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53話:アラクネ




硬そうなモノリスには、何故かヌルッと入れた。

まぁ先にパーティーメンバーも入っているので当然なのだが。


モノリスを抜けた先は、悪霊の屋敷の前の広場。今日僕達がキャンプをしていた場所だった。

そこには先に入っていたセリスやモン娘達と、随分待たせていた筈なのに、いまだに哀愁が溢れて止まらないセンチメンタルフィリップさんの他にも、冒険者達が大勢いた。

この冒険者達は、僕達と同じ悪霊の屋敷を冒険していた奴等か。立ち話に花を咲かせている。


「あの、リョウさん。アラクネはどうしたのですか?」

(居るわよ。余計な心配しなくていいわ。)


セリスが心配して話しかけてくれたと同時に、アラクネさんがモノリスから顔を出した。

口が悪いなぁ。僕には言ってもいいけど、セリスやモン娘達には普通に話して欲しい。


(・・・分かっているわよ、五月蝿いわね。)


・・・喋ってねーっての。

厄介だなぁ、この思考が全部ダダ漏れなのも。もっこりな事もおちおち考えられないやん!


「・・・・・・リョウは、えっちな目、ばっかり。」

「そうよね〜。いっつもわたしの太ももばっかり見てるもん。」

「・・・私は何度も頭の中で襲われています。」

「ど、どおしてええええええ!?何故私には下卑た目を向けてくださらないのですか!?私は何時でも大丈夫ですのにいいいいいいいいい!ご主人様あああああああああ!!!」


・・・・・・・・・・・・。



(やっぱりあんた、最低だわ。)


・・・うるさいなぁ。お前らの方がよっぽどうるさいよ。


そういうアラクネさんは、なんか青白くなくなっているじゃないか。

そっちの方が重要だよ。どういう事だよ一体。



・・・ダンジョンから出た事で、幽霊ではなくなったって事か?この世界では幽霊は存在しないから?

もうめちゃくちゃだな・・・アラクネさんの存在自体が変わってるやん。理解できん。


(別に理解してくれなくていいわ。いいからあんたは・・・早く、決めなさいよ。)


いや流石に無視していい問題では・・・ん?何を決めるんだ?


(・・・分かってて言ってるでしょう? 本当、最低・・・。)



・・・分かってるよ。名前だろ?

このクラス、いいクラスなんだけどなぁ。コレがあるから嫌なんだよ。


「そうだなぁ・・・幽霊でおかっぱ頭なんだから、ハナコさんでいいだろ?」

(真面目に考えないと本当に殺すわよ。)


・・・まぁ冗談に決まっているじゃないですか。色々とマズそうですし。

でも和風の名前がいいよなぁ。下半身蜘蛛だけど、上は着物だし。


改めて、アラクネさんを観察してみる。

常に居心地が悪そうにしかめっ面で、目が合わない。

ボブカットされた真っ黒の髪と、白目の無い真っ黒の眼。

良くいえば色白で綺麗な肌、悪くいえば病人のようで不健康そうな白い肌。

真っ赤で大した刺繍も入っていない地味な着物・・・まぁあっちの世界の成人式で着るような着物がここにあってもビックリするがな。

蜘蛛の体は、他のアラクネよりも丸っこい。あとこちらにも宝石のような大きくて黒い眼が付いているが、どっちが本当の眼なんだ?


下半身さえ見なければ、日本人形のようだ。

いっぺん死んでみる?とか言いそう。まぁ殺すとかめっちゃ言ってたけど。


・・・流石にアイちゃんは駄目だな。

蜘蛛・・・スパイダー・・・スパイダーウーマン?アホか。

眼が特徴的なんだし・・・め、め・・・英語でアイ・・・あれ?アイでよくない?


「よし、アラクネ。君の名前は、アイ・・・・・・メ、メーコだ!」

(・・・何なの?はっきりして。)

「メーコだ!いや、メイコだ!メイコにしよう!ほら、可愛い!かわいいぞメイコ!!」

(何回も言わなくていいわ。 そう、メイコね。・・・メイコ。・・・ふふ。)


お・・・ちょっと笑った?

