59話:マンパンはいいぞ
稔りの秋。作物の収穫時期となった。
ここ、パイマーンの街では毎年この時期に、収穫祭なるものが行われる。作物の無事に収穫出来た事を祝い、女神様に感謝する祭りなんだそうだ。
みんな祭りが好きだよなぁ。
まぁ娯楽の少ない世界だから、何かイベントがあったら楽しまないとね。
当然、孤児院でもお祭り騒ぎをしている。みんなルナ様に感謝し倒している真っ最中だ。
中には、出店を出して商売してる子も居るらしい。すげぇな、僕は真似できんよ。
僕はね、祭りといえばこっちのイメージ。てなわけで、祭りといえば飲めや食えやのどんちゃん騒ぎですよね。
この日ばかりは冒険も休んで、ハメを外そうじゃないかと。
そのための準備をせっせとしましょう。
今、孤児院の倉庫の中で宴会の準備中です。
イムとメイコが手伝ってくれているが、ピノには逃げられた。あいつの為にハチミツ酒も用意してあるというのに。残念でござる。
「リョウ・・・・・・運んだ。」
「イム、その酒樽も頼む。」
「・・・・・・ん。」
面倒くさそうにイムが酒樽を引き摺って運んでいる。
なんちゅう運び方だ。絶対持った方が楽だろ。
それと、何で子供ばかりのこの場所に酒樽があるんだ?でもヨハンナさんが持って来てくれって言ってたしなぁ・・・。まぁ誰かが飲むんだろう。
「・・・お皿全然足らないわよ。」
「えぇ?メイコが割ったんじゃないのか?」
「・・・皿屋敷の亡霊じゃないわよ。最低ね。」
・・・なんでそんな事知ってんだよ。この世界にそんな伝承ないだろ。
「1枚じゃなくて、全然足らないって言っているのよ。」
「じゃあ食堂に置いてあるかな。メイコは他の物頼むわ。」
「・・・ふん。」
今の“ふん”は、分かりました。の“ふん”だ。
・・・素直になれないキャラってのはつらいね。
でもまぁ、昔よりは刺々しさは無くなっている気がするよ。僕以外の男には相変わらず冷たいけどね。
エリオやフィリップさんと喋っているとこなんて見た事ないや。あんなに一緒に冒険したのになぁ。僕なんかより、よっぽど無害な奴等じゃん。男を見る目無いね。
それとも僕みたいな危険な香りのする男がいいのかなメイコちゃんは?フッフッフッ、刺激が欲しいんだね。イケない小蜘蛛ちゃんだなぁ・・・。
さて、顔面にツバでも吐かれる前に退散しとこうかね。
メイコを倉庫に置いて庭に出ると、ルシルが何かを探してキョロキョロしていた。
フー。今度はイケない子犬ちゃんの登場だ。モテる男は罪だね。
「ルシル、どうした?この私を探してるのかな?」
「あっ、ご主人様。ピノを知りませんか?」
ここはお世話でも僕を探していると言って欲しかったね。
「ピノは僕の手伝いをブッチして、どっかに逃げたぞ。」
「ピノ・・・名誉あるご主人様の従魔に選ばれておいて、軽々しい行動をするなとあれほど言っているのに・・・。 いえ、ご主人様も探していたのです!聞いて下さい!」
・・・そんな事言ってんのか?
やれやれ、この子犬ちゃんも別のベクトルで困った娘だ。
「ルシル、そんな堅苦しいのは無しといつも言ってるだろ。で、何だ用事は?」
「しかし・・・。」
しかしも案山子もあるかよ。
一時期マシな時期もあったんだけどねぇ・・・メイドとして修業する内にまたヒドくなってきたな・・・。
聞き分けのないルシルに苦悩していると、今度はシスター服のセリスまで現れた。
「リョウさん!・・・とルシルさん? あの・・・立て込んでいましたか?」
ルシルが一瞬で不機嫌になる。
・・・はぁ。ホント、困った子犬ちゃん。
「・・・いや、そんな事ないよ。何か用かセリス?」
「はい。アルベルティーニさんがお呼びのようです。大至急、館まで来てほしいと。」
ディーノ氏が?
また小説の催促・・・じゃねぇな。そんな個人的な用事なら孤児院までやって来る人だ、あの変態は。
「何の用か言ってたか?」
「いいえ。ですが、使いの方が馬車で迎えに来られています。」
は?・・・嘘だろ?
