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51話:マナーモード付き熱さまスライムシート子供用




ピノとケンカしながら、1段、1段と降りていく。

黒い煙に下半身が飲み込まれる。でも、地面に足はついている。大丈夫だ。


そのまま胸まで・・・顔を入れる時には、思わず息を止めたが、全く意味はない・・・






が、顔を煙の中に入れた瞬間、突然なにかに襲われた!


「ッッーーーーーー!!!!??」


顔面にヒヤッとした何かが貼り付いたのだ。

・・・ていうか、イムだ。


マジでこんな場面でする事じゃないよね?人間、本当にビックリした時って声出せないんだよ。正にそれだよ。


そんな僕などお構い無しにパニックになっているイムは、また僕の服の中に潜り込んだ。


何だというのだ一体。

だが、気持ちの整理もつかぬまま、今度は両腕をがっちりホールドされる。これは列車でもされたから分かる。セリスとルシル(あの二人)だ。

右側のエプロンドレス越しおっぱいは素晴らしいの一言に尽きるが、左側の金属胸当て越しおっぱいは残念だ。でも、右側とおんなじくらい左側も幸せだよ。分かるかいこの気持ち?




両手に花な状態ではあるが、状況を確認しよう・・・・・・・・・


神さんが言っていた通りの広い廊下。

例に漏れず薄暗く、明かりは、学校エリアにもあった非常灯の緑の明かりと、点滅する蛍光灯。

僕達全員が横並びでも歩けそうな大きな廊下には、何枚かの扉と・・・突き当たりにある大扉は開け放たれている。

そして、廊下の所々には・・・ボロボロの診察台、車椅子・・・。



・・・・・・まさか、まさかまさか。

ここって、もしかして・・・び、病院・・・か?


「りょ、りょりょりょ、リョウさん!や・・・やっぱり!ダンジョン制覇は諦めて・・・か、帰りませんか・・・!?」


お、おい!セリス!なに言ってんだよ!?

こんだけの謎解いといて、今更帰る訳ねーだろ!!


「あ、あぁ・・・。ごめんなさいぃ〜、ごめんなさいご主人様ぁ〜。じ、実は・・・私は、ユーレイが苦手なんですぅ〜〜!!」


知ってますぅー!!周知の事実ですぅーー!!

何だよお前ら!勇んで先に行ってたじゃねーか!おらっ、イム!おめーも携帯のバイブみてーになってないで出てこい!


「・・・ウソよ、こんなん。これきっと夢ね。ホントのわたしはリョ〜君のお父さんに殺されたのね、きっと・・・。」


ピノ!しっかりしろ!そんなにか!?まだ幽霊も出てないし、雰囲気だけだぞ!?

因みに、リョウ君のお父さんってのは勿論ゲバルド氏の事だぞ。僕の従魔になって以降の初対面は傑作だった・・・まぁ、今そんな話くそどうでもいい。


「うわぁ・・・。さっきの列車もとんでもない場所だったけど、ここは更に凄いね。」


最後に階段から降りてきたフィリップさんが、メモをとりながら感想を言っている。

流石おっさん。年の功だな。


「平気ですかフィリップさん?」

「平気?ははは、いやぁ虚勢だよ。僕もこんな場所は恐いと思うし、1人で来てたら絶対に進めないと思うよ。」


いや僕はさっきショックを受けていた時の事を言っているんだが。まぁ、それを含め強がってみせているのかもしれない。


「僕よりリョウ君の方が平気そうじゃないか。この中で1番若いだろうに、凄いね。」


実はフィリップさんより僕の方が年上ってオチね。

まぁ僕とフィリップさん以外は人間ですらないので、年齢がどうとか関係無いよな。



トビラ………アカ………ナイ………………

………………………………


廊下の脇に控えていた、結城さんと山本さんが寄って来た。

そうだよ。この二人が廊下の隅で雰囲気出しながら立ってるもんだから、余計に雰囲気出ちゃってんだろぉ?

