33話:ある仙人のありがたいお言葉
翌日。
冒険者ギルドによる、ハーピーの巣壊滅作戦が開始された。
今頃は攻撃が開始されている頃かもしれない。
昨日、セリスとイムを引き摺って孤児院に帰った時、ヨハンナさんが大慌てで此方に駆け寄って来た。
その際、服の裾を踏んですっ転び、半泣きになっていた事は彼女の名誉の為に内緒にしておこう。可愛いから許せ。
そんな大慌てでどうしたというのか。
ヨハンナさんを助け起こし、泥と涙をハンカチで拭いてやりながら話を聞いた。
先程、街の騎士から通達が来たらしい。
なんでも、先日のアンドニの一件で、捜索任務をしていた冒険者パーティーが、アンドニやエリオ達ではなく、別の物を見付けたらしい。
それがハーピーの巣だ。
まぁハーピーだって塒くらいあるだろう・・・だが、それだけではなかった。
巣だけなら別に放っておいても問題ないのだが、そのハーピーの数が尋常じゃなかった。
しかも群れの中には、一際派手なハーピーが。間違いなくハーピークイーンだったらしい。
つーわけでその群れ、放っておく訳にはいかない。更に数が増えれば、この街の脅威となる。
冒険者ギルドが先制攻撃して、壊滅させてやろうって事になったそうだ。
しかし、ハーピーの群れは過去に例が無い程の大群だそうで、冒険者ギルドが倒しきれなかったハーピーが街に向かって来るだろうと教えてくれたそうだ。
僕とイムは、エリオ達と一緒に孤児院で待機している。
今は窓から外の様子を見ていた。
セリスは、ヨハンナさんに連れて行かれた為、ここには居ない。
街の防衛にでも参加するのだろうか?
セリスはどうも僕の側を離れたくないみたいだったが、大人の・・・?まぁ見た目大人で、戦えるセリスが防衛に参加してないってのも世間体的にどうだろうって事で、大人しく付いて行ってもらった。
見た目がどうこう言うなら、イムも成人に見えなくもないのだが・・・魔物なのでいいらしい。
どっちにしろ、自分の家は自分で守るしかない。
もし、魔物が街の中まで入った時には、孤児院を守らなければならない。
だから、僕もエリオ達も武器を持って待機している。
2年前のように、他の子供達と震えて固まっている訳にはいかないのだ。
だから、イムが居るのはありがたい。まぁ僕は戦力にならないし、イムが僕を守ってくれないと困るんだけどね。
「ハーピー来るかな~?来ないかな~?ボクの復帰戦を華々しく飾ってよね~。」
「・・・お前は寝てろよ。」
ヘラヘラしながら、ご自慢のナイフをクルクルと回しているが、リタはまだ本調子じゃないだろう。
まぁ魔物が襲ってくるかもって時に、自分だけじっと寝ている訳にもいかんのだろう。
「そうですよリタちゃん!まだ身体が痛むんですよね?ゆっくり休んでてください。」
「えぇ~。大丈夫だよ~マルタ~。それに~、もう寝るばっかりは飽きちゃったよ~。ボクもハーピーを切り刻みたいよ~。」
別にみんなハーピーを切り刻みたいから、こうして待機している訳ではない。それはお前だけだ。
「マルタも災難だったな。もう学園に行くつもりだったんだろ?」
「・・・学園は逃げたりしませんから。それに私もこの孤児院を守りたいんです。・・・・・・えーっと、皆、守りたい人達の為に必死なんですよ?・・・ねぇ、リョウ君?」
「・・・・・・気持ちだけで一体何が守れるって言うんだ。」
「・・・!!? リョウ君!もう一回お願いしますっ!!」
「やだ。二度と言わねぇ。」
こいつ、初代だけだと思ってたら、こっちもいけるのな。いい迷惑だ。
マルタもハーピーの巣なんてなかったら、もう学園に行っている筈だ。やっとこんな絡まれ方されなくて済むんだ。はよ行け。
「そんな事言わずに、もう一回だけお願いします!もう私、学園に行っちゃうんですよ!」
「あっそ。今度からはカティとでもするんだな。」
「カティナちゃんはあの戦術書を知らないじゃないですか!」
「僕も知らねーよ!!」
「そんな・・・絶対嘘です。何かリョウ君には秘密がある筈です。こう・・・戦術書の作者がリョウ君の関係者だったり・・・。」
「・・・・・・。」
関係者な訳ないじゃないか。だが、そんな訳ねーだろ!とも強く言えない推理ですな。同じ世界の人間って意味では。
「あれ?・・・も、もしかして本当に?」
「・・・なんも言ってねぇだろ。」
どうもマルタの名推理を聞いて、微妙な顔をしてしまっていたようだ。
マルタに不信感を抱かせてしまった。
尚も追求してこようとするマルタだったが、それを止める助け船が現れた。
だがその助け船、真面目に窓の外を見ているエリオでもなく、そのエリオの尻をイタズラしようとしているリタでもない。
当然、状況すら分かってないんじゃないかって位ボーっとしてるイムでもない。さっきから目が全然合わないですけど、何処見てるんですか?