知らない中ではないとはいえ、街一番の権力者が、一人の親無し子にそこまでして何の用事だ?
・・・セリスは大至急と言ったな。
徒事ではないな。だが、何かはまったく見当つかない。
「・・・領主様が僕なんかに一体何のようかね。」
「さぁ、そこまでは・・・。」
こういう時はセリス含め、誰も頼りにならんな。
「ルシル、用は何だ?大した用じゃないなら、後にしてもらっていいか?」
「はい・・・そうですね。はっきりとしてから報告致します。」
・・・う〜ん。なんかはっきりしないな。
ルシルは難しい顔をしている。例えるなら・・・そう、便秘に悩む女子のような・・・。
そんな女性の繊細な部分に触れられる訳無いやん・・・。今のご時世、すぐセクハラで訴えられるよ。
「・・・お通じの悩みならヨハンナさんに相談してくれ。僕じゃあ相談に乗れない。」
「違います!!!何故私が便秘に悩んでいる事になるのですか!?セリス、貴女も何か言って下さい!!」
「え・・・?天使は排泄しませんよ?やはりリョウさんの言う通り、シスターヨハンナに相談した方がいいのでは?」
「そんな事を言っているのではないのです!!知りませんよ天使の排泄の事情など!!!?」
・・・ちょっとさぁ、女の子が便秘とか排泄とか連呼するなよ。何で男の僕だけが濁して言ってんだよ。
いつものようにどうでもいい事でケンカし始めたセリスとルシルを放っておいて、孤児院の入口の方に向かった。
ん?今回のケンカは僕のせいか?まぁまぁ。どうせアイツらは何もしなくてもケンカするから。
孤児院の前には、馬車が停まっていた。
そして馬車の隣には燕尾服を着たジェントルマンが姿勢良く立っている。僕を見付けて、恭しく頭を下げてきた。
・・・マジだったのか。
ホントに何の用なんだろう・・・。面倒事の匂いしかしないな。
一応ジェントルマン執事に呼び出しの理由を聞いてみたが、何も教えてはくれなかった。
仕方ないかと、諦めて馬車に乗り込むと、魔物形態で体を小さくしたイムがこっそり現れた。
イムは何も言わず僕の服の中に入る。ジェントルマン執事にはバレていないようだ。
・・・よし。こういう時こそ念話が役に立つのよ。
僕は左耳に2本指を当て、イムに念話を試みる。
当然耳に指を当てる必要など無いのだが、こういうのは雰囲気が大事なのよ!フフフ、これでわしもビッグ・ボスや!!
『どうした、イム?』
『ルシルに、言われた。・・・・・・ついていく。』
はぁ〜ん。こんなところにまで気が利くとは、メイドの鑑やね。
別に街の外に出る訳でもなし、護衛がいる程の事ではないんだけどな。
そうこうと考えているうちに、ジェントルマン執事が馬車を出発させた。
何気に馬車は初めての経験である。あっちの世界じゃ車があるしなぁ、馬車なんて滅多な事では乗らないだろう。
・・・・・・意外に揺れない。
もっと速攻で酔うくらい揺れるのかと思ってたよ。
サスペンションでもついているのか、魔法のおかげなのか。
『イム、ルシルは他に何か言っていたか?』
『・・・・・・・・・・・・。』
『・・・えーっと、領主様は一体何の用だと思う?』
『・・・・・・・・・・・・。』
無視かよ。
完全に電源オフにしたぞ?
護衛じゃねーのかよ。サボりたかっただけじゃねぇか。
◆◆◆
従魔(従うとは言ってない)と一緒に優雅な馬車の旅・・・は10分程度で終わりを告げ、領主様の館に到着する。
結局何も説明される事は無く、慌ただしく案内されながら館の中を進んで行く。
廊下で使用人とすれ違う度に頭を下げられるが、どうもそれがむず痒い。
あっちからしたら僕は客な訳だから当然なんだろうがな。でも僕はこんなところを堂々と歩けるような身分の人間じゃないんだけど・・・。
そんな事より、ここの使用人は中年しか居ないのか!?若いメイドが全然居ないやん!!
まったく・・・小さい娘じゃなかったらなんでもいいのかよ!