メイコ・・・和風なのかな?まぁいいか。気に入ったんだろうし。



と思っていると、誰かに袖を引っ張られる。


「む〜ん・・・・・・イムの名前は、かわいい、言われてない。」


む〜んて何だ?鳴き声か?


「いや、勿論イムの名前も可愛いぞ。スラ太郎じゃなくてよかったな。」

「わたしの名前は〜?足早そうとしか言われてないんだけど〜?」

「ご主人様!私は仰らなくても分かっております!勿論、可愛いでございますよね!?あぁ、そんな!私が世界一可愛いだなんてそんな!!・・・い、言われたいです!私も言って欲しいですうううううう!ご主人様あああああああああ!!!」


あーはいはい。可愛いから。

ここ結構人いるから。あんまり騒がないでくれる?




・・・ん?あれ?なんか本当に周りが騒がしくなってきたな。


ざわつく冒険者達が、次第に歓声を上げるようになる。

冒険者達が見ている先は、悪霊の屋敷だった。

屋敷の屋根が徐々に光の粒子となり、ゆっくりと消えていっている。


「始まったね。」

「あ、フィリップさん。これって・・・。」

「そうだよ。ダンジョンが崩壊しているんだ。聞いていたよりも早く崩壊しだしたね。」


ダンジョンがなくなっていく。

悪霊の屋敷から完全に()()()()()()()が居なくなった証拠だ。


フィリップさんが隣に立って、また死者を悼むように目を瞑る。

僕も・・・そうだな。拝んでおこう。

結城さん、神さん、山本さん。他の幽霊の皆。そして、多分僕と同じように転生したダンジョンマスター。

安らかに成仏しろよ・・・。



(・・・ダンジョンマスター(あいつ)まで祈ってやる必要無いのよ。あんな奴、死んで当然だわ。)


・・・はぁ。まぁそれに関してはノーコメントで。


(それに、ユウキ達は大丈夫よ。上手くいったから。)


は?・・・何それ?どういうk・・・



「みんな!聞いてくれ!!」


突然、隣に居たフィリップさんが大声を上げる。

その大声に反応し、悪霊の屋敷が消えるのを見て騒いていた冒険者達が、一斉に僕達を観る。

フィリップさんはそれを確認すると、持っていたダンジョンコアを高く掲げた。


「“悪霊の屋敷”を制覇したのは僕達だ!!臨時のパーティー故に名は無い!パーティーのリーダーはリョウだ!!こちらも未成年で冒険者では無い!」


おおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!


フィリップさんが叫んだと思ったら、冒険者達から割れんばかりの歓声やら拍手が上がる。


えっ・・・ええっ!?

何バラしてんだおっさん!!?めっちゃ注目されてんじゃん・・・。


「大丈夫だよ、リョウ君。ダンジョンを制覇した者はこういうものらしい。公にした方が都合が良いんだ。」


いやいや!せめて相談してからやってくださいよ!

僕、クラスがクラスだからあんまり目立つのは・・・



「おおおおお!見ろよ!まだガキだぜ!!」

「魔物を連れてる!レアクラスよ!!」

「探索終了宣言の出たダンジョンを未成年が!?信じられねぇ!!」

「かわいい〜。お持ち帰りしちゃおうかな〜?」

「フィリップがダンジョンを制覇しやがった!やったなぁ、おい!!」

「あのエロい人、ガイヤンを倒した人だ!」

「おおおおお!!とにかくスゲぇ!今日は飲むぜぇ!!!」



お・・・おお?

・・・悪くないじゃない。こういうのも悪くないじゃないか・・・。

特にお持ち帰りしようと言っていた女性は何処かな?是非仲良くなりたい。マジで。いやマジで!



・・・・・・っは!?殺気!!!?

なんだお前ら!?僕がどんな恋愛しても自由だろうが!!

あっちの世界じゃ1回も来なかったモテ期だぞ!?人生に3回あると言われているモテ期だぞ!?三十路まで1回も来なかったモテ期だぞ!?ホントに3回もあんのか?あぁん!?