助け船は意外な人物だった。
「おいぃ!エリオット!お前は俺と来るんだよっ!賢者、お前もだよ!そんな奴ほっとけ!」
そう、助け船は小判鮫先輩でした。
先日、奇跡の生還を果たした小判鮫先輩ですが、何故こんなイキッてるのかと言うと・・・まぁ元からですか。
「チャズさん、どうしたんです?」
「今日はこの俺が!司祭様に!孤児院を任されてんだよ!だから黙って俺に従え!ハーピー共が来たら、外で迎え撃つんだよ!エリオと賢者は俺と来い!リタとへなちょこぉ!お前らはココで見張ってろ!ハーピーが来たら直ぐ俺に言えよ!」
突然のイキりに困惑するエリオに、小判鮫先輩が指示を飛ばす。
ゲバルド氏に孤児院を任せられてるのは、本当だろう。
今、孤児院にはアンドニとモルガンさんは居ない。二人は冒険者として、作戦に参加しているだろう。
となると、孤児院での最年長は小判鮫先輩となってしまうのだ。
なんとも頼りない話だが、こうやって指示を出しているところを見ると、上手くやれている?のだろう。
小判鮫先輩の後ろには二人の男女が、面白くなさそうな顔をして立っていた。
この二人は、孤児院の3つ上の先輩で、仲良しカップルだ。
運悪く小判鮫先輩に捕まったのだろう。可哀想に。
そして、名前でなく、クラスで呼ばれたマルタも嫌な顔をする。
僕はマルタのこんな顔を初めて見ましたよ。流石ですね小判鮫先輩。上手くリーダーやれてますよ。
「おっ!?・・・イムちゃん!今日もイイ女だぜ~、へへへ・・・。イムちゃんも俺と来いよ!俺がハーピー共から守ってやるからよ!」
小判鮫先輩は、エリオとマルタだけでは飽き足らず、僕の後ろに居る人間形態のイムまで連れて行こうとする。
だがイムはガン無視している。
虚ろな目で窓の外を見ていて、小判鮫先輩は疎か、僕すらも視界に入ってない。
寧ろ心配になるレベルだが、人間形態のイムはいつもこんな感じなんだけどな。
「あ?・・・どーしたイムちゃん?・・・へへへ。そんなハーピーに怖がらなくていいって!俺の側に居れば安心だって!」
ガン無視された事がどうやったら怖がっている事になるのか分からんが、アクロバティック勘違いをした小判鮫先輩が、イムの腕を掴んで引っ張った。
だが、それに反応したイムが、掴まれていない腕を後ろに引く。
んん?・・・・・・あっ!?
「おい、イ・・・。」
僕が止める前にイムの平手打ちが小判鮫先輩の顔面にとぶ。
いや、これは平手打ちなのだろうか?
何すんのよ!エッチ!って言って頬を叩く生易しいものではない。もう顔面を真っ正面から殴っている。ただ手がグーではなくパーなだけだ。掌底じゃん、もう。ライガーかよ。
顔面を殴られた小判鮫先輩は漫画のようにぶっ飛んだ。床に盛大に転がる音で、周りの未成年の子供達が怯える。
小判鮫先輩はどうやら気絶したようだ。鼻の両穴から鼻血を出し、幸せそうなアヘ顔をして。
よかった。小判鮫先輩が幸せそうで、僕も嬉しいです。
「ちゃ、チャズさん!!?」
「あ、あわわ・・・。と、取り敢えず回復を・・・。」
「ブハハハハハーーッッ!!無様な顔~!!」
エリオとマルタ、先輩カップル達が直ぐに小判鮫先輩に駆け寄って行った。
人の不幸が大好きな男の娘は笑い転げているが。
・・・コイツは本当にかつて小判鮫先輩と共に魔物と戦っていたのだろうか?
当の本人であるイムも何処吹く風である。小判鮫先輩には目もくれず、僕を見てくる。
「おい、イム?大丈夫だったか?」
「・・・・・・ごめん、なさい。・・・・・・頭蓋骨、割れなかった。」
な、何故、頭蓋骨を割る必要が?
