32話:ケモ耳は何ものにも勝るのだ
「リョウ、これ・・・・・・おいしく、ない。」
「そりゃそうだろ。ただの墨だぞ。」
僕はイムからミノタウロスのドロップ品のインク瓶を取り上げた。
大切に仕舞っておいた筈なのに、なんで持ち出してんだよ。
「肉、おいしかった。・・・・・・これ、おいしくない。・・・・・・おかしい。」
おかしいのはお前だ。
昨日食ったミノタウロスの肉が余程美味しかったようだが、墨まで食わなくていいだろう。
だいたいなんで魔物の骨やら皮やら、アイスの棒まで食える奴が、墨はダメなんだよ。
墨だって食える筈なんですよ。イカスミパスタとか。この世界にはあるかは知らんが。
あ、漫才から入ってしまいました。
どうも、リョウ君です。
アンドニ君調子に乗っちゃった事件も一昨日の事です。
行方不明になってた子供達は、無事に全員見付かりましたよ。
そう、全員です。
僕達はレア種のミノタウロスを倒した後は、アンドニ達を探す事無く、真っ直ぐ帰りました。
見捨てた訳じゃないよ!ホントだよ!
まずはエリオ達を無事に送り届けないとね。リタも満身創痍だったしな。
リタの意味不明の行動は、勿論ルナ様のアブねぇ薬が原因だった。
またまたムキムキマッチョなイムに手厚く介護して貰って、リタも無事に帰れた訳ですが、今もリタは全身筋肉痛で動けない状態です。
あの限界を超えた動きの反動なのだろうが、効果が切れたら死ぬとかじゃなく、それくらいで済んでよかったよ。
一方アンドニ達ですが、僕達がエリオ達を見付けた同じ日にゲバルド氏とその他のモブ達が見付けてくれたそうです。
アンドニ、小判鮫先輩、モルガンさん。全員怪我はしていたが無事だった。
何処で見付かったとかは、全く興味が無かったので聞いてないが、一応エリオ達を探していたそうだ。
何処で見付けた事より気になるのが、アンドニ達パーティーを襲った冒険者まがいの盗賊達の事なのだが・・・結果的には返り討ちにしたみたいだ。
エリオ達の話から、アンドニ側が有利をとっていたようだったが、あの後は見事追い払ったらしい。
そう、追い払ったのです。
子分は皆死んだが、盗賊のリーダーらしき女性には逃げられたそうだ。
流石、期待の新人(笑)
アンドニ君にかかれば盗賊なんてご褒美イベントですよね。
絞り取ってやるつもりが、逆に絞られる対象だったなんてね。
盗賊達の魔導具も金もウマーですわ。
・・・いやいや、つーかなに先にそんなおいしいイベントやってんだよ。
普通僕だろぉ?そんなイベント起こるのはさ。
黒の三戦士は違うよ!あれはガラの悪い冒険者じゃないか!中途半端なんだよあのパクり集団は!
もっとこうさぁ、マジの奴等だよ。
極悪非道の凶賊だよ。
指名手配とかされててさぁ。お宝とか溜め込んでる奴等だよ。
・・・だからあのショタコンのおじさんは違うって!あれ僕は捕まってた側だろぉ!
だからさぁ、調子に乗った盗賊がだ、狩られる側だと思ってる僕に言うんだよ。「金目の物と女を置いて行きな!」って。セリスの全身を舐め回すように見るんだよ。そしたら両脇に居るセリスとイムがだ、「リョウさん怖いです!」って抱きついてくるんだよ。僕はその乳を堪能しつつだよ、「安心しな仔猫ちゃん達、悪い奴はみんなやっつけるよ」と盗賊どもに見せつけてやる訳だ。すると激昂した盗賊どもが飛び掛かってくるねぇ?そこをこの転生チーレム野郎の僕が颯爽とねぇ!悪漢達をちぎっては投げ、ちぎっては投げ・・・。
・・・うん。まぁね。誰も死んでなくて、なによりですよ。
みんなよく頑張った。おじさん嬉しいぞ。
今回の騒動、これにて終了!またのんびり冒険でもといきたかったんですがね・・・どうやらそうもいかないようで。
カティが王都に帰ってからというもの、忙しいったらないねぇ・・・。
「リョウさん、用意出来ましたよ。行きましょうか?」
「あぁ、ありがとうセリス。ほら、イムも行くぞ。」
「・・・・・・ん。」
セリスが大きな包みと袋を持って現れた。
それを持って、僕達は街に出た。
目的地は冒険者ギルド。
いったい僕達が冒険者ギルドに何の用があるのかっていうと、紫煙の風を探しに行くのだ。
セリスが持ってきた荷物は、レア種のミノタウロスの生肉と金。
金はレア種のミノタウロスの素材を出入りの商人に売った金だ。
金はパーラさんへの報酬で、肉は紫煙の風、全員へのプレゼントだ。
ゲバルド氏とコニーさんに相談して決めた報酬ではあるが、ちょっと過剰な報酬だと言われた。
だが、レア種のミノタウロスの討伐にはパーラさんも関わっているし、紫煙の風には無理して捜索に加わってもらった。
これに対しての僕の気持ちだと言うと、二人にはリョウの好きにしたらいいと言われた。
僕の考えは甘いだろうか?
