29話:貧乏くじな彼女
イムを回収して、僕達は悪霊の屋敷に向けて再び歩き出した。
戦闘はできるだけ避けていく。もし、戦う場合は少数の方を選び、迅速に倒していく。
やっぱりパーラさんは凄い。リタよりかなりスムーズに移動できる。
まぁパーラさんは冒険者なんだし当然か。比べてやるのも可哀想だ。
「えっと・・・リョウさん、あの魔族は本当にごめんなさいと謝りながら逃げたのですか?」
「うん。そんな感じ。」
セリスが信じられないという様子で聞いてきた。
まぁね、凄まじい殺気を放ってくる魔物がそんな事言って逃げましたって言ってもすぐには信じられないよね。
現に僕以外はあの銀色の狼を怖さを目の当たりにしている訳だし。
「・・・リョウの勘違いではないのか?」
「まぁ証拠もないですしね。僕もなんとなく分かるだけですし、信じれないのも無理ないですよ。」
パーラさんも同様に疑っている。
もう面倒くさいし、僕の気のせいって事にしようかな。
「・・・・・・イムは、リョウをしんじる。」
んもう!可愛いなイムちゃんは!
なんの説得力もなくても信じてくれるもんね!
「わ、私も信じていますよリョウさん!」
セリスも慌てて乗っかってくる。
別にこの程度の事で気を使わなくていい。
「・・・どちらにしろあの魔族が去ったのは事実。今はそれでいい。・・・見えたぞ。あれが“悪霊の屋敷”だ。」
おっ?もうそんなに歩いたのか。
パーラさんが指差す方向を見ると、確かに建物のような物がある。
行こうと決めてから、中々行く事ができなかったダンジョンに遂に到着できた。
ただ、今回の目的がダンジョン探索ではない事が少し残念ではあるが。
ダンジョン探索なんていつでもできる。今はエリオ達を探す事の方が大事だ。
何か分かればいいんだが・・・。
悪霊の屋敷は想像していた通り、おどろおどろしいオンボロの洋館だった。
何故こんな森の真ん中にこんな洋館が?
ていうか、ここ絶対居るよね?出るよね?
いやいや、絶対何かに取り憑かれるでしょ?それも1匹や2匹じゃないね。群れで出るね。どんなオバケが出でもおかしくないよ。
「リョウ、ここからどうする?入って探すか?」
「そうだね。まずは除霊グッズを手に入れないと。御札とかいるでしょ?」
「・・・何を言っている?」
ちょっと!こんなところでふざけないでよねパーラさん。
心霊スポットでおふざけとか厳禁だから。
その時、悪霊の屋敷の入り口である扉が、ギィーと不気味な音を立てながら開いた。
で、出たッッーーーーーー!!!
現れたのは4人の男女。
せ、生存者だ!!僕達以外にも無事な奴等が居たのか!!
「丁度いい。あの冒険者に話を聞いてくる。」
パーラさんは出てきた生存者に近付いていった。
「・・・リョウさん、もうおふざけはその辺にしてください。」
「あ、はい。・・・でもよぉセリス。僕、オバケとか苦手なんだけど。」
「オバケ?・・・ゴーストの事ですか?」
ゴースト?・・・どっちでもいいよ。どっちも一緒じゃねーか。
・・・あぁそうか。洋館だもんな。ゴーストか。
いや、でもゾンビの可能性もあるよな。
ある製薬企業の研究所とかじゃないよね?なんたらウイルスとか出てこないよな?