「ん?・・・んん?あれ?なんで俺倒れてんだ?・・・はっ!?そうだよ!俺は司祭様から孤児院を任されてんだよ!おい、お前らぁ!外に行くぞ!!」
マルタの回復魔法で復活した小判鮫先輩が、勇んで一階に降りていく。
・・・随分、使命感があるんだな。アンドニの影に隠れて、おこぼれを狙ってるような人だと思っていたが。
「え、えーっと・・・リョウ、リタ。ハーピーが来そうだったら教えてね。僕達、下に居るから。」
「リョウ君。リタちゃんと子供達をお願いしますね。」
そう言って、エリオとマルタ、それに先輩カップル達も、小判鮫先輩に付いて下に降りていった。
「僕は大丈夫だって言ってるのに~。それにしても~・・・うぷぷ~wwさっきのは傑作だったね~wwイムって面白いよね~。ボクも魔物使いがよかったな~。」
「・・・まぁ僕は魔物使いじゃないけどな。」
「そう言えばそうだったね~。あ~お腹痛い~ww」
「・・・さぁ、草ばっか生やしてないで、しっかり見張れよ。」
「草を生やす~?・・・まぁいいけどさ~、そんな真面目に見張ったって来ないと思うよ~?ハーピーの巣は冒険者ギルドが叩いてるし~、街の城壁にも司祭様達が居るんだよ~?それに~これだけ建物がある中で~、孤児院が狙われるって事あると思う~?」
・・・リタは2年前の事をもう忘れたのだろうか?
孤児院のすぐ目の前までハーピーがやって来たではないか。
あの時は孤児院にゲバルド氏が居た。だから何事もなく撃退できた。
だが、今ゲバルド氏もヨハンナさんもセリスも孤児院には居ない。
あのハーピーは過去にも会った事があるピンクのハーピーだ。
そして間違いなくレア種だ。
何も無いなんてあるだろうか?嫌な予感と股関がビンビンする。
「・・・およよ~?リョウ~、城壁の方で始まったみたいだよ~。」
「ん?・・・・・・。何も聞こえんぞ。」
「そう~?まぁ、冒険者ギルドが殺し損ねた奴が~、苦し紛れに攻めて来たとかそんな感じかな~。」
まぁ、リタの予想通りならいいんだがな。
だが、やはり僕の悪い予感の方が当たってしまう。
「リタ、2階の窓からじゃ戦いが見えん。屋根に登ってみるか?」
「ん~・・・。屋根に登っても見えるかなぁ~・・・・・・あれ~?何あれ~?」
リタが窓から外を見る。
何か見つけたようだが、僕には分からん。
「・・・・・・・・・あっ!?きっ、来た!!?」
リタの間延びした喋りがなくなる。と言う事は相当焦っているようだ。
僕もよく見てみる。おっ!確かに、数匹のハーピーが城壁から街の中に入って来たようだ。
やはりハーピーは空を飛べる分、厄介なのだろう。
だが、まだあんなに遠いのに何故焦るのか?
「何処見てるのリョウッ!上だよッッ!!!」
はぁ?上だと?
・・・何か居る。・・・けど僕には点にしか見えない。
・・・・・・はっ!!?で、出た!?
上空から物凄い速さで急降下して来る奴がいる!
明らかにこっちに向かって来てるぞ!
「エリオッ!!マルタッ!!上から来るよッッ!!!」
「言ってる場合かッ!?こっちに突っ込んで来るぞッッ!!?」
僕はリタを抱えて、大急ぎで窓から離れる。
それと同時に、今まで覗いていた窓、壁をも壊しながら、ハーピーが爆音と共に急降下して来た。
舞う土埃に、部屋の隅で固まっていた子供達の叫び声が響く。
床をも半壊させ、そこに立っていたのは、やはりピンクのハーピーだった。
床に転がっている僕と目が合うと、ニヤリと笑みを浮かべた。
ピンクのハーピーの体は、傷だらけで、矢が数本刺さったままだった。
これだけの傷を負いながら、強引にここまで来たらしい。
やはり狙いは・・・僕だ。
目の前に現れたことで、ピンクのハーピーが何を思ったかはっきりと分かった。「見付けた」と。
だが・・・だがしかし!僕も簡単にやられる訳にはいかない!
狙いは僕なんだろ?そして、この距離・・・あの技が使える筈だ。
受けきれるか!?俺の必殺技!!
うおおおおおおおおっ!くらええええええええええっっ!!!
僕は盛大に顔を歪める。
そう・・・誰かとにらめっこをする機会があるといけないから、練習していた秘技・・・“変顔”!!
だが、まだ終わりではない!この必殺技“変顔”は、次の必殺技へと派生するのだ!