でも本当に良い人達っぽいし、媚びを売っててもいいと思うんだよね。
後はまぁ・・・口止め料って感じかな?
色々と暴露しちゃったしな・・・まぁ、パーラさんは吹聴するような人間でもないと思うけど。
因みに、リタには片方の角の分の金をやった。
ミノタウロスの角は、素材の中でも高価だった。
倒したのはセリスだが、リタが一番頑張ったのでこの報酬だ。
後はミノタウロスの肉が食えればいいと謙虚な事を言っていたが、動けないので食べれてない。
可哀想だが、僕がその分を食ってやった。おいしかったです。
まぁ、一番高価な魔石は我が手中にあるんですけどね。
セリスが倒したんだから、それくらいいいよね?
屋台がある度に足が止まる二人を何とか引き剥がして、目的地に着いた。
ここが冒険者ギルドかぁ。なかなか立派な建物だな。
僕も15になったらここに来て、冒険者になる予定だ。
折角、異世界ファンタジーに来たんだ。世界中を見て回らないとな。
しかし、なんだろう?
慌ただしいと言えばいいだろうか。やけに冒険者達が出入りしているが?
「何かあったのかな?」
「モグモグ・・・さぁ?・・・また行方不明者でしょうか?・・・モグモグ。」
また?・・・いや、もう俺は関係ないしな。
後、食べてからモノ言えよ。
「ふぅ・・・。リョウさん、折角ここに来たので聞いておきたいのですが、私だけでも冒険者しておきましょうか?」
さっき屋台で買ったパンのような物を食べ切ったセリスが、そんな事を言う。
・・・う~ん。果たして、セリスだけでも冒険者登録するメリットはあるのだろうか?
言ってみれば、アンドニと小判鮫先輩の関係みたいなものか。
アンドニやモルガンさんが受けた依頼に一緒に付いて行ける・・・メリットなんてそんなものじゃないかな?
後は、ダンジョンが見付かったなど、情報が得られるとか。
デメリットは冒険者の義務ってやつだろう。
1年に1回ある審査で、冒険者としての実績ないと、ランクを下げられたり、首を切られると聞いたな。
ファンタジーに来てもノルマはあるんですね・・・。
その他にも、指名依頼やら緊急依頼やら煩わしそうなものがあるらしい。
今のところデメリットの方が勝ってる。
後は、ギルドカードという名の身分証が貰えるってメリットもあるが、どうせセリスだけが持っていても、僕とイムは他の街には入れない。
つまりは、冒険の幅が広まる訳ではない。
よって意味無し!
「パーティーにはメリット無いかな。セリスがしたいならしてもいいぞ。」
「いえ、リョウさんの為にならないのなら必要ありません。」
まぁ、冒険者になって下界を謳歌したいなんて思わないわな。
セリスはルナ様の命令で僕と居るんだから。
冒険者ギルドに入る。
中も慌ただしい。何があったのだろうか?
・・・まぁいい。その辺の冒険者に聞くより、冒険者ギルドの受付に話を聞こう。
さて・・・さぁ!さぁさぁ!!皆さんお待ちかね!!
冒険者ギルドの受付!冒険者ギルドの受付のご紹介です!!
そりゃもうね。冒険者ギルドの受付と言えば、冒険者達の心のオアシス!清涼剤!水洗便所!
