36話:うわようじょつよい
『・・・わ・・・じ。』
・・・・・・ん?
『・・・るじ。我が主。起きて下さい。もう朝でございますよ。』
・・・なんなんだ一体?
寝ている僕の上でマウントを取っているのは、昨日僕の従魔になったルシル。
ここ最近、僕の周りを引っ掻き回していた、困った魔族である。
そんなルシルが、何故部屋で寝ていた僕を見下ろしているのだろう?
昨日、ルシルとピノは孤児院の外で寝た筈だ。
それは、毛が抜けるからとヨハンナさんに言われたからなのだが、イムのように変化が出来ない2匹は、外で寝てもらっていたのだ。
元々魔物は外で寝るから気にしないでと言われたし、ルシルに至っては、その気になれば年単位で起きていられるし、年単位で寝ていられる。っていうワケわからん特技を自慢された。
まぁ、いくら狼の体でも、僕より遥かに頭が良いだろうルシルが、僕が寝ている部屋まで来れないって事はないだろう。
だが僕は、お顔ペロペロモーニングコールなんて頼んだ覚えはない。
「・・・・・・う~ん。・・・リョウ、どうし・・・うわあっ!!?ま、魔物!!!」
ほらぁ。隣で寝てたエリオが起きたじゃないか。
隣で寝てたって言ったって、同じベッドじゃありませんぜ?相部屋ですがな。
ホントだって!ホモじゃないし!・・・駄目だ。否定するほど悪い方向にいく。
『おはようございます、エリオット様。』
「・・・えっ!?な、なんで僕の名前を?」
『我が主の大切なご友人となれば当然でございます。私はルシルと申します。昨日、我が主の従魔にしていただきました。今まで大変ご迷惑をおかけしましたが・・・。』
「う、うわぁ・・・。頭の中に直接聞こえる・・・。」
寝起きには少々キツいと思う。頑張れエリオ。
しかも、部屋の中は暗い。チラッと窓から日が差しているところを見ると、今は日の出直後ではないだろうか?
何故、日の出にこんな目に遭わなければならないのか?
そりゃあね、日の出に起きて仕事している人もいるでしょうよ。
でも僕は日の出に起きても何もないんだよ!
なんだよ、朝ですよって。僕からしたらド深夜だわ。
「・・・ルシル。僕はこんな朝早くから起きたりしない。」
『・・・え?我が主は冒険者ではないのですか?』
「冒険者じゃねーし、なんで冒険者だと日の出に起きるのか知らんが、僕はギリギリのギリまで寝て、ヨハンナさんに叩き起こされるのが日課なんだよ。」
「そんなのリョウだけだよ・・・。」
エリオ君は黙っなさい。
大体、お前らは真面目に働き過ぎなんだよ。日本人かよ。
『・・・・・!? そ、そうだったのですか・・・。わ、私は、また主様に迷惑を・・・。』
「そうだぞ。分かったら外で大人しく待ってなさい。後でほねっこあげるから。」
『はい・・・。申し訳、ありません・・・。』
ほねっこへのツッコミはない様子。
それより、さっさと出て行って欲しい。他の子達も起きてしまって、わーきゃー騒がしいじゃないか。
・・・あっ!ほらね。誰か大人が来てしまった。
このかわいい足音はヨハンナさんだ。また僕が怒られるじゃないか。
ヨハンナさんが僕達の部屋の扉を開ける。
するとあら不思議。ルシルが僕達の目の前から消えてしまった。
跡形も無く消えてしまった銀色の狼に、困惑する一同。
唯一、何が起こったか分からないヨハンナさんが、何があったのと子供達に聞いている。
僕は掛け布団をかぶって寝たフリをすることにしよう。
説明はエリオ君とその他に任せておけばいい。僕の睡眠時間はまだ足りないのだ・・・・・・。
いや、寝てる場合じゃないな。
さっきのルシルは何なんだ?