あっという間にフィリップさんが冒険者達に囲まれる。

賞賛の言葉を掛けられたり、肩や頭を叩かれ、もみくちゃだ。

セリスもあっという間に囲まれた。主にいかがわしい下心がありそうな男共に。


あぁセリスよ。いつもなら、てめこの野郎セリスにもっこり出来るのは俺だけだ!と助けたいけど、それどころではないのだ。

僕のところにもおねいさんが!冒険者のおねいさん方が!!


「君凄いわね、未成年でもう従魔が4匹も居るのね。」

「スライムとハーピー、アラクネと・・・このウルフは見た事無い。」

「ねぇ君、次は私と組まない?」

「あら抜け駆け? 坊やは私と組みたいわよね?」

「人数多くない?7人パーティー?」


あぁ・・・これがモテ期か・・・。

さ、最高や。転生してよかった・・・。

ちっともいかがわしくない下心が見え見えだけど、そんな事どうでもいい。恋ってのはきっかけが大事たがらね。

ありがとうフィリップさん。もう今日で貴方との契約は終わりだ!


「あ〜もう人数が一杯なのね。」

「レアクラスでも魔物使いは考えものね。坊や、またの機会にね。」

「取り敢えず今日はおめでとう!」


・・・え!?ちょ!ちょっと待って!!

早くない?まだ諦めるのは早いよ!!

ちょっと待って!モンスターじいさんのところに預けてくるから!そしたらパーティー空くんで!!

あああああああ!!誰だよ6人パーティーなんてルール作った奴!?どこの昔の偉い人!?どこの胡散臭い有識者!?違うね!女神様だ!?おあああえアアアあああ!チキショおおおおおおおおお!!!


「ふっw・・・・・・リョウには、イムが、いる。」


今ちょっと笑ったよね?僕の肩を抱くな!親指立ててんじゃねーよ!!


「なんですかあの者達は?ご主人様、(だま)らせましょうか?」

「ふふん。リョ〜君ざんねんね〜ww隣にこんな美少女が居るんだから、人間のメスなんかいらないでしょ?」

(助平。最低。)


慰めんじゃねぇ!・・・いや、ちっとは慰めろ!!

こ、これは由々しき事態だ。従魔(コイツら)が居るとおねいさん達と仲良く出来ない!!

な ぜ だ!

モン娘を虜にする力を 手に入れたのに・・・

魔物誑しとはいったい・・・うごごご!!





◆◆◆





わたしは ネオリョウ君

すべての美少女 すべてのおねいさん

すべてのモン娘にもっこりし

そして わたしももっこりしよう

永遠に!!



というわけで、パイマーンの街へ凱旋してきました。

帰りの道中は、悪霊の屋敷を攻略していた冒険者一同で帰ってきましたよ。

流石に魔物はあまり寄ってこなかったですね。30人くらい居たしな。人数多過ぎて避けられてたんだろう。


フィリップさんは知り合いであろう冒険者達と、楽しげに話をしていた。

おセンチな感じだったのが直って良かった。無理してるだけかもしれんが。

セリスも男ばっかりに囲まれてたな。求愛やら求婚やらあったかもしれん。・・・まぁセリスなら全部断っただろう。


流石に僕も人気者やったな。

・・・主に従魔がだけど。

どうせ僕は大した事ありませんよ。従魔が本体ですよ。ダメージソースですよ。

話し掛けたら話し返してくれる魔物に思うところは無いのかね君達?


それでも僕に粘着してた奴が居たな。野郎だったんで全然嬉しくないが。

クラスの事を根掘り葉掘りと無遠慮に聞いてきたり、自分や自分の彼女のノロケ話してみたり、彼女が君の従魔を気に入ってるみたいだから今度一緒に組もうとか言ってみたり・・・。

なんだこの若干トーン落ち目のアンドニは?

はぁ。こんな変な奴でも無難に対応してしまうのが、社会人の哀しい習性。ホントは関係すら持ちたく無いんやけどねぇ。



街の入口でも、門番の方々からお褒めの言葉をいただき、このまま冒険者ギルド併設の食堂で宴会だそうです。

時刻は日暮れ。3日目の晩までには必ず帰ると約束してるんで、一旦帰りたいんですけどね?

