表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/76

3話:シスター!空から馬鹿が!




ルナ様に転生してもらってから、1年か・・・。


僕は5歳になったリョウと言う少年の中で目覚めた。

常井 稜として生きた31年間の記憶と、リョウとして生きた5年間の記憶はしっかりと頭の中に入っている。


リョウの両親はこの街を拠点にして活動していた冒険者だった。

そう過去形だ。

リョウの両親はもう亡くなった。魔物に殺されたそうだ。

通りすがりの商隊が死体を見つけて街まで運んでくれた。死体の世話は司祭様夫婦がしてくれ、手厚く弔ってくれた。そのままリョウは孤児院に入る事になった。


エリオもリタもマルタも同じような境遇だそうだ。

この世界には魔物がいるし、治安も日本なんかと比べ物にならない。死は結構身近にある。まぁ、この街は治安が良い方なんだとか。


まぁ、僕も気を付けないとな。せっかく転生したんだし、先に転移転生した先輩方のようにはなりたくない。




エリオとリタは、僕が回想シーンを繰り広げている内にどこかに行ってしまった。

塞ぎ込んでるように見えたんだろう。空気を読んで一人にしてくれたようだ。あいつらだって色々大変だろうに、良くできた6歳児達である。

まぁ、相手が面倒くさいというのもあるだろうが、相談できる内容じゃないし、大体1人で考えた方が解決しまうので、相談する気も無い。



ただ、あいつらが空気の読める6歳児なのが異常なのであって、年相応に空気の読めない6歳児だって存在する。

それが、寝転がって思考中だった僕に、いつの間にかしがみついて寝ている幼女だ。


「スピィー。スピィー。」


コイツはいつも鼻水を垂らしているので、色気のない寝息だ。

ハナタレ小僧ならぬ、ハナタレ小娘だ。

制限なく分泌される鼻水に加え、僕のことをベタベタ触ってくるので、僕の服はいつもベチョベチョのカピカピだ。


幼女の鼻水ならご褒美なのかも知れないが、僕は鼻水をつけられると、ついつい真顔になってしまう。

精進せねば。これが快楽に変わればこの子を受け入れられるんじゃなかろうか?そう、幼女の鼻水です。常飲してもいいんじゃなかろうか?


