5話:暫し別れ
・・・・・・目が覚めた。
どのくらい寝ただろう。部屋の中は薄暗いが、今何時だろうか?
よく寝たなあ。安心したんだろうか?
本当に3日位寝たんじゃないだろうか?流石に怒られそうだな。
それよりも気になる事がある。
僕の寝床に侵入して、腕にしがみついて顔を埋めている奴の事だ。
リタ君はもうちょっと空気の読める子だと思っていたんですけどね。
「スピィー。スピィー。」
違いましたカティちゃんでした。リタちゃんご免なさい。
この子なにしてるん?もう腕ベッチャベチャですけど?
「おいアンポンタン。起きなさい。」
「ん・・・んんー、う~ん。」
もっとギュッとしてきた。
こっちがう~んだわ。う~ん、どうすりゃええねん。
「起きないとお前がおねしょを隠した回数を暴露する。」
「う・・・?」
「さんじゅ〜〜・・・。」
「ウーンヨクネター。アッ、リョウクンオハヨー。」
コイツ起きてやがったぞ。凄い棒読みだ。
因みに、何で幼女のおねしょの回数を知ってるんだ?変態かよ!と思われるかも知れないが、しっかり理由がある。
未だにおねしょの治っていないカティは、まだ前世の記憶が戻って来てない僕に助けを求め、上手く誤魔化してきたそうだ。
それが記憶の戻った今でもまだ続いている。
リョウはその出来事を深く心に刻みこんだ。
勿論変態的な意味では無い!ことは無い!!
「リョウ、もうだいじょうぶなの?どこもいたくない?」
「お前の方が心配だよ僕は。気絶してたろ。」
「あたしはへいきだもん。あたしよりリョウだよ!あたしをまもってくれたからしんぱいだったの!」
僕って守ったか?守られてた記憶しか無いけど。
「リョウはあたしよりへなちょこなのに、つよいハーピーにむかっていったでしょ!もうあんなむちゃしないで!あたしがまもるんだから!」
あぁ、あれか。
「カティだってあのハーピーには無茶しただろ。だから時間だけでも稼ぎたかったんだ。お前だってあんまり無謀なことするな。死んだらみんな悲しむんだぞ。死んだらそこで終わりだ。」
司祭様もヨハンナさんも、エリオもリタもマルタも、僕だって悲しいよ。
みんなカティが好きなんだ。
まぁ、自分のことを棚に上げて偉そうなこと言ってるんですがね。
元の世界の家族は、突然消えた僕をどう思ってんのかね?
多少は心配くらいしてくれてるとは思う。
大体、定番どころだと元の世界に戻る手段を見つけるってのが目的だったりするんだけど、僕にはそんな気持ち全く無い。
まぁ僕の場合、ルナ様に転生して貰う時に元の世界には戻らないって誓っちゃてるしなぁ。
戻る気も無いけど。親不孝者ですみませんね。
「でも・・・。」
「でもじゃないの。大体僕だって、みんなと訓練してるんだから、少し位大丈夫だって。」
「・・・スライムにダメージいれられないじゃん。」
「・・・・・・。」
ほら、あのスライム、色違いっぽかったし・・・。まぁ普通のスライムにも勝てないんですが・・・。
カティは一層僕に抱きついてきた。
「つよくなるね・・・。あたし・・・。どんなやつがきても、ぜったいまけないくらいに・・・。」
「・・・そうか。でも無茶すんなよ。何かあったら相談しろよ。」
「やだ・・・。リョウがあたしをたよって・・・。」
「・・・馬鹿め。まずは鼻水位止めてから言え。」
「バカじゃないもん・・・。」
カティなら大丈夫だろう。
学校から帰って来た時には、とんでもなく強くなっていることだろう。
カティの10歳の神託が楽しみだな。コイツだと、どんなクラスになるんだろう。
そして、折角幼女と良い雰囲気になったところで、お邪魔虫が現れた。
「リョウ君入りますよ。シスターヨハンナに消化に良い物を作って貰いました。食べないと元気になりませんよ・・・あれっ?」
「リョウ〜。ボクが優しくフ〜フ〜して食べさせてあげるね〜・・・あーーっ!!」
マルタとリタだ。
やかましいわ。こっちは怪我してるんやで!