どうも、野暮な事言わんと兎に角祝勝会だと。そういう雰囲気だ。


あのね、飲み会への参加強要はパワハラよ?

実際に損害賠償請求が認められた事例だってあるらしいんだからな。聞いてんのか、おい?


・・・だがなんとこの祝勝会、費用が冒険者ギルドや他の冒険者達からのカンパ。領主様や貴族様方から出るらしい。

探索終了宣言とか言って諦めたりするクセに、いざダンジョンが消滅したら街を挙げて祝ってくれるんだと。

なーんかスッキリしない伝統だこと。

冒険者達(コイツら)は、僕達がダンジョンコアとか取って金があるからと、たかってきた訳じゃないのか。

冒険者達からすれば、安く飯や酒が味わえてどんちゃん騒ぎが出来ると。そりゃみんな自分の事のように喜ぶ訳だ。


・・・でも、そうか。宴会か。

ま、いっか。主役はタダなんでしょ?ありがたくご相伴に預かりましょうよ。






「・・・それでそのハーフリングに言ってやったんだよ。そんな半端な仕事に手数料なんか払う訳ねーだろってさ。そしたらそのハーフリングの商会に出入り禁止にされたみたいでさ。マジでありえなくない?俺は彼女を護っただけだし、彼女も俺に感謝してるんだ。あんな詐欺みたいな事して商売やってるなんて何考えてんだろうな。」

「あー、そうすっね。それは(お前が)ひどい。」

「だよな?で、そのハーフリングの商会って、何かオシリ王国どころか、隣の帝国でも幅利かせてるらしくてな。それが割と面倒くさいんだよ。何て言ったかな。インチキ商会って言ったかな。」

「インチキ商会ね。それは(名前が)ひどい。」

「だろ?まぁインチキ商会で買わなくても、他にも商会はあるんだから、頼まれたって買わねーっての。でも彼女はインチキ商会でしか売ってないものがあるからって、俺の言う事きいてくんねーのよ。今でもお前の従魔が珍しいからって・・・あ、今度いつ暇?フィリップとかいうおっさんの契約切って、俺達と組めばいいじゃん。あのエロいねーちゃんも紹介してよ。」


商会のブラックリストに載ってるのお前だけかよ。

あと勝手に話進めんな。百歩譲ってフィリップさんとの契約が切れても、お前だけはねーよ。セリスも紹介しねぇし。彼女がどうとか言いながらエロい女を紹介しろとか、どの口で言ってんだよ。



はぁ。楽しくない。飲み会楽しくない。

ナウなヤングには飲みニケーションは苦痛なのよ!もういや!

何なのコイツ!?何でずっと僕にくっついてるの?新たな金魚のフンですか!?


そういやコイツとコイツの彼女、思い出したわ!

悪霊の屋敷のセーブポイントで盛ってた奴等じゃん!!

何なの?もう忘れたの?顔覚えてないの?じゃあ何で僕は覚えてるの?ハァーーーーーーッッ!!!?



・・・・・・はぁ。

折角こんな街を挙げてのパーティーで、色々な食べ物を他の飲食店から持って来てもらっているのに、コイツが邪魔で目の前の炒った豆しか食えない!

肉食いたい!魚食いたい!酒飲みたい!


フィリップさんは知り合いも多いみたいだから、楽しそうにしてる。

セリスはめっちゃ男共に飲ませられてるな。あれは後で助けに行かないと、お持ち帰りされるぞ。


モン娘達も上手いことやってんな。

何でだよ。何で僕だけか上手くやれてないの?

酒の力ってのは偉大やね。魔物と人間でも仲良くやれるんだから。


「・・・聞いてんのかリョウ?明日にでも、フィリップに話付けてこいよ。この弱冠17歳でEランク冒険者に上がったシモン様に任せとけって。まずは、そうだなぁ。従魔共を使ってさぁ・・・」


17歳でEランクってのが凄いんだか凄くないんだか。

若くて上がってんなら凄いのか。まぁ最低ランクが何なのか知らんが。



「・・・おい、ルーキー。そこを退きな。」


突然後ろから渋い声が聞こえた。

シモン様と一緒に後ろを振り向くと、ウホッ!! 筋肉質な歴戦の戦士が3人も!?


