52話:すべて平等に価値がない
※グロくて胸糞かもしれんので注意お願いします。
「ふ、ふふん・・・わ、わたしだってやる時はやんのよ。見てたでしょリョ〜君?」
「あぁ、見てたよ。ありがとな。」
「そ、そーよ、分かればいーのよ。もし攻撃が来てたら、リョ〜君死んでるわよ?」
「あぁ、そうだろうな。感謝してる。」
「でしょ?感謝させてあげてもいいわよ。だから、今度はわたしに街で1番高い武器買ってよね。あとピノお姉ちゃんって呼ぶこと。いい?」
呼ばねーよ。逆に僕をお兄ちゃんと呼ばせたいわ。
あと買わねーよ。
「リョウさん。」
「あぁ、終わったか、セリス。お疲れ様。」
残党処理も無事終わったようだ。みんな僕の元に戻って来る。
今回の立役者だったイムも、涼しい顔して帰って来る。
「イム、お疲れ様。良くやったな。」
「乙。」
ネトゲ廃人みたいな返ししやがって。照れてんのか?いや、こういう奴か。
「・・・それにしても、何故アラクネは潰れて死んだのでございますか!?私は納得いきません!」
そうだよな・・・物理も魔法も効かないと思っていたから、こんなに苦戦してたって訳で。
攻撃が効くって最初から分かっていたなら、ルシルだって遠慮しないし、もっと楽に勝ててた。
「僕の推理が間違っていたか・・・。」
「納得しました!申し訳ありませぇん!!」
はえーよ。少しは僕を疑え。
「考えられるとすれば・・・ここで戦った幽霊が特別だった。とかかな。」
アラクネの幽霊は言わずもがな、冒険者の格好をした幽霊なんて今まで見なかったしな。
特別になって弱点が増えたってのもどうかと思うが。
「それは違うね。さっき戦った剣を持ったユーレイ、カタナで斬り付けたんだけど、全く効果は無かったよ。逆に僕は相手の剣を受けちゃったんだけどね、傷はできなかったよ。」
「受けちゃったって・・・大丈夫だったんですか?」
「カタナで受けようとしてしまって、つい、ね。でも、吸い取られたかのように力が出なくなっただけだったね。セリスさんが早く来てくれなかったら、危なかったけど。」
危なかっしいおっさんだ。この人本当にソロでやっていけてたんだろうか?
まぁ、僕も人の事言えねぇか。特に最後はちょっと無謀だったわ。
因みに、山本さんに怪我は無い。事が終わった後に山本さんを見たら、陰気な顔して横たわっていただけだった。
完全なる助け損だ。やらなくていい事やって、ピノに恩に着せられた。
結城さん、神さんも相当やられている筈だが、ピンピンしている。どうやら、幽霊対幽霊でもお互いダメージを与えられないようだ。早く言え。
「じゃあ・・・レア種だからか?」
そう呟きながら、チラッとアラクネだった物を見る。
・・・悲惨な死に方をしている。ピンクのハーピーさんを彷彿とさせる・・・いや、それよりもっと惨たらしい死に様だ。
イムは何処であんな技を覚えたのやら・・・。
正直、もう悪霊の迷宮でレア種がどうのこうのと考えたくない。
だって分からねぇもん。そもそも、幽霊なんて存在が魔物としてイレギュラーだからさぁ。
立ち上がらねぇやつはただのレア種だ。立ち上がるやつは訓練されたレア種だ。
貴様ら雌豚がおれの訓練に生き残れたら、各人が兵器となる。戦争に祈りをささげる死の司祭だ。
その日まではウジ虫だ!マルスルナで最下等の生命体だ!
貴様らはレア種ではない!ゴブリンのクソをかき集めた値打ちしかない!
「・・・あ、あの〜。リョウさん・・・?」
私は訓練教官のハートマン先任軍曹である。
話し掛けられた時以外口を開くな!口でクソたれる前と後に、「サー」と言え!
分かったか、ウジ虫ども。
(悪かったわね、蛆虫で。・・・はぁ。最低だわ。)
ふざけるな!大声出せ!
タマ落としたか!もともと無いか!そうか!