・・・まぁ、めっちゃ真面目に仕事してくれてるんで、絶対言えないですけど。


どうも結城さん達によると、何枚かある扉・・・多分病室だと思うが、それらは扉があるだけで、実際に部屋は無いらしい。

つまりは、この病室も診察台も車椅子もただのお飾りって訳だ。ダンジョンの主がここを病院だと思わせるための演出だという事だろう。



というわけで、進める道はただ一つ。

廊下の突き当たりにある、何故か開け放たれている部屋なのだが・・・そこの表札には・・・



[霊安室]



「い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!ヤ゛バイ゛!!!?あれはヤバイぞ!!!!ホラーで1番ヤベー場所だから!!!!」

「駄目です!リョウさんがパーティーのリーダーなんですから、ここ一番というところでは先頭で行くべきなんです!」

「ご主人様の勇ましいお姿、この目にしかと焼き付けます!ご心配には及びません!応援はしっかりとさせていただくので、行って下さい!」

「早く行かないと蹴るわよ!だいじょーぶよ!わたしらも後から行くから!!」


あああああああああ!!!なんじゃあコイツらああああああ!!!

僕一人で行ってどーすんねん!!スライムにも勝てんのんやぞ僕はあああああああああ!!!



両腕をホールドされてグイグイと押し出されても、予告前から背中をゲシゲシと蹴られながらも、それでもなんだかんだ付いて来てくれているパーティーメンバーと一緒に・・・霊安室に入る。


やべぇよやべぇよ・・・。ぼ、僕はね、ダンジョンを攻略するために、ちょーーーっとだけここを通りたいだけなんだよ。だからね、文字通り霊の方々は安らかーにしていてほしいんだ。僕はね、ちょー無害な人間なんで。ですからどうか安らかに・・・あっ、いや、学校エリアではお仲間さんをね、ちょっとばかしヤっちゃったけんども、あれはですね、あちら側からお始めになった事でございましてね・・・僕等はなーんも悪くないんすよ。ですから、ですからどーか安らかにお眠りになって・・・・・・



あ・・・あれ?

霊安室って・・・こんなに何も無い部屋なの?






………バタンッ!!


パーティーメンバーが全員、霊安室に入ると突然、大扉が閉められる。

・・・そうです。うちのメンバーの誰かが閉めたのではありません。イエス、イッツ・ア・ポルターガイスト。Don't来い(来るな)超常現象!


「しまった・・・監禁罠だ。」


フィリップさんが忌まわしげに閉まった扉を見ながら言う。

ここにきて罠か・・・なんか、罠らしい罠が無くて、ダンジョンには罠が付き物なんて事すっかり忘れてたよ。

だから、ほらっ!みんなしっかりしろ!霊的なもんでもなんでもなかったんだから!背筋伸ばして涙目になってる場合じゃないぞ!


「えっと、フィリップさん。監禁罠の解除はどうすれば?」

「部屋の中で何かを成し遂げればいい。大抵は魔物を倒す事になるんだけど・・・。」


ふむ。まぁお決まりのって感じだな。


閉じ込められたのは分かったが・・・ここは何処だ?

霊安室に入った筈だよな?霊安室なんて行った事は無いが、今居る場所は絶対違うだろ。

薄暗いからよく見えないけど、部屋が結構広いし、物が全然無いし・・・床なんかフローリングなんだけど。


「リョウさん・・・あれ、誰か居ます。」

「・・・ご主人様、臭いです。」

「リョウ君、あそこ。何か光ってるよ。」


ちょっとちょっと、いっぺんに喋らないで。

後、誰か悪口言わなかった!?


取り敢えず、誰かが居るなんて世迷い言を言うセリスから処理しよう。

ここ、ダンジョンの奥よ?僕等以外、誰も居る訳ないじゃん!!






・・・・・・・・・・・・いんじゃん。

めっちゃ目の前にいんじゃん。

あの赤い着物の女性が此方に背を向け、座り込んでいる。

急に現れた?最初から居たのか?分からねぇ・・・つーか、誰かとかじゃないよねえ?幽霊だよ普通に!青白いもん!



う………うぅ………………うっ………………


………うぅ………うっ………………うぅ………………



あぁ、何故泣いている!?悲しいのか!?そうか!可哀想!

