34話:天狼 ハーピー
冒険者ギルドによるハーピーの巣壊滅作戦は、終わりを迎えたそうだ。
巣の方は、群れを率いていたリーダーが街の方に行ってしまったのもあり、数は多かったが冒険者ギルドに勝てる訳もなく、巣は壊滅。生き残ったハーピー達も森や山に逃げてしまった。
一方、街の方も、リーダーが早々にやられた為に、ハーピー達は全滅。街を防衛していた側は軽傷者が数人だけで終わったそうだ。
と、まぁこんな話を聞いたのだが、その話によると、ハーピークイーンは街の方に来ていた様子。
では、ハーピークイーンを倒した、今回の功労者は誰だろう。
なんとゲバルド氏・・・・ではなく、うちの狼さんだった。
えっ?何時倒したんですか?って話だが、それは僕の目の前で起こってたって言うんだよ。
そう。今回のハーピーの群れを率いていたハーピークイーンは・・・というか、ハーピークイーンの役をしていたのは、うちのハーピーさんだ。
今更ではあるが、孤児院を襲撃して来た時のハーピーさんは、何か趣味の悪い宝石や光り物を沢山身に付けてたわ。
その姿を冒険者ギルドの冒険者に見られて、今回の作戦が起こったのだろう。
今は全て外している。僕が趣味が悪いと言ったからなのだが、じゃあ全部捨てると言うので、僕が貰っておいた。
カティ達に買ってやった安っぽいアクセサリーのような物もあれば、本物っぽい宝石もある。
カネに困った時の為に取っておこう。
「成る程。分からん。」
『何が分からなかったのでしょうか?我が主。』
「なんでレア種が同じ種族の群れを率いてたんだ?僕は上位種じゃないと率いれないって聞いたぞ?」
今は孤児院の裏庭に居る。
居るのは、僕とセリスとモンスター3人娘。
何故、外で話し合う事になったのか・・・それはヨハンナママに言われたからである。
取り敢えず、2匹を孤児院の中に入れ、くつろいでいたところ、防衛から帰って来たヨハンナさんに見つかり、こっぴどく叱られてしまったのだ。
内容は、毛の抜ける子を中に入れてはいけません!とのこと。
うちの狼さんは『天狼は毛など生え変わりません!』と猛っていたが、うちのハーピーさんの(ハーピーは抜けるけどね。)の一言を僕があっさりとヨハンナさんに伝えた為、2匹は外で寝る事を命ぜられましたとさ。めでてぇなぁめでてぇなぁ。
(レア種でも出来るよ、そんくらい。だってわたし、ハーピークイーンの奴がビビって街に攻める気が無かったから、殺して、リーダーなんてやってたんだし。)
「・・・魔物の方でもそんな事が出来るのですか。初耳です。」
どうやら、セリスでも知らなかった様子。
「そういえばルシルも昔、フォレストウルフを率いていたな。」
『は、はい・・・。あの時は、本当に申し訳なく・・・。』
「いいよもう、謝罪は。許すって言ったろ(言ってない)」
『は、はい!ありがとうございます!・・・はい、あの時はでございますね、私は魔王様の命令で、ある魔族を探しておりました。その任務中、森に居たところ、フォレストウルフのリーダーが無謀にも喧嘩を売ってきたので、殺しました。その後、手下のフォレストウルフからつきまとわれ・・・。』
殺しましたって・・・簡単に言うなぁ。まぁ実際に魔族なら簡単なんだろうけど。
「・・・あらあら。その話、もっと詳しく聞きたいですわね。」
何処からともなく声が聞こえた。
まぁ、神出鬼没なあの御方である事は間違いない。
何も無い空間から突然現れる。我らが女神、ルナ様である。
「ルナ様、いらしてたんですね。相変わらずお美しい。」
「あら?リョウはムキムキの私の方が好みなのではなくって?」
「そんな頭のイカれた事いつ言いましたっけ?」
「んふふっ。隠さなくても私には分かりますよ。それよりも、この私が突然現れたのですよ?そこの2匹みたいに、しっかりリアクションをとって欲しいですわ。」
そこの2匹?狼さんとハーピーさんか?
イムにリアクションを期待してはいけない。だってコイツ話すら聞いてないし。蝶を捕まえようとしてるもん。
(マジびっくりした~!何で突然、人間が生えてこれるわけ?)
『女神・・・!?』
目をぱちくりさせいるハーピーさんと、威嚇している狼さん。
狼さんはルナ様の事を知っているのか?