フッハッハッハッハッハ・・・・・・
・・・・・・は?あれ?
さっき喋った人は誰ですか?
聞きなれない声に、辺りを見回す。
・・・あ。アラクネが復活してる。
なんかもう慣れたもんだな、こういう現象にも。
で・す・が!こうしてアラクネちゃんが復活したという事はですよ!なんとこのアラクネちゃん!僕のお嫁さんになっちゃうんですよね!!
どうだぁ、諸君!?羨ましいだるるぉ?
デューフッフッフッフッフッフッフッフ………
(・・・気持ち悪い。最低ね。)
さっきのはねぇ。わざと。わざと気持ち悪い笑い方してるの!勘違いしないでくださいね。どこ探しても居ないよぉこんな紳士は。
・・・なんか彼女はえらく毒舌ね。心底嫌そうなこの態度。こんなタイプは今迄居なかったから・・・うん。興奮するね。
・・・あら?声出してないのに、何で会話してんの?
いっつもコソコソと隠れて心を読んでる、スケベな天使様じゃあるまいし。
「さー、イムにも、聞こえてる、さー・・・・・・。」
「サー!私も聞こえております!ハートマン先任軍曹様!サー!」
「なに?サーって? わたしにも聞こえてるけど?リョ〜君ってやっぱ変な事ばっか考えてんのね。」
えぇ・・・イムとかにも聞こえてるの?
どうなってるの?
チラッとフィリップさんの方を見てみるが・・・何の事やら分かってないみたいだ。
試しにフィリップさんに向けて念を送ってみよう。
・・・むむむ。フィリップさん、今日のセリスは紐パン履いてますよ。見てあげてください。なんなら引っ張ってもいいですよ・・・・・・。
「・・・ええっ!!?ちょ、なな何で知って・・・。」
・・・ふむ。フィリップさんは無反応だ。
あれを聞いて、慌てて下半身を隠そうとしているセリスに興奮しない男は居ない。という事は、僕の考えている事はフィリップさんには届いてない。
(・・・何時まで待たせるの?ほんと最低。)
おっと。これの検証は後にしよう。アラクネさんを待たせてるし、ダンジョンの中だもんな。
「すまんな、待たせて。じゃあ、アラクネさん。僕と一緒に行こうか!!」
(・・・・・・条件があるわ。)
・・・え?じょ、条件?
ここにきて条件?
勝負して、倒して、更にまだ条件が?
完全に終わりだと思っていた。イムやピノと同じタイプかと思っていたが、ルシルと同じタイプか?いや、ルシルは戦ったりしなかった。だからルシルとも違うタイプだ。
こんなパターンもあるのか・・・。
「何だ、条件って?出来る限りの事はやる。」
(別に難しい事じゃないわ。簡単よ。・・・あいつを、“ダンジョンマスター”を殺して。)
・・・ダンジョンマスターを、殺す?
おいおい、穏やかじゃないね。人を殺すのが簡単?馬鹿言っちゃあいけねえよ。
ていうか、アラクネさんの言うダンジョンマスターって、今まで僕がダンジョンの主って言ってた奴と一緒だよな?
まぁダンジョンマスターっていう方が一般的か。
アラクネさんが戦闘中に殺してとか言ってたのはコレの事か?
もしかしたら、あの幻覚の中で見せられた下品な男がダンジョンマスター?
いや、ダンジョンの主はダンジョンコアの事だってセリスが言ってなかったか?
んん?んんん???
「・・・因みに、ダンジョンマスターってのは何処に居る?」
(何を言ってるの・・・?あれよ。)
アラクネさんが顎で指す方向には、やはりダンジョンコアがある。
今迄のダンジョンコアは黒く濁った水晶玉だった。今この部屋にあるダンジョンコアは少し違い、赤黒く濁っている。
今迄のがダミーだったのなら、こいつは・・・
「フィリップさん、ここが最後だと言っていましたよね?じゃあ、あのダンジョンコアって?」
「そうだよ。あれが本物のダンジョンコア。このダンジョンの核だ。僕も見るのは初めてなんだけど、聞いていた通りの色だね。」
あれが本物・・・。
「えっと・・・どうするのが普通なんですが?」
「ダミーダンジョンコアと一緒さ。台座から取ってしまえば終わりだよ。その後、数時間したらダンジョンは無くなる。」
それだけか・・・。
それだけでダンジョンマスターを殺したって事になるのか?
