60話:ウホッ!いい狐・・・
魔族はカティの件とは関係無く、僕と従魔に関係のある事だろうと説明した。
リュドミラちゃんには、こんな忙しい時に余計な事をとストンピングを何発も頂いた。
魔王軍とは何かあっても仕方がないとは思っていた。ルシルを従魔にした時点で覚悟もしている。
だからこのお侍様キックは甘んじて受け入れよう。寧ろご褒美だと言っておこうか!いやっ、誉れかな!?アヒィッ!?ありがとうございますっ!!
おやぢ達2人は、あちら側の出方をうかがうしかないだろうとの意見を頂いた。こちら側から刺激しない限りは何もしてこないだろうと。街の中に入っているという事は、少なくとも表向きは人間に友好な魔族だとさ。
ディーノ氏もだが、相変わらずゲバルド氏ってのは、詳しい事は聞いてこないのな。こっちはどんな魔族かも分かっているっていうのに。
まぁいいか。魔王軍の事を言うと、絶対にややこしくなるし。
取り敢えず、カティの件は了解しておいた。
少し予定より早くなったが、僕は従魔達と共に孤児院を巣立つ事になった。
カティの件が終わる頃には、成人になっているだろう。
それからパイマーンに一旦帰って来るか、そのまま冒険者として生きるかは、その時になってからという事で。
王都への出発は急だが、明後日。
明後日に、王国でも有数の商会が王都へ向かうそうなので、そこの商隊に相乗りさせてもらう予定だ。
だが、相乗り出来るのは僕とセリスとモン娘達だけ。
定員オーバーってやつだ。しかもモン娘達全員は馬車に乗れないので、何匹か馬車と並走する事になる。
僕とこの世界の人間との意識の違いよな。
僕はモン娘達を同じ人間として扱ってるから、この対応に不満が残るが、他の人達からしたらこれは当然の対応となる。
仕方ないか・・・。街の外に出ればこういう事は何度も起こるだろう。我慢してもらうしかない。
さて・・・本来なら明後日の旅立ちを今か今かと待っている筈なんだろうが、旅立つ前にどうしても片付けなければならない問題が起きてしまった。
魔王軍所属の魔族2匹がこの街に来ているという問題だ。
ただの魔族ならルシルだって僕には報告してこないだろう。
魔族ってのは、大体は魔王の領地に住んでいるらしいが、他の国で生活している奴もいるらしい。オシリ王国内でも、人間と一緒に生活している奴もいるらしいし、なんだったら魔族の集落まであるそうだ。
だからおやぢ達の言う通り、魔族の方から何かをして来るまで放っておけばいい。
現に今は夕方である。ルシルが魔族を見付けてから数時間経っているが、魔族が此方に来る気配は無いそうだ。
だがソイツらはただの魔族ではなく、魔王軍所属の魔族だ。
ソイツらの目的は未だに不明だが、僕やルシルが関係しているのは間違い無いだろう。
孤児院の人達やカティを巻き込む訳にはいかない。ここで方をつける必要がある・・・。
・・・で今は領主様の館から戻り、いつもの孤児院の裏庭でセリスとモン娘達を招集して緊急会議である。
もうこの場所でこんな事をするのは最後だろう。
切り株があるだけの庭でしかないが、色々世話になった場所だ。
「全く、最低だわ。・・・そんなに大変な事なの?」
「ルシルが前にいた住処だって。ルシルみたいのがいっぱい居るんだって前に言ったっしょ。」
「聞いたけど分からないわよ。魔王だとか、魔王軍だとか。」
どういう話だよルシルみたいなのが一杯居るって。魔王が気疲れで倒れそうだぞ。
未だにこんな話をしている以上、メイコとピノは相談相手にならなそうだが、それでも聞いておいてもらわなければならない。
相談相手にならないのは僕の背中でだらけきっているイムもだが。
最近は僕の背中に背負う形で脱力するのがトレンドらしい。
重さがまったく感じられないのでどうでもいいんだけど、スライム故なのか、押し付けられているであろう胸の感触もないのが辛いところ。