ふと剣の修業中のことを思い出す。この子と練習試合した時のことだ。

試合開始直後にこの子の鼻水が目に飛んできて、目潰しをくらったのだ。

当然僕のテンションは最低まで落ちるし、目も開けられない。そこに容赦なく打ち込まれる練習用の木の剣。


・・・凄く気分が落ち込んだ。




「おい。カティ起きろ。いつまで寝てんだ。」


せめて乱暴に起こしてやろう。



この子の名前はカティ。


本名は、エカテリーナ=トクレンコ。

親しい人はカティナと呼んでいるが、僕は更に短くカティと呼んでいる。

いつも深紅の髪をポニーテールにしている。リタやマルタに結って貰っているのをよく見る。


カティは孤児院の子供では無い。まぁ、ここが家みたいなものなんだろうが。

カティは司祭様、ゲバルド=トクレンコの一人娘だ。


元王国騎士の血をしっかり受け継いでいる様で、6歳にして剣の腕前と鼻水は、僕達6歳組の中で敵う奴は居ない。

年上の子にも敵う奴は余り居ないので、将来が楽しみである。


良いですね〜才能ある子は。

だが、努力してない訳では無い。暇を見つけては剣を振っている。僕やエリオはよく付き合わされて、ボコボコのベチョベチョにされる。

リタは上手いこと逃げるのだ。あいつ許さん。

でも、僕とカティが過ごす時間が長い時は、夜中に僕の寝床に入ってくるんだぜ?可愛いとこあるだろ?だが男だ。




「んがっ!・・・あーおはよー。」


起きたようだ。まず鼻をかめ。もう僕の腕はベチョベチョだけどな。


「あー!やっとおきたのね!まだおひるまえよ!おひるねにはまだはやいわ!」


あー、まずね、君、うるさい。

後、寝てたのはお前だけだ。

ゴネてもコイツには通じないので次に進もう。


「何か用事があったんじゃないのか?」

「そうよ!リョウ!まものをたおしにいきましょ!」


またか。

カティはちょくちょく外に出て魔物を倒しに行きたがる。




この街は王国内でも結構大きな街らしい。

貿易で重要な拠点であり、魔王の領地の近くなんだそうな。

それ故、街を囲っている防壁も結構な物で、各門には勿論門番が常駐している。


じゃあ6歳児が外に出れる訳ないだろ!と思われるでしょう。だが僕達は街の外に出れる方法を知っている。


この孤児院の地下には、外に続く抜け道があるのだ。

有事の際の秘密の非常用通路らしい。

司祭様が、何かあった時の為にカティに内密にと教えておいたらしいが

、カティは「これはだれにもひみつよ!」と俺達にあっさり教えた。馬鹿過ぎる。


それからちょくちょく無理しない程度に小さい魔物を狩りに行っている。

だが、僕は余り行きたくかった。

皆ほど剣の腕前が良くないのもあるが、やはりルナ様に教えて貰った先輩方の話を聞いた後では腰が引ける。冒険をしているという楽しさはあるのだが、まだこの年でするべきでは無い。



実は僕はこのことを司祭様に話したことがある。勿論ルナ様や先輩方の話は伏せてだ。死んでしまってからでは遅いしな。

なんと、司祭様は知っていたらしい。知っていて黙っていたのだそうな。

そして気付かなかったのだが、抜け出した時に毎回誰かが跡をつけていたらしい。

それは司祭様だったり、司祭様の奥さんだったり、雇われシスターをしている冒険者のコニーさんだったりするらしいのだが、知らぬ間に護衛されてるらしい。


司祭様はまだ年齢的に早いかもしれないが、魔物と戦うというのもこの世界では必要なことなので、何事も経験だ。と仰っていた。

今のところ、僕達が慎重にやっているので出番は無いが、何事かあれば直ぐに駆け付けてくれるそうだ。

流石武闘派司祭。


因みに、司祭様のクラスはモンクだそうだ。

レアクラスだそうで、籠手装備をつけた近接格闘の他に攻撃魔法、回復魔法も得意だそうで、王国騎士時代はブイブイいわせていた様だ。

名字はその王国騎士時代に功績で貰ったらしい。この世界で名字は大体貴族が持っている物なので、そう考えると凄い騎士だったんだろう。


司祭様の奥さんは、クラス村人だが、攻撃魔法も使えて槍の使い手でもある。

そこら辺の魔物なら相手にならないそうだ。


余談だが、奥さんはヨハンナ=トクレンコと言う。

身長が小学生位しかない。エリオと同じ位だが、直に皆ヨハンナさんを抜いていくだろう。

ちんまくて可愛いのだ。これは私のもっこりにくるのだ。・・・うっ!タマランチっ!


コニーさんは冒険者で、バイトでシスターをしているひとだ。

神殿なのに、ボランティアじゃなくてバイトなのね。依頼という形で冒険者に募集をかけたら来た人らしい。

ちなみに僕のもっこりにはこない人だ。てゆうか、ちょい役なんで書くことも無いねん。仕方ないね。




「もうみんなよんでるわ!はやくいきましょ!」


いや、お前寝てましたよね?

つーか用意しないと危ないだろ。


「はやくよういしてよね!」


お前も武器持ってねぇじゃねえか。





◆◆◆





軽く装備を整えて、みんなで抜け道を抜けた。

抜け道の出口は森に入って直ぐの所に巧妙に隠されている。

出口の鉄の扉をみんなで開け、森からすぐに出て、街の前に広がる草原に出た。


森の方は僕達には手に負えない魔物が多いので、草原で狩りをすることになる。

もし森の中から強い魔物が来ても、全力で街の門まで逃げればいいし、多分森から出て来る前に護衛の方が倒してくれるのではないか?