「・・・ボクハ、リョウジャ、ナイヨー(裏声)」
ーーーーーー 時が止まった。
そばには、信じられないというような顔をするリタ。
絶句する子供達。
真顔のピンクのハーピー。
おもむろにハーピーが片足を上げる。
あぁ!!駄目だ!効いてない!!!
鋭い鉤爪を此方に向けて蹴ろうとしているようだ。
しかし、そこにイムが割り込んだ。
イムはモン娘形態になり、ピンクのハーピーに透かさず体当たりをぶちかます。
イムはそのままピンクのハーピーと共に、先程できた壁の穴を更に広げながら、外に落ちていった。
「イムッッ!?」
「リョウッ!ここに居てッ!他のハーピーも追い付いて来た!リョウは子供達をッ!!」
リタはそう言うと、すぐに階段を降りて行った。
こ、子供達をって言ったって・・・僕にか?
子供達を見る。離れていたので怪我した子は居ないようだが、怯える子に泣き出す子、それを宥めようとする子や、血気盛んな奴は武器を持って外に行こうとしている子達まで居る。
僕が守る必要あるか?あそこで武器持ってる子達の方が僕より強いぞ。
「お、お前ら!そこに居ろよ!絶対外に出るなよ!」
一応、それだけ言い残し、僕は外を確認した。
庭では後から来た4匹のハーピーと、エリオ達が戦っている。
イムは・・・居た!
ピンクのハーピーとイムはもみくちゃの取っ組み合いになっていたが、突如イムの頭が半分吹き飛ぶ。
・・・・・・えっ!?い、イムの頭が・・・。
突然、何かの攻撃を食らい、イムは体を仰け反らせる。
イムを倒したピンクのハーピーは、再び僕を見据え、飛び立つ。
しかし、倒したと思っていたイムが起き上がり、ピンクのハーピーの片足を掴んで、引っ張った。
ピンクのハーピーは飛び立つ事が出来ず、顔面から地面に叩き付けられた。
ビターンッ!!という効果音が聞こえてきそうな、悲惨な落ち方をしたな・・・いや、それよりイムが生きていてよかった。スライムだから、顔が半分吹き飛んでも大丈夫なのか・・・。
「キーーーーーッッ!!?」
ピンクのハーピーはお怒りのようで、甲高い叫び声を上げ、掴まれていない足でイムを足蹴にする。
鋭い爪により、イムの体がズタズタになるが、イムは意地でも放さないようだ。
や、ヤバい・・・!
イムを助けないと・・・だが僕が行ったところでどうなる?
ハーピーの狙いは僕だぞ?・・・い、いや!そんなの関係ねぇ!!
い、行くぞ!待ってろイムッ!!
『お待ちください。』
突然、頭の中に響く声。
僕は思わず立ち止まった。
『私が行きます。主様は下がって。』
聞き覚えのある声。
あいつだ。
・・・でも姿は見えない。
それと同時に、イムとピンクのハーピーに動きがあった。
蹴っても蹴っても放さないイムに、ピンクのハーピーが別の攻撃を仕掛ける。
またも、イムの体が吹き飛ばされた。
今度は3ヶ所。体に大穴が空いた。
今度は何をしたのかが見えた。
あれは・・・ピンクのハーピーの羽根だ。羽根が銃弾のようになって、イムの体を貫いたのだ。
何て威力なんだよ・・・まるで銃じゃないか。あんなのを僕が食らったら一溜まりもない・・・。そっこーであの世行きだ。
ピンクのハーピーの羽根を食らったイムは、ハーピーの足を放してしまった。
再び僕に狙いを定めたピンクのハーピーが、ギラついた目をして此方に飛翔してくる。
イムはダウンした。セリスもここには居ない。
エリオもリタもマルタも、他のハーピー達と戦っている。
ピンクのハーピーは完全にドフリー。僕に到達する筈・・・だった。
だが、それは果たせなかった。
何故なら、飛翔してくるピンクのハーピーのすぐ側に、突然あの銀色の狼が現れたからだ。
瞬間移動をしたかのように突然視界に入ってきた銀色の狼が、前足を振り上げる。
その前足をピンクのハーピーの頭部に振り下ろし、そのまま地面に叩き付けた。
2階の高さから落ちた2匹に、地面が揺れ、激しい音が出た。
戦っていた小判鮫先輩パーティーとハーピー達も、驚き、戦いを止める。
透かさず銀色の狼は、ピンクのハーピーの首に食らいつく。
ピンクのハーピーは叫び声を上げながら暴れるが、銀色の狼のデカい口から逃れる事が出来ない。
骨の噛み砕くイヤな音が鳴り、血が飛び散る。
そしてピンクのハーピーは動かなくなった・・・。
や・・・やったか!?
い、いや、フラグを立てなくていい。どうみてもヤってるよ。
それより、銀色の狼はまだピンクのハーピーをガブガブしてるが?