モーニングコールをしてきた事はどうでもいい。その後の目の前から消えた事だ。
どうやったらみんなが見ている前で消え失せる事ができる?
あれか?速すぎて見えないとかそんなのか?サイヤ人かよ。
思い返せば、似たような事は何度かある。
一番最近だと、ピノが僕に襲い掛かって来た時に、ルシルが急に目の前に現れたんだ。
あの時は危ないところを助けてもらった訳だが・・・何処から現れたんだ?
後は、エリオ達が行方不明になっていた時。鍾乳洞の魔力スポットに案内してもらった時だ。
先に入って行った筈のルシルが、誰にも気付かれる事無く消えてしまったのだ。
その日は他にも、悪霊の館から出発した直後に、急に目の前に現れた事があった。
案内されている最中も、魔物に一切遭遇しなかっていう不思議な事が起きていた。
一体何なんだ、この能力は?
・・・う~む。やはりあれを使うしかないのか。ルナホ。
ルナホを使えばそりゃ一発で分かるんでしょうね。
ただ、またあのガチャをしてしまうんじゃないかと思うと、怖いんだよ。
ルナ様が別れ際に使えと言いましたよね?僕はそれでピンときたね。あっ、ワナだ。とね。
ただまぁ、これから行動を共にする仲間として、能力を把握しておかないといけないのもまた事実。
覚悟を決めて、ルナホを見てみるとしますか。
ルナホを手に取り、電源を入れた。
ホーム画面には相変わらず、つよさとルナちゃんガチャのアイコンがある。
迷わずつよさを起動する。
出てきた名前は・・・
リョウ、セリス、イム、ルシル、ピノ、ルナ様・・・・・・ルナ様!!?
な、なんでルナ様の名前が?
パーティーメンバーでしたっけあの御方?大体何で様が付いてんだよ。僕も欲しいよ、社長とか。どっかの鉄道会社みたいに。
カティの代わりだろうか?
だが、カティがこの中に居なくなった理由は分かるが、ルナ様が居る理由は分からねぇ。
う~ん、これは気にしても仕方ないのか?
他の名前が白色の文字なのに対し、ルナ様の名前だけ灰色の文字だ。
試しにタップしてみるが・・・勿論反応はなし。
もう面倒なので無視することにしよう。取り敢えず自分の名前をタップしてみる・・・
リョウ
まものたらし
せいべつ:おとこ
レベル:かぞえわすれましたわ
HP:すくない
MP:きぶんによる
ちから:ない
すばやさ:ない
かしこさ:笑ww
こうしゅう:くさい
かみのけ:まだある
とくぎ:言g………
ちょっと待てちょっと待て!とくぎはまだ待て!
なんだこのステータス画面は!?
数字ですらないじゃん!何で文字で表現してんの!?
いや、表現すら出来てないじゃん!
何?レベル数え忘れましたわって?数えるものなの?ルナ様が数えてくれてたの?
MPもなんだよ。気分によるって。そりゃ魔法なんて精神力とかなんだろうし、体調とかで変わってくるものなんだろうけどさ。
それよりもその下がヤバい。
笑wwって何?煽ってるの?頑なに平仮名で書いてたのに、その制約を破ってまで煽ってるの?
項目も変わってるしさ。うんのよさは別にいらないけど、みのまもりは消すなよ。口臭が臭いとか、髪はまだあるとかもうただの悪口じゃん・・・。
くそ・・・。だから見たくなかったんだ。
僕を弄って遊んでるだけじゃねーか。
マジで参考にならん・・・とくぎから下以外は。
とくぎ:言語理解、誑し込み、よそ見、変顔
まほう:
とくせい:成長付与
ん?何だこれは?
・・・いや、よそ見と変顔じゃねーし。
どーでもいいわこんなん。特技じゃねーよ、態々入れんなし。
成長付与だって?
前はこんなの無かった・・・増えたのか?