今日の護衛はシスターヨハンナらしい。

カティから見えない位置で、ひょこっと顔をだして此方に手を振っている。

此方もカティ以外で手を振った。


可愛い過ぎるぞシスターヨハンナ。人妻とか、カティとかのしがらみなんて全部投げ捨てて、シスターヨハンナの腕の中で「ママぁ」と叫びたい。いや叫ぼう。よし、そうしよう。レッツトライ!


「ちょ、ちょっと何処に行くんですか?リョウ君。外なんだから集中して下さい。」

「止めてくれるなマルタ。私はバブみに生きるのだ。」


ヨハンナさんめっちゃ年上だけど。


「ちょっと!しずかにして!!まものがにげるでしょ!!」


お前が一番うるせーんだよ。



護衛がついていることはカティ以外の皆に話した。司祭様からもそう言うように言われている。カティには自由に生きてほしいようだ。自由過ぎますけどね。

その代わり、絶対に守ると約束してくれた。頼もしいね。



そして、丁寧な口調で、僕のもっこり暴走を止めた罪深いメガネちゃんはマルタだ。赤茶色の髪を肩まで伸ばしていて、顔に似合わないでかい眼鏡を掛けている。

この眼鏡は魔物に殺された母親の形見だそうだ。大切にしている。

我ら6歳組最後の良心でもある。曲者揃いのこの集団の中で一番しっかりしている。


しっかり者ならエリオもそうじゃないかと思うかもしれないが、奴はこうだ。


「あっ!スライムが3びきいるわ!とつげきよエリオ!!」

「よしっ!行くよカティナ!」

「え?ちょ、ちょっと・・・相手は3匹ですよ・・・。リョウ君、リタちゃん。行ってあげてください。」

「え〜。カティナが居れば全部倒すよ〜。ぶぅ〜ぶぅ〜。」


文句垂れながら、リタも走っていく。


・・・これである。

エリオはちょっと抜けているとこがある。とゆうか、あんまり考えてない。

命令が有るとその通り動く、命令が無いと動かない。融通が利かなくて、頼りないって感じだ。

まぁエリオは年齢を重ねれば、治っていくのではないだろうか。多分。



「やっぱマルタがリーダーに向いてると思うんだよね。」

「そうですか?・・・でも、今もリョウ君は命令を聞いてくれませんでした・・・。」

「ごめんて・・・もうカティが2匹倒したから大丈夫だろう。それに僕が行っても戦力にならないしな。」

「戦いは数ですよリョウ君。偉そうにふんぞり返る前に・・・」

「分かった。分かったからもういい。」


何て事言うんだこの子は。



そうなんだよなぁ、この5人組で何故か僕がリーダーポジションみたいになってるんだよなぁ・・・。

確かに精神年齢はみんなよりは高いだろう。31歳プラスされる訳だし。


司祭様やヨハンナさんも、この5人組のことは大体僕に言ってくる。

まぁ、消去法で僕なのかなぁ。

カティは論外、エリオとリタもリーダーシップが無いのは目に見えてる。唯一残ったマルタも、


「私ではカティナちゃんの手綱は握れませんから・・・。」


と言うのだ。

いや、僕も握れてませんよ?

