61話:そんなパンツで大丈夫か?
「リョウ、忘れ物無い?」
「大丈夫だ、問題ない。」
「ホントに〜?お守りにボクのパンツ持っていく〜?」
「一番いいのを頼・・・まねーよ。イムにでもやっとけ。」
あれから2日後。
特に何もないまま出発の日を迎える。
事が事なだけに、お別れ会も無し・・・別にいらねえけど。
エリオとリタも、街の出口までは付いて来ず、孤児院にてお別れとなる。
「リョウ・・・また、会えるよね?」
「会えるさ。エリオより先に、都会で美人のおねいさんを見付けといてやるよ。」
「んも〜。リョウにはボクが居るでしょ〜?」
「残念ながら男同士はNGなのだよ、リタ君。」
・・・この子達とこんな会話出来るのも、最後かもしれねえな。魔物のいる世界だしな・・・。
でも僕もこの子達も、簡単にくたばらないように鍛錬してきた筈だ。
会えるだろう、何度でも。
「・・・ラーク達はよくやってくれてるか?」
「うん。ラークさんもケントさんも優しいよ。教え方も分かりやすいんだ。」
「やっぱ〜パーラ姉凄いよ〜。ボクも強くなってる感じするもん〜。」
今年に入ってから、僕は紫煙の風にエリオとリタを紹介した。
ラークめ。僕が契約したいと言った時には、あーだこーだと言ってたクセに、エリオとリタを紹介した時には、直ぐに飛び付いて来やがった。
パーラさんは相変わらず僕に冷たいし・・・ふん!いいもん!!僕にはもじゃ毛のおっさんがいたからね!!
『ご主人様。そろそろお時間です。』
ルシルが念話で時間を知らせてくれる。
あぁ、もうか。・・・グズグズしてても仕様がないし、行くか。
「・・・そろそろ行くわ。じゃあ、エリオ、リタ・・・またな。」
「うん・・・またね。カティナとマルタによろしく。」
「またね〜。」
ここで別れを言わず、再会を約束するのは様式美というやつだろうか。
僕は従魔達と共に、街の出口へと向かった。
◆◆◆
街の出口には、いくつもの馬車が並んでいる。
先に来てくれていたゲバルド氏夫妻とディーノ氏が、商会の人間と話をしてくれている。
この中に入れてもらうのか・・・。
インチキ商会というらしい。簡単に信用してはいけなそうなヒドい名前の商会だ。
何処かで聞いた事あるような気がするけど・・・まぁいいか。
「イタッ!・・・す、すみません。」
「あ、こちらこそ、すみません。」
馬車にデカデカと描かれている“INCHIKI GROUP”の文字に度肝を抜かれていると、誰かと肩がぶつかってしまった。
ぶつかった人を見ると、全身真っ青な絹のドレスを着た、肌の浅黒いおねいさんだった。
・・・う〜ん。ちょっと歳いってるが、なかなかのもっこりおねいさん。
だが、着ている服を見るに、面倒臭さそうな人物だ。
「あれ?君、今日の活動はあちらの広場でやりますよ?」
「いえ、僕はこんな格好してるんですけど、青竜教の人間じゃないです。」
「あ・・・それは失礼しました・・・。」
青ドレスのおねいさんは、さっさと広場の方に向かって行く。
・・・ふむ。優しいおねいさんで良かった。
この前別の人間から間違われた時は、悪態つかれたからな。紛らわしい格好してんじゃねーってよ。
・・・それもこれも、原因は僕の着ている服にある。
僕の服のコーディネートは勿論メイコだ。
メイコの糸を、レア種ミノタウロスのドロップアイテムで染め上げた、群青色の上下。
秋を感じる素敵なおでかけコーデとなっておりますな!(適当)
そして先日ついに、人数分の外套が完成したとの報告が!
旅立ちの日までに間に合ってよかったと、6人分の群青色の外套を差し出したメイコに、何が言えようか!?
ありがとう!と、涙を流して喜ぶしかないじゃないか!!
これで道行く青竜教信者に、お前も信者かと間違えられる事請け合いですよ!!
実際は、誰よりも女神教に近い人間だというのに・・・。
セリスが居なくなり、僕のパーティーは5人となった訳だが、傍から見れば群青色の外套を着た奴が6人から5人になっただけのこと。
ルナ様やセリスは、群青色の上下を着た僕を見て何も言わなかったが、この群青色集団はどうだろうなぁ。流石にキレるんじゃないか?
青竜教のおねいさんの背中を見送っていると、今度は同じ方向から見知った顔の連中が歩いて来る。
本当にただ知っているだけの連中だ。仲がいい訳でもなし。だが何かと因縁深い連中である。
黒い三戦士のエルテガとキッシュだ。
オリジナリティ溢れる三人組の歴戦の冒険者達だが、もうひとりは隊長のガイヤンではなく、違う人物を連れている。
エルテガとキッシュが連れて歩いているのは、地面に接しそうなくらい長い金髪をもった幼女だ。
なんというか、幼くて可愛らしいんだが、将来はとんでもない美人となることを約束された美しさがある。髪もウェーブが掛かっており、髪の先の方だけ紫色になっている・・・。
いや、そんな事は問題ではない。
目の前で犯罪が行われているのだ!この厳ついロリコン達はついに越えてはいけない一線を越えたのだ!