この3匹は祭りに参加させてやってもいいんだが、僕のパーティーに関わることなので、遊ばせているわけにもいかない。
少々不満気だが、後で埋め合わせるとしよう。
特にメイコが不機嫌だ。
結局、収穫祭の用意を一人でさせられ、肝心の祭りにも参加出来ないとなれば、不機嫌になるのも仕方がない。
此方を見ながら呪詛を唱えているようだが、彼女の精神攻撃は悪霊の屋敷を出てから失われている。
放っておいて大丈夫だろう。うん。多分。うん。
「・・・で、最初から教えてくれ。僕が領主様の館に行く時にルシルが言っていたのが、コレのことか?」
「リョウさん。排泄の事は関係無かったんですよ?」
「黙りなさいセリス!!私は便秘で悩んでなどいません!!」
まだ言ってるよ・・・。
もうそんな話してた事も忘れてたわ。掘り返さんでええっつーの。
「・・・で、ルシル。あの時ははっきりと分からなかったけど、後で魔族が居る事が分かったんだな?」
「はい、そうでございます。流石に同じ天狼ですと、ここまでの距離にならないと分かりかねます。」
ふ〜ん。同じ天狼同士だとそんなもんなのか・・・。
でもルシルはレア種だし、かつて部隊長をやっていた時の部下にあたる奴なんでしょ?だったら強さ的にはルシルの方が上だから・・・。
「えっと・・・じゃあ、相手の天狼がルシルを見付けるよりも先に見付けたって事だよな?」
「・・・どうやらその様でございます。相手側が何も動く様子がなさそうなので。」
納得いっていないようにルシルが首を傾げる。
・・・何か変なのか?
「何か納得いかないか?」
「・・・はい。私と他の天狼では、索敵能力や隠蔽能力に差はなかった筈でございます。何故今回は私の方が先に気付いたのか分かりかねます。」
えぇ・・・能力は同じだったのか。
だったら何で・・・あっ、アレか。
「ルシルの能力がレベルアップしてたろ?多分それの影響だな。」
「なんと・・・!?まさかあのご主人様の偉大な力の影響ですか!?まさか私が、他の天狼を出し抜く日が来るとは夢にも思いませんでした・・・。」
ルシルは感極まった様子で天に祈っている。
・・・誰に祈りを捧げてんの?偉大なご主人様は目の前ですよ?
「こちらが先手を取れたのは大きいですね。ではルシルさん、もう片方の魔族の方はどうなのですか?」
「天狼ならいざ知らず、九尾に私を捉える事など出来る筈ありません。」
セリスの質問に、ルシルは得意気に答える。
こっちはかなりの自信があるようだ。
そもそも天狼と九尾の事はよく知らないので、ルシルが知っている事だけでも聞いておこうと思う。
まず天狼。
ルシルが魔王軍に居た頃に管理していた、特殊部隊の中の1匹。索敵能力と隠蔽能力に優れた魔族で、諜報活動やゲリラ戦法、暗殺を得意とする魔族だそうだ。
魔法はあまり得意ではないそうで、そこがレア種であるルシルとの違いになる。
索敵と隠蔽の能力に差は無かったという事らしいので、天狼達は気配察知Ⅲと気配遮断Ⅲのスキルを持っているのだろう。
が、それもルシルの方が上にいってしまった。もし天狼が敵に回ったとしても、寝首を掻かれる事は無くなっただろう。
そして九尾。
どうやら今回パイマーンに来ている九尾は、魔王軍四天王の九尾ではなく、その部下の九尾らしい。
つーか、ルシルは意外にも初耳の情報を言ったな。魔王軍の上層部は、上位種かレア種である条件があるってな。
てことは、魔王軍の四天王とかルシルみたいな隊長、そして多分だけど魔王も上位種か、もしくはレア種という事になるな・・・。
・・・・・・あれ?僕のクラスって何でしたっけ?
確か、レア種のメスの魔物か魔族を従魔にするクラスでしたよね?
もしかしてまだメスのレア種が魔王軍に?
・・・・・・これ以上魔王軍から人材を寝取ったらヤバいんじゃないか?
き、九尾はどうなんだ?メスか?オスか?