「う・・・あ・・・、あんたらは!?」

「ルーキー。俺達はこのガキに用がある。さっきから散々喋ってんだろう。そろそろ交代しな。」

「あっはい!勿論ですよ!へ、へへへ・・・。」


と言ってシモン様(ルーキー)はヘラヘラ笑いながらそそくさと退散して行く。

まるで公共の場で淫らな行為を見付かって慌てているよう。

やっぱり自分より強い奴には強く出れないのね。哀れな奴。



・・・さて、シモン様を退かしてくれたのは嬉しいのだが、僕は別にこの人達とも話したい訳じゃないけどね。


「よう、ガキ。久しぶりだな。」

「・・・お久しぶりです。僕は別に会いたくなかったですけどね。」


髭面のリーダー格がニヤッと笑いながら、僕の隣に座った。

お久しぶりの登場。黒い三戦士・・・オリジナリティ溢れる歴戦の戦士達だ。

酒に酔ってたかなんかしらんが、愚かにもセリスに喧嘩を売って返り討ちになった、テンプレ言いがかりおやぢ達だ。


「がはは!同じ街に住んていて、二度と会わないって事はないだろう!」


大きな声で大きな顔の大きな男であるエルテガが、ガイヤンとは反対側の僕の隣に座る。あれ?囲まれたんだが?

そんなエルテガは手に大量の肉の煮込みが入った器を持っていて、僕の目の前に置いてくれた。


あっ・・・・・・キュン。

何そのさり気なさ。1番ガサツそうなのに、1番気が遣えるじゃん!

キュンってしちゃうじゃん・・・。ロリコンのクセにぃ・・・悔しい、でも感じちゃう!


「おお、食え食え。会の主役だってのに、変な若造に捕まって災難だったな!」


そう言うキッシュが、今度は皿いっぱいの野菜や果物を置いてくれる。

何なのこの人達・・・恋しちゃうじゃん!

恋愛マスターなの!?こんな人達が普通の女性に興味が無いなんて、世の女性達が可哀想!!



「フンっ。あのルーキーは相手にするな。若え頃ってのは調子に乗るもんだが、あのルーキーはやっちゃあいけねぇ事も平気でやりやがる。」

「そうですよね。いい歳こいた人が酔った勢いで女子供に絡むのも、やっちゃあいけねぇ事ですよね。」

「フンっ、相変わらず可愛げのねぇガキだ。だが俺は紳士だからな。あの時だって本当に酒の酌だけさせて帰らせるつもりだったんだぜ?・・・ま、あの姉ちゃんが俺に惚れたとなったら話は別だがな。一晩くらい相手はしてやったかもなぁ・・・。」


ガイヤンが髭を撫でながら、向こうに居るセリスを見ていやらしく笑う。

適当な事言いやがって。あの時セリスが負けなくて良かったぜ。


「あのシモンって人は何やったんですか?」

「アイツは金にだらしねーんだ。何人もの奴から金を借りてんだよ。」

「仕舞いには王国でも有数のインチキ商会とも揉めたらしい。」

「一緒に組んだ奴からもいい話は聞かねぇ。他にもなんか悪さしてんだろう。」


ふーん。この世界にもそういう奴は居るんだね。

こんな世界じゃ生きてけなさそうだけとな・・・まぁああいう奴ってのは意外としたたかなもんだよね。

そうなると彼女を護ったって話も怪しいもんだ。僕に接触してきたのは・・・大方、金づると手下みたいな奴が欲しかったのだろう。

やっぱりほぼアンドニじゃん。アンドニの方が僕に媚びないだけマシかもな。・・・いやゴメン。どっちも(フン)



「そんな事より、あのお嬢さんはどうした?」

「ま、まさか死んだんじゃねぇよな!?」


エルテガとキッシュが身を乗り出しながら聞いてくる。

最初に死んだのかと聞いてくるところに、世界の違いを感じるな。


「カティは王都の学園に通ってます。あの時は偶々帰って来てただけですから。」

「王都の学園に通ってたのか。いいトコ行ってるじゃねぇか。」

「なぁんだ。死んだんじゃねぇならいいぜ。」


ピュア過ぎるっっ・・・!!