じゃじゃ馬だもん。もう落馬してるって言ってるのに、ロープみたいな鼻水でぐるぐる巻きにして無理やり引きずられてるもん。引きずりの刑だもん。




「たおしたわ!つぎさがしましょ!」


カティが勝鬨を上げ、3人が戻ってくる。リタが小さな魔石を3つ巾着に入れていた。


魔石は魔物の心臓のような物だ。動物との違いは魔石を体内に持っているかどうか。この辺は定番だな。

魔石には色々な用途があるが、まぁあっちの世界でいう燃料みたいな物だろう。

当然強い魔物の魔石ほど価値が高いが、魔物界最弱レベルのスライムの魔石にも、そこそこ使い道がある。まぁ、孤児院で有り難く使われるだろう。




この草原に出る魔物は5種類。たまに森の方から、はぐれ魔物が出て来るがそれは置いておこう。


まずはさっきカティが瞬殺したスライム。

一匹だけなら6歳児でも倒せる位弱い。ひたすら弱いのだが・・・実は僕はスライムに勝ったことは無い。

先ほどマルタに言った、僕が行っても戦力にならないってのは嘘ではなく本当のことなのだ。


あまりに勝てないので、1回みんなに手を出さない様に頼んで、スライムとタイマンはった時がある。

お互いに有効打を与えれず一時間も死闘を繰り広げてしまった。

満身創痍の僕とスライム。最後にはお互いの健闘を称え合い、友情まで芽生えた気がする。

スライムは何も言わず去って行った。喋らないけど。


そういえばアイツは青色だったな。普通のスライムは緑色だ。

レア種だったかもしれない。そう思ってみんなに聞こうと思って振り返ったら誰も居なかった。

みんな飽きて孤児院に帰っていた。誰が護衛役だったか知らないが、護衛も帰ってた。

僕は1人寂しく重い鉄の扉をなんとか開けて、トボトボ帰るはめになったことがあったな。

危ないでしょ。普通6歳児を外に放って帰ります?負けたらどうすんのよ。



あとは、粘っこい糸を吐いて、動きを阻害してくるネットワーム。

頭に小さい角を生やしていて、それを活かして突進攻撃をしてくるホーンラビット。

まだ倒したことは無いがこの草原では一番厄介だろう、頭が馬ヅラで体がシカの、ウマシカ。

最後は、長い爪を武器にする大きいネズミ、爪ネズミがいる。



丁度、爪ネズミが出て来たようだ。


「あっ!つめネズミよ!でもなんかへんだわ!」

「ほんとだ。なんか黄色いね。」


いつもはさっさと突っ込む二人がそう言う。珍しいじゃん。いっつも首根っこ掴むの大変なのに。

そいつの体は黄色かった。普通の爪ネズミは灰色だ。

レア種かもしれないな。



魔物は同じ土地には同じ魔物しか生まれないらしい。

だから、この草原には5種類の魔物しか出ないのだが、例外がたまに現れることがある。

それが上位種、レア種である。


上位種はそのまんまだ。その魔物の上位の存在。

強さも当然強い。魔物との戦闘に慣れ始めた冒険者の天敵だそうな。見つけたら逃げて冒険者ギルドに報告して、強い冒険者に狩ってもらうのが定石だ。

1個体の魔物が集団になっているときは、大抵その個体の上位種が率いているらしい。そんな時は冒険者ギルドで討伐クエストが組まれる。


レア種はとにかく珍しい存在だ。

強さも上位種くらい強いが、上位種より珍しい。見つけたらラッキーだが、返り討ちに合うことも当然ある。

あとは、珍しい能力を持っていることが多いらしい。普通の奴が水属性の魔法を使う奴なら、レア種はそれに加え火属性とか風属性の魔法を使ってきたりする。


どちらも倒した時の魔石とか素材のうまみがあるが、自分の実力とよく相談するべきな魔物だ。




ん?・・・そういえば黄色?黄色って言ったよな?黄色のネズミ?


「レア種かな〜。尻尾もギザギザで〜、なんか顔の辺りが変だよ〜?バチバチって光が出てる〜。」

「雷魔法でしょうか?それでしたら危険です。」


リタとマルタまでそんな事を言う。おい!お前それ魔物で一番ヤベーやつじゃねーか!!


「おい。止めろ。あの電気野郎には関わらない方がいい。」

「でんき?あいつはでんきねずみなの?」

「おいいぃぃぃ!?カティ!!全部ひらがなで呼ぶな!!危ないだろ!!」

「え?・・・うん・・・。あーにげちゃった・・・。」

「レア種でも上位種でも危険ですよ、カティナちゃん。諦めて他の魔物を探しましょう。」


逃げてくれ、電気爪ネズミ。そして二度と現れるな。




暫く草原を探索して、そこそこ魔物も倒したので、本日最後の狩りにしようって魔物を探してたら、大物がきた。


「ん〜〜?・・・目の前にウマシカ発見〜。1匹だよ〜。」


リタが遠くで草食ってるウマシカを発見した。

よく魔物より先に見つけるな。草食動物とか、警戒心凄いだろうに。まぁアイツは魔物だから知らんけど。


「丁度良いですね。そろそろウマシカにチャレンジしてみませんか?リョウ君。」

「・・・そうだな、マルタ。行ってみるか。」


ヨハンナさんも近くに居るし、大丈夫だろう。


「いくわよ!われにつづけー!!」


馬鹿vsウマシカ。今開幕。本物の馬鹿はどっちだ!