幽霊もゾンビもどっちもすこぶる嫌だ。
「なぁセリス。何でこんな森の真ん中に、こんな立派な屋敷があるんだ?かつて誰かが使っていたとかかな?」
「えーっとですね。ダンジョンが出現する時は、何も無いところに建物が急にできたりしますよ。勿論リョウさんが言ったように、人が居なくなった廃村や建物、元々あった洞窟などがダンジョンになったりもします。」
それは知ってる。
まぁ悪霊の屋敷はいきなり森に建った感じなんだろうな。
誰かの研究施設じゃない事を祈ろう。
パーラさんが悪霊の屋敷から出てきた冒険者にお礼を言って戻ってきた。
名前も知らない冒険者の人達は去っていった。
「パーラさん。何て言ってましたか?」
「あぁ。あのパーティーは2日ここに居たらしい。アンドニ達は見ていないそうだ。」
「・・・そうですか。」
マジかよ・・・やっぱりここじゃないのか?
いったい何処に行ったんだ?エリオ・・・リタ・・・マルタ・・・。
「後、同じ事を聞いてきたパーティーがいたらしい。今、中に居るかもしれないと言っていたが。」
誰だろう?多分、ゲバルド氏かコニーさん達だけど。
・・・でも、合流したって何も無いだろう。
「はぁ・・・どうするリョウ?」
パーラさんが溜め息を吐きながら聞いてくる。
パーラさんも情報のなさにイライラしているのだろうか。
「パーラさん達は、あの冒険者の人達には・・・。」
「ああ。察しの通り、昨日見掛けた。私達はアイツらより先に来ていたからな。」
「そうですか・・・。まぁこのダンジョン、見た目通り小規模そうですもんね。これだけ小規模だと、パーラさんが言ってたように会わないって事は無いかも知れないですね。」
「いや、見た目の規模と中の規模は違う。このダンジョンも見た目は2階建てだが、中は3階以上ある。」
マジか。どう見ても2階建てだけど。
中は不思議な空間って訳か。
・・・それでも小規模なダンジョンで変わりないんだろうが。
「・・・で、どうする?中に入るか?悪いが戦力としては期待するな。トラップくらいは見破ってやるが、自分の身を守るのが精一杯だ。」
・・・どうしよう。
確かにパーラさんが居ればダンジョンの中で捜索くらいできる。
ただ、エリオ達が中に居る可能性はほぼ0%だろう。
それにダンジョンの中をゲバルド氏かコニーさん達が捜索してくれているのなら、僕達まで行く必要も無いかもしれない。
「リョウさん・・・本当に他に心当たりは無いのですか?」
セリスもせっついてくるが、僕も困ってるんだよ。
くそっ・・・。
最近エリオ達とはまともに話せてすらいない。
時折話す事があっても、冒険の事なんて・・・。
「・・・・・・リョウ・・・・・・マルタ。」
頭が痛くなってきた僕に、イムが何か語りかけてきた。
「ん?どうしたイム?・・・マルタに何かあったか?」
「リョウ・・・・・・マルタが、悩んでた。」
「悩んでいた?何を?」
「・・・・・・小さい、素早い、魔物。・・・・・・近付かせない、魔法、戦術。・・・・・・寄られたら、あぶない。」
はぁ?なんのこっちゃ?
それに何でイムがマルタの事を?
・・・そういえば、エリオの名前は覚えてない癖に、リタとマルタだけ名前で言うんだよな。
エリオの影が薄いからだと失礼な事を思っていたが違うのか?
リタはこの前一緒に冒険に出たから覚えたんだろうけど、マルタは何だ?
僕の見ていないところで仲良くなった?悩みを相談する程に?
・・・ん?小さくて素早い魔物?近付かせないようにする魔法と戦術・・・。寄られたらヤバい魔物・・・。
最近どこかでそんな事を考えた気がするぞ。
近付かせたくない魔物。対策をしっかり考えないといけない魔物・・・そうだっ!首刈りウサギだ!
マルタがイムに首刈りウサギの対策をしているのを話していたのか?