僕が犬耳メイドを用意してるからいいようなものの。ファンタジーとして恥ずかしくないのかよ!(暴言)
ディーノ氏に一言物申す決心をしたところで、前を歩いていた執事が部屋の扉を開ける。
一応、失礼しますと言って入室した。中は、社長室のような場所だった。ここで執務をやっているのだろう。
奥のデスクには、疲れ切った顔のディーノ氏が座っている。
「おお!リョウよ、急に呼び出してすまなかったであるな。」
「いえ、気にしないで下さい・・・。」
部屋の真ん中には応接用のソファーと、テーブル・・・だった物が叩き割られている。
その叩き割った張本人であろうゲバルド氏は、ソファーにふんぞり返って座っている。
なんでこんな偉そうなんだ?・・・いや、違うか。こりゃ相当ご立腹のようだな。
そして、ゲバルド氏の向かいに座り、優雅に茶を飲んでいる女の子は・・・
「・・・あれ?リュドミラty・・・リュドミラ様。お帰りになられていたのですか?」
「リョウさん、お久しぶりですの。」
何故かリュドミラちゃんがそこに居た。
どうしてリュドミラちゃんがパイマーンに?
カティだって卒業はまだだから、リュドミラちゃんも王都の学園に居る筈だが?
「・・・残念ながらカティナお姉様は帰って来ていませんの、リョウさん。」
何を勘違いしたのか、苦笑いしたリュドミラちゃんがカティは居ないと告げてくる。
そんな事よりリュドミラちゃんが他人行儀なのが気になるよ!いつものようにエロオークと罵ってくだせぇ!
・・・まぁ、リュドミラちゃんは人の前ではいつもこうだけどね。所謂、猫をかぶるってやつ。そこがまた可愛いところさ。
「それは残念ですが・・・。リュドミラ様は帰って来ても大丈夫なんですか?」
「本当はあまりよろしくありませんの。神託の日以外で学園を抜け出すのは、手続きが面倒なのですの。・・・でも今回は非常事態ですから、仕方がなく帰って来たんですの。」
非常・・・事態?
ていうか、学園ってそんなに自由が無いんだな。
何でそんな厳重なんだろう?あっちの世界では全寮制の学校だとそんな感じなんだろうか。
そんな事を考えているうちに執事やメイドが入室して来て、新しいテーブルを設置していった。
僕のお茶まで用意してくれているようだ。さっさとゲバルド氏の横に腰掛ける。
「それで、僕は何で呼ばれたんでしょうか?」
「リョウよ・・・・・・。」
僕はディーノ氏に話しかけたつもりだったが、僕の名前を呼んだのは、隣のゲバルド氏だった。
だがゲバルド氏は名前を呼んだだけで、一層黙りこくってしまった。
いや・・・何よもう。
「・・・リョウさん、リュドミラから説明致しますの。 リョウさんには・・・カティナお姉様を助けて欲しいんですの。」
・・・・・・なんだって?
分不相応な場所に連れて来られたと思ったら、今度は幼馴染みを助けてくれ?
別にカティを助ける事が嫌なわけじゃない。寧ろ喜んで助けてあげたいとは思うが、ここにいる人物達では助けられないのだろうか?
すべては説明を聞けばはっきりするか・・・。
嫌な予感がするな。やっと若いメイドを1人だけ見付けたけどロリだったとかどうでもよくなったな・・・
王都にある学園・・・マントパンツァー学園というらしい。
今更ながら初めて聞いた。何か微妙なネーミングの学校だ。
名前の由来は、かつての勇者オルダタのパーティー名“マントパンツァーズ”から拝借したんだそうな。
パーティー全員がマントを愛用していたそうだ。パンツァーの意味は鎧とか戦車とかって意味だから、“マントの鎧”って意味なのかな。そう考えると割とかっこいい気もするが、よく分からんといえば分からんというか・・・。
知ってのとおり学園には、カティとリュドミラちゃんは勿論、リュドミラちゃんの弟ジュスタン。マルタも特待生として途中から通っている。
世界中から身分の高い人達の子孫やら、レアクラスやらの将来有望な子供を集めて、オシリ王国のみならず、マルスルナ全体の発展を目的とした・・・とか、どうたらこうたら・・・
・・・こんな説明はどうでもいいから、カティの事を聞きたいんだかね。勿論、そんな事思っても口に出せるわけはないから大人しく待ちますが。
んで、そのマントパンツァー学園に通うカティとマルタは、今年学園を卒業する予定である。
卒業式の日は、あっちの世界と大体一緒で3月だ。
成人になる直前に学園を卒業する事になるわけだな。
しかし、ここである問題に直面したのだ。
・・・・・・おい、待てよ。
もしかして、カティの単位が足らないから卒業出来ないとかじゃないよな?