あっちの世界では九尾は美女って設定が多いよな?いやでも、日本はなんでも女人化するしな。歴史上のおっさんとか戦艦とかが美女になる国だし。
こっちの世界ではオスの可能性があるだろう。というか、九尾っていうのは種族の名前なんだから1匹だけじゃなく沢山いるんだよ。だからメスばっかりではなく、オスもいる筈なんだよ。
そりゃ僕もケモミミモフモフののじゃロリだらけのハーレムの中で腹上死したいだけの人生じゃったよ?そう、贅沢は言わん。僕はもうこのモン娘達だけで十分さ。この娘達と、後はのじゃロリとメスガキとバブみ感じる少女が従魔になったら満足しようじゃないか。居る?魔王軍に?そうだ魔族領、行こう。
・・・・・・ふむ、取り乱してしまった。取り敢えずこのことは気にしないでおこう。
後回しでいい。起きもしない事に怯えていても仕方がないのだ。
改めて、九尾はなんと、幻術という固有の魔法が使えるらしい。幻を見せ、敵を欺く戦法を得意とするそうだ。
抜け目なく、狡猾な九尾が使う幻術は非常に強力で、その幻術一つだけで魔王軍での地位を確立するほどなんだとか。
更に大きな特徴として、九尾は人に化ける事が出来るらしい。
正に僕のイメージ通りの能力を持っているな。そして僕の従魔の特権だと思っていた、变化が使えると。
そいつは厄介だな。ただでさえ僕はモン娘形態の従魔を見ても、人間だか魔物だか分からないのに。
例えるなら、迂闊に公園でトイレを求めて全力疾走しようものなら、ベンチに座る青いツナギのいい九尾にやらないかと誘われて、魔族と気付かずホイホイついてイッちゃいそうだ。
「・・・申し訳ありません。ちょっと意味が分かりません。」
「あれ?念話したつもりじゃないんだけどな・・・。 ルシル、取り敢えず九尾は幻術さえ気をつければ他はそうでもないんだな。」
「そうでございます。それに、人に化けると言っても、私達従魔の变化には及ばない能力でございます。九尾のモノにはしっかりと弱点があるのでございます。」
「ほぉ。どんな?」
「あれらは、姿は人間にそっくりに成れても、尻尾が隠せないのでございます。ですから人に化けた後は、腰部を何かしらで隠す必要があります。」
ほぅ、そんな弱t・・・ってそれ弱点か?
尻の辺をブカブカの服かなんかで隠してる訳でしょ?そんな見た目一般人に、おらっ服を脱いで尻をこっちに向けろとでも言うつもりか?
・・・そうか、やはり私がちょっとワルっぽい自動車修理工になるしかないようだな。男は度胸!なんでもためしてみるのさ!俺は魔族だってかまわないで食っちまう人間なんだぜ?
「あの・・・ご主人様は魔族をお食べになるのでございますか?」
「ウソっ!?ダメよハーピーなんて食べてもおいしくないからね!!」
「スライムは、ゼリー、ちがう・・・・・・。」
「アラクネも食べるところ無いわよ。最低ね。」
モン娘達が一斉に慌てだす。
また念話したつもりないのに・・・心配しなくても性的な意味以外で食ったりしないわ。
クッコロオークだってまだ抵抗あるからな僕は。
・・・で、天狼と九尾はその能力が故に、諜報活動をするときによく組まされるらしい。
仲がいい奴等も居るらしいので、一緒に居る事自体は別に不思議でもないんだとか。
「まぁ、天狼と九尾の事はよく分かったよ。次は、ソイツらの目的が何なのかだな・・・。セリスの言う通り、こちら側が先手を取っているのは大きいな。ルシル、天狼にはどのくらいまで近付けそうだ?」
「背後を取るのは簡単でございましょう。ですがそのまま捕獲するのは難しいかと存じます。時属性魔法を使用すれば問題ないかと・・・。」
捕獲を暗殺とは言わんだろ・・・全然意味違うやん。
ちょっとは諜報しろよ。隊長さんは暗殺しか得意じゃないんですかね?
「・・・その必要はありませんわ。私に任せておきなさい。」
僕がルシルにジト目をしていると、突然何処からか声がきこえる。
そして、何も無い空間から突然現れる。我らが女神、ルナ様である。
「・・・どういう意味ですルナ様?」
「そのまんまの意味ですわ。魔族の件は、私が解決してあげると言っているんです。」
急に現れて何を言い出すかと思えば、魔族の件を解決してくれる?
あの女神様がかい?今度は一体何を企んでいるんだ・・・?