それに、リタと冒険した時にも首刈りウサギの話題は出た。
あの話は確か・・・アンドニ達が悪霊の屋敷を探している最中にオシリ山に近付き過ぎて、山に生息する魔物に会ったって言ったんだ。
アンドニは常に自信たっぷりで、ドンドン先に進むって・・・。
「・・・そうか。山か!?」
「山?」
「オシリ山ですよパーラさん!アイツらオシリ山に行ったのかも知れない!」
「悪霊の屋敷でもアヌルス鉱山でもなく、オシリ山で狩りをしていると言うのか?」
アヌルス鉱山はドワーフの独立領、アヌルスの近くにあるダンジョンの事だ。
昔からある大規模ダンジョンで、鉱石を体に有した魔物が多く生息しているらしい。
採れた鉱石や魔石はアヌルスのドワーフ達が良い値段で買い取ってくれる、実入りの良いダンジョンとして有名だ。
悪霊の屋敷が出現するまでは、パイマーンの冒険者に一番身近なダンジョンだったので、ダンジョン探索に行くイコール、アヌルス鉱山に行くって事だった。
「オシリ山など私達でも滅多に行かない。森や悪霊の屋敷などより強い魔物か出るぞ。」
パーラさんが言った通り、オシリ山に生息している魔物はかなり強いらしい。
前にも名前が出てきた首刈りウサギやアラクネは群れで出るし、森でも生息しているハーピー。怪力の猿や牛の魔物。もっと山を登れば、デカい怪鳥の魔物や、アヌルス鉱山の下層に出るゴーレム、仕舞いにはドラゴンの姿を見たなんて報告もあるとか。
オシリ王国内でも屈指の危険な場所である。
そんなところに何故、態々行くのか?
まぁ人があまり行かないから、そこで採れる素材や魔石に需要があるんですね。
後は腕試しに行く人も多いんだとか。
どっちにしろ冒険者になって一年そこらのぺーぺーが行く場所ではない。
ましてや、未成年をパーティーに4人も入れてだ。絶対行くべきところではない。
もうもう、予感がビンビンきてるね。
絶対居るわ。オシリ山に。
悪霊の屋敷に居ないならアヌルスに行ったって普通なら思うだろうね。
普通ならね。
「・・・リョウ、お前まさか私にオシリ山を案内させる気か?」
パーラさんが鋭い目で此方を睨み付けながら言う。
こ、こえぇ・・・。
さっきから下ネタみたいな地名ばっか言っている人の雰囲気じゃねぇって。
「冗談じゃない。あの魔族もそうだ。お前達に付き合っていては命がいくつあっても足りない。これ以上は協力できない。」
パーラさんが冷たく言い放った。
・・・そりゃそうだよな。
パーラさんにしてみれば、たまったものじゃないだろう。
「・・・リョウさん、これ以上パーラさんに無理は言えませんよ。私達だけで行きましょう。」
「お前ら・・・本当に行く気なのか?お前達2人とスライム1匹では死にに行くようなものだ。」
セリスの言葉にパーラさんがすかさず反応する。
クールぶってるが、パーラさんは僕達がかなり心配なようだ。
この人、見た目に似合わずお人好しだな。
頼み込んだらオシリ山も案内してくれそうだが、流石に可哀想だ。
「・・・パーラさん。無理を承知でお願いします。オシリ山の入り口まででいいので、付いてきてもらえませんか?僕達の中には索敵のできる者が居ないんです。お願いします。」
「・・・・・・。はぁ・・・、仕方ない。本当に入り口までだ。人命がかかっているが、それ以上行くなら戦力がいる。」
結局OKしてくれるらしい。
ちょろいですよパーラさん。ちょろイン枠でも狙ってるんですか?
パーラさんの言う通り、心許ない戦力ではあるが、もう何も手掛かりが無い以上行くしかない。
ここからは一歩間違えれば、待っているものは死だ。ミイラ取りがミイラになるような事にはしたくない。
僕、セリス、イム、パーラさんは慎重に森の更に奥へと進んで行く・・・。
と、気合いを入れ直した矢先であった。
またまたあの魔物に邪魔をされる事になる。
「っっ!!?止まれっ!!」
本当に出発してすぐだ。後ろにはまだ悪霊の屋敷が見える位置に居る。
パーラさんが突然、声を上げた。
「なッッ!!!?・・・お前はッッ!!!!?」
そこに居たのは・・・あの銀色の狼だった。
だが驚く事に、今回は遠くから見ているのでない。
すぐ・・・目の前に居るのだ。
いや、おかしいよっ!