「また変なこと考えてるだろ・・・ほら行くよリョウ。」

「今のは本当に変なこと考えてたぞ。よく分かったなエリオ。まさか僕の事好きなんじゃ・・・。」

「なになに〜?ボクその話凄く興味あるな〜。」

「ち、違うよ!リタ!!僕にそんな趣味は・・・。」

「エリオット君!リタちゃん!リョウ君!集中してください!!カティナちゃん行っちゃいましたよ!!」

「「「すみません・・・。」」」



僕達が装備している武器は銅のショートソード。

ショートソードでも今の僕達にとっては、片手剣もしくは両手剣位になる。丁度良い。武器屋で一番安く売ってるまともな剣だ。

まぁ、これらは孤児院の倉庫から勝手に持っていってるだけだ。司祭様は知っているので大丈夫だが。

他の武器は扱いを習って無いのでみんな剣だが、器用なリタだけ小さい投げナイフや剥ぎ取り用のナイフを何本か持っている。



特に苦戦はしない。5人で囲ってタコ殴り。

真後ろに立たないようにだけ気を付ける。後ろ足の蹴りが6歳児には大怪我ものだろう。


「とどめー!!」


カティの会心の一撃がウマシカの首に叩き込まれる。

うわっ、スゲー。本当に6歳児かよ。切れ味が良い剣なら首が飛んでたろう。

首の骨を折られたウマシカが倒れてピクピクしている。

どうやら馬鹿の勝ちのようだ。


「わははー!これでこのそうげんはせいはしたぞー!!まにあってよかったー!!」

「うわぁ。まさかウマシカまで倒せるなんて・・・。僕も確実に強くなってる・・・うん。」


鹿よりちょっと大きいくらいの魔物を、まさか5人の6歳児が殺せるとはな。元の世界じゃ考えられんな。

エリオはやっぱカティにライバル意識でもあるんだろうか。同い年で同じように剣を振ってるなら当然か。

僕?僕が本気出したら世界が滅んじゃうからね。あー本気出せんわー。つれーわー。


「魔石採るね〜。お肉どうする〜?」


リタがウマシカをナイフで穿りながら聞いてくる。お前・・・なんでそんなの平気なのよ・・・。


「5人で持って帰れるでしょうか・・・。リョウ君、どうします?」

「・・・そうだなぁ。貴重だし持って帰りてえところだが。」


ウマシカは数が少ないが、旨いので、この辺の冒険者には好まれる。

持って帰れば、孤児院のみんなも喜ぶだろう。何でウマシカの死体があるのかっていう言い訳は、後ろのヨハンナさんも見ているので何とかなるだろう。

てゆうか、言い訳の心配をしなければいけないのはカティだけである。


問題は、どうやって運ぶかだ。

カティの馬鹿力なら1人でいけるんじゃないか?