世界から選りすぐりのぉ!トップクラスの美女達がぁ!
ここにッッ!!ここパイマーンぬぃッッッ!!!
そりゃもう物語の主人公と恋に落ちるのは確定していますから。
これは法律で厳しく決まっている事ですから。
ですから慎重に。最初に話し掛ける美女は慎重に選ばないといけない。
ツレの二人のジト目なんて気にしていられるか!!
あの人どうだ?
あのムチムチ具合は素晴らしい。
なんて男が好む身体をしてるんだ。イケナイなぁ・・・。
次の人は?
あらまぁ大きなお胸だこと。
なッッ!!み、耳が尖っている・・・だと・・・!!
という事はあのおねいさんはエルフか!!
何ということだ!この世界のエルフはスレンダーでヒンヌーではないだと!!
確かにスレンダーヒンヌーも素敵な事ではある。
だがあれほど美しく、そして巨乳を持ち合わせているとは・・・。
何と嬉しい誤算だろうか・・・最高だ!マルスルナ!!
さぁ最後の美女だ。
身体のボリュームは・・・うむ。これは比べる相手が悪い。ノーコメントで。
綺麗な黒髪ですな。良いシャンプー使ってますね。
そしてその黒髪の上に・・・ケモ耳。
はい・・・勝ち。決定。
あの黒髪ケモ耳受付嬢に話し掛けよう。
「ボンジュ~ル、マドモァゼ~ル。」
「はい??・・・困りました。何語か分かりません・・・。」
通じなかった・・・。
いや、通じても意味不明だろうけど。
「・・・えーっと、ちょっとお聞きしたいのですが?」
「良かったぁ!こちらの言葉も話せるのですね!」
しかしこの娘、いちいち仕草が可愛い!
首を傾げたり、ケモ耳をピコピコとさせおって!
これが獣人ッッ!!これがリアルケモ耳ッッ!!
連れて帰りたい・・・!今すぐ連れて帰って、膝の上に乗っけて、四六時中ナデナデしたいッッッ!!!
「お若いのに凄いですね!先程の言葉は何語なのですか?」
「あれはおふらんす・・・いや、そんな事はどうでもいいんで、お嬢さん、今晩お食事でもどうで・・・。」
「リョウさん、ふざけるのもいい加減にしてください。」
あぁ!くそっ!セリスめ、いいところで邪魔しやがって!
ふざけてなんかないやい!本気だもん!
イムも他の人から見えないように、僕を触手針でつつくのは止めろ!
刺されんのか?ナンパしたら従魔に刺されんのか?
「クスクス、あまりお姉さんを困らせるのは止めてください。それに、お連れにこんな素敵な方が居るんだから大切にしてあげてくださいね。」
してるよぉ!天使もスライムも大切にしてんだって!
でも僕は、君のケモ耳も大切にしたいんだ!
何がおねいさんを困らせるのはだよ。僕が見た目が子供だからかい?
大丈夫だよ!見た目は子供、頭脳はおっさんなんだから問題ない・・・アッ!痛いッ!!
刺した!このスライムちょっと刺しましたよ!!
・・・くそ。1人で来ればよかったぜ。
分かったよ。目的を忘れるなっつーんだろ。
「・・・えー、はい。今までのは冗談としてですね。僕達は紫煙の風っていう冒険者パーティーを探しているんですけど・・・。」
「探している?貴殿方は冒険者ではないようですが、どのようなご用件で?」
ケモ耳受付嬢も雰囲気が変わった。
仕事モードって感じだろうか?
「メンバーのパーラさんに用事がありまして・・・、ってこれ言う必要あるんですか?」
「そうですね。冒険者ギルドでは、冒険者達の依頼の受託状況、居場所をある程度把握していますが、それを見ず知らずの方に、簡単にはお話しできません。」
ふーん。個人情報みたいなもんか?
意外としっかりしてんだな。
それと、僕達が冒険者じゃない事も関係してるな。
う~ん・・・ほー、はいはい、なるほどなるほど。・・・・・・めんどくさいな。
ごねたって相手にしてくれないだろうし、このケモ耳以外の受付嬢に言っても駄目だろうな。
目立ちたくもないし、だいたい僕はクレーマーなんてするキャラじゃないわ。
子供扱いされている以上、恋に発展って事もなさそうだし・・・くそっ、オネショタの素晴らしさが分からん奴め!