何故こんな近くに居る!?
何故こんなに近付かれるまで誰も気付けない!?
僕はまだ分かる。イムもセリスも、パーラさんまで気が付かないのは何でだ?
パーラさんがいくら盗賊だからって、完璧に気配が分かる訳ではないだろう。
だが、それにしてもこの体長3メートルはあろうこの魔物が、目の前に来るまでにいくら速く移動したとしても気付かないものだろうか?
瞬間移動でもしたってのかよ!?
銀色の狼と僕達との距離はおよそ10メートル
銀色の狼が跳躍すれば・・・一発で届くんじゃないだろうか?
まさに蛇に睨まれた蛙。絶体絶命である・・・はずなのだが・・・。
「・・・リョウさん!様子がおかしいです!」
セリスから声が聞こえて、気付いた。
僕以外のみんなが平気なようだ。
いつも放たれていた殺気は無く、パーラさんもセリスもピンピンしている。
あの速攻で気を失う、気絶のイムでさえ平気な様子だ。
「その二つ名、やだ・・・・・・。」
まだ何にも言ってないのに・・・。
しかし、どうしたというのだ銀色の狼は?
僕達から距離をおいたまま、耳と尻尾を下げて此方を見ている。
「リョウ!魔物の気持ちが分かるのだろう!?何と言っている!?」
「いえ・・・今はこれといって何も・・・。」
「じゃあ何故コイツは再び出てきた!?」
怒鳴られたって知らねぇよパーラさん・・・。
こっちが知りたいっつーの!
さっきは謝りながら逃げたはずだ。それは間違いじゃない。
何でまた現れた?
・・・クソッ!何を考えてるのか全然分からねぇ!
しかし何故コイツは、此方に話し掛けてこない?
魔族なのが本当なら、魔物誑しのクラスを持っていなくても意志疎通できるはずだ。
それが殆ど喋らない。コイツと出会ってからずっとだ。
何を考えてるか分からないのは怖い。多分コイツは僕達4人を軽く蹂躙できる力を持っている。
お互い動かない状態が続く。
此方は動かないっていうか、動けないだな。もうホント、何かアクションを起こして欲しい。でも殺されるのはやだ。
先に動いたのは銀色の狼だった。
狼は回れ右して一度振り返ると、ノシノシと歩き出した。
「・・・リョウ、今度は何だ?奴は何もしないまま離れていくぞ?」
パーラさんが半ば呆れたように聞いてくる。
もう訳が分からんよね。心中お察しします。
「付いて来いって言ってるみたいですね。」
「・・・は?」
「付いて来いって言ってます。」
「いや、聞こえている・・・。リョウ、何故、私達を殺そうとしてきた相手に付いて行かなければならん?」
パーラさんは頭を押さえて聞いてくる。
頭痛ですか?いけませんね。バファリン飲んでください。
「いったい何のつもりなのでしょう・・・?リョウさん、どうするのですか?」
「よし・・・セリス、イム、行こう。」
どうもイムの時のように場所を変えて対決だ!って感じでもない。
何か教えてくれるらしい。
もしかすると・・・もしかするぞ。
「ちょっ!ちょっと待て!?」
当然パーラさんが止めに入ってくる。
「パーラさん、置いていきますよ?ほら、あの銀色の狼も早く来いって言ってます。」
「リョウ!?・・・せ、セリスもそれでいいのか!?」
「パーラさん、ここまでありがとうございました。後は私達で何とかしますので。」
「な、何ッッ!!?・・・・・・。わ、分かった!私も行く!!だから待て!!」
先を急ぐ僕達に慌てて付いて来るパーラさん。
可哀想にパーラさん。貧乏くじ気質なんやね。そういうのも萌えですよパーラさん。