考えられるとしたら・・・魔物誑しのレベルアップで覚えたスキルって事か。レベル分かんないけど。
成長付与・・・。
名前の通りなら、成長を与えるんだろう。
成長を与える?僕に?味方に?
それに付与をするんなら、とくぎかまほうの欄に無いとおかしくないか?
・・・・・・分からん。
ステータス画面が適当すぎて何が何だか。
本来なら自分の成長にワクワクするのだろうが、この悪ふざけの塊のようなステータスを見るとどうでもよくなる。
もういいわ。本来の目的である、ルシルのステータスを見てみる。
・・・・・・・・・。
桁違いだわ。
セリスやイムは勿論、カティも相手にならない数字だ。
ただ、レベルは1みたいだが。前にセリスが言っていたが、その通りだったな。
だが流石は魔王軍の幹部っぽいやつ。このつよさに出てくる数字が、どれだけ信頼出来るか知らんが、圧倒的な強さなのは間違いない。
とくぎ、まほうも色々あるようだが、中でも目に留まったのが二つ。
一つは、時属性魔法という言葉。
どうやらルシルは、レア中のレアである時属性魔法の使い手らしい。
具体的にどんな魔法なのかは分からないが、時に関係する魔法なのだろうし、時を止めるなんて事も出来るのかも。
だとしたら、今までのルシルの不可解な行動に説明がつく。突然目の前に現れたり、消えたりするのはお手の物だろう。
・・・って事はですよ。僕のパーティーには、光属性と時属性の魔法の使い手が居るって事だ。
雷属性も氷属性もすっ飛ばして、魔法の最高峰の属性を使えるやつが二人もだ。
・・・貴重な存在なんだよね?
え~っと。確か片手で数えるくらいしか使い手が居ないって話だったけど・・・。
いやでも、人間社会の中での話だろうしな。天使と魔族は例外かもしれない。
もう1つは、とくぎの中にあった・・・変化だ。
なんとまぁ・・・レア種のスライムであるイムの専売特許ではなかったらしい。
ルシルもモン娘形態や人間形態になれるのか?
おいおいおいおい、寝たフリしてる場合じゃねー・・・けど、落ち着け落ち着け。
僕のカンが正しければ・・・もしかしたら・・・。
ピノのステータス画面を確認する。
・・・やっぱりそうだ。とくぎの中に変化があるじゃないか。
この事から導き出される答えは・・・・・・モン娘ハーレムじゃあ!!!!!!!
ぬああああああああ!!!服なんて着てる場合じゃねえ!!!
キャスト オフ……
布団の中で産まれたままの姿になった僕が立ち上がる。
困惑する子供達。固まるヨハンナさん。
説明している暇はない。今すぐルシル達の下に向かわねばならない。
走り出す。ヨハンナママの静止に耳を傾ける事なく。
だが現実は非常である。哀れリョウ君あっさりヨハンナママに捕まり、投げ飛ばされるのであった・・・・・・。
「・・・というわけだ。」
「どういうわけですか・・・。」
分からないかね?セリス君。
僕のヨハンナママはちっちゃくても強いんだぞ!って事だよ。
「だからな、僕の中で何か熱いモノを感じちゃった訳よ。そうなると人間はもう服を着ていられないじゃん?」
「私は天使なので分かりませんけど・・・、取り敢えずルシルさんもピノさんも変化が出来るって事でいいのですね?」
スルーされちゃったな・・・。
・・・まぁ他にも色々あるんだが、それが一番大事な事だ。
今はまた孤児院の裏庭だ。
今朝、発見した事を確かめるために、セリスとモン娘達を招集した。
事態は一刻を争う・・・といっても孤児院の仕事はちゃんとしたぞ?