コイツらの子供な訳がない!どっかから誘拐して来たに違いない!もしくは、幼女の奴隷を買ったんだ!なんとけしからんのだ!!何処で買った!?言えッ!!言えェッッ(切実)
「おお!ガキ!久しb・・・」
「自首しましょう!!何処でそんな可愛い娘を誘拐して来たんですか!?さぁ!返して来なさい!!」
「あぁん!?久しぶりに会って何失礼な事言ってんだ!!コラァ!!!」
久しぶりもクソもあるか!この犯罪者め!!
さぁ!私が幼女を預かろう!!そしてセリスの穴を埋めておくれ!!色んな意味でな!!デュッフッフッフッフ・・・
「・・・ご苦労様ですわ、変態の御二人。私はこの少年に用があるのですわ。もう帰ってもらってかまいませんよ?」
だが、イメージとはかけ離れた尊大な物言いをする幼女は、エルテガとキッシュに向かってシッシっと追い払うような仕草をする。
「あ・・・このガキに、かい?」
「なん・・・だと?おい!ガキ!貴様、何人の美しいお嬢さんとお知り合いなんだ!?」
エルテガとキッシュは僕に対して怒りを向ける。まぁ、この人達が幼女に向かって怒る訳はないわな。
そしてとんでもない言い掛かりだが、知ったことではないわ。
散々僕に向かって文句を言ったエルテガとキッシュは、惨めに帰って行く。
さっきまでは幼女に煽てられて気分が良かったのだろう。幼女が相手をしてくれないと分かったら、名残惜しそうに遠ざかっていった。
そして残されたのは幼女のみ。
だがこの幼女。もしかしなくても、僕もよく知っているあの御方ですよね?
「・・・えーっと、何やってんすかルナ様?」
「あら?もうバレたの?相変わらず貴方は面白くないのねぇ。」
またこの女神は突拍子もない事をする。
厳つい2人のロリコンに手を繋がれて登場する女神様が何処にいるだろうか?ルナ様しかいねぇよ。
「んふふっ。どうですかこの姿は?この姿だと優しくしてくれる人間が多くてお得なのよ。まぁ、たまーに誘拐されそうになりますけどね。」
それマイナス面ヤバくないですか?
まぁどうせ、ルナ様なら誘拐されたってすぐに逃げれそうですけど。
「可愛いですけど・・・こんな登場の仕方して、一体何の用です?例の件はどうなったんですか?」
「だから、その件を片付けに来たのですわ。こうやって、私が、直々にね。」
ちんまい女神様は目一杯に幼女故に無い胸を張りながら、魔族の件を片付けに来たと僕に言っている。
えっと・・・元よりどうやって片付けるつもりだったのか知らないけど、一体どうやって・・・?
「あの、ルナ様、僕は何をすれば?」
「簡単な事よ。私を貴方のパーティーに入れなさい。」
・・・・・・・・・・・・は?
はあああああああああ!!!??
る、ルナ様が!?僕のパーティーに、入る!!?
「それ以外は指示があるまで何もしなくていいわ。全部私に任せておけばいいのよ。」
僕の肩を叩きながら、ニコニコしているルナ様。
悪い事を思い付いた時の笑顔ではないので、信用しても・・・い、いいのだろうか・・・?
「んふふふふふっ。この私がセリスの抜けた穴を埋めてあげるのです!毎日ルナホに金貨を1枚入れるくらい感謝なさい!」
い・・・嫌です。普通に。
なんてこった・・・ルナ様が仲間になっちまった!?
「さあ、私はセリスの代わりに入るパーティーメンバーですよ?他のメンバーに紹介でもしてもらおうかしら・・・って、何なのですか、アレは?」
ルナ様の目線の先には、少し離れた場所で此方の様子を伺っていた従魔達が居る。
その従魔達だが、群青色の外套を小脇に抱えていたり、既に着ていたりして待っているのだ。
おおおおおそうだったあああああ!!?やべえええええ!!群青色集団だあああああああああ!!!
「リョウ。貴方、私に喧嘩を売っているのかしら?」
「いいいやあああああ。ああああれはですねえええええ。」
「貴方のその真っ青の服はまだ我慢してあげましたわ。でも、従魔達にまで同じ格好をさせるとは・・・もしかして私を裏切り、青竜教に改宗するつもりではありませんよね?」
そそそんな事あるわけないっすよおおおおお!!
女神教の司祭様の元で育った人間ですよ!?神子様の関係者も助けてきたじゃないですか!?
さっきのおねいさんが居るなら僕、改宗しちゃおっかな。とか1ミリも考えてませんからあああああ!!!ルナ様とセリスの美しさには全く敵いませんからあああああ!!!
「・・・んふっ。んふふふふふっ。そう慌てなくても、理由は分かっているわよ。貴方だって大事な従魔を傷付けたくないわよねぇ。」
そう言って、またニコニコ顔に戻るルナ様。
・・・からかっただけか。なんだ、よかった・・・。
「ただ、そうねぇ。あのレアアイテムの色はよくないわねぇ。進化させてしまってもいいかしら?」
・・・また何かよく分からん事を言っている。
レアアイテムを進化って何だ?変えてくれるって事?