奴は馬鹿だ。いくら回復魔法を覚えたとしても僕は認めないぜ。奴は馬鹿だ。
多分、筆記テストは赤点だらけだっただろう。
だが、だ。
だが奴は腐っても勇者。実技テストは満点を天元突破して、100点満点中500点くらい取っていても不思議ではない。
だって学園で1番強いんでしょ?世界で4番目に強いんだぜ?
僕が教師なら卒業させてるね。つーか、ここはお前の居る所じゃねーよって言ってるよ。120イェンと鍵と松明もたせて、ひかりのたま取り返して来いって言ってるね。
しかしリュドミラちゃんは、
「タンイとはなんですの?黙って最後まで話を聞くですの。」
と言って説明を続ける。
この世界、単位無いのか・・・なんて素敵な世界。
だったら何なんだろう・・・?
どうもマントパンツァー学園を卒業する為には、勲章を授与される必要があるらしい。
その勲章ってのは、国から授与されるとかそういうお堅い物ではなく、学園を卒業するに相応しい人間だと証明すれば、学園長から頂ける物らしい。
証明の仕方は様々。魔法の研究結果のレポートを提出してもいいし、自分で魔導具を作って提出してもいい。強い魔物を倒して素材を持って帰るなんてのもいいし、ダンジョンを何階まで制覇したとかそんなんでもいい。
ようは卒業論文だとか卒業制作をやれという事だ。
マントパンツァー学園を卒業したいのであれば、今までの学習の成果の証をみせてみろと・・・単位が無い代わりに、課題がある訳だな。
・・・・・・いやいや。
一緒ですよ。僕からしたら、単位でも卒業課題でも一緒の事ですよ。
つまりあの馬鹿の卒業課題を手伝えと?
冗談じゃねぇよ・・・生徒でもない僕が、態々王都まで出向いて馬鹿の宿題の面倒見ろってか?
大体、学園に手伝ってくれる奴はいっぱい居るだろう?マルタやリュドミラちゃん、ホムトって子とかパーティーを組んでいた亜人の人達。
いくらカティが馬鹿でも、助けてくれる友達くらい居るだろう?愛すべき馬鹿だからな。
確かに喜んで助けてやるとは思ったが・・・生命がかかってるとかじゃないんだしさ。
なんだったら学園なんて卒業しなきゃいいじゃん。
学園卒じゃないと仕事が無いって世界じゃないだろう。学園に行ってない人間の方が圧倒的に多いんだから。
しかしリュドミラちゃんは、
「だから黙って最後まで聞くですの!このアホオーク!!!」
と言って新しいテーブルを叩き割る。
・・・あ、あらあら?とんでもない馬鹿力だこと・・・。
慌ててお淑やかに振る舞おうとしているが、目の前で無惨な姿のテーブルがあっては意味ないだろう。
そういえばリュドミラちゃんは、レアクラスを授かったらしい。
ディーノ氏の血をしっかりと受け継いだようで何よりだが、授かったレアクラスは、聖騎士ではなく“サムライ”というレアクラスだ。
何でリュドミラちゃんがサムライなのか・・・。フィリップさんに授けてやってくれよ。あの人“遊び人”なんだぞ?
リュドミラちゃんなんて全然サムライじゃないよ。言葉遣い汚いし。使ってる武器だって、後ろの壁に立て掛けてあるモ○ハンみたいなハンマーだよ?