アラクネさんの方を見ても、特に訂正する気は無いらしい。
「えーっと・・・アラクネが従魔になったんだよね?じゃあ、ダンジョンコアを取って帰ろう。もうあまり時間も無いよ。」
まだ従魔ではないみたいですよ。まぁフィリップさんには分からねえだろうが。
「少しお待ちを。ご主人様、あちらの扉の先に何かあります。」
と、ルシルが水を指してくる。
なになに?何なの?
「凄い臭いでございます。色々なものが混じった・・・血とか、体液とか、腐臭が。兎に角、何かがあります。」
そういえば臭いとか言ってたな。悪口じゃなかったんか、あれ。
ていうかそれ聞いて行きたいって思います?絶対ロクなもんじゃないじゃん。
まぁ・・・ダンジョンコア取ったらダンジョンなくなっちゃうらしいし、先に行くしかないか。
先程、長剣の幽霊が出て来てた場所だな。一応、器具庫と書いてあるが、十中八九違う場所だろう。
重たい扉を引く。
ムワッとどぎつい臭いがするが、構わず開ける。
扉の先にあった部屋は・・・
「うッッ!!!!?」
思わず顔をしかめてしまう。
当たり前だ。臭いもヒドいが、目の前に広がっている光景があまりにもヒドい。
ここは牢屋だ。
長い廊下に、向かい合わせになった牢屋がいくつも並んでもいる。
一番手前の牢屋には、大量の血で衣服を汚した男性が壁に背を預けて座っている。壁にも大量の血が飛び散っているが、もう全て乾ききっている。
随分と長く打ち捨ててあるのだろう、明らかに男性は生きてはいない。
向かいの牢屋には、衣服をビリビリに破かれた、ほぼ裸の女性がうつ伏せに倒れている。
こちらも長いこと放置されているようだ。変色した皮膚のところどころで虫が湧き。とても見ていられない。
腐爛した屍体はまだあるのだろうか。
僕は、この凄惨たる光景を前に、目を背けるしか出来なかった。逆流しようとする胃液を必死に堪えるしか出来なかった。
「・・・リョウ君。・・・もしかして、ユーレイって魔物は・・・人間から生まれるのかい?」
死者を悼むように目を瞑りながらも、悔しそうに歯噛みするフィリップさんが、絞り出すように聞いてくる。
・・・僕はフィリップさんに幽霊の成り立ちを説明しただろうか?多分してなかった気がする。自力でそこまでに至ったのだろうか?
「・・・僕の知っている幽霊はそうです。」
「そうか・・・。」
ゆっくりと目を開けたフィリップさんは、より一層に哀しげな顔をしてこう言った。
「・・・あの剣を持っていたユーレイはね、僕が知っていた人だったよ。とても恐ろしい顔をしていたから、最初は別人だと思っていたんだけどね。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・別にパーティーを組んでいた訳じゃないんだよ。名前も知らない。 ・・・一緒にお酒を飲んだ事はあるんだよ。その場にたまたま居合わせたってだけだどね。 僕より若くて、立派な夢を持ってて・・・ちょっと生意気なところが気に障る子だったかな。」
少し間を置き、無残な姿となった2人の屍体を眺めながらまた言葉を継ぐ。
「ダンジョンには、偶にこういう施設があるらしいんだ。侵入して来た人間を囚えておく場所が。 こんな事をしてダンジョンに何の利点があるのかは、まだ分かってないみたいだけどね。」
・・・他のダンジョンにもあるんだな。
大体、牢屋がある目的は想像できてしまうが、今言う事じゃないな。確証も無いし。
「魔物もダンジョンも命がかかっている。だから、反撃するのは当然だよ。 ・・・でも、コレは惨過ぎるよ。もてあそんで、死んだ後もいいようにされて・・・。一体、何の理由があってこんな・・・まぁ、分からないよね。ダンジョンなんていう怪物が考える事なんて。」
「・・・そうですね。」
「・・・人間って死ぬ時はあっさりだね。どんなにいいクラス授かっても、才能あっても、大層な夢があっても。関係無いね、死ぬ時は。」
「・・・そう・・・っすね。」
「・・・・・・僕は死ねない。エーコと、モリスの為にも、絶対・・・。」
「・・・フィリップさん?」
「遺品を探してみるよ。リョウ君は休んでて。」
そう言ってフィリップさんは、怯むことなく牢屋に入って行く。
・・・・・・・・・・・・。
「・・・リョウさん、大丈夫ですか?」
「・・・あぁ。セリス、悪いんだけど、女性の方を供養してやってくれないか?」
「勿論です。」
流石にフィリップさんには行かせられないだろう。
「ご主人様、私とイムが行きます。ご主人様は無理せず待っていてください。」
「・・・すまない。」
セリスに続いて、ルシルとイムも付いて行く。
・・・魔族や魔物にとって、人間の死はどう考えているんだろう?