「ん~~。40点ですわ。勇者ちゃんのリアクションが恋しいわねぇ。そ・れ・と、そこの魔族さんは魔法を使うのを止めてもらえますか?貴方の十八番はこの私に効かないという事、知っているでしょう?」
『・・・・・・。』
「おい、止めろ。僕の従魔になったんなら、ルナ様には絶対手を出すな。」
『・・・承知、しました。我が主の御心のままに。』
狼さんは静かに目を伏せ、大人しくおすわりした。
セリスも、狼さんを凄く睨んでたが、いつもの優しい目に戻った。
・・・ったく。なんでこの狼はこんな好戦的なんだ?
魔族ってみんなこうなのか?
ちょいちょい天狼と言っているが、銀色の狼の種族の事だと思う。
その天狼という種族や、魔王軍の特殊部隊の隊長という地位に誇りがあるのだろう。舐められたくないってのが出てるんだろうか?
「やれやれですわね。リョウ、ペットの躾がなっていませんわよ。」
「いや、ルナ様。まだ従魔になって一時間くらいしか経ってないですけど。」
「んふふっ、まぁいいでしょう。さぁ、今日はお茶菓子を持ってきたんですよ。セリス、お茶を煎れてきてくださる?ハーブ茶では、このお饅頭は合いませんわ。」
「また外の物を・・・。分かりました。」
セリスはルナ様から茶葉を受け取ると、炊事場に向かって行った。
饅頭・・・緑茶か、麦茶か?
なんにせよ、故国の物なのは間違いないか。
・・・なんだろうね。あっちの世界には未練はない筈なんだが、こういう食い物を見ると恋しくなるな・・・って、おいっ!!十万石まんじゅうじゃねーか!!恋しくなる筈だよ。テラ地元じゃねーか。止めろよなこういう事!分かっててやってんだろうけど・・・。
「さて、話の続きをしてくださいな。」
『・・・・・・・・・。』
「リョウ~。狂暴な魔族が睨むわ~。」
「はぁ・・・。ルナ様はコイツらの何が知りたいんで?」
「そこで蝶を捕食しているスライムと同じ様に聞いてくれればいいですよ~・・・・・・あっづッッッ!!?(野太い声)」
「あぁっ!!ルナ様、熱かったですか!?」
セリスからデカい湯呑みをもらったルナ様が、盛大に茶を溢す。
ていうか、お茶飲むのルナ様だけか。
緑茶・・・・・・。
「じゃあ、改めて聞くぞ。まずは・・・。」
(あのさ~。その前に私達に名前つけてくんない?いつまでハーピーだ、狼だって呼ぶわけ?)
名前、か。
イムの時もこのタイミングだったな。
従魔に名前を付けるのは、とても大事な事とルナ様に言われたが・・・。
確かに、いつまでも狼さんやハーピーさんだと言えないのは分かる。分かるがね。
「・・・ま~た決めてないのですか?貴方のセンスの無さは知っていますが、話が進まないのでさっさと決めてもらえますか?」
火傷した舌をセリスの魔法で治してもらっている神に言われたくはない。
「そうだなぁ・・・プックルだな。それかチロル・・・ゲレゲレでもいいぞ。」
「でもいいぞ。などという、いい加減な名付けがありますか?それにそれは猫の名前です。」
・・・ぐうの音も出ません、ルナ様。
これはアレだな。僕は子供とかできても、名前付けたらダメだわ。
『・・・私は、我が主から授かったお名前なら、猫の名前でも構いません。』
だったら何で涙目なんだよ魔族さん!
嫌なら嫌って言えよ!プルプルしやがって!プライドを強く持てよ!
ええい!くそっ!真面目に考えろ、真面目に。
取り敢えずコイツはメスだ。狼のオスなら付いてないといけないものが付いてない。
どちらかというと、女の子らしい名前で・・・。
狼・・・オオカミ・・・。
オカミ!・・・いやいや、何処の女将だ?
ウルフ・・・ウル?
・・・ファング・・・ング・・・・・・ング?