「魔族達の目的は何なんです?やっぱりよくない事なんですか?」
「ん〜・・・?そんな事ないんじゃない?案外、仲のいい子達で観光しているだけかもしれないわよ。」
・・・本当に知らないのか、とぼけているのか。
魔族が偶然パイマーンにやって来ているとしても、だったら何故、解決してあげるという言い方をするのか?
やっぱりとぼけているのだろう。
そして、教えてくれる気もないのだろう。
ルナ様に言わせれば、この件は貴方にはまだ関係の無い事・・・なのだろうな。
モヤモヤすんなぁ。このまま終わってしまうのか?
「ルナ様・・・」
「駄目よセリス、貴女の頼みでも聞けないわ。」
セリスが遠慮がちに喋ろうとすると、ルナ様がシャットアウトする。
ますます疑惑は深まった!だが、セリスが無理なら僕はもっと無理だ。
「貴方達は勇者ちゃんの心配をしていればいいのよ・・・それと、私はこんな事言いに来たのではないのよ。今日はもっと大事な用があって来たのですわ。セリス!」
「は、はい!」
「貴女は天界に帰って来なさい。仕事が山積みなのよ。」
・・・・・・・・・・・・。
はっ!?
な・・・なんだって!!?
セリスが・・・セリスが、天界に・・・・・・帰、る??
えっと・・・セリスは僕のパーティーメンバーで。
今までずっと一緒に戦ってきて・・・これからもずっと冒険するはずじゃ・・・?
・・・い、いや。その前にセリスはルナ様の大事な部下で・・・僕と一緒に居たのは、僕のレアクラスを調べる為で・・・で、それも大体判明しちゃったから・・・いつか、別れる日が、来る・・・んだったんだ・・・。
「一足先にリョウも成人になるようなものでしょ?だからいい機会ですわ。分かったかしら、セリス?」
「あの、イヤです。帰りたくありません。」
「そう。なら天界に帰ったら、まず・・・・・・・・・は?」
セリスのありえない言葉に、ルナ様が驚愕の表情で固まる。
僕も、セリスが一瞬何を言っているのか分からなかった。
それはモン娘達も同じのようだ。それくらいセリスを知っている者にとってはありえない言葉をセリスは言った。
「・・・・・・あ、あれ?・・・私、今、何と言って・・・。 すみません。すぐ・・・天界に、帰ります・・・。」
そう言ったセリスはノロノロと立ち上がり、肩を落として孤児院に入って行く。
えっと・・・天界に帰るんだよね?孤児院の中から帰るのか?
だが誰もセリスの行動に突っ込む者はいない。
セリスの放った言葉はそれぐらいの衝撃だった。
セリスの背中が見えなくなり、最初に動いたのはルナ様だった。
ルナ様は突然僕の胸倉を掴むと、食ってかかってきた。
「リョウ!!貴方、セリスに何をしたの!!!?」
「お、落ち着いて下さいルナ様!!何の事だか分かりません!!」
僕の肩にもたれていたイムは転げ落ち、ルシルはルナ様に飛び掛かろうとするので、手で制した。
別にルナ様も本気で怒っている訳ではない。
だがセリスの事は言いがかりだ。僕だって何故あんな事を言ったのか見当がつかない。
「セリスが、私に!あんな事を言う筈がありませんわ!!!」
「ワイトも・・・僕もそう思います!絶対おかしいですって!」
「当たり前ですわ!!天使が女神に逆らうなど、ありえません!!」
だからって僕が何かしたって事にはならんだろう。
「落ち着いて下さい、女神様!セリスだって、ご主人様や私達と長く苦楽を共にしてきたのです!急に別れろと言われて混乱しているのではございませんか!?」
「・・・確かに下界での生活は、セリスにとって刺激的でしょう。ですが、私もセリスとは長く居るのですよ?貴方達とは比べものにならない程ね。 ・・・それに天使はそういう風にできていませんわ。何かがおかしいのよ。何かが・・・。」
ルシルの言葉に少し落ち着きを取り戻したルナ様が、ブツブツと呟き、考え込む。
どうやら天使は女神様に逆らえるようにできてないらしい。
セリスは割と自由な発言をしていたと思うんだが、あの程度では逆らうのうちに入らないのだろう。
「・・・・・・リョウ、貴方本当に何もした憶えは無いのね?」
「ある訳無いですよ・・・そりゃ、いつ見てももっこりな天使だなぁとか、ちょっとボディータッチを積極的に行ってみようとか、いつも考えてましたけど。」
「貴方ねぇ・・・いえ、そんな事ではないのです。もっと他の・・・例えば、セリスにおかしな行動はなかったですか?」
「おかしな行動?最近ですか?」
「いいえ、セリスが貴方と一緒に居るようになってからよ。」
この4〜5年の間でか。
う〜ん、そうだなぁ・・・。
「・・・やたらジャンクフードを食べたがります。」
「それは・・・ごめんなさい。私の教育不足ですわ。」
うわ。ルナ様の謝罪なんて初めて見たんじゃないか?