「私達はパーラさんにお礼をしたいだけなのです。どうにかならないのですか?」
セリスがそう言うが、ケモ耳は首を横に振った。
「駄目ですよ。先日も冒険者同士で事件が・・・えーっと、兎に角、冒険者ギルドではこれ以上お答えできません。」
冒険者同士の事件・・・もしかしなくても、アンドニ先生の事件ですね。
まだ僕の邪魔をするか。本当にもう・・・。
・・・もういい。
何か知らんが忙しいんだろうし、これ以上迷惑もかけられん。
「・・・分かりましたよ。」
「あっ・・・ちょっと待ってください。」
僕が諦めて振り返ると、ケモ耳受付嬢に呼び止められた。
「まだ何か?」
「・・・はい。あの・・・この冒険者ギルドの隣には食堂が併設されているんです。」
僕のぶっきらぼうな返事に申し訳なさそうにしながらも、ケモ耳受付嬢は隣に食堂がある事を教えてくれた。
確かに。ここからでも少し席が見えますな。
飲み食いしている人達が居る。
冒険者ギルドのド定番、酒場があるみたいですね。
「貴殿方は冒険者ではないので、その・・・割引は効かないんですけど・・・とっても美味しいんですよ。良かったら寄っていってください!」
・・・この娘は何を言ってるんだ?
確かにねぇ、一度あんな場所で食事をしてみたいっていう憧れはありますよ。
だがね、さっき僕達を邪険に扱った訳でしょ?それなのに営業だけはきっちりするのか?
情報は出せません!でもお金は落として行ってください!ってか?
冗談じゃないよ。何で僕がそんな・・・・・・んん?・・・あっ!そうか!
酒場と言えば情報収集の定番の場所じゃないか!
このケモ耳は、冒険者ギルドでは規則で言えないけど、酒場なら聞けるぞって言ってるのかな?
なんて回りくどい・・・知ってるなら言えよもうっ!
・・・なんて。真面目に働いている子にそんな事も言える訳がなく・・・。
取り敢えずお礼でも言っておこう。飛びきりの笑顔でな。
「ありがとう、お姉さん。」
「はい!今日も良き日を。貴方方に女神様のお導きがありますように。」
冒険者を送り出す時の決まり文句なのだろうか、神殿住まいだった僕も聞いたことが無い。ケモ耳が目の前で手を組んでまで送り出してくれた。
すぐ隣に行くだけなんだがな。それに僕達は冒険者じゃないし。
更に言うと、その女神様の関係者が横でキョロキョロしているんだが・・・言っても仕方ないな。
まぁこのケモ耳娘が真面目なだけだろう。一応ありがたく受け取っておくか。
酒場に入った。
木の丸テーブルに木の椅子木のカウンターと店主っぽいおじさんに、可愛いウェイトレス。
・・・素晴らしい。これぞ酒場。ザ・ファンタジー酒場。
あー!!ここで毎朝、毎晩食事して冒険してぇなあ!
あと5年もしたらそれが出来るんだよな。
あっちの世界じゃ決して味わえない、ゲームの世界のような刺激的な日々。
あっちじゃ将来の夢も無く、お先も真っ暗だった人生を送ったけども、こっちの世界じゃこんなにやりたい事が沢山あるなんて。
ホント・・・夢のようだよ。
・・・さて、自分に酔うのもこれくらいにしておこう。
冒険者の逃れられない使命であります、酒場での情報集めと洒落込みましょうか・・・と思ったんだが、どうやらそれの必要もないようだな。
だって居るもん。目の前に!
ラークとパーラさん・・・あと他一名が酒飲んでる。
なんとまぁ、すぐ隣に居るとはな。
あのケモ耳ちゃんめ、知っててやりやがったな。
まぁ結局は場所を教えてくれたんだからいいんだけども。冒険者ギルドに背かずに僕に教えるには、こうするしか無かったんだろう。
真面目な子だねぇ。すぐ隣に居ますよって、ちょっと言ってくれればいいだけなのに。
しかし、紫煙の風は呑気なものだな。
冒険者ギルドは忙しそうだったのに。何かあったんじゃないのか?