お侍様の戦い方じゃない・・・。
使用人の方達がせっせと片付けて、新たなテーブルが運び込まれる。
・・・金持ちの家ってのはテーブルもいっぱいあるんだな。
ディーノ氏は、次からテーブルは鋼鉄製にするである………と嘆いているが。
話をカティの話に戻そう。
本来、卒業課題は個人の自由で決める事が出来る。自分の得意な分野で証明すれば、ほぼ100%卒業出来るシステムなのだ。
だが、カティには学園長から特別な課題を指定されたらしい。
通常ではありえない事だ。
しかし、カティは通常ではない。200年ぶりに現れた伝説のクラス“勇者”。弱冠13歳で世界4位の成績を収めた。
通常の人間である筈は無い。マントパンツァーの学園長が特別に課題を用意してしまうのも無理ないだろう。
・・・無理はないのだろうが、用意した課題はとんでもないものであったのだ。
ここに居る人達が、その学園長に憤りを隠せない程には。
その課題とは、“オシリ王国最古の大規模ダンジョンにて、ダンジョンコアを手に入れる”こと、だ。
・・・因みに、ダンジョンコアはダミーでもいいらしい。
というかダミーの方がありがたいらしい。
確かにダンジョンが無くなれば平和には繋がるかもしれないが、その王国最古のダンジョンは資源的にも観光的にも残しておいた方が、国としては嬉しいとのことだ。
まぁどっちにしろ、現れて数年の若いダンジョンならいざ知らず、何百年と存在するダンジョンが簡単に攻略される事はないだろう。
・・・ダンジョンコアかぁ。
悪霊の屋敷を制覇した僕から言わせてもらうと・・・出来ない事でもないような気がする。
僕の場合は、僕以外の仲間が優秀だったので上手くいった。だからカティも、一緒に付いてきてくれる仲間次第ではないだろうか。
学園内にもダンジョンで活躍しそうな優秀な人も居るだろうし、なんだったら冒険者ギルドに頼ったらいいのではないだろうか?
実績も実力もあるSランク冒険者に依頼したらいい。そうする方が、僕なんかを招集するよりよっぽど安泰だ。グラサンノースリーブ以外の奴なら安心して任せられる。
しかしリュドミラちゃんからは、ため息が漏れる。
・・・まだ続きがあるようだ。
この学園長の特別課題・・・なんと、王国内の有力者から、かなりの支持を得ているらしい。
しかもその中には、オシリ王国の国王まで居るんだとか。
つまりは国王公認の勇者への試練ってわけだ。確かにありそうな話ではあるが・・・。
話がデカくなり過ぎてるな。
良く言えば、それだけ国から期待されていると言える。
・・・悪く言えば、王国の有力者は調子に乗り過ぎだ。勇者といっても、まだ成人にもなってない少女だぞ?。
そして更にエスカレートすることになってしまった。
どういう経緯でそうなったのか知らないが、課題に条件を追加しやがったのだ。
その条件が・・・“学園関係者、冒険者ギルド関係者とパーティーを組む事を禁止する”だ・・・・・・
「・・・ちょっと待ってよ。何だその無茶苦茶な条件は!?」
誰も何も言わない。3人共難しい顔をして黙っている。
・・・くそっ。
そうだよな。ここの3人は散々悩んだ後だ。
どうにも出来ねぇんだ。国王まで支持してるとなったら、ディーノ氏でもゲバルド氏でも。
「カティ自身はこの件についてどう言っているんですか?」
「・・・エカテリーナは、期待に答えるつもりのようだ。だから私は、エカテリーナに無理だけはするなと忠告し、金を渡した。いざとなれば冒険者ギルドを頼るようにとな。・・・それが、今年の春の事だ。パーティーを組む事を禁止されていたと聞いたのは、私もさっき聞いたのだ。」
僕の問いにゲバルド氏が答える。
そして今度は、頭を抱えて唸るように自分を責めだした。
「・・・私が悪いのだ。エカテリーナを、応援するような事を言ったばかりに。・・・勇者を授かり、私も鼻が高いなどと・・・。」
「司祭様のせいじゃありませんよ。」
ゲバルド氏は何も知らなかったのだ。
だからゲバルド氏のせいじゃない。あまり自分を責めるな。
「学園を卒業しないって選択肢は無いんですよね?」
「ここまで話が大きくなっては、もうどうにもなりませんの。何より、カティナお姉様がやる気満々ですもの。リュドミラが何を言っても聞いてくれなかったんですもの。」
あぁ・・・そうだろうなぁ。
なんとなく目に浮かぶ。
いつも側にいるだろうリュドミラちゃんが止めれなかったんだもんな。他の奴が言っても駄目だろう。
「でも変じゃないですか?何でパーティーを組む事を禁止されるんです?昔の勇者もパーティーぐらいは組んでいたでしょう?」
「う〜む、勇者オルダタの逸話というのは色々あるのである。そこに影響されたのかもしれぬな。」
またオルダタか・・・。
影響があるのはいいけど、カティにとっては迷惑な話だ。
「例えばどんなのがあるんですか領主様?」
「そうであるな・・・やはり1番は、仲間と共に魔王を倒した事が有名であるが、たった一人でダンジョンを制覇したという話も聞いた事があるのである。」
「リュドミラは、5本の首を持つドラゴンと対決した話が好きですの。」
「魔王の領地は陸続きなのに、泳いで魔王の領地に行ったという話もあるのである。」
「リュドミラは、火口に落下しても死ななかったという話も聞いた事ありますの。」
「・・・パーティー全員がパンツ一丁でマントを羽織っていたという話もあるのである。・・・流石にこれはホラ話だと思うのである。」
親子で色々オルダタの話を教えてくれる。
後半にいくにつれ、話が嘘くさくなってるな。流石に最後は嘘だろうと思いたい。
オルダタの伝説は、有る事無い事伝わっていると聞いている。本当の事を知っている人はこの世界でも殆ど居ないだろう。
当事者じゃない以上、何を理由にこんなクソみたいな条件が付けられたのかは分からない。
ただ、ダンジョンをたった一人で攻略なんて無茶だ。
厳密には一人で攻略しなくてもいいのだが、学園と冒険者ギルドの関係者とパーティーを組めないとなると、ロクな人材は居ないだろう。
実質の一人でダンジョンを攻略させようって考えだ。
学園は折角の勇者を殺したいのか?