多分、どうでもいいんじゃないか?他の生き物なんだし。
・・・僕の為にやってくれてる訳か。僕の従魔だから・・・。
「リョ〜君、気にしなくていいって。わたしらはもうリョ〜君の従魔なんだし、人間・・・てゆーか、リョ〜君の為に動くんだから。もう同族なんてどうでもいいのよ。」
そういうもんなんだろうか。
・・・ていうか、心を読まんでほしい。
何で急に心が読まれだしたのか?セリスとルナ様だけならまだしも、みんなに心を読まれるんじゃおちおち考え事もできやしない。
(十分理解したでしょう?あいつは生かしておいても碌な事にならないわ。)
律儀に待っていてくれていたアラクネさんが、催促してくる。
・・・まぁ確かにこれだけの事をする奴は、碌な奴じゃないだろう。フィリップさんの言う通り、怪物や化物、悪魔の類いだと言っていい。
だが・・・
「何故こんな条件を出した?」
(何故?あんた、冒険者でしょう?ダンジョンマスターを殺す為に来たのではないの?ダンジョンマスターを殺さないのなら用は無いわ。帰って。)
おいおい、何だこいつ?
明らかに今までと違い過ぎる。選択を間違えたら仲間にならないとか、そんなシビアなやつなの?
「わ、分かってるよ。ダンジョンコアは取るつもりだ。それでいいんだろ?」
(・・・別に私はどちらでもいいの。ここで死ぬのも、あんたの奴隷になるのも。)
め、めんどくせぇ・・・。
自暴自棄な事を言いいながら、さっきから流し目で全然目を合わせてくれない。戦闘中は熱い眼差しで僕を・・・いや、恨みのこもった眼差しで見ていたというのに。
「お待たせしました。」
セリス達が帰って来た。
・・・何も持っている様子はない。
「全部で3人の屍体と、生きてる魔物が数匹居た。身元が分かりそうな物も、装備品も、何も無かったよ。」
「本当はダンジョンから出してあげるのが一番なんでしょうが、全員腐敗が酷かったので、私の光属性魔法で燃やしました。これで供養になった筈です。」
「そっか・・・ありがとう、フィリップさん、セリス。」
この世界は火葬と土葬どっちが多いんだろう?リョウ君の両親はどうだったかな・・・。
まぁ、天使様が言うんだから間違い無いだろう。
改めて、みんなでダンジョンコアのところに行く。
特に変わったところはない。今まで見てきた台座と一緒だ。
一つだけ違うのは、ダンジョンコアの色だけ。
コレが・・・本物か。
当然、生きているようには見えない。
でもコイツが、上の階層で色々邪魔してきたり、牢屋で捕えた人間をいたぶったりしたんだよな。
コイツが・・・・・・
「アアアアアアアアアッッッ!!!クソがぁ!!フザケンナぁ!!!死ね!!死ねぇ!!!!」
な、何だ!!?