それと、先程マルタが王都に旅立つのも見送ってきた。
不安で一杯だったようだが・・・、まぁ彼方にはカティやリュドミラちゃんが居る。
無事にやっていけるだろう。
「・・・さて。それじゃあ、変化。やってもらおうかな。・・・おい、ルシル。いつまでしょげてんだよ。こっちおいで。」
ルシルは今朝の事でまだ落ち込んでいる。
散々此方を恐怖させてきた存在ではあるが、今ではあの哀愁漂う背中を見ると、可愛らしく思えてしまう。
『・・・・・・わ、私は、まだ我が主のお役に立ちますでしょうか?』
「おぉ、立つ立つ。だから、こっちおいで。」
『は、はい!承知しました!』
尻尾ブンブンで駆け寄ってくる姿は、まさに愛玩犬のようだが、また泣き出しそうなので黙っておこう。
(それで?変化って何?)
「ん?ピノとルシルの特技の欄にあったが・・・。使えないのか?」
『特技の欄・・・?私達の特技という意味でございますか?私は魔法が少々使えますが、変化という魔法は使えません。・・・申し訳ありません。』
(わたしも知らないよ。)
・・・確か、イムの時もそうだったな。
イムも最初は知らないと言っていたんだった。
変化を使えるっていう自覚がないのだろうか?普段、魔物として生活しているコイツらには必要ないから?
う~ん。分からんし、どうでもいいか。
イムと同じように、説明すれば覚えてくれるだろう。
『・・・くっ。やはり私では・・・我が主の役には・・・。』
「だーっ!!分かったから泣くな!!ほらっ、イム!手本を見せてやれ!」
「・・・・・・ん。」
イムは面倒くさそうに返事をすると、人間形態から魔物形態、次にモン娘形態に変わって見せた。
ルシルもピノも、イムの変身シーンを見て固まってしまっているが・・・どうやら、無事に思い付いたみたいだ。
『・・・・・・で、出来そうです。私にも出来そうです!』
(ん~・・・・・・。ん?・・・なんとかなりそう。かな。)
うひょひょ!上手くいきましたぞ!
さあさあ!モン娘達よ!その姿を見せておくれ!!
最初にルシルが変化した。
ぽわわぁ~~~~ん。
いつもの白い煙に包まれる。
煙が晴れ・・・
「い、いかがでしょうか?我が主!」
恥じらいのある声が聞こえた。言葉は喋れるようになったようだ。
だが、そこに立っていたのは・・・二足歩行になっただけの銀色の狼だった・・・。
「ルシルさぁ・・・もしかして僕を怒らせる為にわざとやってるのか?」
「えぇっ!!?そ、そんなつもりは・・・申し訳ありませぇん!!」
すかさず、腹を見せて謝罪するルシル。
いやもう、そうなったら変化する前と何も変わらないじゃん。
一体、何故こんな形態に?
・・・・・・。う~ん、イムが女の子の形をしただけのスライムだからか?
だからルシルも立っただけの狼に?
・・・いや、やっぱりおかしいよ。女の子の要素は?
とにかく萌えが無い。イムはこれで充分萌えがあるんだもの。まんま狼には、流石の僕でも萌えれない。
言葉は喋れるようになったんだ。もう少し・・・もう少しの筈だ。
「ルシル、もっと人間の女の子に近づくように変化するんだ。」
「人間の・・・女性にですか・・・? はい!今一度いただいたこのお情け!命に代えても成功させてみせます!」
命まで懸けんでもええわ。
なんでいつもこう大袈裟なのか。
ぽわわぁ~~~~ん。
再び白い煙に包まれたルシル。
煙が晴れ、現れたのは・・・
銀髪の美女であった。
ここに居る誰よりも背が高く、スタイルも上から下まで抜群だ。もしあっちの世界に居たとすれば、スーパーモデルとして活躍していただろう。それくらいのべっぴんさんだ。
そしてなにより・・・なによりもだ。最大の特徴が・・・獣人を思わせる犬耳と尻尾が生えている事だろう。
「・・・・・・・・・。」
「あ、あの。・・・我が主、今度こそいかがでしょうか?」
「なんだお前・・・・・・完璧か?」
「はっ!?・・・え、えっと・・・どういう事でございましょうか?」
「非の打ち所がない。完璧だと言ったんだ。」
「!!!? は、はい!ありがたき、幸せにございます・・・・・・や、やったぁー!!!」
僕に褒められてとても嬉しいかったのか、ピョンピョン飛び跳ねて喜んでいる。
見た目が完全に大人の女性なのに、子供の様に喜ぶ姿は、凄くギャップを感じる。
そして、変化してすぐなので、イムの時と同じく素っ裸である。尻尾もブンブンだが、お胸もブルンブルンだ。
おいおいおいおい・・・子供には刺激が強過ぎるぜ?