犬・・・ドッグ・・・・・・駄目だ。離れよう。
銀色は?シルバー・・・。
バルシー・・・シィル、ルーシー・・・う~ん。
・・・・・・・・・。
「・・・決めた。天狼、お前の名前は“ルシル”だ。」
『ルシル・・・う、うううぅ。』
「な、なんだよ。だから泣くなって。」
『申し訳、ありません・・・。素敵な、お名前でございます。』
嬉し泣きかよ。ただのありきたりな名前なのに。
狼の体で、よくそんなに気持ちが表現できるな。
『・・・私は、もう以前の魔王軍の名も無き天狼ではごさいません。私の名は、ルシル。我が主、リョウ様に一生の忠誠を誓い、この命、捧げたいと思います。』
「う、うん。まぁその・・・よろしく頼む。」
重い。
適度でいいんだぞ。適度で。
(次はわたしよね。可愛いのじゃなきゃ嫌だからね。)
『あぁ・・・。遂に私は、我が主のものに・・・。』
余韻に浸っているワンちゃんは放っておこう。
次はハーピーさんの名前だが・・・。
「・・・・・・淫ピ。」
「言うと思ったわ。真面目に決めなさい。」
・・・言うと思ったなんて、女神様は失礼ですね。
僕が本当に淫ピなんて名前にすると思いますか?
いくらピンクだからってそんな事・・・・・・すみません。
・・・そうだなぁ。
ハーピー・・・で、ピンクかぁ。
これはピを使わない訳にはいかない。
ただ、ピが入った無難な名前があるだろうか?
・・・・・・やっぱインピじゃないか?・・・ダメか。そうか。
ピ・・・ピ・・・。
ピピン・・・ピカチュ・・・まずいですよ!
ピ・・・ピ・・・・・・。
「・・・“ピノ”。ピノなんてどうだ?」
(わたしの名前?・・・ピノ?)
「あぁ。足速そうだろ?」
(? 飛ぶのは得意だけど?じゃあ、わたしの名前は今日からピノね。)
「あぁ、ピノ。よろしく。」
「ルシルさん。ピノさん。よろしくお願いします。」
「・・・・・・よろしく。」
こうして、ルシルとピノ。2匹が僕の従魔になった訳だ。
この2匹の戦闘力はかなり期待できる。
特にルシルは未だ未知数である。
必ずや僕の冒険の助けになってくれるだろう。
「ピノ・・・ですか?私も好きですよ。特にアソートに入っているアーモンド味が美味しいんですよね。」
「あぁ。あのルナ様が真っ先に確保するやつですね。私は食べた事が無いので分かりませんが。」
「アーモンド味はセリスにはまだ早いのです。大人しくチョコ味を減らしていればいいのですわ。」
いや、チョコ味も美味しいからな?
・・・ってそっちのピノじゃねーし。
「では、おめでたく名前も決まった事ですし、リョウはまんじゅうが2箱目にいく前に仕事をしてくださいな。」
え?・・・うわっ!もう殆ど十万石まんじゅう無いじゃないか!
つーか2箱目いくのかよ。一人で食い過ぎだよ。魔神かよ。
「・・・よ~し、じゃあ改めて。ルシルは長くなりそうだし、ピノからな。ピノと最初に会ったのは・・・ルシルに拉致された時、約4年前だ。あの時はフォレストウルフの群れと縄張り争いをしてたみたいだが?」
拉致されたと言った事で、ルシルがまた悲しそうに下を向く。
もういいっつってんだろ。
(拉致されたとかは知らないけど、縄張り争いで間違いないね。フォレストウルフ共は上位種が生まれて調子乗ってたからさー。縄張りが随分荒らされたって言ってたかな。)
「言ってた?誰が?」
(ハーピークイーンだけど?そん時わたし、リーダーじゃないし。)
当時、フォレストウルフの上位種である、ブラックファングが生まれたと。ブラックファングは群れを作って、縄張りを拡大しようとしたんだろうな。
その拠点があの洞窟だったと。
でも、同時期に居た上位種、ハーピークイーンの群れの縄張りを荒らしてしまったと。
そこでハーピークイーンの逆鱗に触れ、戦いが起こった訳だ。
まぁその時にはもうブラックファングは死んでいて、フォレストウルフを率いていたのはルシルだったんだけども。
「一つ気になるのが、レア種は群れたりしないと聞いていたんだが、何故群れの中に居たんだ。」
(ん~、他の奴は居心地は悪いと思っちゃうかもね。どうしてもみんなより目立っちゃうから。でもわたし、一人とか嫌だし~。)
ふ~ん。まぁそれでも受け入れてくれるんだな。
「・・・リョウ、貴方はそう教わったのでしょうが、レア種でも少ないですが群れるレア種の魔物もいますよ。魔族がいい例ですよね?天狼さん。」
『・・・・・・・・・。』
「リョウ~、狂暴な魔族が殺そうとしてくるわ~。」
分かってやってるから始末が悪いよな。この女神は。
「・・・まぁそんなわけで、ピノはハーピーの群れの中に居た訳だが、縄張り争いの最中に、僕とカティ・・・同い年の女の子に襲い掛かってきたよな?他のハーピーはフォレストウルフと戦ってたみたいだが、ピノは何故此方に来たんだ?」
(あの時だよね。ん~・・・。鼻が垂れてた子は何も感じなかったんだけど、リョ〜君はカワイイと思ってね~。とりま、巣に持って帰ってから考えようかなーっと・・・。でも、もうちょいのとこでヤバめのおっさんに邪魔されちゃったんだよね。)
カワイイ・・・?