ここに居る誰の声でもない、男の怒声が聞こえた。
だがビックリしているのは、僕とイムとルシルとピノだけだ。セリスとフィリップさんは平気な顔ををしていて、結城さん達は当然のように無反応。
そして、アラクネさんは怯える子供のように耳を塞いている。
「あぁ、リョウ君。気にしなくていい。」
そう言うフィリップさんは、少し怒った顔をしている。
「ダンジョンコアはね、こうやって追い込まれると、何かしてくる時があるらしい。喋るのもその一つだよ。」
「この失敗作の蜘蛛女がぁ!!テメェ裏切ってただで済むと思ってんのかぁ!!!さっさと殺せぇ!!!早くやれやあああ!!!アアアアアアアアアッッッ!!!!!!」
こ、これダンジョンコアの声なのか?
かなりの罵声だが、完全に無視している。フィリップさん、これかなり怒っているぞ。
そりゃ当然なんだが。僕だって胸くそ悪いし。
「アアアアアッ!!!クソッ!クソぉ!!チート野郎どもがぁ!!!頼む!!頼むから見逃せ!!!もう絶対オマエラの邪魔しねぇ!!」
「怒ってるくらいは分かるんだけど、何語なんだろうね?・・・まぁ何言ってても関係無いけどさ。」
・・・え?
何を言っているんだフィリップさんは?
これはあれか?もうどっちしろ許す気は無いから、こういう事言ってんのか?
「ん?どうしたんだいリョウ君?」
「えっと、フィリップさんはダンジョンコアが言ってる事、分からないんですか?」
「は?・・・リョウ君は分かるのかい?何語なんだい?」
・・・マジで言ってんのか?
チラッとセリスを見る。
・・・なんか、我関せずといった感じだ。セリスにしては珍しい対応だな。白々しいというかなんというか。
モン娘達の方を見ても、首を横に振るばかり。
僕しか分からないらしい。もしかしてコレって・・・マルスルナの言語を理解する能力のせいか?
「ああああぁ………嘘だろ!!!ダンジョン経営はカンペキだっただろ!!!なんでこんなクソどものせいで俺が死ぬんだよ!!!ナメた顔しやがってぇ!クソだろうがよ!!チートだろうがよ!!アアアアアアアアアッ!!なんで日本語が通じねぇんだよクソ女神がぁ!!!!!」
な・・・に、日本語!?
女神・・・!?
(何グズグズしてるのよ!さっさと・・・さっさとあいつを黙らせてよ!!)
「もうどっちでもいいだろ、リョウ君。外道の言い訳なんて聞く必要無い。」
アラクネさんが頭を抱えて叫ぶと同時に、フィリップさんが待てないとばかりにダンジョンコアに手を伸ばす。
「ちょ、ま・・・。」
「アアアアアアアアアッッッ!!!ヤメ………………
僕の静止に耳を貸す事無く、フィリップさんがダンジョンコアを取った。
取ってしまった。
発狂したように叫び続けていたダンジョンコアは、ピタッと静かになった。
さっきまでの騒ぎが嘘のように、体育館の中が静寂に包まれる。
悪霊の屋敷は・・・この世界で初めて会った、日本語を話す彼は・・・死んだのだ。
いや、いやいや。
何を考えている、僕?
僕は何の為に危険を犯してここまで来たのだ?
冒険者として冒険し、金を稼ぎ、生活をする為に来たのではないのか?
ダンジョンマスターは何をした?
僕や僕のパーティーメンバーの命を狙い、殺そうとしてきたのではないのか?
ならどうだ?ダンジョンマスターを殺したのは当然ではないのか?
やらなきゃ、こっちがやられているんだぞ?
僕やフィリップさんはいたぶり殺され、セリスやモン娘達は犯され殺される。死んだ後には腐るまで放置され、成仏する事無く幽霊となってダンジョンを彷徨い続ける。
そんな事になりたいのか?セリスやモン娘達をそんな目に合わせていいのか?
そんな事は絶対に許されない!
僕の勝手で付いて来てくれている彼女達を、絶対にそんな目に合わせる事は出来ない!
・・・なら答えは決まっているじゃないか。
例え、同じ世界から来た人間だろうと関係無い。
こんな事でいちいちクヨクヨするな!リュドミラちゃんに文字通りケツ蹴られて、決意を固めたばかりじゃないか!!
