていてたので、もう少し遅ければかなりの悲惨な事になっていただろう。

年の頃は僕と同じくらいか。黒い髪とケモ耳から、獣人の女の子だと分かる。

どことなく忍者を思わせる軽装からは、痛々しい打撲傷が無数にあり、両腕はありえない方向に曲げられていた。

・・・抵抗されないように折ったのか。エグい事しやがる。


・・・・・・人間が魔物に殺される時はこうなんだろう。

あぁくそ。面倒事には首を突っ込まないように心掛けてんだけどな。こういうのを見ると、同情しちまうのは仕様がないか。




・・・取り敢えずは助けた訳だし、怪我を治してやらないと。

だが今はセリスが居ない。

その代わりで来てくれているのがルナ様な訳だが・・・


「ルナ様は回復魔法は使えるんですか?」

「私を誰だと思っているのです?今ならなんと!金貨1枚で綺麗さっぱり治してあげるわ!」

「・・・そろそろ天界に帰られたらどうです?」

「さり気なく追放を言い渡さないでちょうだい。 あーもう分かったわよ。あー、リョウのせいでやる気出ないわー。両腕はもうそのままでいいわよねー。」


いいわけないだろ。

同じ女性としてなんとも思わんのか。


「リョウは回復魔法がいかに貴重なものなのか分かってないわ〜。人を大切にいたわる、慈しみの心がある数少ない者にしか使えないのよ〜?」


・・・今年一番の戯言を聞いた気がする。

ルナ様の事だ。なんかインチキして回復魔法が使えるに違いない。まぁややこしくなるんで口には出さないが。



ルナ様はフッと鼻で笑いながら、指を鳴らす。

するとあら不思議。獣人の少女の怪我は見る見るうちに治っていく。

当然、両腕も元通りに治った。流石に放って置く事はしないか。


・・・獣人の少女の目がゆっくりと開き、顔を上げる。

僕と目が合った。大きな瞳をうるうると潤ませ、此方を見つめている。


あっ・・・(察し)

いやぁ僕ってやつは罪な人間だなぁ、HAHAHA。ま〜た1人仔猫ちゃんを虜にしてしまったか。もう僕のクラスって魔物誑しじゃなくてよくない?女誑しでいいよ。ジゴロでいいよ。これはもう吊り橋効果とかそんなちゃちなもんじゃないよ。これは運命だったのさ、そう運命。女神に導かれし男の女のラブゲームさ。ルナ様はこれを見越して僕をここに連れて来たんだよ。このケモ耳くノ一ちゃんは僕の将来の伴侶なんだってね。君をゴブリンの毒牙にはかけさせないさ!だって僕が貫いちゃうからね!うっはーーーお下劣!!タマラーーーンチッッ!!!!


「お嬢さん。僕が来たからにはもう安心だよ(歯キラッ)」

「・・・・・・チェンジで。」






・・・・・・ん?

今何か言われたかな?


「・・・お嬢さん、もう痛むところは無いかな?」

「・・・・・・え、あっ!?自分とした事がなんて事を!!?ななな何でも無いッス!助かったッス!」


慌てて否定して何も無かったかのようにしている獣人の少女。

何だ気のせいか・・・まるで大人のお風呂店で予想外のものが来た時に使う言葉を言われた気がしたが気のせいだったか。

おおよそ、生死を左右する状況だったところを助けてもらった人間の使う言葉じゃないもんなぁ。


「・・・ホントに大丈夫なのか?」

「ヒィッ・・・!?い、いや、何でも無いッスぅ。貴方がたが来てくれなかったら、自分は・・・。と、とにかく助かったッス。」


と、感謝の言葉を述べつつも、顔からは怯えが見て取れる。差し伸べた手は全く取ってくれそうにない。



「仕様がないわよ。気絶から目覚めて最初に見るのがリョウだったんだもの。詐欺だと思うわよね。」


何が仕方ないって?ルナ様?