この世界の女性達よ!この二人を放っておいては駄目だ!僕に色仕掛けする前にこの二人にするべきだ!ロリコンなんてちょっと色仕掛けしたらコロッていくから!性癖と結婚は別とか言ってコロッていくから!



「フンっ。王都の学園に通う程のガキって事は、やっぱりテメェらは、あのゲバルド=トクレンコのとこのガキなんだな。」


鼻を鳴らしながら、ガイヤンは僕の目の前に大量の飲み物が入った木製のジョッキを置く。

え・・・これ、アルコール入ってますよね?


「えっと・・・知らなかったんで?」

「知ってたら手なんか出すかよ。ここで一番いい酒だぜ。俺の奢りだ、飲みな。」


あたいこれ知ってる。俺の酒が飲めねえのかでしょ?これ、アルハラっていうんだよ?

確かに酒が飲みたいとは言ったけどさぁ。


「・・・あの、何でこんな親切にしてくれるんです?」

「そりゃお前、アレよ。悪霊の屋敷の話が聴きてえからよ。」


下心はしっかりあったみたいだ。斜め上な下心だが。


「書物や吟遊詩人から聞くよりも、やっぱり生で聴けるってのは違うからな。おもしれぇし、今後の参考になる。」

「それに俺達もあそこには何回も行ったぜ。どうやって先に進んだのか知りてぇ!」

「あそこの探索終了宣言が出たのは俺達ベテラン冒険者の責任でもある。ま、大したダンジョンでもねえから残していてもよかったんだが。 ・・・まぁなんだ。早え話が、俺達も冒険者としてダンジョン制覇ってのをやってみてえのよ。」


筋肉モリモリの歴戦の戦士達の目が、キラキラと少年のように輝いている。

はは・・・。年甲斐もなく心踊らせておるな、おやぢ達よ。

だがそう、僕もそういうの大好きだからな!



「おっけい、じゃあお話ししましょう。先ずは、4階層まで一気に・・・」

「・・・むぅ。リョウよ、ここで何をしておる?」


僕が気持ち良くネタバレしようとしたら、また背後から声が掛かり、僕の肩に手が置かれた。

・・・いや、ただ置かれたんじゃない。めっちゃ掴まれてる。凄い力で。

あたいこれ知ってる。一番長い事一緒に居るおやぢだもん。ゲバルド氏っていうんだよ。


「いやだわぁ、お父様。ホームパーティーにお呼ばれされたのですわよ。」

「む。確かにお前がダンジョンを制覇したのは驚いた。私も鼻が高い。だが、3日目の夜遅くまで帰って来なかったのは許さんぞ。」


ゲバルド氏、最近ふざけても全然ツッコんでくれない。

ふざける場面じゃないって?・・・すみません。


「1年前にアンドニやモルガンがやった事を忘れたのか?私やヨハンナがどれだけ心配したと思っている?何故私が街の人間からお前達の活躍を聞いてビックリせねばならんのだ。お前の口から聞きたかったぞ。」

「いや、もう、はい。すみませんでした。」


反論の余地も無いので、平謝りするしかない。

これだけ言われて、また帰ったらヨハンナさんからこっぴどく叱られるんだぜ?精神年齢37歳にはキツいっすわ。



「おうおう、オシリ王国の英雄サマよ。ここは祝いの席だぜ?野暮な事言うんじゃねーよ。」


ガイヤンが挑発するような口を叩くと、ゲバルド氏がジロリとガイヤンを睨んだ。

オイオイオイ、死ぬわアイツ。


「む?何だ貴様らは?フィリップはどうした?」

「フィリップはあそこでハメ外してるぜ?」


あらぁ、フィリップさん!ほぼ裸になって騒いでいらっしゃるの!?

こっちの話が終わったら、次は貴方の方にゲバルド氏は行きますわよ!下だけでも早く履いてください!!