酒場も疎らに客がいるだけじゃないか。その中で昼間っから酒飲んで・・・。こっちの世界じゃ普通かもしれんが。
僕を見付けたラークが、手招きしてきた。
「おぉ~?レアボウズ様じゃね~かぁ~。どうしたこんなところで?ボウズにはまだ酒は早いぞぉ~。」
おい、二度と呼ぶな。
なんだその名前は。二度と呼ぶなよ。
因みに、この世界にお酒は二十歳からなんて法律は無い。
今の僕が酒を飲んだって何も問題は無い訳だが、酒は子供が飲む物では無く、大人が飲む物だという考えがこっちの世界にもある。
当然、昼から飲む物でもない。まぁ休みなら好きにすればいい。
「やぁ、リョウ君。私はトントr・・・。」
「ラークさん、パーラさん。先日はどうも。」
すでに出来上がってヘラヘラしているラークと、此方を見るなり、ムッっとした顔をするパーラさん。
顔がほんのり赤くなっていて、ちょっと色っぽい。
「・・・・・・リョウか。 ・・・悪いがお前達とはもう行かんぞ。」
開口一番つれない事を言うパーラさん。
そんな事言わずまた一緒に・・・いや、一生一緒に居てくれてもいいのに。
「そうか。では、リョウ君。今度は私が一緒n・・・。」
「そんな事言わんでくださいパーラさん。今日は先日の報酬を持ってきたんです。」
「ふっ・・・。これが若さか・・・。」
さっきから会話に入ってくるグラサンノースリーブが五月蝿い。前と同じ事ばっかり言いやがって。無視してたら、やっと諦めてチビチビと酒を飲みだした。
「ハハハ。相変わらず、ボウズはトントロさんに厳しいな。」
ラークも今回はグラサンを庇う事なく、笑い飛ばすだけだった。
そりゃ厳しくもなるだろう。
元ネタは好きだが、コイツは嫌いだ。・・・いや、嫌いとかじゃなく、関わりたくない。
「よぉ、ボウズ。よく俺達がここに居る事が分かったな。」
顔は真っ赤だが、ラークは僕達に探りを入れてくる。
締まりのない顔をしたままだが。あと普通に酒臭い。
別にギルドの隣に居たんだから、偶々って事もあると思うがな。
これも職業柄なのだろうか。
「えぇ。優しい受付嬢のお姉さんが、ヒントをくれたもんで。」
「ヒントぉ?なんだそりゃ・・・ああー!分かったぜ!ワカバちゃんだな絶対。」
いや、名前までは知らんが。
そういえば、前にも言っていたな。ギルドの受付嬢のワカバちゃんが云々と。
「分かる!分かるぜ!ボウズもワカバちゃんにほの字なんだろ?いい娘だろ?あんないい娘なかなか居ないぜ?俺達の場所を聞いても教えてくれなかったんだろ?規則だからっつってな。でも、ヒントだけ教えてくれたって訳だな!いやぁ~、真面目でよぉ、それでいて優しいだろぉ?素敵な娘だよ!まさに天使様だ!」
えらい熱の入れようだな。
まだ僕達が話をしたケモ耳受付嬢がワカバちゃんだと決まった訳ではないが、あの娘ならラークが惚れるのも分かるぞ。
あのケモ耳娘なら天使と言っても過言ではないが、実は本物の天使がテーブルの料理を見て涎を垂らしているとは思わないだろうな。
「それによ、あの耳がキュートだと思わないか?世間一般では獣人の耳なんて誰も気にしねぇけどさ。ワカバちゃんの耳だけは・・・もう!あぁ~っっ!!やっぱ今夜デートに誘うか!!」
「ラーク、これ以上ワカバに迷惑をかけるな。いつも断られているだろう。」
「なぁに言ってんだよパーラ!!今日こそはッ!今日こそは大丈夫な筈だッ!!」
やはりあの娘がワカバちゃんだったようで。
それになかなかガードが堅いようだ。
別にラークはいい男だと思うがね。何が駄目なのだろう?
恋愛に興味が無いとか?それとも、もう彼氏が居たりとか・・・いやいや、そんな消極的な予想をしていては恋愛なんて出来んのですよ。
彼女なんて居た事無いですけどね。
しかしですな。ラークは難航しているようだし、これは僕にもチャンスがあるんじゃ?
ギルドの受付嬢と言えば、冒険者の憧れ。花形的存在である。ライバルは多いだろうが、僕にもまだチャンスはあるのだよ!