「ズルいよカティナ〜。ボクだってまだ初めてあげて無いんだよ〜。」
アホかコイツは。大人はそのままよ 子供はBボタンを押してね。
「えっ?はじめてってなに?」
「それはな、私のもっこりがビッグになり・・・」
「教えなくていいですから!!」
なんだマルタも知ってるのか。マセガキ共め。
お前らマジで歳を考えろ。このゲームに登場する人物は全員18歳以上です。とか通じないからな。もう歳言っちゃってるもん。なんなら今から18歳以上にしますか?いいですよ僕は。僕の守備範囲、外野全部1人で守れる位広いですから。なんならここにエリオ君も足しますか?ルナ様も足しますか?やっぱルナ様はいいです。しゃーねーな!エリオ君お先に失礼するよ!もう僕はこれから大人の階段登るんだわ。なんたって18歳以上だからね!
「仕方ねぇな。みんな面倒見てやるよ。さ、来なさい。」
「んも〜。ボクだけじゃないの〜?そこが素敵なんだけど〜♡」
「えっ・・・うん//////」
「ちょ、ちょっと何で二人共乗り気なんですか!わ、わた、私はその・・・まだ・・・。」
このあと滅茶苦茶なんも無かった。
あったら困るわ。
◆◆◆
あれから1週間過ぎた。
今日はカティが王都に旅立つ日である。
王都までは2週間以上かかるそうだ。そりゃ簡単には帰れませんね。
王都に用事のある領主様の馬車に、司祭様と相乗りして行くそうだ。
この世界では遠出する時には、商隊なんかの馬車隊に金を払ったりして相乗りするそうだ。
勿論、少数で遠出したりってのも、あるにはある。だが安全面が段違いだわな。
領主様も元騎士だそうな。
司祭様とは昔からの盟友で、王都では二人揃ってそれはもう有名人らしい。
国の危機を救ったことも数知れず。オシリ王国の英雄とまで称され、現役を退いたのに、戻って来てくれとラブコールが後をたたないそうだ。
領主様の名前は、コッラディーノ=アルベルティーニ。
司祭様にはディーノと愛称で呼ばれている。
ヒョロっとしていて、カイゼル髭が似合っているおやぢだ。
僕の中での貴族ってこんなイメージだよな。でも、全然偉そうな態度とかはとらない。めっちゃ気さくなおやぢだ。
たまーに孤児院に来ては、剣の修業を見てくれたりする。
司祭様の武器は籠手なので、剣は領主様の仕込みってことだ。流石に僕達全員殴りで戦うわけにはいかないしな。
カティは剣の才能の方があるんだろうな。司祭様がカティの修業を見る時の、たまにする悲しそうな目はそうゆうことだろう。
ちなみに領主様のクラスは、レアクラスの聖騎士だ。
カッコいいクラス貰い過ぎだろおやぢ達が!この後がまだつかえてるから!良いクラス出されたら僕達に回ってこないだろ!まぁ被ってもいいですよね!そりゃそうだ!
あと、領主様には息子と娘がいるのだ。
名前は確かリュドミラちゃんって言ってたかな。この子も将来の剣の腕が楽しみな子だそうだ。そして可愛い。
この子は僕達より一つ下なので、学園には来年入る予定のようだ。何より可愛い。
息子は知らん。跡取りなんだろ?ふんっ!うらやま。
え〜っとあと何か無いかな・・・。
そうそう、領主様の奥さんはドワーフなんだよ。
一回見たことあるが、犯罪臭が凄かった。ヤベッ私のもっこりよ収まれ。
なのでリュドミラちゃんと息子はハーフドワーフってことになるのかな。
あーこれくらいで誤魔化せないかな?駄目か・・・。
そう、この国の名前はオシリ王国。凄い残念な国名だ。
何故こんな名前なのか・・・。誰に聞いても知らないし、調べても分からない。
老若男女問わず、国名を口に出しても恥ずかしがることはないのだ。ひょっとして僕がおかしいですか?