いやまておちつけ。あれは正しくあの赤い着物の幽霊。今朝一番に僕達を戦慄させ、そして行き詰まる僕達を救ってくれた謎の女性。そんな女性が悲しみに暮れているというのなら、今度はこちらが救ってあげるというのが英国紳士たる私の役目というもの。

いやまておちつけ。ここはダンジョン。そして今、監禁罠というシンプルかつ厄介な罠の真っ最中。罠を解くには部屋の中で何かを成すしかない。その殆どが魔物を倒す事で解除される。そこに現れる幽霊。ヤるしかねえだろうがよ!背中を向けた無抵抗の女性をよ!

いやまておちつけ。そんな外道な事でいいのか?あの幽霊は明らかに罠の鍵だが、助けてくれたのも事実。そして幽霊に会ったら必ずしていた耳鳴りと動悸がしないではないか。つまり女性に敵意は無い。そしてさらに彼女は幽霊だ。つまりは私の従魔となること確定のモン娘っ子ではないか。あれ?じゃあやっぱヤるんじゃねーか。



「あ、あの・・・リョウさん?」

「よし、ヤッテヤルデス!セリス!」

「え?・・・あの、本当に倒すんですか?あのユーレイ、何もしてこないですよ?」


・・・ふむ。まぁそうだな。今度こそ落ち着け。


僕には無抵抗の女性を押し倒す趣味はあっても、殺す趣味は無い。

そんな紳士な僕が、無抵抗の泣いている女性を背後から殺し、あまつさえクラスの力で無理矢理従わせるってのは如何なものか。

僕のクラスは魔物を仲間にするクラスだし、僕自身、従魔が居なければ満足に戦えない。その彼女等の前で、そんな邪道な姿を見せてもいいだろうか?


前に、僕がセリスから特訓(かわいがり)を受けていた頃・・・僕の戦法が運良くセリスに通用して、立場が逆転した時があった。

僕がイムを使ってセリスにヒドい事をしようとして・・・イムは軽蔑した目を僕に向け、渋々ながらも命令を聞こうとしていた。


僕の従魔達は、ペットとかそこら辺に居る魔物程度のレベルではない。

見た目はほぼ人間。人間と変わらぬ知能を持ち、言葉まで喋る。仕事をさせてみれば、他の人間よりも働いてみせる。


彼女達は頭が良いのだ。人間以上だと言ってもいい。

そんな彼女達に、人の道を外れた行為をみせれば、僕から離れていってしまうかもしれない。

なにより、僕も彼女達にそんな姿を見せたくない。彼女達に見限られると・・・僕はこの世界で生きてはいけない。



できれば穏便に従魔にしたい。・・・とまぁ、僕の希望としてはこうだ。

だが、目の前の幽霊はどうだ?

ちょっと細すぎかな。お尻も小さいし、僕はもうちょっとだけ肉が付いていた方が好み・・・ってアホか。そんな事じゃねぇ。

まず、この幽霊が僕の従魔かなんて決まってないし。

オスかもしれないじゃん!・・・まぁそれはそれでいいんだが、そんな奴リタだけで十分だな。

メスでも僕の従魔にならない可能性だって、立て続けに従魔になった結城さん達のおかげで消えつつある。


まぁ取り敢えず、コイツを従魔予定の魔物だと仮定しよう。

いつものように仲間になる前に勝負になってもいいし、ルシルのようにすんなりと仲間になってくれてもいい。

そのためには、悲しんでないでさっさと行動を起こして欲しいもんだが、どうやら赤い着物の幽霊は何もする気はなく、悲しむだけ悲しむつもりらしい。


すぐ後ろに自分の事を殺すか殺さないか考えている集団が居るというのに、のんきなものだな。

それとも、これも罠のうちだというのだろうか?

この部屋に監禁されてるんだしな・・・ってもうこれって、敵対とみなしてもよくないか?