明らかに嫌がらせで追加したとしか思えん条件だ。
それに、卒業まで後数ヶ月となるまで、実の親ですらその情報を知らなかった事もおかしい。
何故そんな事になった?連絡は・・・・・・あっ!?
「まさか、最近手紙がぱったり来なくなった事って関係あります?」
「・・・そうである。エカテリーナの手紙はおろか、リュドミラやジュスタンの手紙も1年くらい来なかったのである。 吾輩もさっきリュドミラから、何通も手紙をよこしたのに何故返事をしないのかと怒られたばかりである。」
ディーノ氏がチラリとリュドミラちゃんを見ながら答える。
なんだよ・・・それ・・・。
徹底しすぎでないかい?
いや、徹底とかではなく、何故そこまでする必要がある?
確かに、ゲバルド氏やディーノ氏の耳に入れば、反対するだろう。この2人は英雄だとか言われているし、発言力もあると思う。
そして反対するのも当然だ。無茶苦茶な事を言っているのは学園側の方なんだし。
でも手紙まで止めるなんて・・・しかもリュドミラちゃんやジュスタンのまで。
恐らく、マルタが手紙を書いていたとしたら、それも止められているだろう。
そこまでの権力のある奴なのか学園長ってのは?
何が目的だ?
勇者を亡き者にしたいのか?それとも本当に、この試練を乗り越えれば勇者は一層強くなるとか思っているのか?
・・・・・・何にせよ、その学園長は大きな失敗をした。
その失敗とは、学園関係者と冒険者ギルドの関係者とパーティーを組む事を禁止した事だ。
単にパーティーを組む事を禁止しとけば良かったんだ。それだけでカティは馬鹿正直に一人でダンジョンに行っていたんだ・・・死ぬまでな。
カティという人間を読み違えたな。
だが、カティには僕が居る。
学園にも冒険者ギルドにも関係を持っていない、僕とセリスとモン娘達が居るんだよ。
一応だが、若い頃に冒険者だった時期があったが、今は関係を持っていないって意味ではこのおやぢ達2人にも当てはまる。
しかし、さっきも言ったが事が大きくなり過ぎているらしい。
王様を始めとした王都の人間が大注目しているビッグイベントに、親が卒業課題を手伝う事は出来ないとさ。
そんな綺麗事言ってる状況ではないと思うがな。
まぁこのおやぢ達には、僕には出来ない事をやってもらった方がいい。貴族とかが出て来たら、僕ではどうしようもないからな。
そう考えると、僕が適任だろう。
この世界で戦う力のある成人は、取り敢えず冒険者ギルドに登録するって言うし、かと言って力のある未成年は、学園に特待生として招かれる。マルタみたいにな。
カティを導ける人間はそう居ない。
だが、僕なら出来る。
そのためにこの3年半、力を付けて来た。
カティに護られるだけの存在ではなく、カティと肩を並べる存在に・・・
・・・・・・と、胸を張って言えたらいいんだがな。
僕自身は未だに、スライムにすら勝てた事無い・・・。
・・・ま、まぁ、セリスとモン娘達はめっちゃ強くなってるから!
ということは、パーティーのリーダーである僕もめっちゃ強いって事だから!!なっ!?そうだろっ!!?