「あぁ、くそっ!イム、僕を殴ってくれ!」
「えい。」
「ぐはあッッ!!!!」
少しは躊躇しろ!?
・・・いやでも、頭の中のモヤモヤは吹っ飛んだ気がする。
ありがとうイム。血が止まらないけど、ありがとうイム。
「あぁ、おいたわしやご主人様!私でよければ何時でも気合いの一発を差し上げますのに!」
「なになに?リョ〜君そんな趣味あんの?じゃあわたしも蹴ってあげる。」
(気持ち悪い趣味ね。最低だわ。)
おうおう、ちょっと落ち着けモン娘達よ。私のライフはほぼゼロよ。
なんかコントしている間に物語進んでいっちゃってるから。
突然コアがあった台座が、巨大なモノリスになったんだけど・・・センチメンタルフィリップさんが、自分からモノリスに吸い込まれるように入って行っちゃったぞ?
説明して行けよ。置いて行くか普通?
「・・・このモノリスは一瞬でダンジョンの外に出られる魔導具です。ダンジョンの主が死ぬと、ダンジョンコアのある台座と魔力溜まりにこのモノリスが現れるんですよ。」
知っているのかセリス!?
当然知っているんだろうなセリスよ。もう私関係無いも〜んって態度は終わりかい?
「・・・すみません、リョウさん。私からこれ以上は・・・。」
何故謝る?それにそんな言い方では、半分ゲロッているようなものだ。
セリスを口止めできる存在など一人しか居ない。これは後でルナ様も交えて、じっくりねっとりしっぽりとキングサイズベッドの上で話し合おうじゃないか。
「このダンジョンはもう間もなく無くなるんだろ?他の場所で冒険している奴等はどうなる?」
「それは大丈夫です。冒険者の間では数時間で崩壊するといわれていますが、ダンジョンの中に生きた人間が居る限りは、ダンジョンの崩壊は始まりません。」
そうかい、それは良かった。
サバイバルホラー定番の制限時間以内に脱出しろイベントも無いんだな。
それに、崩壊するダンジョンの中を他の冒険者達に知らせて回るのも面倒だわな。相変わらず良くできている。
・・・ん?生きた人間って何だ?
セリスが生きた人間とわざわざ言うという事は、何かあるのだろう。
つまりは、死んだ人間ではダンジョンの崩壊を止められない。ダンジョンの崩壊に呑み込まれ、ダンジョンと共に消えて無くなる。
・・・牢屋に居た屍体の事か?あれは燃やしたんだろう?
僕は何の気なしに、結城さん達を見た。
ウゥ………………………
イッショ………ニハ………………イケ………ナイ………………
ワタ………シ………タチハ………………デ………レナイ………………
………………………………
・・・・・・・・・は?
・・・嘘だろう?
あれ?彼女達は・・・僕の従魔では?
「そんな・・・何言ってんだよ?そんなん試してみればいいじゃないか。さぁ、外に出てみよう。」
………イケ………ナイ………………デレナ………イ………………
ワタシタ………チハ………シンデ………イル………………
………………………………
「い、いやいや。確かに幽霊だから死んでいるんだろうけど!復活して、付いて来てくれたじゃないか!?道中何度も助けてくれたろ?僕の従魔になってくれたんじゃなかったのか!?」
無理矢理にでも外に出してやろうか!?
って触れないじゃん!!
ふんぬうぅぅぅぅぅぅ!!ハンドパワーでどうにかなれぇぇぇぇぇぇ!!!
「・・・リョウさん、ここは潔く諦めて下さい。彼女達は・・・魔物ではないのです。」
「は?・・・じゃあ何だよセリス。結城さん達は・・・ほ、本物の幽霊だってのか?」
「・・・はい。どうやらそうらしいです。」
え、えぇ・・・ちょ、おま、あれ・・・えぇ??
あ、あの〜、セリスさん?
幽霊ってね、セリスは知らないと思うんだけど、架空の存在なんですよ。
今まで散々言ってきたけど、存在しないんですよ。悪いけど。
・・・ん?あれ?ファンタジーも架空だなぁ。
あれ?じゃあ幽霊も居るのか?