セリス、恐ろしい子!
「食べもの、だけじゃない・・・・・・変なモノも、いっぱい買う・・・・・・セリスの部屋、モノだらけ。」
「そうね、スライムさん。それは変ですわ。後で叱っておきます。」
「あの鎌ってホントに使っちゃダメって言ってるの?結構ポンポン使ってるよ?この前も、お気に入りのブーメランが無くなった〜って、そこらじゅうの草とか木をあの鎌で刈ってたわ。」
「・・・そうね、ハーピーさん。それも変です。後で更に叱っておきます。」
「先日、ついに胸当てがキツ過ぎて着られなくなったと、私に泣き付いてきたわよ。私の糸で応急処置したのだけど、良かったのよね?」
「・・・・・・・・・・・・。」
・・・みんなセリスが嫌いなのか?
おかしな行動ではなくて、告げ口大会になってるぞ。
「オホンっ・・・全部おかしな行動なのかもしれませんが、そういう事ではないのです。もっとこう・・・そうですね。リョウ、貴方はセリスから、信頼や友情以外の行動をされた事はありませんか?」
一つ咳払いをして、場の空気を変えたルナ様はそんな事を言う。
・・・信頼や友情以外?
えーっと、それって・・・愛情って事?
「・・・自分が自意識過剰でなければ、憶えは・・・ありますね。」
そう。偶にではあるが、セリスはそういう行動をしていた。
女神様の命を受け、仕方なく僕とパーティーを組んでいたとは思えない行動を見せている。
天然で距離感が分かっていないのだろうとか、気のせいだろうとか思うようにしていた。
だが、ルナ様がこうして言ってくるという事は・・・気のせいなどではなかったという事か。
と・・・なると、その原因はやはり・・・。
「・・・はぁ〜、やはりそうですか。まさか天使まで誑し込むとは・・・。貴方のクラスはどうなっているのですか?」
そげなこと言われても・・・。
女神様が分からねえなら、僕も分からねえです。
「でも、セリスって天使ですよね?魔族でもなければ、魔物でもないですよね?」
「ん〜・・・その辺はどう説明したらいいのかしら・・・。」
ルナ様は眉間にシワを寄せ、ブツブツと独り言を言い出した。
「魔物ではないわよね・・・でも魔族かといえば違うし・・・かと言って亜人でもなし・・・天使は天使なのよ。そんなクラスに引っ掛かると思って作ってないわよ。 ・・・だからシャイーナはリョウに?・・・でもそれだと他の幽霊はどう説明するのよ・・・・・・」
誰だよシャイーナって。
そろそろ説明してくれるならしてくれませんかね?
ルナ様は急にハッと我に返ると、慌てて喋り出す。
「と、とにかく!セリスは連れて帰るわ!これは決定事項よ。潔く諦めなさい。」
・・・どうやら、もうどうしょうもないらしい。
セリスと別れる事になった。
「それと、魔族の件も余計な事はしない事!具体的に言うと、そこのメイドさんを天狼に接触させない事!いいわね!」
「何っ!?女神様!この私が部下だった者に不覚を取ると言うのでございますか!?」
「あら?や〜ねぇ〜、そんな事言ってないじゃない。私は貴女の強さをよ〜く知っているつもりよ? でもね、貴方達。魔王軍であろう魔族に接触してどうするつもりかしら?暗殺?話し合い?どれもいい案とは思えないわね。そこなメイドさん、貴女の元部下は、命惜しさにベラベラ喋るような者なのかしら?」
「・・・そうでございますね。多分何も喋らないでしょう。」
・・・そうなのか。
確かにルシルを見ていると、天狼ってプライド高そうだし、捕まえて問い詰めても何も喋べらないのかも。
じゃあ九尾は?・・・多分そっちも難しいんだろうな。
ルシルは知っていて僕のためにやってくれるつもりだったのか?