ブンブンと頭を振ってネガティブな事をふっ飛ばし、顔を引き締めた。
そう。これは僕にしか出来ない!
待ってろよ!カティ!!
「分かりました!僕がカティを助けn・・・」
『ご主人様、よろしいですか?』
・・・・・・締まらんのぉ!!
誰やねん念話飛ばしてる奴は!!?
『ご主人様、お取り込み中なのは重々承知しております。ですが、急ぎお伝えしておきたい事がございます。』
ルシルだ。当然ながら姿は見えない。多分、屋敷の外に居るんだろう。
僕が途中までしか言わなかった事で、3人が変な目で僕を観てくる。
あぁん!もうっ!大事な時にぃ!!
『何の用だよ!早く言え!』
『はい。このパイマーンの街に・・・魔族が居ります。数は2。どちらも強力な魔族です。』
・・・・・・・・・は?
え?なに?・・・・・・魔族?
「リョウさん、何なのですの?カティナお姉様の事ですもの。当然、引き受けてくださるのですよね?」
「え?いや、引き受けるんだけど・・・ちょっと待ってくれ・・・。」
「待つ?何を言ってるんですの!?カティナお姉様には時間が無いのですの!!お前!カティナお姉様を見捨てるんですの!!?」
「ちが、その待つじゃなくて・・・。」
あぁ!もうっ!!なんてタイミングだよ!!
「ちゃんと引き受けるんで・・・ちょっと黙っててくれます?」
「はあ゛ぁ゛ん゛!!?テメェーなに生意気な口きいてるんですの!?タマなし学園長の前にお前を棒を粉砕してやるんですの!!!!」
と言いながらリュドミラちゃんはハンマーを振りかぶる。
ヒ、ヒイィィィィィィ!!?お侍様の武器じゃないいいいいいいい!!!
「止めないかリュドミラ!!リョウよ、何があったのだ!?」
すかさず僕とリュドミラちゃんの間に入って、ハンマーを片手で止めるゲバルド氏。
いや、本当に振ってるじゃん!威嚇に留めてくれよ!?なにこんなところで僕を殺そうとしてるの!?
「・・・あ、いや。僕の従魔から緊急の連絡があって・・・街に魔族が2匹やって来たそうです。」
「魔族だと・・・?」
「魔族がどうかしたであるか?パイマーンでは珍しくもない事であるぞ?」
ゲバルド氏とディーノ氏は訝しみ、リュドミラちゃんは僕を鋭く睨みつけている。
そんな顔するなよ・・・僕だって訳分かんないんだから。
『ご主人様!何があったのです!?私もそちらに・・・』
『いや、いい。ルシルが来たらもっとややこしくなる。それより、その魔族達は何者なんだ?ルシルの知らない奴等か?』
『いえ、知っている者達でございます。天狼と九尾の2匹でございます。』
ルシルと同じ天狼と・・・九尾!!?
九尾ってあの・・・九尾の狐!?
前にルシルが、魔王軍の四天王の中の1匹って言ってた・・・あの・・・!!?
『まさか・・・魔王軍の四天王が居るのか!?』
『いえ、その方ではありません。魔王様を含め、魔王軍の上層部に入るには上位種かレア種である条件がありますので。 今回ここに居る九尾は、その四天王の方の部下にあたる者でございます。天狼の方も、かつての私の部下でございます。』
そ、そうなのか・・・。
ていうか、魔族って何で名前が無いんだろう。全員、種族名で言って不便とは思わないのか?
でもよかった・・・タイミング的に、マントパンツァーの学園長が魔族と繋がりがあるのかと思ったよ。
魔王軍の奴等って事は、僕とルシルの関連の問題だな。
・・・いやいや、よくねえけどな!!
このくそ忙しい時に何の目的だよ!4年も放置されてたから、もう何も無いと思ってたよ!!
『今更、魔王軍が何の用だよ?』
『・・・申し訳ございません、私にも分かりません。闇討して、拷問ましょうか?』
『いや・・・やめてくれ、マジで。』
また変な漢字使いやがって。ルシルの辞書はどーなっとるんだ。
それに、敵かどうかも分かってねーだろ。なんでもパワーで解決しようとするんじゃねぇ・・・。
「リョウ、従魔は何と言っている?」
「はい・・・実は・・・・・・」
あぁ・・・今年の収穫祭はもう何も出来ねぇな・・・・・・。