・・・いけたわ。コイツすげえな・・・。


流石に可哀想なのでみんなで手伝いながら、なんとか持って帰れた。



帰った後は、勿論ヨハンナさんがカティにウマシカの出所を聞きにくる。聞かないと不自然ではあるので、仕方ないことだ。

だから助けて欲しそうにこっちを見るな。お前の仕事だ頑張れ。


「お、お、おん・・・おそらからふってきたのよ!」


狼狽え過ぎだ。吹けもしない口笛を、目を反らしながら吹いてる。ギャグ漫画みてえな嘘つく奴だ。馬鹿過ぎる。降ってくるのは女の子だけで十分だわ。

ヨハンナさんの返しも流石で、ルナ様が我々に贈り物を下さったのですねとか言っている。


「そうか・・・ルナさまがくれたのね!」


いやお前が倒したんだろうが。なんで降ってきたことになってんだよ。




夕食迄の間に武器の手入れをみんなでしている時に、さっき気になった事をカティに聞いてみた。


「なあカティ。」

「なぁに〜?」

「お前ウマシカを倒した後に、間に合って良かったって言ったろ?何に間に合ったんだ?」

「え・・・。」

「そういえば言ってたね。何だったの?カティナ。」


エリオがそう聞くと、みんながカティを見る。


「そ、そ・・・しょん・・・しょんなこといっつょにょゆゅっ!」


落ち着け。どうやって発音すんねん。

シューシューと吹けない口笛をまた吹いている。このバリエーションの無さ!お前は鼻の方が良く鳴りそうだな。



カティの馬鹿可愛い頬っぺたを両方引っ張ってやる。鼻水キチャナイ。


「いふぁいおー。」

「嘘は良くないぞカティ君。言いたくないなら別にいいけど、大事なことならちゃんと言いなさい。」


頬っぺを解放してやる。何でコイツこんなにベチャベチャなんだ・・・。



「うん・・・じつはね・・・あたし、あとちょっとしたらがっこうにいくの。だからそれまでに、そうげんをせいはして、まにあってよかったなーって。」

「それは初耳です。王都にある騎士や冒険者の養成学校ですよね。」

「へぇ〜。良かったね〜。学校楽しそうじゃん〜。」


マルタとリタが羨ましそうに言うが、カティはそうでもないそうだ。


「やだよ・・・みんなといっしょにいたい・・・。なんねんもおうとにひとりぼっちだもん。」

「学校は同じ年頃の子達が集まるとこなんだから、友達も沢山できるよ。」

「・・・みんなもいっしょにいく。」

「いや、僕達は行けないよ。孤児なんだから。」


エリオが励ますが、カティは全然納得できないようだ。

まぁそりゃ当然だよな。こんな歳で親や幼馴染と離れて暮らすとか嫌だろ。



この世界には日本みたいな義務教育なんて無いし、学校も少ない。

その代わりなのか、王都の学校にはかなり力を入れて創られているようだ。

敷地も設備も教師も一級品。全生徒の寮まである。遠方からの生徒も安心して行けるそうで、他国からも生徒が来るらしい。


だが、子供だったら全員入れる訳じゃない。そんなことをすれば寮がパンパンだ。だから、入学には大金が掛かるし、入試試験もあって、実力を見てから篩に掛けるんだそうだ。

その為、入学する奴は貴族や、ランクの高い冒険者の子供が多い。



「じゃあ、しけんわざとおちる・・・。」

「馬鹿。司祭様とシスターヨハンナの気持ちも考えろ。金だって使ってるんだぞ。」

「バカじゃないもん・・・。」


それにお前。学園生活なんて超絶ビックイベントじゃねーか。

俺も行きてえよ。めっっっちゃ行きたい。なんと!モン娘が起き上がり嫁になりたそうに此方を見ている。嫁にしてあげますか? はい/Yes学園生活編突入じゃねーか!イキった貴族に絡まれる学園一可愛いマドンナを偶然助けるんでしょ?入試試験では学園創設以来最高の記録を叩き出すんでしょ?そしてクラス分けでは、「あっ、先程助けたお嬢さん。」「えっ!貴方も私と同じクラスなんですね!嬉しい!」(裏声)ってなって、「貴様!お嬢様に近づくな!馴れ馴れしいぞ!」(裏声2)と、これまたクールビューティーな美しいお嬢さん。「止めなさい、この御方は私を助けてくれたのです」(裏声)「そうだったのですか、お嬢様を助けて頂き有難う御座います」(裏声2)「いえいえ当然の事をしたまでです。」「これから楽しくなりそうですわ。ポッ♡」(裏声)

だってよぉぉーーー!!HA〜〜〜HAッHAッ!!!ターマランッチっっ!!!!!



「もう我慢できん!代われっ!私が学園にい゛ぐっ!!」

「えっ・・・リョウがいくならあたしもいく!」

「お前は邪魔だっ!!」

「ひどいっ!」

「どんな妄想したら、こうなるんだよ・・・。」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