死んでるんだよな?・・・も、もしかして食ってるのか?
それはまずい!!
僕は急いで2階から降りると、銀色の狼を止めた。
「お、おい!もういい!!ハーピーは死んでいるんだろ!?」
『あ・・・し、失礼いたしました。此処まで急いで来たもので。・・・申し訳ありません。』
銀色の狼はピンクのハーピーを齧るのを止め、此方に向き、耳を下げておすわりした。
「ひっ・・・ヒイィッッ!?何だ、コイツはぁッッ!!?」
あっ!?そうだった。何の説明もしていない。
小判鮫先輩が腰を抜かしている。
「リョウッ!何してるのッ!!?」
「リョウ君ッ!早く逃げてくださいッ!!」
エリオとマルタも、銀色の狼に剣を向けながら、僕に叫ぶ。
リタは、トラウマが再発したのだろうか?マルタの後ろに隠れて震えている。レア種のミノタウロスの時は平気そうだったのに・・・あの薬のせいなのだろう。
そういえば、エリオ達と戦っていたハーピー達は?・・・どうやら、ピンクのハーピーが倒された時に逃げたようだ。
「なっ!!?何故あの魔族が!?」
「ぬぅっ!!何なのだこの状況は!?」
此方に急いで戻って来たと思われる、セリスとゲバルド氏も合流して、この光景に驚いている。
僕の隣には、おすわりして大人しくしているが、口の周りを血でべっとりと汚した、最近お騒がせの銀色の狼。
側には、これまた再三登場してきたピンクのハーピー。まぁ今は翼がもげて、体から出ちゃいけない物が色々と飛び出してるが。
肉も所々無い気がする。・・・この娘が、その・・・アレだったらどうしよう・・・。
いやまぁ、説明も大事だが、僕はイムが心配なんだが・・・。
イムは・・・あれ?治ってる?
体を4ヶ所、穴を空けられたり、吹き飛ばされたりされていたが、その傷はもう無い。
何か考え事をしているみたいだが・・・無事なのか?
取り敢えず無事なら、セリスに回復魔法を掛けてもらえばいいか。今はこの場を納めないとな。
「うわあああああああ!!!?アンドニィィ!!助けてくれぇぇぇ!!!?」
何かひとり、パニックになった小判鮫先輩が何処かに逃げていった。
何処に逃げんだよ。アンドニの事、呼び捨てだし。
まぁアイツは説明いらねぇんだろ。ほっとけ。
「ぬぅ・・・。リョウ!その魔物は、件の魔族だろう!?何故その魔族が此処に居る!?」
ゲバルド氏はそう叫びながら、銀色の狼に向かって戦闘態勢をとる。
セリスも例の大鎌を出している。結構すぐ出すよねその大鎌。ルナ様に怒られたのではないのか?
銀色の狼も、ゲバルド氏とセリスを警戒し、睨んでいる。
「やめろ・・・。あの二人も、そっちの子達も、僕の大事な人達だ。もう手出しは、僕が許さない。」
『・・・承知しました。我が主の御心のままに・・・。』
「・・・・・・なぁ?僕はもうキミの主でいいのかい?」
『・・・・・・えっ!?違うのでございますか!?』
僕と銀色の狼は、互いを見たまま固まってしまう。
・・・数日前のオシリ山での出来事。
レア種のミノタウロスを倒した後に現れた銀色の狼に、僕は一緒に行こうと誘った。
銀色の狼は踵を返し、去ってしまった訳だが・・・実はここで銀色の狼は、僕にだけ言葉を残していたのだった。
『お言葉、ありがたく頂戴いたします。ですが、私は別の主様に仕えております。・・・・・・我が主と話をして来ます。もし、折り合いが付けば、その時は、私を・・・貴方の・・・・・・。』
と、まぁこう言って去って行ったのだ。
後で確認したのだが、セリスとイムには聞こえなかったそうで。エリオ達やパーラさんにも聞こえていないだろう・・・。
確かにあの時、一緒に行こうとは言った。
だがコイツは、それを受けつつも、今仕えている主人がいると言った。
周りからは無視されたように見られた訳だが、コイツはその主人にケジメを付けに行っていたらしい。
そうして此処に颯爽と現れ、僕を主と呼ぶということは、その主人とやらにケジメは付けてきたのだろう。
「だがあの時は、最後に言葉を濁していたじゃないか?」
『・・・・・・はい。あの時点では・・・予想がつかず・・・。』
「それに何時帰ってくるとも言わなかっただろ。信用してやりたかったんだが・・・。」
『・・・・・・・・・ご・・・。』
「ん?なんて?」
『ごめんなさいぃぃぃ~~~~っ!!!』
突然、銀色の狼は大声で謝ると、腹を見せて寝転がった。
『私に信用が無いのは分かっています!我が主の大切な方々とはつゆ知らず、悪い虫がついたと思い、殺そうとしてしまいました!申し訳ありませんっ!!その後も我が主につきまとい、御守りしていた気でおりました!申し訳ありませんっ!!4年前は、未来の主となろう御方を浅はかにも拉致し、フォレストウルフ共のエサにしようとしてしまいました!申し訳ありませぇんっ!!』
お、おぉ・・・どうした、コイツ・・・?