ていうか狼の姿でどうやって威圧的な尋問とかするんだろう?
例えば・・・ルシルが背後から天狼を取り押さえるでしょ・・・
(・・・捕まえましたよ。まさかこんなに簡単に背後を許すとは。鍛錬が足りませんね。)
(あ、あんたは!?元隊長が何故ここに!?)
(さあ!ここに来た目的を喋ってもらいましょうか?)
(くっ・・・誰が喋るか!殺せっ!!)
(ふっふっふ。貴方の顔を押さえているこの肉球が分からないのですか?ほぉら、プニプニしているでしょう?)
(な、なんだと!肉球なら私の方がプニプニだ!!)
(ならこの肉球の匂いを嗅ぎなさい!香ばしいでしょう!さあご主人様の為に吐きなさい!!)
(うっ!クサッッ!!?だ、誰が吐くか!ぐ、グアアアアア・・・・・・)
・・・てな感じの、肉球で肉球を洗う壮絶な肉球劇が・・・。
「・・・な訳ないでしょう。なんですかその教育番組で流れてそうなハートフルな拷問シーンは。」
女神様、勝手に僕の妄想にケチつけないでくだせえ。
教育番組で拷問シーンなんて流さないでしょ。なんの教育よ?
「とにかくね、魔族に関しては、私にいい考えがあるのよ!」
・・・女神様、それ失敗する時のやつですからね?まぁ実際は成功率高いらしいですが。
「気配遮断Ⅳがどこまで通用するかなんて賭けに出る必要ないわ。もっとノーリスクで・・・良い事づくめの作戦が私にはあるのですわ・・・!」
サイバトロン総司令官の顔から、新世界の神みたいな顔になったルナ様。
好きねぇその顔。悪い事考える人はみんなこんな顔になるのかしら?
「だからそうねぇ・・・メイドさんは、变化で人間に化けていれば大丈夫でしょう。もし天狼に探知されても、他の人間と同じに見えますからね。リョウがここを出発するまでその姿を維持していなさい。分かったわね?」
言いたい事だけ言って、ルナ様は消えていく。
あとに残されたのは、僕と従魔達だけ・・・。
・・・多分セリスももう帰ったかな。
ある日突然、苦楽を共にした頼れる仲間が居なくなった。
カティを助ける為に王都に行くが・・・セリス抜きで行く事になってしまった・・・。
「リョウ・・・・・・おっぱいなら、イムのを見る。」
「そうでございますご主人様!私も腰回りには自信があるのです!セリスのようにへそが出ているメイド服を探してまいります!!」
「太ももならわたしに任せてよ。なんなら、セリスみたいなスリットの入ったの着ようか?」
「・・・ふん。私は体が貧相だから、鎖骨周りなら見てもいいわ。」
お、おまえら・・・
セリスの印象はそんなのしかないのか!!?