そうかそうか、そういや僕、ファンタジーの住人だったわ。
「ごめんごめん、僕が悪かった。なーんか凄く簡単な事だったのに気付いてなかったわ。」
「え?は、はぁ。」
僕としたことが、柔軟な思考ではなかったな。
ファンタジーだからなんでもありなんだよ。ファンタジーファンタジー。お前ら全員ファンタジー村の村人かっつーの。
「ちょっと!どういうとなのリョ〜君!ユウキ達とはお別れなんてウソよね!?」
「残念だが、本当だぞピノ。結城さん達はな、レア種でもなければ、魔物でもない。もちろん人間でもない。彼女達はな・・・作り物なんだ。」
「作り物?ど、どーゆうこと?」
「そうだなぁ・・・ホログラフィーとか3DCGとかが通じれば分かりやすいんだけど・・・要は、ダンジョンの主が創り出した、魔力で出来た映像なんだよ。見えてはいるんだけど、存在はしていない。だから触れる事も出来ないし、ダンジョンの魔力で映像が維持されているから、ダンジョンからでる事も出来ない。」
僕の説明に、セリスは口をあんぐりとさせている。
悟っちゃったもんなぁ。わし、さとり世代だから(適当)
「リョウさん・・・全然違います。」
「そうだろうそうだろう・・・・・・ん?」
セリスの説明ではこうだ。
結城さん達含む、悪霊の屋敷に出て来た幽霊。
彼女らは魔物ではない。もちろんバーチャルアイドルの類いでも小林幸子でもない。
どうやら、マジの幽霊らしい。
元になった人間は全て、悪霊の屋敷を攻略せんと挑んで来た冒険者達だ。
ダンジョンの主は返り討ちにした冒険者達を先程の牢屋に捕え、なんらかの方法で幽霊にし、なんらかの方法で他の魔物と同じように従えていたようだ。
冒険者にしては格好が現代風なのがおかしいと聞けば、それもなんらかの方法で変えているらしい。
・・・なんらかの方法って何よ?フィリップさんも居ないんだから、話しちゃえばいいでしょう?
説明する気があるんだか無いんだか。煮え切らない態度に魔族様はお怒りですよ。やはり天界の者達は〜とかブツブツと言っている。
まぁ、知ったところでどうにかなる知識でもないだろう。
機会があったらルナ様に聞いてみるかな。くんずほぐれつ、夜中まで肉体言語で対話してやるわ。朝帰りまったなし。
「・・・結城さん達がマジの幽霊ってのは分かったわ。で、ダンジョンから出られないって理由は?」
「私達の反応を見れば分かると思いますが、この世界にユーレイは存在しません。」
それも凄い話だよな。
あっちの世界では幽霊なんて日本のみならず、世界各地に伝承があると思うけど。
もしかして、この世界には魔物がいるからか?
ゴーストが幽霊の代わりなんだろうか?シーツゴーストの他にも、ゴースト系の魔物とかいたりしてさ。
まぁ考えても分からんな。この世界に幽霊って概念は無いって事で。
「・・・ですので、ユーレイというのは、この悪霊の屋敷だけの存在です。ダンジョンの外に出てしまうと、ユーレイは存在できなくなります。」
そういう事か。
じゃあ僕がさっき言った、ダンジョンの主が創り出した魔力で出来た存在ってのは、あながち間違ってないのでは?
まぁどうでもいいか。
ルナ様なら概念すら捻じ曲げて幽霊を外に出してくれそうだが、こうしてセリスに伝えているのだから出来ないのだろう。
もしくは出来るけどやってくれないとか・・・どう足掻いても無駄だな。
「そうか・・・・・・。助けてくれたのに、僕からは何も出来なくて、ごめんな。・・・ありがとう。結城さん。神さん。山本さん。」
オレイヲ………イ………………イウノ………ハ………ワタシタ………チ………
ウラミ………ハラセタ………………アリガトウ………………
…………………………………
この幽霊達、復讐するために付いて来てくれてたのか。復讐できた事をありがたがるところも実に幽霊らしい。
続いてアラクネさんの方を見る。
しかめっ面で流し目をしていて、相変わらず目を合わせてくれない。
この娘はどうしよう。別に助けてもらってないんだよな・・・。
なんだったら邪魔してきたんだけど・・・こんな顔されたら、本当の事言えないな。もとより傷付くような事なんて言わないけど。
「アラクネさんもありがとうな。せっかく仲間になってくれたのにすぐ別れる事になるなんて・・・何も出来なくてゴメンな。」
(あんた本気で言ってるの?・・・ほんと男なんて最低。本当に最低だわ。)
・・・あ、あるぇ?