ネックは冒険者登録できないこの年齢だろう。
くそぅ・・・中身はおっさんなのに。
「しかし、あの真面目なワカバが本当に教えてくれたのか?」
「あ~?・・・ワカバちゃんも子供に甘いところくらいあるだろ?そこが可愛いんじゃねーか。」
パーラさんはどうも納得いかん様子。
ん~・・・パーラさんが言うほどそんなに大事なのだろうか?
確かにワカバちゃんが、アンドニの件があったから情報を規制している的な事言ってたけども。
ラークの言ってるように、優しさで教えてくれたんだと思うんだが。
「後ろにセリスと魔物が居たのにか?」
「あー・・・うん、そうだなあ・・・。」
そんな言い方あります?
セリスもイムも何か言ってやれよ・・・えっ?何で席に着いて飯食ってんの?
・・・すみません。パーラさんの言うとおり、変な人達でした。
「あー、あれじゃね?同族だからじゃね?ほら、獣人ってそういうの大切にするって言うしよ。」
「・・・は?同族?ラークさん何言ってんですか?」
また妙な事を言う。
何で獣人のワカバちゃんと僕が同族なんだよ。
「ラーク、リョウは獣人ではないだろう。」
「そうなのか?でも髪も真っ黒だし、目玉も黒いじゃねーか。」
「確かに獣人は黒髪黒目だが、人間にも黒髪黒目は居るだろう。第一、獣人特有の耳が無い。」
「人間でこれだけ真っ黒の髪って・・・まぁ珍しいが、居ない事も無いか。けどよ、獣人だって頭の上に耳があるやつばっかじゃねーだろ?毛で隠れてたり、角も一緒にあったりよ。」
角もケモ耳もねーよ。
なに僕に萌え要素つけようとしてんだよ。需要ねーわ。
ラークもパーラさんも好き勝手言ってくれる。
どうやらこの世界の獣人って種族は、黒髪で黒目らしい。
パイマーンの中は随分カラフルな奴等ばっかりだからな。黒髪は浮くんだろう。・・・と他人事のように言ってるが僕もだぞっと。
僕も金髪とか、赤髪とか、白髪とかがよかったよ。
何で髪の色まで受け継いでしまったのかねぇ。
「もういいじゃねーかよ、パーラ。教えた相手はボウズ達だったんだし、何も起きなかったしよ。」
「ラークが言い出したんだろう? ・・・はぁ。もういい。リョウ、報酬を受け取ろう。」
ワカバちゃんに激甘なラークを放っておいて、パーラさんが僕に向き直った。
「あ、はい。パーラさん、これです。」
僕は、持っていた金の入った袋を、パーラさんに手渡した。
「・・・ん?重いな? ・・・・・・。おい、何だこれは?」
僕から袋を受け取ったパーラさんが、中身を確認して、此方を睨みながら聞いてきた。
・・・何かまずかっただろうか?
「何って・・・レア種のミノタウロスの素材を売った金ですけど・・・。」
「はあ!!?レア種のミノタウロスだと!?・・・あっ!ヤベッ!」
此方の言葉にビックリしたラークが、急に叫んだが、慌てて口を塞いだ。
どうやら、レア種と言う言葉に周りが反応した様子。
まだ冒険者は活動している時間帯なので食堂の客は少ないが、それでもさっきのラークの叫びで、店員も含め全員が此方を見ていた。
うちのパーティーは、どこ吹く風で飯を食っているが。
聞けよお前達も。ばが。
「おいっ、パーラ!何だレア種のミノタウロスって!俺は聞いてねぇぞ!」
「当たり前だ。言っていないからな。」
「はぁ!?」
小声に切り替えたラークがパーラさんを問い詰めるが、パーラさんは何ともないように答えた。
「お前、パーティーメンバーにそんな隠し事すんなよ・・・レア種の、しかもミノタウロスとか、スゲー大物じゃねーか!ハーピーの軍団なんて待ってる場合じゃねぇよ。さっさとケントとメントを拾って、そのミノタウロスを・・・・・・ん?言わなかったってもしかして・・・。」
「馬鹿な事を言うな。私達のパーティーでレア種のミノタウロスに勝てる訳がない。」