まだまだありますよ。
僕達が住んでいるこの街。国の中でも重要な交易の拠点である我が街は、パイマーンである。
そうパイマーンだ。僕はパイマーンの住人です。パイマーンの街にようこそ。ここはパイマーンの街だよ。
あの髭のおやぢは、パイマーンの領主だ。
よかったね。
まだ紹介しましょう。
このパイマーンの街との交易相手であります、エルフの独立領とドワーフの独立領が近くにあるんですねー。エルフの独立領は前にも言いましたねー。あれでーす。
ドワーフの独立領の名前はアヌルスです。鍛冶も有名ですがお菓子も有名でねー。カヌレみたいな形した菓子が有名らしいですよ。素敵な名前ですねー。
エルフの独立領は、マーラと言います。ええ、勿論特産はキノコですよ?マーラの周りにはキノコ型の魔物が多いらしいですねー。
なんでしょうね?案外普通の名前っぽいのに、一回そうゆう風に見えちゃうと、もう卑猥な街にしか見えないんですよね。
本当は王都に行くまでに経由する所も素敵な名前達なんですが、いつか紹介出来ればいいですね。もう私は一歩もパイマーンから出ないぞ!
昨日はリタ、マルタ企画のカティお別れ会をやった。
孤児院の子供達総出で用意したパーティーに、カティは涙と鼻水を今世紀最大で流していた。ドン引きだ。
「み゛、み゛な゛じゃ゛ん゛。ほんじづはあ゛だじのダヴベェ゛に゛ありがダル゛ビッジュヴー!う゛お゛ぉぉぉーん゛!」
笑うな。笑うなって僕。笑ったらパーティーが台無しだ。
おいリタ!お前腹抱えて笑ってんじゃねぇ!カティを指さすな!
とまぁ、こんな具合にパーティーは大成功でしたよ。僕とリタは摘まみ出されましたけどね。僕は我慢したのに・・・。
そして今は、カティが出発する時間だ。時間なのだが・・・。
「エカテリーナ!いい加減にしないか!!」
「い゛や゛だーー!!リ゛ョ゛ヴも゛い゛ぐーーー!!!」
「リョウは連れて行けないのだ。諦めろ!」
「う゛お゛ぉぉぉーーーーーーん゛!」
そのうおーんって泣き方止めてくれません?
カティは今は僕の抱っこちゃん人形と化していて、司祭様が懸命に剥がそうとしている。
離れる気配は微塵も無い。
昨日が今世紀最大だと思っていたけれど、今日のが今世紀最大だったわ。
もう僕のシャツはスライム風呂に浸かりました?って風になってる。もう捨てよう。
「カティ。お前この前に何て僕に誓ったんだ?忘れたのか?」
「う゛ぉ゛・・・・・・。」
「僕が頼れる女になるんだろ。まぁ、僕もそんな情けない男になるつもりも無いけどな。」
「・・・・・やだ。リョウはあたしがまもるの。」
その情熱は何処からくるのやら。まぁここまで言われて悪い気はしないわな。ハナタレ小娘じゃなければな。
カティが僕から離れる。ひでぇ顔だなもぅ。
「カティナちゃん。ほら、そんな顔ではお出かけできませんよ。私達は離れていてもずっと一緒ですからね。」
「そうだよカティナ。ずっと友達だよ。」
「もう二度と会えない訳じゃ無いんだからさ〜。手紙も沢山送るよ〜。」
「うん・・・。みんなありがとう・・・。」
マルタ、エリオ、リタもそれぞれ別れの挨拶をした。これで随分落ち着いたようだ。
カティがエリオとマルタに抱きつきに行く。勿論涙と鼻水付きだ。
エリオとマルタのテンションが目に見えて下がった。
「あ〜ボクはいいよ〜。その分リョウに抱きついてあげて〜。」
「うん・・・。」
うん!じゃねーよ!
もう僕のシャツ、水分吸うとこねーわ!
「ヨハンナ、私が居ない間は頼むぞ。リョウ、分かっているな。」
「ええ。絶対に外には出ません。」
「む。よろしい。私は一ヶ月程で帰って来るだろう。それまで頼むぞ。ディーノ!もういいぞ!」
司祭様が領主様に声を掛け、馬車隊が王都に向け出発する。
カティが馬車から顔を出して、手を振った。
「み゛ん゛な゛ー!ま゛だね゛ーーー!!ずぐがえ゛っでぐる゛ーーーー!!!」
帰ってくんな!
本当に分かってんのかアイツ。
みんなで見えなくなる迄、手を振ってやった。
「ぅ゛ぉ゛ぉぉぉーーーーーーん!」
何処で覚えたんだよその泣き方。
第1章終了です。