ピンチに駆け付ける主人公がイケメン髪金王子様とは限らないんですよ。誰でも美少女を助ける権利はあるんだ。例えそれが変態イカれピンクでも感謝するべきだ。


そんな僕を無視して、少女はルナ様を発見すると、さっきまでの姿が嘘だったかのようにルナ様の元に駆け寄った。


「あ、貴女は・・・貴女様が私を助けてくれたッスか!?あぁ、めっちゃお美しい少女ッス・・・まるで女神様が降臨なさったようッス!!」

「んふふっ。よしなさい、照れるわ。」


僕への対応と全然違うやん。

しかし、ルナ様の神々しさに気付くとは、なんと状況把握の早い獣人なのか。



「・・・ご主人様、他に人間は居りません。早めに戻った方がよいのでは?」


モン娘形態になって、魔物から魔石を取ってくれていたルシルが、作業終わらせ此方に戻ってくる。

しかし、その声を聞いた獣人の少女が、ルナ様の後ろに素早く隠れる。


「ま、魔物ッス!!?まだ居たッス!!!」

「落ち着きなさい獣人。このメイドさんは従魔ですわ。」

「じゅ、従魔ッスか・・・?た、確かに。女神様に似て美しい毛並みの魔物ッス!感激ッス!!」

「・・・なんですかこの女は。」


ルシルが露骨に顔を歪める。

ルシルがここまであからさまな態度をとるのも、今となっては珍しい。最近はメイドが板についてきて、知らない人間にも分け隔てなく接してたのに。


まぁ実際にこの獣人の少女を救ったのはルナ様とルシルであって、僕は何もしていない。2人に感謝しとけばいい。

なんなら手柄を横取りして少女に色目を使ったからな。だってくノ一だよ?僕の愛が溢れるのも仕方ないじゃないか。


「そういえば、貴女は1人で迷いの森へ?仲間は居ないんですか?」

「・・・な、かま・・・あぁ、恐らく、全員・・・。自分を庇って・・・なんてことッス・・・。」


見た目からは想像できなかった後輩キャラのような喋り方をする獣人の少女は、僕の言葉を聞くと力無く跪き、死者へ祈りを捧げだした。


・・・ふむ。

まぁルシルが他に人間は居ないって言ってたんだし、この辺り一帯には居ないのだろう。

ということは・・・そういう事だな。



「そう、災難だったわね。 で、貴女はこれから私達と一緒に来るかしら?私達は王都に向かっているのよ。」


死者をどうにかしてくれと祈られていた対象の御方は、災難だったの一言で済ませるらしい。

で、やはりルナ様はこの獣人の少女を連れて行くつもりのようだ。

ルシルの背中に3人も乗れるだろうか?


「それは嬉しい提案ッス・・・でも自分は、急いでアヌルスに向かわないといけないッス!自分を信じて待っている彼女のためにも、急いで行かないといけないッス!」


どうやら獣人の少女は、何かしらの使命があるらしい。

しかしアヌルスかぁ。遠いなぁ。

だから迷いの森を抜けて、多少なりともショートカットしようとしたんだろうが、このザマではな。


「んふふっ。アヌルスまではまだまだ遠いわよ?1人で行くのは危険だわ。一旦、アノールに帰った方が早いと思うわよ?」

「けど・・・・・・いや、女神様の言う通りッス。一旦、帰った方が早いかもしれないッス。」

「そうでしょうそうでしょう。では、私達が乗っている馬車まで案内してあげますわ。もう動けるでしょう?付いて来なさい。」

「了解ッス!!」


・・・・・ん?果たしてそうだろうか?

また王都に逆戻りより、タマティーの町の方が近いんだが?そこで馬車なり護衛なり雇った方が早いんでないかい?


・・・いやまぁ僕は外の世界には詳しくないし、そうでもないのかな。

それともルナ様には別の思惑があるのか?

この獣人の少女を、王都に戻らせる必要があるのかもしれない。

・・・まぁ、その意味は全く分からないが。




・・・帰りは、獣人の少女が走って付いて来るそうだ。

伊達に忍者の格好していない。ルシルはゆっくり走っているが、素早い動きでしっかりと付いて来ている。


だが走っている時は、羨ましそうにずっと此方を見ていた。

残念ながら駄目なんですよ。ルシルちゃんは乗る人選ぶんで。簡単には乗れませんよ。




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