「ちょっ、ルシルさん!何か着て下さい!」
「はい? ・・・・・・あっ!?も、申し訳ありません。お見苦しいものをお見せしました・・・。」
セリスがアイテムボックスから出した外套でルシルを隠してしまった。
しかし残念だったな。もう遅い。僕はXボタンを押せば、会話だけではなく、映像も心に刻む事が出来るのだよ。
問題は特技におもいだすが無い事だが・・・まぁ他の男にルシルの裸を見られるのも面白くないしな。これくらいにしておこう。
(じゃあ、次はわたしね。ルシルのようにすればいいんでしょ?)
ぽわわぁ~~~~ん。
待ってましたと言わんばかりに、さっさと変化してしまうピノ。
ピノはハーピーだし、最初からモン娘形態のようなものなのだが・・・はたしてどうなるのか?
煙が晴れ、現れたのは・・・
薄紅色のロングの髪の美少女だ。まぁこれは変化する前から一緒だ。
手足は人間のものになっていて、足は鋭い鉤爪は無くなり、肉付きのいい素晴らしい美脚になっている。特に太ももがタマランチ。
足の代わりに手の爪が長いようだ。と言ってもあっちの世界のつけ爪程度だが。あれで攻撃するのか?
最大の特徴であった翼は、背中に生えている。そうか、その手があったか。
体の所々を覆っていた毛はすっかり無くなっている。当然、おっぱいを覆っていた毛も無くなっているのだが・・・今はピノが手で隠している。
なんでやっっ!!!!?
「おいこらピノ!何で隠してんだ!!」
「何でって、見えちゃうじゃん。」
「バカ野郎!見せるんだよ!!」
「リョウさん、いい加減にして下さい。」
そう言って、セリスがさっさと外套でピノを隠してしまった。
くそっ・・・。大体何で魔物が恥じらい持ってんだよ。魔物は服なんて着ないだろぉ?イムなんか最初丸出しだったじゃないか。
・・・いや、確かクッコロオークでも腰巻きみたいなのしてたんだよな。
マジかぁ・・・。でもそうだよな。そんな丸出しの魔物ばっかり居たら教育上よろしくないもん。
「まぁ、女の子って恥じらい持ってた方がいいよな。丸見えより、見せたくないけど見せなきゃいけないっていう羞恥に耐えている姿を見せられる方が男しては興奮する訳で・・・。」
「凄い性癖ですね・・・。」
そんなドン引きするなよセリス。男はみんなそうなんだぞ(暴言)
「しかし、この姿ではシスターヨハンナからの許しは出ないでしょうね。やはり、人間の姿にならないと・・・。」
まぁそうだろうな。僕としては、ずっとモン娘形態で居て欲しいのだが。
「・・・でもさセリス。ルシルは大丈夫だろう?もうほぼ獣人じゃないか。」
「何を言ってるんですか?どうみても魔物にしか見えませんよ?」
えぇ・・・。人間に耳と尻尾が生えてるだけじゃないか。
そりゃこの世界の獣人は黒髪らしいけどさ。違いといえば、髪が銀色なだけだぜ。
イムのモン娘形態への周りの反応もおかしいと思ってたけど、やっぱこの世界の反応はおかしいよ。
なんだ?僕以外には、今のルシルとピノは魔物に見えるのか?ほぼ人間じゃないか。ちょっと犬耳と尻尾があって、ちょっと翼が生えてるだけだぜ。
そうこう悩んでいるうちに、ルシルとピノがまた変化した。
今度は犬耳も尻尾も翼もなくなった。完璧に人間へと変化した。