自らの罪を認めだしたぞぉ?
それに何故寝転がる?
これはアレか?犬が降参しますとか服従しますとか、そんな時にするやつか?人でいう土下座みたいなつもりなのだろうか?
しかし、こうやって聞いてみると、コイツ結構悪い事やってるなぁ。
「ぬぅ・・・。リョウ、その魔族と何をしている。何があったか説明するのだ!」
「あ、いや。ちょっ、ちょっと待って下さい、司祭様・・・。」
『御友人の行方を教えただけでは、罪を償えたとは思っておりません!こんなハーピー一匹殺したくらいでは、罪を償えたとは思っておりません!!ですから、魔王様に話を付け、我が主の元に馳せ参じたのです!ですから、どうか・・・どうか、私を主様のものにしてくださいっ!!!』
「・・・・・・・・・え?お前、今何て言った?」
『何度でも言わせていただきます!!私を、主様のものに・・・。』
「いや、それじゃない。・・・お前の前の主人が誰だって?」
『魔王様ですか?御安心くださいませ。魔王軍はきっちりと抜けさせていただきました。魔王軍を抜けるとなると、どのような事になるか予想がつきませんでしたが、四天王の方の助言もあり・・・。』
逆さまのまま、ドヤ顔で語る銀色の狼を尻目に、僕はめまいがした。
『あぁっ!!?我が主!!!』
「!? リョウさん!大丈夫ですか?」
「・・・・・・!?」
僕がフラフラとしたのを見て、セリスとイムが駆け寄って来る。
ま、マジかよ・・・なんという事だろう・・・。
僕は・・・僕のクラスは・・・。
魔王の部下まで寝取ってしまったというのか!!?
◆◆◆
「リョウさん、大丈夫ですか?」
「あぁ・・・大丈夫だ、セリス。ちょっとびっくりしただけ。」
『あぁ、おいたわしや、主様。私の肉球を触られますか?プニプニで癒されますよ?』
「いや、別にいい・・・。」
元はと言えば、コイツのせいなのだが・・・。
それよりも、コイツが魔王の部下だったとはな。
魔王だぞ?・・・魔族領の王様・・・諸悪の根源・・・ラスボス。
・・・いや、それは昔の魔王だって話だったな。
今の魔王は八代目でしたっけ?ルナ様が、八代目は戦争をするような愚か者ではないと言っていた筈だ。
いや、でも・・・魔王軍って言ったぞコイツ。
魔王は軍隊をもっている?・・・いや、領地があるなら軍隊だってあってもおかしくないか。
・・・軍隊を抜けてきたのか。僕の為に?
そんなに簡単な事なのだろうか?だからコイツは、もし折り合いが付けばとか、予想がつかなかったらとか言っていたのか。
しかも魔王様ときたもんだ。そりゃーもう邪悪で、威厳たっぷりカリスマばっちり、冷気を操るのが得意な魔王に違いない。
それとも、第二形態第三形態と変化する異形の魔王だろうか。
・・・い、いや、おねいさん系ムチムチの美女の可能性が高いか。そうだな!そうに違いない!いつでも夢は捨てちゃいかんぞ少年達よ!!
・・・まぁどちらにしろ、魔族領で一番ヤベーやつの部下を寝取ってしまった訳だが・・・僕が心配なのはそんなヤベーやつから、目を付けられたり、報復されたりされないかって事だよ。
コイツの安心しろだの、きっちり抜けてきただのを信用すれば、報復という事は無いかもしれないが、目を付けられるのはありそうだ。
勘弁してくれよ・・・。僕は先代の魔王を倒した勇者じゃねーし。・・・まぁ同じ同郷の奴だけども!今の勇者とも知り合いだけども!
・・・いや、待てよ。
魔王軍って言ったって、いろんな奴が居るだろう?
総大将がもちろん魔王様だ。その下に参謀とか、さっき言ってた四天王が居てだ。その下が部隊長だの兵士長だのが居て、更にその下に一兵卒が沢山居るんだろ?