いやまぁ、罠を張ったのはダンジョンの主で、この幽霊には敵意は無いかもだし・・・でも、この幽霊はダンジョンの魔物なんだから、主の手下な訳で・・・。



もうっ!堂々巡りだな・・・。

もういいよ!あっちから行動を起こす気が無いなら、こっちから起こせばいい。


・・・やっぱり、こっちから話しかけるのか?

肩でも叩いて、どうしましたかお嬢さん?って?

それを待ってましたといわんばかりに、豹変して襲いかかってくる幽霊さんってか?


・・・だよなぁ。やっぱホラーってそういうもんだよな。

ここのダンジョンの主ってのは、とことんホラーゲームをさせたいらしい。趣味の悪いヤローだ。




僕は一人で赤い着物の幽霊に近付いて行く。

どうせ他の奴に言っても、行ってくれないだろうし。


・・・真後ろまで来ても、赤い着物の幽霊は何のアクションも起こさない。変わらず泣き続けている。

肩・・・叩けないよな?幽霊だし。まぁいいか、触れるって事が大事だろう。


「よう。キミ、大丈夫か・・・ 」






「・・・リョウ君!?ここはボス部屋だ!!?」


フィリップさんの叫びに、全く反応する事は出来なかった。


肩へ伸ばした手は、幽霊に触れる事は無い。

霊体だから当然触れれはしないのだが、それ以前の問題で、僕は幽霊に触れる前に足首を何かに絡め取られ、真っ逆さまに宙に吊り下げられていく。


地面がどんどん遠くなると同時に目に入って来たのは、見上げる仲間達と、4階層や列車エリアでも見た台座。その上には・・・赤黒い水晶玉が乗っていた。

あれ・・・色が違う・・・?


てかこれ何処まで上がるの?下りられなくなっちゃうじゃん!

病院にしては天井高過ぎるよ!お前んちの天井高くない!?


「ご主人様っ!?」


ルシルが水属性の魔法を、僕の足を目掛けて放つ。

水の刃は、僕の足絡め取っていた物を切ったようだ。その証拠に、今度は身体が地面に向かってお、落ちるーー!!


が、そんな事を許すルシルではない。

高く跳び上がったルシルにしっかりと空中キャッチされる。

流石は魔族様、これで安全に着地・・・


「なにっ!!?」

「な、何だ!?このネバネバ・・・!?」


安全に着地する事は叶わず、僕とルシルは空中にあった謎のネバネバした物に絡め取られる。

コレ・・・さっき足首に絡まったやつと一緒の物か!?何で今度は空中なんかに・・・。



アハ………アハハ………………………


ニ………ガ………サ………………ナイ………………………



今度は何だよ!?

・・・座っていた赤い着物の幽霊が、ゆっくりと立ち上がる。

アイツか!?


アハ………アハ………アハハハハハハッ!アーッハハハハハハハハハハハハハ………


狂った笑い声が聞こえたと同時に、今迄で一番と言っていい程の耳鳴りが起きる!


ぐぅぅ・・・頭いってぇ・・・!

アイツ、やっぱり敵だったか!?



ベキッ!!

ゴキッ!!



あ・・・なん・・・だ?あれ?


骨の折れるような、不快で、嫌な音と共に、赤い着物の幽霊の下半身が変形し始める。

細い女性の身体から、明らかに質量を無視したものが出てきている。嫌な音は更に激しさを増し、上半身の何倍もある黒い下半身が段々と形になっていく。



「セリスさん、ここが()()だ!出し惜しみしなくていい!」

「了解です!皆さん、目を閉じてください!!」


セリスがフィリップさんの声に答え、片手を上に向ける。

何すんの!?ちょ、ちょ待てよ!?



バンッッ!!!



破裂音と共に強烈な光が放たれ、思わず目を閉じる。

うおっまぶしっ!!目がっ、目があああぁぁぁ〜!


光は一瞬だった。どうやら崩壊の呪文ではなかっようだ。

目を開けると、部屋全体が大型照明を点灯したかのように明るかった。

そうか、さっきの光魔法は照明か!魔導具の照明では、この広い部屋の全体までは照らせてなかった。今では外の昼間のように明るい。


・・・って、この部屋、体育館じゃないか!