「・・・貴方も憶えがあるのではなくて?あの娘達からドロップしたアイテムは、性能が進化していたでしょう?」
「あ・・・ああ。そうでしたね。やっぱりアレは進化していたって事でよかったんですね。」
「そうね。因みに、進化は従魔のレベルが一定数まで上がった時に起きていたわ。」
あっさりとルナ様は答えを教えてくれる。
これはこれは。わざわざ考察する必要がなくていいね。
「貴方が考えていた通り、レア種が生きている状態で、レア種のドロップアイテムを手に入れているのは貴方が初めてなのよ。私にとっても大変良い発見となりましたわ。 ですから、レアアイテムを進化させる事も可能となりました。」
・・・ん〜?レア種ドロップアイテムの進化の仕組みを理解したから、ルナ様の力で進化を施せるようになったって事か。
何かとんでもない事をやっているような・・・。
「ですから・・・はいっ!」
ルナ様は僕に向かって、ちっちゃいおててを出してくる。
「何ですかその手は?」
「金貨よ!金貨!3枚・・・いえ、5枚は欲しいわね!」
「・・・僕のおかげで進化出来るようになったんですよね?ロハじゃ駄目なんですか?」
「何を言っているのです?無料で進化したレアアイテムが手に入ると思ったら大間違いですわ!」
「・・・じゃあせめて3枚。5枚は取り過ぎですよ。」
「ふ〜ん、いいわよ。ただし色はショッキングピンクのみですわ。」
「なんでぇ!!?群青色集団より怪しい集団でしょ!!」
「怪しくなんてないわよ!ピンクはルナちゃん教のイメージカラーですわよ!!」
「こんな所でこの世界最大の宗教の改名をしないでください!」
「な、なによ・・・。私が神なのよ?私が信仰の対象なのよ? いいもんいいもん!これからはルナちゃん教って名前でいくも〜ん!貴方の義理の父は、今日からルナちゃん教の司祭様よ!文句があるならお金よ!金を出しなさい!早くしないと金貨6枚にしてやるわ!!」
こ、この女神は・・・。
横暴だ・・・だが早くしないと世界の在り方が変わってしまいそうなので、大人しく金貨5枚を手渡す。
これで世界の平和は守られたのだ。そう思う事にしよう。めでたしめでたし。
受け取ったルナ様は、にまーっと笑って金貨を数えている。
慈悲深く微笑む姿より、こんな嫌らしい笑顔の方がよっぽど似合っていますよ。
「リョウよ・・・む?そこのお嬢さんは何方かな?」
「ほほーう!なんとお美しいお嬢様であるか!?」
商会の方との話し合いが終わったのか、ゲバルド氏とディーノ氏がやって来た。
おいおい、またややこしい変態が来たぞ・・・。
つーか、ゲバルド氏はヨハンナさんがすぐそこに居るんですから自重してください。
「やれやれ、またお優しい紳士たちですか。もう間に合っていますわよ。」
まったくだ。
ルナ様がそんな格好で来るのが悪いんですよ。
「ゲバルド=トクレンコ。貴方、聖職者でありながら、私が誰か分からないのですか?やはり、女神教は改名した方がよいですね。」
それだけは駄目です!!何の為に僕はお金を出したんですか!?
ゲバルド氏!!一目見たら分かるでしょ!!?
「む、お・・・ま、まさか!?」
「ひょ・・・その喋り方は、もしや・・・!?」
目を見開き、驚愕の表情をするおやぢ達を、ルナ様は手で制する。
「よいのです。今回は忍びですわ。で、私とリョウが乗る馬車は用意出来たのですか?」
「は・・・ど、どういう事でございますか!?」
あーあ、色々説明を端折りすぎですよルナ様。
そりゃゲバルド氏も困るわ・・・。
僕かおやぢ達に一生懸命説明していると、商会の人間らしき人が近付いて来た。
絵に描いたような、面の皮が張った商人の男だ。
彼はこっちに来るなり、人数が多いとか追加の金を出せとか言っていた。
だがまぁその男は、うちのおやぢ達が武器を取り出してまで怒った事で大人しくなったが・・・。
・・・普通に衛兵を呼ばれたけど。
結局は、セリスの分の席が空いていて、金も直前にキャンセルしたので返ってきていないという事があって、手打ちになった。
そしていよいよ、出発の時。
最後に司祭様夫妻に、「今までありがとうございます。お父さん、お母さん。」と言ってしまった。
ゲバルド氏は、「そんな事はいいから、エカテリーナを頼むぞ。」とクールに言っていたが、ヨハンナさんはギャン泣きだった・・・。
・・・厳密に言えば、3人目の父と母か。
あっちの世界の両親と、リョウを産んでくれた両親には悪いが・・・僕にとっては本当の父と母だよな。
9年間、僕を育ててくれた街が小さくなっていく・・・。
僕とルナ様、従魔達は王都に向かった。