軍隊なんか詳しくはないが、こんなもんだろう。
・・・この銀色の狼は一兵卒に違いない。
そうだよ。きっとそうだ。コイツは魔王軍でも、その他大勢の奴なんだよ。でなければ、簡単に軍が辞めれる訳がない。
・・・だが、コイツが魔王軍の沢山いる兵士の中の一匹だとすると・・・セリスは魔族領にいるその他大勢のモブに震え上がらされたという事になるが、いいかそれで?
・・・・・・う~ん。じゃあ、兵士長くらいかな?兵士10人くらいをまとめる奴みたい・・・な?
いや、部隊長だな!狼部隊の部隊長みたいな?それならギリギリあるんじゃないか?
四天王はないだろーwwないわーwwww
なんでそんな奴が簡単に抜けれるんだよ。コイツが四天王の中でも最弱でもないわーww四天王の面汚しでもないわーww
・・・・・・・・・・・・・・・。
「・・・一応聞いておくけど、お前は魔王軍の中で、どのくらいの奴なんだ?」
銀色の狼は、一瞬考えた後、またドヤ顔で語りだした。
どうでもいいけど、コイツいつまで逆さまなんだ?
『私の戦力を懸念していらっしゃるのですね。御安心くださいませ、我が主。我々、天狼は代々、魔王様直属の特殊部隊を務めさせてもらっております。私はその部隊の指揮をしておりました。若輩者ではございますが、こう見えてもレア種でありますから、四天王の方々と同等の発言力も持っており・・・。』
・・・・・・・・・・・・終わった。
『あぁっっ!!?我が主!どうしたのですか!!?』
僕が頭を抱えて座り込んでしまったのを見て、銀色の狼が叫んだ。
はぁっっっ!!!?な、何でそんなヤベー奴が此処に居るんだよ!
魔王直属の特殊部隊だって?
何ですかそれは!?
諜報とか暗殺とかそんな事する部隊か?
俺はお前、暴れん坊将軍じゃねーんだぞ!何でそんな公儀の隠密みたいな奴が仲間になるんだよ!
んで、そのお庭番さんはどうやって軍を抜けたって言うんだ?
ぜってー無理だろっ!!
魔王が手放す訳ねーだろ!そんな大事な部隊の隊長をよ!
『・・・や、やはり我が主も魔族に抵抗がございますか。・・・そうですよね。先の戦争を仕掛けたのは、我ら魔族側。我が主が魔族を嫌悪されるのも無理ございません。・・・分かりました!主様への忠誠心を示すため、いずれかの四天王の首を取って・・・。』
「待ったぁ!!?何故そんな物騒な話になるっ!?」
『ですから、魔王軍との決別の証拠に、四天王の首をあげて参ります!御安心を。不意討ちは得意でございます。闇に紛れて奇襲すれば、例えラミアであろうが、ドラゴンであろうが後れを取りません!』
「・・・頼むからそんな事しないでくれ。」
な、なんだコイツ・・・。なんでこんな好戦的なんだ?
不意討ちが得意とか、そんなドヤ顔で言う事じゃないから。
「・・・なぁ、セリス。この狼、仲間にしても大丈夫だと思うか?」
「はぁ・・・私に聞かれましても。先程の話は聞いてましたが、リョウさんの考えているような事は起こらないと思いますが・・・。」
『話を・・・?そこのふしだらな人間!貴方に話した覚えはありませんよっ!』
そう言った銀色の狼は、起き上がってセリスを睨み、威嚇する。
「うっ・・・。」
「あっ!またお前っ!! 止めろ!“待て”だ!!」
『待て・・・? はっ!?何故、私は腹這いを!?』
なんか知らんが、待てが通じたようだ。
銀色の狼が大人しくなったので、セリスの様子を聞く。
「セリス、大丈夫か?」
「え、えぇ。少しでしたので大丈夫です。・・・心を読んでいたのを迂闊に話したのがいけませんでしたね。すみません。」
僕としては、魔族から見てもセリスがエロい格好をしていると思われていた事にびっくりである。
『心を読む・・・?貴様、やはり只の人間ではありませんね!』
「あぁ、やっと声が聞けましたね。私はセリス。察しの通り、天使ですよ。」
どうやら銀色の狼は、やっとセリスに対して話したらしい。
『神の使い?何故、神の使いが我が主と居るのです!?』
「別にいいだろ。それより、お前はまた殺気を放ったな?僕はさっき言ったばっかだよな?」
はっ!と気付いた銀色の狼は、見るからにあたふたしていた。
狼のクセに、器用な奴だ。
『あ・・・あ、あの・・・はい・・・それはでございますね・・・・・・ご、ごめんなさいぃぃぃ~~~っ!!』
銀色の狼はまた逆さまになり、涙を流しながら左右に体を揺すって謝る。
まるで駄々をこねる子供が、最後の抵抗をしているようにも見えるが・・・コイツからすると、床に頭を擦り付けて泣きながら土下座している状態なのかもしれない。
「キミ、それをすればなんでも許されると思ってない?」
『そんな事は露程も思っておりません!しかし・・・しかし、私にはこうして主様に許しを請うしかないのでございます。我が主となっていただき、罪を償っていくしかないのでございます!ですから・・・ですから、私を・・・。』
「要求の多い奴だなぁ。ホントに謝ってんの?」
『は、はい。も、申し訳・・・。』
「あの・・・リョウさん。許してあげて下さい。見てられません。」
おっと・・・。いかんいかん。
いや、でもねセリスくん。コイツがなんか虐めて欲しいオーラを出すからいけないんだ。
困ったものだ。私は基本、Mだというのに。
まぁ、コイツの処遇なんて端から決まってるんだ。
それより、ゲバルド氏に説明を・・・って、もう居ねぇや。
しょうがないよね。長い事、無視してたし。
エリオ達も居ない。ホンマ、空気を読める子達やで。
残っているのは、僕達とハーピーの死体だけ・・・・・・だ、け・・・?