そんな歩く破廉恥天使みたいに・・・もっとあるだろう回復魔法とか光魔法とか・・・。
「・・・まぁ、もういいよ。セリスは元々そういう立場の奴だったからな。それよりルシルは人間形態になっていてくれ。」
「女神様のお考えに賛同なさるのですね?」
「あぁ。ルナ様なら悪いようにはしないだろう。」
どのみち僕に拒否権は無さそうだけどな。
まぁ、面倒な事にはならないだろう。ルナ様に逆らう事の方がもっと面倒そうだ。
「あとは・・・・・・魔族の、目的。」
「目的なんて言ったってさぁ。やっぱりルシルを連れ戻しに来たしかねーんじゃね?」
「偶々の可能性もまだあるわ。魔族は人間と同じ様に暮らしているのよね?」
今まで聞き専だったイム、ピノ、メイコが会話に参加してくる。
・・・セリスが居なくなった事で、その気になってくれたみたいだ。
「・・・ルシル、天狼と九尾はこの街のどの辺に居たのか分かるか?」
「はい。天狼は街の外を動いております。狼の姿では街の中に入れてもらえないでしょうし、パイマーンの街には強者も少なからずおりますから、流石の天狼でも見付かる危険性がございます。 九尾は途中で居場所が分からなくなりましたので、おそらく街の中でごさいましょう。人間の中に紛れるのは造作もない事だと思いますので。」
人間と交流があったりするような魔族ってのは、勿論、人に近い容姿の魔族だけだ。したがって大きな狼である天狼は、いくら直接脳内で会話出来ても、人間の街の中までは入れてもらえない。
ルシルも従魔になる前は、最後以外は決して街の中までは入って来なかった。ということは、ルシルでも危険だと感じていたのだろう。
一応やりようはありそうだけどな。
例えば、人間に化けた九尾の従魔として街の中に入るとか。僕みたいにね。
でもそれをしていない。九尾が街の中、天狼が街の外で待機しているという事は、仲良しコンビが観光に〜・・・なんて線は消える。
やっぱりルナ様は適当ぶっこいていたようだ。
「ルシル・・・・・・ルシルが、従魔なったとき、リョウに危険、ある言ってた。・・・・・・何?」
「あ、あれですか。あれは・・・魔王軍は積極的に人間と関わろうとはしませんし、人間を嫌っている者もおります。ですから、魔王軍を内情をご主人様が知ってしまえば、魔王様ないし魔王軍のどなたかに目を付けられるのではないかと、危惧していたのでございますが・・・。」
できれば掘り起こされたくないであろう事を、イムに掘り起こされたルシルは、タジタジになる。
イムよ。あの時のは、僕への心配半分と、苦し紛れの言い訳半分で言った言葉だと思うぞ。
今となっては忘れてやるのが優しさってもんだ。
・・・・・・ふむ。
だがそうか。イムはこう言いたいんだな。
僕に危険はねぇのかと。
今回の魔族の件、標的はルシルではなく、僕ではないのかと・・・?
「ルシル、僕の事は魔王に話してないんだったな?」
「はい・・・魔王様はおろか、魔王軍の誰にも話しておりません。・・・・・・で、ですが、その・・・。」
うわっ、なんか話してない事あるよ。
いやですわぁ、今になって話すなんて。
「ですが何だ?」
「は、はい・・・。魔王城からパイマーンに移動する際に、天狼に後をつけられておりました。誰かの指示だったのだと思われます。・・・振り切る事は可能でしたが、後ろめたい事があると思われれば、ご主人様に危険が・・・ごめんなさいぃぃぃ~~~!!」
ルシルは泣いて謝りながら、その場でルシル式の土下座をする。
久しぶりに見たなそれ。当然のようにこっちに足を向けながら、スカートの中を見せようとしてくるが。
ホントに謝る気ないよね?あとパンツ履け。
「・・・別にその判断は間違ってないと思うぞ、ルシル。そこで天狼から逃げていたら、もっと悪い事になっていたと思う。」
「本当でございますか!?ありがとうございます!!」
今にして思えば、魔王軍もそれぐらいの事はしてくるよな。
なーんであの時には疑問に思わなかったのか・・・。
「でもそれって、この街に入る前までよね?じゃ〜、リョ〜君が主人ってのはバレてないんじゃない?」
「なら今回でその主人を探りに来たのね。」
「ルシル、きたの、けっこう前・・・・・・いまさら来ても、移動の可能性、ある。」
そう、それなのよイムちゃん。
その今更来たってのがまた分からんのよ。
ルシルが従魔になって約4年間。
僕の事を探るにしても、ルシルの事を探るにしても、その間はなんなんだ?ってなるのだ。
ルシルの主人がもし冒険者ならば、4年も同じ場所に留まるだろうか?
・・・・・・うん。いや、結構いるわ。
僕の知っている冒険者でこの街を出ていったのって、フィリップさんくらいか・・・。
・・・その後も、モン娘達と議論を重ねたが、特にコレだ!と思うものは出てこなかった。
僕達はモヤモヤした状態のまま、魔族の件をルナ様に解決してもらう事になりそうだ。
マントパンツァー学園長とカティの件。セリスの離脱。そして魔王軍の魔族・・・。
嫌なことは続けて起きるもんだな。
だがコレらを、全て乗り越える必要がある。
・・・のんびり平和な冒険生活は、一旦中止だな。