「はぁっ!?俺がレア種とはいえ、ミノタウロスに後れを取るって言うのかよ!!そりゃおめぇ、死んじまう・・・いや、苦戦するかもしれねぇけどよ・・・・・・。 い、いや!そんな事より!俺に報告もねぇし、ギルドにも言ってねぇ・・・つまり、そういう事だろ?パーラとボウズ達で倒しちまったってのかよ!!?」
「そうだな・・・。ただ、私は殆ど戦っていない。やったのはセリスだ。」
「セリス・・・?あのエロいねーちゃんか?・・・マジかよ。あのねーちゃんそんな強いのか?」
紫煙の風withグラサンが一斉に隣の席のセリスを見る。
当のエロいねーちゃんはというと、胸元に落ちたソースを指ですくって舐めていた。
此方の視線に気付いたセリスが、行儀の悪いところを見られて恥ずかしそうに頬を赤らめる。
此方の男性陣も顔を赤らめる事になった。
「・・・あのガイヤンを一瞬で倒したという噂は本当のようだ。でなければ、レア種のミノタウロスなど倒せないだろう。」
「えっ?ガイヤンって、あの黒い三戦士のガイヤンか?確かに、誰かに負けたって噂は聞いたが・・・その相手があのエロいねーちゃんだったのか・・・。」
トントロさんがラークに余計な情報を与える。
あんなのが広まってもいい事はなさそうだし、広めて欲しくないんだがな。
でも、かなりの人数に見られてるし、すでに結構広まってるんだろう。
「取り敢えずだ、リョウ、これは貰えない。私は道案内しただけだ。もっと少ない報酬でいい。」
パーラさんが金の入った袋を突き返してきた。
「バッ!!?パーラ!!お前、黙って貰っとけよ!!」
それに反対したのが、ラークである。
やっぱり、ゲバルド氏やコニーさんが言っていた通り、過剰な報酬だったらしい。
だがまぁ、此方にもこれを受け取って貰う理由がある。
過剰なのは分かるが、受け取って貰わんと。
「パーラさん。今回は僕の家族も同然である友人を救う手伝いをしていただき、凄く感謝しているんです。これはその気持ちも入ってます。後は・・・えっと、色々とあったんで・・・。」
「・・・・・・。 はぁ・・・。成る程、口止め料という事だな。・・・分かった。貰っておこう。」
一昨日の事でも思い出したのだろうか。心底疲れたような溜め息を吐いたパーラさんは、金を受け取ってくれた。
「・・・私にも落ち度がある。本来なら、依頼を受けた時に報酬を決めるものだ。それを怠っていた。すまなかった。」
「いえ。今回はホント、助かりましたよ。」
確かに、あの時は全くそんな話無かったな。
以後、気を付けよう。
「何だ?やけにあっさり受け取ったな、パーラ。」
「・・・煩い。おい、酒だ!」
そう言って、店員に酒を頼むパーラさん。
そうだね。飲みたい時くらいありますよ。僕に止める権利は無いね。
「お、おいおい。お前、あんま酒飲めないだろ?防衛が始まったらどーすんだよ。」
「・・・煩いな。お前だって飲んでいるだろう!」
そう言って、会話に入ってないトントロさんから、ワインのボトルを取り上げ、ラッパ飲みするパーラさん。
トントロさんが小声で「これが若さか・・・。」とか言っているが、無視しとこう。
「な、なんだよ・・・。おい、ボウズ。パーラと何があったんだよ?あいつ性格変わってねぇか?」
「あっ、この包みは紫煙の風の皆さんにです。」
「聞けよッ!?」
そう突っ込みつつ、包みはしっかり受け取るラーク。
「別に俺達にまで持ってこなくていいんだぜ?まぁくれるってんなら貰うけどよ。・・・おっ?肉か?おい、ボウズ。これはもしかして・・・。」
「えぇ、そいつの肉ですよ。」
「マジか!?おいおい、レア種のミノタウロスの肉なんて、王様への献上品でもいい代物だぞ?・・・へへっ、こいつをどっかの金持ちにでも・・・い、いやいや、流石の俺でもそんな事・・・。」
こいつマジで失礼だな。
まぁ、あげるんだから、使い道は勝手に決めればいいけどな。知った事ではない。
因みに、気になるレア種のミノタウロスの肉の味なのだが・・・あっちの世界でいうブランド和牛のような感じで、めちゃ旨い。