広い筈だよ。ここに来て体育館を出すのか。霊安室なんて全然関係無いじゃないか!

だがここ、普通の体育館じゃない。体育館中にネバネバした白い物が張り巡らせれてる。僕とルシルが絡め取られてるのもコレだったのか。


・・・いやいや、男の体液じゃないですよ。ホントに。ルシルはまだしも、僕が絡まっても需要ないですから。

これは・・・蜘蛛の糸だ。


あの赤い着物の幽霊の正体は、アラクネだったのだ。

普通のアラクネと色が違う、真っ黒の下半身。真っ黒のおかっぱ頭。そして、宝石のように輝く真っ黒な白目の無い眼。

下半分が破けた赤い着物と病人のような白い肌を除けば、全身が真っ黒。黒一色の幽霊のアラクネ・・・レア種だ!



「くっ!ご主人様をこんな目に・・・。すぐにお助けします!!」


そう言って僕を抱えたルシルが、力任せにアラクネの巣を脱しようとするが、余計に糸に絡まってしまう。


「駄目だ、ルシル!魔法で何とかしないと!」

「それでは私の魔法がご主人様に・・・それだけは嫌でございます!」


そうか・・・くそっ!僕が完全に足引っ張ってんぞ。


(イムに、まかせる・・・・・・。)


懐からイムが出て来る。

そうか、イムが居たの忘れてた。イムの吸収なら、アラクネの糸だって吸収出来る筈だ。


「イム!そんな小さな体でチマチマと!早くご主人様だけでも助けなさい!!」

(じゃあ・・・・・・息、止める。)


そう言って、ルシルの頭に移動したイムは、ルシルを頭からすっぽりと呑み込んでいく。

イムの体に包まれたルシルが、目を吊り上げ激しく何かを訴えているようだが、一切聞こえない。



「リョウさん!!!」

「リョー君!!!」


下からセリスとピノが危険を報せてくる。

振り向くと、アラクネが僕がいる高さまで糸で昇って来ていた。

やばっ!蜘蛛だから高低差なんて関係ないよな!

アラクネは脚を一本斬り飛ばされていた。イムとルシルのコントを見ているうちにセリスがやったのか!?


アラクネは僕を鋭く見つめて、ゆっくりと首を傾げる。

腰から上は人間の身体なのに、眼だけが虫のように真っ黒だ。光が吸い込まれていくような深い色の眼には、当惑がみえる。

いや、僕にそんな占い師みたいな事は出来ない。これは僕のレア種限定で魔物の考えている事が分かる能力のやつだな。

・・・何を戸惑っている?何を迷っている?



コ………………ロ………………シ………………テ………………………



瞬間、憎悪の念がアラクネから送り付けられる。

また最大級の耳鳴りが起こり、心臓の激しい音しか聞こえなくなると同時に、今度は幻覚まで見えだした。



抵抗しても・・・抵抗しても・・・押さえつけられる。

ゴミを見るような目で見下げる男・・・誰だ・・・コイツ。

その男が何かを叫ぶと・・・抵抗する力は消えてしまう。

何度も、何度も、何度も、何度も・・・・・・

こんな事の為に産まれてきたのか?

私は失敗作なんかじゃない!

何度も、何度も、何度も、何度も・・・・・・

殺せば終わるの? 死ねば終わるの?

シネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネ






「う、うあああああああああああああああッッ!!!!!」


僕はおぞましい幻覚に耐え切る事が出来ず、思わず叫び声を上げた。


次の瞬間には、僕はセリスやフィリップさんの居る地面に下りていた。

・・・ルシルの魔法か!?イムは僕達に絡まっていた糸を全部溶かしたらしい。


「フィリップ様!ご主人様を頼みます! あのアラクネぇ!!ご主人様になんて事を!塵も残さずこの世界から消してやる!!」


・・・ちょ、ちょっと待て落ち着け。塵でもいいから少しは残せよ。分かってんだろうな?