「ど、どうでしょうか?我が主!」
「あん?・・・うん。どうなんだセリス?」
「何故私に聞くのですか?お二人共、見事に人間になりきれてますよ。」
だそうだぞ。
僕にはもう分からん。
「・・・さて、二人共、無事に変化できたな。これからは今の状態を人間形態、1つ前の状態をモン娘形態、変化する前の状態を魔物形態と呼称するぞ。孤児院では原則、人間形態で生活するように。街に出たらモン娘形態で居てくれ。・・・じゃあ適当に支度したら、今から街に出てみるか。二人の服も買わないとだし・・・。」
「我が主、お待ち下さい。私とハーピーから渡す物があります。」
話を締めて街に繰り出そうと思ったら、ルシルに呼び止められた。
渡す物だって?
何だ?愛か?ふっ、モテる男はつらいね。
ルシルとピノが何かを差し出してきた。
ルシルが持っているのは・・・袋だ。麻袋だな。
随分、色気のないプレゼントだな。だが女の子から貰うプレゼントにそんな事言える訳もない。
ピノが持っているのは・・・羽根だな。
薄紅色をしているが、ただの自分から抜けた羽根か?それにしては大きい気もする。
「・・・それはどうしたんだ?僕にプレゼントするために買って来たのか?」
「まぁプレゼントって言えばプレゼントだけど。これ、わたしたちのアイテム。」
わたしたちのアイテム?何を言ってるんだピノは。
「リョウさん、そのアイテム、彼女達のドロップアイテムではないですか?」
ドロップアイテムだって?
なんて斬新。今はドロップアイテムを魔物側が態々持って来てくれるのか。
そういえば忘れていたよ。レア種であるピノを倒したのだから、ドロップアイテムがあった筈だったんだ。
それがこの羽根な訳ね。
だがそうなると、ルシルが差し出している麻袋の意味が分からんが、取り敢えずピノの羽根を受け取ろう。
「この羽根は何の効果があるんだ?ピノなら分かるんだろ?」
イムのドロップアイテムである指輪の効果も、イム本人が知っていた訳だし、ピノも知っている筈だろう。
「高くジャンプ出来るようになるよ。・・・少しだけ。」
・・・・・・・・・いらねぇ。
い、いやいや。持つだけで身体能力が上がるなんて凄いじゃん!
ジャンプ力が上がるにしても、身体が柔らかくなるにしても、いつか役に立つ時が来るさ!
それにゲームみたいに、アクセサリーを着けれる数に制限がある訳じゃないし、どんどん装備しとけばいいんだよ。
取り敢えず、ピノの羽根は大事にしまっておこう。
次はルシルの袋だが・・・、
「ルシル、何でお前は倒してもないのにドロップアイテムがあるんだ?」
「そんなっ!?私が我が主に敵うはずありません!!つまらないものですが、どうぞお受け取り下さい!」
こいつ何言ってんだ?
僕がルシルに敵う訳ないだろ。指先一つでうわらば!だわ。
「・・・とにかく、これはルシルのドロップアイテムって事でいいんだな?」
「はい。このアイテムは私から生まれた物だと、はっきりと分かります。どうかお受け取り下さい!!」
僕はルシルから麻袋を受け取った。
う~ん。・・・何の変哲も無い袋だな。
道具袋に使えという事か?でもこれがレア種のドロップアイテムなんだったら、何か効果がある筈なんだよな?