オイオイオイ、死ぬわアイツも。


「心配すんな。テメェの息子は俺達が面倒見てやるよ。」


ガイヤンは堂々としている。流石は隊長といったところか。

エルテガとキッシュは、ゲバルド氏にちょっとビビってるな。


「私の事を知っているなら、私がこの街で何をしているかも知っているだろう。ただの親代わりをしているだけだ。」

「ほぅ、そうなのか。レアクラスの上にダンジョン制覇までやっちまうガキだから、テメェの息子だと思ったぜ。」

「私には一人娘がいるだけだが・・・そういえばそうだった。貴様らの話は聞いているぞ、黒い三戦士よ。」

「フンっ、俺達を知っているのか?英雄サマに知ってもらうたぁ俺達も名が売れたもんだぜ。」

「なんでも私の娘を性的な目で見た上に、拐かそうとしたらしいな?」


それを聞いた途端にガイヤンは渋い表情をして、エルテガとキッシュは僕を睨み付けてきた。

いや、そりゃチクるでしょう。怖い男達に襲われたんだよ?当たり前だよ。

オイオイオイ、死ぬわアイツらも。


「シサイサマ、ボウリョクモ、フルワレマシタ。」

「おぉい!?余計な事言うんじゃねーよ!!さっき、シモンから助けてやったろーが!!」


・・・面倒見てもらったのも確かに事実か。

それに、女二人を賭けの対象にして逆カツアゲした事は一切言ってないしな・・・余計な事言わん方がいいな。バレたらかなわん。


「・・・むぅ。だが、リョウが許しておるなら解決しておるのだろう。何も言うまい。」


何でさっきの会話でその解釈?和気あいあいに見えたかしら?

なんかこの程度で、僕も黒い三戦士も許してくれるらしい。

祝いの席だからな。助かったわい。

・・・いや、助かったのは黒い三戦士だけか。僕は孤児院に帰らなきゃ駄目だもん。はぁ憂鬱。



「リョウ、酒は飲むなとは言わんが程々にな。これは私からだ。」


いや、飲ませるなよ。

この世界じゃあそんな法律無いんだろうけどな。司祭様がそんな事言うのは道徳的にどーよ?

それとも、目の前にもうなみなみと入ってる酒があるから飲んだと思われたのか?ヒドい!誤解だ!


ゲバルド氏はそう言いながら、2本の瓶を置く。

ほう、炭酸抜きコーラ・・・じゃなくて、ワインだ!

この世界だとワインは金持ちが飲む物らしいんだがな。流石司祭様、高級ワインPON☆とくれたぜ。だけどな司祭様、僕の目の前にある1本はジュースじゃないか。ママのオッパイでも飲んでろってか?