まぁ可愛いのは言われなくても知っているが、そのカワイイって感じたのが、仲間なる素質があったって事かな?
ていうか、コイツも僕を拉致しようとしてたんかい。
どんだけ拉致されるのよ、僕。
拉致グセがついてる?なんだよ拉致グセって。寝グセとは訳が違うんだよ。僕どうしようもねーじゃん。
「まぁその時は失敗に終わった訳だ。次に、僕の前に現れたのが、約2年前の、街に襲撃して来た時だな。あの時は・・・ピノは群れを離れて、孤児院に一直線に向かって行ったって聞いたけど、もしかして?」
(もち、リョ〜君狙いだよ・・・って言っても、街への襲撃に付いて行ったら、たまたま近くに居るって感じたんだよね。まぁ、この街だろうとも思ってたし、ハーピークイーンに五月蝿く言ってたら、やっと襲撃してくれてさ~・・・でも、またあのヤバいおっさんにやられたんだよね。)
あの襲撃はお前がハーピークイーンを焚き付けたせいかよ!
・・・まぁ遅かれ早かれ、襲撃はあったかもしれないが。
(あのおっさん、マジヤバいんだけど。全然勝てる気しないわ。・・・でも今回は見てないし、もうこの街には居ないんだよね?軽くトラウマなんだけど。もう会わないよね?)
居たじゃねぇか・・・あぁ、コイツ死んでたのか。
もうすぐ帰って来ると思うんだが・・・まぁ慣れてもらおう。
「んで、肝心の今回だが・・・。さっきも聞いたが、今回のハーピー軍団はお前が率いてたって事でいいんだな?」
(そだよ。なかなか街に行かないハーピークイーンに代わってね。・・・ちょっと前から、リョ〜君の事ばっかり考えるようになったんだよね。だから、もう我慢できなくって。)
ちょっと前から?・・・か。
もしかして、僕がクラスを授かってからだろうか。
僕が魔物誑しになったから、僕に会いたいって思いが強くなったと。であれば、納得できる・・・がイムは僕を探している様子じゃなかったな。
「イムは、僕を探そうとしなかったのか?」
「さがしてた・・・・・・森のなか。」
あれでも探していたらしい。
つーか、街じゃなく森の中に居ると思ったらしい。
なんだ?僕はゴリラかなんかだと思われてたのか?
「・・・何で態々ハーピークイーンを殺して、リーダーになってまで僕に会いに来た?街に居る時なら無理だろうが、僕が街の外に出ている時なら一人でもよかったんじゃないか?」
(森の中に急に建物ができたじゃん?あれのせいで森の中に人間が増えちゃってさ〜。リョ〜君を探し当てる前に、こっちが人間に狩られるって。わたしは特にレア種だからさ、他の魔物よりも気を付けないとダメだし。後は、森の魔物じゃない桁違いの魔物が居るってウワサになってたけど、今思えばそれってルシルだよね?まぁどうせ、ルシルに会っててもわたしって死んでたでしょ?だから2年前みたいに、群れで街に襲撃ってのが無難かなぁ~って。)
悪霊の迷宮とルシルのコンボで、一人では動けなかったと。
まぁ、僕も最近はルシルのせいで動けなかったんだけどね。
これを口に出すと、またルシルが落ち込むから止めておこう。
「・・・まぁ!どこぞのストーカー魔族のせいで、リョウ達は動けなかったんですね!なんてヒドイ!!」
出ました!ゲス女神!
ほら見ろよ。あのルシルの落ち込みようを。ズーン・・・って効果音がよく似合いそうだろ!やめてさしあげろ!
(んで、ハーピークイーンを殺して、わたしがリーダーになってさ。これから襲撃だって時に、逆に人間に襲撃されちゃうなんてね。リョ〜君のところに必死になって行ったけど、あっさり負けちゃうし・・・。似合わないアクセサリーまで付けちゃってさ。マジウケるよね?)
いや、ウケはしないけど。
あのアクセサリーはリーダーの証かなんかだったんだろうか。