何でさっきの発言が、男全体の地位低下に繋がるの?
この妄想恋愛マスターの私の理論が間違っていたというのか?信じられナイツ。
「リョウさん、あの、彼女は違うんです。彼女と列車で会ったオヤマノモンキーは例外です。このアラクネは外に出ても大丈夫です。」
おま・・・ねぇセリスさんさぁ、そういう事は早く言ってくれてもいいんじゃないですか?いきなりアラクネさんの好感度ダダ下がりじゃないですか。
「い、今のは冗談で・・・ダンジョンのボスを従魔に出来るなんて心強いなぁ〜。強くって可愛いから、ぼくちん嬉しいなぁ〜。」
(あっさり殺された私に嫌味を言っているの?最低だわ。)
くっ・・・どないせぇっちゅうんじゃい。
・・・まぁいい。このアラクネさんは本当に従魔になったって事でいいんだよな。
幽霊のはず・・・だよな?結城さん達同様、体が青白いんですけど?
何故、アラクネさんとう○こ猿は例外なんだ?
結城さん達との違いは、人型ではない事、それと大鎌と数珠以外の攻撃が当たった事だ。
人型ではなく魔物の幽霊ってのは確かに特別感あるな。ルナ様の予想でも、魔物か魔族のメスを従魔にするクラスだし、納得できる。
そうなると、じゃあ結城さん達は?って事になるんだが、さっきセリスが、結城さん達は魔物ではないとはっきり言っている。
おそらく、マジでダンジョンマスターへの復讐で憑いて来た・・・いや、付いて来たのだろう。
もしくは、僕の溢れ出るカリスマに・・・無いな。この恨みはらさでおくべきか、だな。多分。
大鎌と数珠以外の攻撃が当たったってのも、アラクネさんだけなんだけどな。
オヤマノモンキーのレア種には当たってない・・・ていうか試してない。
ボス部屋にいた魔物にしてはあっさり倒しちゃったしな。あの大鎌が強過ぎるんだろうが、もしかしたらアラクネさん同様、他の攻撃も通っていたかもしれない。
そんな事を言い出すと、学校エリアに居た数々の幽霊達にも試してはいない。試したのは、敵だった時の結城さんにだけだ。
う〜ん。頭痛くなってきた。
試そうにも、ダンジョン無くなるしな。
もうルナ様に全部聞いた方が早い気がする。教えてくれるか分かんないけど。
「・・・兎に角、結城さん達はここでお別れだな!ありがとう!! 初めてのダンジョン探検・・・終了だ!!」
その言葉を聞いて、セリスがモノリスの中に入って行く。
続いて、イム、ピノ、ルシルも入った。
結城さん達は泣きながら微笑んで、手を振っている。
な、泣くんじゃないよ。僕まで貰っちゃうだろ・・・。
アラクネさんはそんな彼女らを見て何かを考えている。
「アラクネさん、もう行くぞ。本当に付いて来ない気じゃないよな?」
(黙って先に行って。)
おおぅ、一蹴されたぞ?
僕がご主人様なのに!キィーーーッ!!
「本当に来いよ?本当だぞ?来なかったらおしりペンペンタイムだからな!」
(気持ち悪い・・・犯罪者の思考ね。最低。)
僕は挫けない。なんたって美少女に言われているからさ。ご褒美だよ。でも何故か心は痛いんだ。ぴえん。
(・・・貴女達、どうなるか分からないけど、やるわよね?)
悲しむ僕を無視して何の悪巧みですか?
・・・はいはい。黙って先に行ってますよ。ぴえんぴえん。
僕は、出口である筈の巨大なモノリスの中に入った・・・。