ただ、霜降りが凄いので脂っこい。人によっては普通のミノタウロスの赤身が多い肉が好きだと言う奴もいるだろう。
ミノタウロスや、その仲間・・・ミノタウロスと同じ分類の、牛の魔物と言えばいいだろうか?は変わった魔物で、肉の品質が個体によって違う、変わった性質をもっている。
同じ場所で同じミノタウロスを倒した場合でも、肉の品質が違う事があるとか。
あっちの世界でもあったな。牛肉にランク付けしてるやつ。あれと同じようなものが此方の世界にもあるのだ。
ランクの高いミノタウロス肉、特にAランク肉やSランク肉は滅多に出る事はなく、貴族や王族なんかの上級国民様しか買えないくらいの高値で取引されてるらしい。
強いミノタウロス、厳しい環境に居るミノタウロスの肉の方が、品質の高い肉が出る確率が高いと一般的には思われている。
が、牛の魔物の中でも最も弱いといわれるギアラタウロスから、Sランク肉が出たという、ミノタウロスドリームを掴んだ冒険者も居たなんて噂もある。
そして、このレア種のミノタウロスの肉であるが・・・これはSランクの品質の肉だ。
どうもレア種の魔物の食べられる肉は、例外無く最高品質の肉が取れるらしい。
ラークの目が¥になるのも無理はない。
・・・この世界では¥は使わない筈だがな。
「へへっ、へへへ。ボウズはやっぱりスゲー奴だなぁ~。どうだ?成人になったら、俺達と組もうぜ。」
「!!? だ、ダメだ!!止めろ、ラーク!!!」
ラークの突然の勧誘に、慌てて反対するパーラさん。
「何言ってんだよパーラ。レアクラスで将来有望そうな若者と、強くて美人のねーちゃんだぜ?そりゃレアクラスつっても魔物使いだから、従魔が増え過ぎて鬱陶しいかもだが・・・。」
「だからと言って、リョウとセリスは駄目だ!!私達の手には余る!」
「な、なんだよ!この前、いったい何があったんだよ!レア種の事も隠してるしよぉ。お前ちょっとおかしいぞ?」
「おかしくなどない!悪い事は言わん!止めておけ!!」
「お前、もう飲むなよ!本人が目の前に居るんだぜ?失礼だろ。」
「煩い!おいっ!酒はまだかっっ!!」
パーラさんが大声を出して店員に当たる。
慌てて店員が酒を持ってくると、パーラさんは勢いよくがぶ飲みしだした。
もう他の客とか関係ねぇな。
こんなところで喧嘩しちゃって、もう。
それと、失礼なのはお前だぞラーク。なんだよ、従魔が増え過ぎるかもしれないから鬱陶しいって。
パーラさんもこんな感じだし、僕が紫煙の風に入るなんて事はまずないな。
まぁ、本気で言ったのかどうかも分からんけどね。
これからもよき知り合いって事で・・・。
渡す物渡した訳だし、僕はもう帰ろう。
酔っぱらいに絡まれる事ほど、面倒な事はない。
僕は、空気を読まずにまだ食べようとしている、変な人達を引き摺って、帰路に就いた。
セリスがやたらとヘラヘラしているが、酒でも飲んだか?
飲めねぇなら飲むなよ。なんだよ、「これで私がぁ次期女神ですねぇ」って。女神に次期とかあんのか?なに無駄に野心もってんだよ。
・・・そういえば、冒険者ギルドで何が起きているのか聞いてなかった。
まぁ聞いても教えてくれるかは知らんが。
ただ、ラークが口を滑らしていたな。ハーピーの軍団を待ってるとか、防衛が始まるとか。
街の防衛なら、街中に知らせが出る筈だ。
だがまだそんな話は聞いてないな。
ハーピーの軍団といえば・・・思い起こされるのは、僕がフォレストウルフとハーピーの縄張り争いに巻き込まれた時だろうか。
それから約2年後、ハーピーの軍団が街を襲った時。まぁ、あれはすぐ鎮圧されたんだけど。
更に2年後・・・つまり今。またハーピーの軍団が何かしでかすらしい。
いったい何が起こるか・・・まぁ何があろうと、生き残るだけだ。
そして・・・すぐに帰ってくると言っていた、あいつ。
どうなるだろうか。帰ってくればいいんだけどな。