(あ・・・やっと気付いた。てか、ソイツとの絡み長過ぎじゃない?わたしずっと待ってんだけど?)
そこには、レア種のハーピーの死体はなかった。
そう。またあの現象が起こったのだ。
銀色の狼に翼をもがれ、喰われた跡はどこにもない。それ以前に付けていた傷も、刺さっていた矢も、跡形もなく消え失せている。
イムの時と違い、体の欠陥があった筈だったのだが・・・問題無かったらしい。
僕はこのハーピーの可能性を捨て切れずにいた。
だから、銀色の狼がハーピーの体をボロボロにしてしまった時はかなり不安だったのだが、どうやら杞憂だったようだ。
「リョウさん・・・ハーピーが・・・。」
「あぁ、セリス。コイツもどうやらそうらしい。」
イムもやった、自分のパートナーに相応しいかどうか確かめる為の戦い・・・それが先程の戦いだったのだろう。
今回もトドメを刺したのは僕ではないが・・・というか、現時点では仲間なのかどうかも怪しい銀色の狼が刺したのだが、それでも問題無かったのだろう。
そして傷を再生させ、生き返り、こうして声がはっきりと聞こえ始めたのだ。
間違いないだろう。このピンクのハーピーは、僕の従魔だったのだ。
(取り込み中悪いんだけど、わたしも交ぜてくんない?いろいろ役に立つよ~。)
そう言って、近付いて来たピンクのハーピーは、中腰の姿勢になる。
さぁ!突然ですがここでクイズです!
今、僕の目の前にいるのは、涙目の犬・・・ではなく、レア種のハーピーのもっこり美少女。先程、戦っていた時にしていた凶悪な笑みではなく、素敵な笑みをしていますねー。
さて、ハーピーというのは、人間の手にあたる場所は翼になっております。下半身は、翼と同様の薄紅色の羽毛に覆われていて、足は木に留まる為だけではなく、獲物を足で捕まえるのでしょうね。鋭い鉤爪になっていますねー。
ですが上半身はどうでしょう?手が翼になってる以外は、女の子と同じ体なんですねー。
ではここでクエスチョンッ!?
そのレア種のハーピーが近付いて来て、中腰になりました。そこで強調させれる物は、いったいなんでしょーかッッ!!?
せぇーかいはッッッ!!!
O P P A Iィィッッッッッ!!!!??
んああああああああッッッ!!!!ハーピーさんにも!パイパイはああああああああるうううぅぅぅぅぅ!!!!!
「うっ!・・・ふぅ。 ・・・・・・役立ちそうだね。いろいろとね。」
少し頬を赤らめているところもポイントが高い。
(そうでしょ?じゃ、わたしはもう一緒に居ていいよね?)
『なっ!!?我が主!私が先ですよね!?どうか私に、名をお与え下さい!』
(可愛い名前にしてね~。)
騒がしいな・・・。
色々起こり過ぎて、もう頭がいっぱいだよ。名前はまた今度にしてくれ・・・。
まぁ、これで一度に2匹のモン娘が仲間になった訳だ。
そろそろこの謎のクラス・・・“魔物誑し”の全容も分かってきたんじゃないか?
『』は魔族が発する言葉です。リョウ君以外の一般人にも聞こえますが、伝える相手を選べます。
()はレア種の魔物が、リョウ君のクラスによって発する事ができるようになった言葉です。リョウ君、女神様と天使などの心が読める人達、リョウ君の従魔にしか聞こえません。