ゲバルド氏は残りの瓶を持って、フィリップさんの方に行く。

フィリップさん・・・あぁ、ダメだあのおっさん。最後の1枚も脱いでる。南無・・・。



まぁおっさんは無事に帰ってくるとして、僕はこの葡萄ジュースを飲んでろって事だな。

でもね仕方ないんだよ。この酒はガイヤンさんの奢りだから。俺の酒が飲めねえのかってなるから。

ありがたく飲まないとね・・・


と思ってたら、ジョッキをガイヤンに取られて、ガブガブと飲み始めてしまった。


「ぷはぁ。・・・まったく、おっかねぇ野郎だぜ。」


ぷはぁじゃーねよ。

僕の酒だろう?僕にぷはぁさせろ。


「もう邪魔してこねぇだろうよ。さぁガキ・・・いや、リョウ。思う存分語ってくれや。」


・・・はいはい。わしだけ葡萄ジュースで乾杯といこうか。

制覇しちゃったんだし、全部話していいんだろう。勿論、僕とセリスの事は全部は話せないが・・・・・・





◆◆◆





「・・・2階層の魔力溜まりにある、火ぃつける魔導具と銃を持って、1階層と3階層の魔力溜まりにだと?・・・無理だ。そんなん思いつくわけねぇ。」

「まず、らいたーとか、もでるがんってなんだよ?聞いた事ねぇよ。」

「それ以前に、4階にあった宝石を、2階の魔力溜まりの宝石箱の窪みに嵌めるとかねーわ。オメェ頭おかしいんじゃねーか?」


随分な言われようだが、褒め言葉として受け取っておこう。


「ダンジョン内にある物を利用して仕掛けを解くって事は、他のダンジョンでは無いんですか?」

「・・・いや、無くもねぇ。無くもねぇが・・・お前の言う仕掛けは複雑過ぎるだろ。」


複雑・・・というか、ノーヒントでは無理だろうな。

その唯一のヒントも、あっちの世界のあるゲームをプレイするだから、ガイヤン達が解けないのも無理は無い。


「大体、俺達はダンジョン内に置いてある物に、そんな関心もたねぇよ。良いモノ見付けたって意味ねぇからな。ダンジョンの外に出せねぇんだからよ。」


そんなもんなのかねぇ。

これはフィリップさんも散々言っていた気がするが、実際に仕掛けに利用されていたんだから、考えを改めるべきだ。



「まだまだ。皆さんの常識を壊すのはこんなもんじゃ無いですよ。」

「ほぅ、やってもらおうじゃねぇか。 で、宝石箱と、絵画に火ぃつけるのと、銃をすり替えるのとで、メダルが出てくるんだったな。それから・・・。」


ガイヤン達は、悪霊の屋敷の地図まで取り出して話を聞いてくれている。

楽しそうだなぁ。リアル脱出ゲームとかのノリなんだろうな。


「今まで全て魔力溜まりで仕掛けを解いただろ。じゃあ次はこの魔力溜まりだな?」

「でもよガイヤン隊長、ここに行くには、魔物召喚罠の部屋を2回も通るぜ。」

「だったらどうなんだよエルテガ。そんなもん突破すりゃいいだろ。」


流石は黒い三戦士。魔物召喚罠をそんなもんと言ってのける。

フィリップさんなんて結構ビビってたからな。ここらへんの格が違うよね。


「あ、因みにこの辺からダンジョンコアに気付かれまして、魔物を大量に送り込まれたんですよ。2回目の魔物召喚罠ではポイズンゾンビの上位種まで居ました。」


・・・・・・あれ?3人共固まったぞ?

大丈夫だろ?僕達でもなんとかなったんだから。



「・・・・・・ま、準備さえしてりゃいけるだろ。それで、この魔力溜まりでメダルを使うんだな?」

「そうです。ここで3つのメダルをスロットマシンに入れて使います。」

「ほぅ、スロットがあんのか。懐かしいぜ。」

「・・・もうガイヤン隊長は、ギャンブル辞めたんでしょ?」

「は?うるせぇなエルテガ、辞めたらどうやって取り返すんだよ。」


あ、ギャンブルしちゃ駄目な奴だ。

この世界ってカジノあるんだな。そうだよな、無かったら何処で最強の剣を取るんだってんだよ。

・・・う〜ん。ゲームならセーブ&ロードがあるからやるんだけどな。本物ならやらないかなぁ・・・。





◆◆◆





「・・・なるほどな。地下があるとは恐れ入ったぜ。普通そんなもんあるとは思わねぇ。」

「そんだけの仕掛けを解いて地下かぁ。しかも生息する魔物が代わるのは嫌らしい。」

「剣も魔法も効かない魔物って反則じゃない!?どうやって倒したの?」

「ダンジョンの外に進む道があるとは!?あっぱれ!だ!」


なんか聞き手が増えたな。張本さんみたいな人いるし。


・・・どうやら、宴会も終わりに向かっているらしい。人がぱらぱらと帰り始めていて、ウェイトレスが片付けてくれている。

フィリップさんはもう居ないな。帰ったのか?


やべっ、セリスは?・・・大丈夫、居るわ。

なんかルシルにウザ絡みしているらしい。ルシルは目を吊り上げて怒鳴っているようだが、セリスはヘラヘラと笑っている。


・・・あっ、テーブルで突っ伏すイムと目が合った。

あの目は・・・早く帰ろうの目だ。

もうちょっと、もうちょっと待ってください。もうすぐ〆るから。




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