「え・・・? あ、あぁ。リョウ君大丈夫かい?多分、精神的な攻撃を受けたんだね。戦闘は彼女達に任せて、落ち着いた方がいい。」

「い、いや・・・。内容的には大した事無かったんです。大丈夫ですから。」


・・・大丈夫だ。よし。

あんくらいのもの、ホラーゲームで何回も見てきたんだ。ちょっとあれがVRになっただけさ。

僕の売りは、空気の読まなさともっこり力なんだよ!こんな事で止められると思うなよ!


「セリス、何をしているのです!貴女しか倒せないのですよ!?」

「分かっています!ただ、高い場所に行かれると為す術がありません・・・。」

「魔法も効かないとは厄介ですね・・・周りの糸から崩しましょうか?」

「ルシル。それ、やったけどダメだった。わたしの風魔法だと切れないし、セリスの火魔法だと溶けるだけ。刃物ならいいかなと思ってリョ〜君の武器でやったけど、切れなくて糸だらけになっちゃった。」


おいぃ、淫ピぃ!!?僕の仕込み杖に何してくれとんじゃあ!!新品やぞ!!


「・・・では私の水属性魔法しか通用しなさそうでございますね。セリス!機会はあまりありませんよ!奴が降りたら確実に仕留めなさい!」


ルシルが珍しく指揮を取っているが、これじゃ駄目だ。水圧で糸は切れても、アラクネが糸を張り直していけば、イタチごっこなだけだ。



アラクネは体育館の天井を移動しながら、此方を見下げている。

くそ・・・僕に出来る事は?

数珠で・・・いや、あんな高い場所にいるアラクネの動きを止めても駄目だ。やっぱり地面に降りてからじゃないと。


蜘蛛の糸って何に弱いんだ?確かに風には強そうだし、燃えるイメージも無いな。朝露とかで水滴がついてたりするし、水にも溶けないだろう。さっきのルシルの魔法で切れたのは、あくまでも水圧だ。

凍ったりもしないよなぁ。電気は・・・通るかもしれないけど、雷属性魔法なんて誰も持ってないしな・・・うわっ、蜘蛛の糸って凄いんだな。


感心してる場合じゃないぞ。取り敢えず、蜘蛛の糸には土属性魔法の方がいいと思う。

そうルシルに伝えようとしていると、アラクネが先に動いた。


アラクネは腕をゆっくりと此方に向け、指を差す。

・・・何だと?アラクネは今、「奴等を殺せ」と誰かに命令したぞ?

一体誰に?ここにはもう、僕達とアラクネしか居ないぞ?



ォォオオオオオオオオオォォォォォォ………………

ゥゥウウウウウウァァァ………………

アアアアアアアアアァァァァァァ………………



何処からか聞こえるうめき声。

道中、散々聞いてきた地獄の呼び声。


う・・・嘘だろう?

あのアラクネが呼びやがったのか!?


体育館の壁から、器具庫から、そして僕達の入って来た入口から。3匹の幽霊が壁をすり抜けて現れる。

しかも、その3匹の幽霊は今迄の奴とは違った。

学校エリアで会った幽霊達は、学生服か、神さんみたいな教師の服・・・つまりはあっちの世界の服を着ていた。

だがコイツらはどうだ?

コイツらは全員、冒険者の格好をしているのだ。

しかも青白く光る武器まで持っている。長剣を持ち、槍を持ち、そしてメイスを持った男達の幽霊が、苦悶の表情でゆっくりと近付いて来る。


「ピギャアアアアアアっ!!リョー君!リョー君!早く!!ジュズ!ジュズーーッ!!」

「おおおおおおお!あ、悪霊退散悪霊退散よーかいあやかしコマンダー常磐ッ!!」


いやもう、もう少しマシな呪文はないのかと。

だが、これでこの場に居る幽霊全員の動きが止まる。男達の幽霊とアラクネ、そして結城さん達も、頭を抱え苦しみだす。

ああっ!?ゴメンよ!我慢してくれ!