「で、この袋の効果は何なんだ?」
「アイテムボックスでございます。」
「・・・・・・・・え?」
「アイテムボックスでございますが・・・も、もしかして、私はまた間違いを?」
「い、いやいや!!そんな事ないぞルシル!最高だ!最高だよ!!」
すぐに泣き出しそうになるルシル。
涙腺が弱すぎる。もしかして僕、チョロいと思われてないか?
しかし、こんなところであのアイテムボックスが手に入るとは。
あのアイテムボックスですよ?異世界転生物のド定番、アイテムボックスですよ?
流石は魔族のドロップアイテム・・・って何で倒してもない奴からドロップアイテムがあるんだよ。
一体どういう事なんだ?魔族はみんなそうなのか?あるいは従魔になった事で、僕に屈服したから?
いずれにせよ初めての事だから分からんな。魔族を従魔にしたなんて前例なんて無い訳だし。
・・・まぁ本人も分からんみたいだし、いいか。アイテムボックスが手に入ったって事実が重要なんだよ。
いやぁ~。アイテムボックスかぁ~嬉しいなぁ。
もう僕も冒険者のトップランカー達の仲間入りかな?まだ冒険者ですらないけど。
・・・と思ってたも束の間。早速問題が発生しましたよ。
やっぱりうちのモン娘が出すアイテムにろくな物は無かったよ・・・。
街に出る為に、ルシルとピノには適当な服を着てもらっている時だ。
僕は外で待っている間に、アイテムボックスの性能を確かめていた。
まず試しに愛用の銅の剣を入れてみたところ・・・全部袋に入りきらないのだ。
え?おかしいよね?
袋の中を覗いてみると、真っ暗だった。底が見えない。
これがアイテムボックスとして正常なのかは分からない。だがリュックサックくらいの大きさの麻袋の底が見えないのだから、普通の麻袋ではないのだろう。
ならこれはアイテムボックスなのだろう。では何故銅の剣くらいが入らないのか?
そこへセリス達が戻って来た。
ルシルとピノは結局、外套だけを着て出て来た。合う服が無かったか。
外を彷徨く露出狂みたいなスタイルだが大丈夫だろうか?
まぁ服屋まで魔物形態で行けばいいか。街を騒がした魔物達が、その次の日には街を闊歩しているってのもどうかと思うが。
だが、問題はそこではない。アイテムボックスがおかしいのだ。
「なぁルシル。アイテムボックスの中に銅の剣が全部入らないんだ。何でだ?」
「はい。・・・その袋では、その剣は入らないかと存じます。」
「え?これアイテムボックスだろ?こんな剣も入らないのか?何か使い方があるとか・・・?」
「いえ・・・。そのアイテムボックスの容量の問題でございます。」
容量?あぁ、そういえばあったな。
確か前にセリスが持っているアイテムボックスの容量も聞いた事があるな。小さな倉庫くらいと言っていた筈だ。
・・・・・・ん?容量不足で入らないって?
「・・・因みに、この袋はどれくらいの容量なんだ?」
「・・・・・・はい。このくらい、かと存じます。」
ルシルが手を広げる。
広げた手は麻袋と同じ大きさだ。
「・・・・・・・・・ルシル。」
見たまんまじゃないか。
このアイテムボックスの容量は見たまんまじゃないか。
なによ?容量このくらいって。ただの麻袋じゃないか!
「・・・も・・・も、申し訳・・・ごめんなさいぃぃぃ~~~!!」
もう見慣れたルシル式の土下座である。
こいついつも土下座してんな。
だが今回は人間形態での土下座なので、なんか罪悪感がする。
しかも今は露出狂スタイルなので、青少年には見えてはいけないものも丸見えだ。残念ながら色気は無い。
「えぇい!!もういいから立て!後、その形態で土下座なんか二度とするな!」
別にルシルのせいって訳じゃないんだ。
ルシルはすぐに謝る癖は直さなきゃいけないな。