その隙にセリスが槍の幽霊に肉薄する。

ギリギリで立ち直った槍の幽霊が柄で受けようとするが、セリスの大鎌はそんな物関係無いとばかりに、槍ごと幽霊を斬り伏せる。


相変わらずの大鎌の威力だが、まだ冒険者幽霊は2人居る。それにアラクネも立ち直って此方に両腕を伸ばしている。


「ルシル!水じゃない!土属性だ!!」


それを聞いたルシルが、地面に片手を突く。

それと同時に、アラクネの両腕から蜘蛛の糸が発射されたが、ルシルの土でできた壁の魔法に阻まれる。


「流石はご主人様!聡明な判断でございます!!」


世辞はいいんだよ!絶対いいようにさせるなよ!!



「リョー君!!ヤマモトが死んじゃう!早く!!!」


・・・は!?

ピノの声を聞いて振り向く。


山本さんが横たわっている。近くにはメイスの幽霊が、武器を振り抜いた姿のまま残心していた。

長剣の幽霊には、結城さんと神さんが2人掛りで戦っているようだ。

まさか・・・向かって行ったのか!?

無茶だ!いくら同じ幽霊でも、丸腰の女の子と冒険者では!!


「クソッ!! 退けッ!退けーッ!!退散ー!!退散ーーー!!!」


もう呪文なんてなんでもいい。

兎に角、適当に叫びながら山本さんの元へ駆け寄る。


苦しむメイスの幽霊を無視し、山本さんを助け起こして・・・って触れないじゃん!!

山本さんの身体を擦り抜け、スカッと空を切る僕の腕。

ふんぬうぅぅぅぅぅぅ!気合でどうにかなれぇぇぇぇぇぇ!!



・・・・・・っは!?殺気!!!?

巨大な憎しみをぶつけてくる相手は、やはりあのアラクネ。

天井に逆さになって立っている彼女が持っている物は、白く歪な槍。それを今にも投げんと、後傾姿勢になっていた。


あの槍は何だ?何処から出した?

あんな体勢から投げて、僕を殺す程の槍投げが出来るのか?

いや、相手は魔物だぞ?そんなの軽々とやってのける。

右目の端には、さっき無視したメイスの幽霊が居る。

そりゃそうだ。山本さんを連れて逃げれなかったんだもん。

僕があのメイスをくらったらどうなる?

当たる?当たらない?試す価値も無いな、分が悪過ぎる。

数珠の力は間に合うか?助けは来そうか?来ない場合で考えるべきだぞ?

どうする?どうする?どうする・・・?

僕が取るべき行動は・・・?






(イムに、まかせる・・・・・・。)


アラクネの槍は・・・投げられる事は無く。

足場の蜘蛛の糸を()()されたアラクネは、自由落下を始めた。

パーティー内で唯一、蜘蛛の糸へ対抗できたイムが、こっそりとアラクネへと近付いていたのだ。


地面に落ちて行くアラクネへと追撃するため、イムは変化(へんげ)を使った。

いつもの煙が晴れ、現れたのは、巨大な立方体となったイム。


そのまま2匹の魔物は地響きをたてて落下し、・・・自分の何倍もある質量に押し潰されたアラクネは、まるでトマトのように破片を撒き散らしながら潰れた。






・・・・・・あ、あれ?アイツ、幽霊じゃ?



あっ!?メイスの幽霊は・・・ヒッ!!!!?


僕の目の前に転がって来たのは、メイスの幽霊の顔。だがその顔は苦悶の表情ではなく、安心した表情となっていた。

メイスの幽霊の身体の方を見てみると、今まさに光の粒子となって消えているところだった。


メイスの幽霊の後ろには、大鎌を持ったセリスが。

そして、いつの間にか僕の隣にはルシルが。僕とアラクネの直線上だった場所には、ピノが両手を広げ、槍の投擲から体を張って守るように翔んでいた。


「ぐっ!!!せ、セリスさん!!」

「はい!すぐにお助けします!!」


長剣の幽霊がまだ残っていた。

フィリップさんはそっちのフォローをしていてくれたようだ。


「・・・ルシル、頼む。」

「了解しました、ご主人様!」


ルシルもフォローに向かわせる。

まぁ後は消化試合だろう。任せてしまおう。


はぁ・・・・・・疲れた・・・・・・。




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