19話:スライム
孤児院に戻って、晩御飯を食った後、セリスに呼び出された。
どうやら話があるらしい。
“魔物誑し”の事ではないだろうか?
僕はスライムを連れて、カティとセリスの部屋に行った。
カティが学園に行ってる間は、カティの部屋は使われないので、セリスが使う事になっている。
今はカティが帰って来ているので、二人で寝ているらしい。
何とうらやまけしからん。変わって欲しいくらいだよ。
部屋に行くと、カティとセリスが待っていた。
「お待ちしていましたよ、リョウさん。楽にしていてください。」
ふおおーー!!女の部屋じゃあああ!!
スーハースーハースーハースーハーッッ!!
「・・・ふぅ。ところで、話とは何かね、セリスさん?」
「そうですね。もうすぐでいらっしゃると・・・。」
「セリス〜。ガリガリ君のコーンポタージュ味がないわ〜。」
突然何も無い空間から上半身が生える。
我らが女神、ルナ様である。
「私は知りませんよ?」
「楽しみにしてたのに〜。他の天使が食べちゃったのかしら?も〜。ナポリタン味で我慢するわ〜。」
何だこのユルさは?
まさかガリガリ君の為に僕は呼ばれたのか?
ルナ様はブツブツ言いながら消えて行く。
・・・・・・・・・・・・。
「セリス。ルナ様帰っちゃったよ?」
「え、ええ。・・・あれが用事だったのでしょうか?」
「え?マジで?」
・・・・・・・・・・・・。
「セリス〜。あたし眠い。」
「セリス。カティもこう言ってるし、帰っていいか?」
「す、すみません・・・。もう解散しましょうか・・・。」
「も〜。せっかちね〜。ガリガリ君取りに行ってただけじゃな〜い。」
ルナ様がひょっこり帰って来た。
橙色のアイスをペロペロ舐めている。
「貴方達も食べる?」
「ルナ様・・・あまり向こうの世界の物を持って来ては・・・。」
「いいじゃない。アイスくらいでブツブツ言わないの。頭が固いわよセリス?まるでガリガリ君みたいに・・・ぷぷっ!」
だから何だよこのユルさは?
「・・・ほらっ!勇者ちゃんも、リョウも。今日は私の奢りですわよ。」
「いえ、僕はソーダ味でいいです。」
「何よぉ!私のナポリタン味が食えないって言うのぉ?」
「リョウさん!不敬ですよ!」
ナポリタン味が食えなかったら不敬って何よセリスさん?
このゲス女神めニヤニヤしやがって。わかってやってるだろ?
「冷たくて変わった味だね〜。」
(もぐもぐ・・・・・・当たり棒、おいしい。)
まじが。平然と食ってやがる。
後、当たり棒は勿体無いぞ。
「それでルナ様?いつまでこんなユルい感じなんですか?」
「あら?リョウはもう飽きたのですか?つれない人ですわね。」
「帰っていいですか?」
「酷い男ね。私はこんなにも貴方に尽くしているのに。メソメソ。」
やっすい芝居で嘘泣きしやがって。
メソメソって口に出すもんじゃないから。
「ルナ様、本題に入ってください。」
「もうっ!セリスまで言わなくていいじゃない!分かったわよ!!・・・コホンッ。リョウ、魔物を仲間にしましたね。見させてもらいましたよ。」
何処かで見ていたらしい。
まぁ、神様なら出来るんだろう。
「ええ、このスライムがそうです。でもルナ様・・・。」
「分かっています。“魔物使い”とは違う方法で仲間になったのですよね。」
「えっ!?違うの!!?」
「そうですよカティナさん。私が説明しましょう。」
セリスも知っていたのか。
何も言わないから、知らなかったのかと思ったが。
唯一知らなかったカティに、説明してくれるようだ。
「従魔紋も無し、名付けも無し。興味を示す事もあり、無関心な時もあり。助けてくれたと思えば、今日襲われたと。」
「そうですね、ルナ様。まぁ、概ねそんな感じでしょうか。」
「・・・・・・。リョウがクラスを得るまでのスライムの行動は、何となく分かりますわね。クラスを得るまでは従魔になる事はありえませんから、スライムは躊躇っていたのではないでしょうか?それは魔物使いでも同じ事です。」
つまり、このスライムには僕の仲間になる素質があったって事か?
未来の主人である僕を見付けたはいいが、クラスを得てないが故に、仲間になる事が出来ず躊躇っていたと。
さっき、外でおやぢ達が話していた、カーリンさんのロックホーク。ソイツも同じ気持ちだったって事か。
「しかし、クラスを得た後は襲れたと。トドメを刺したと思えば、何故か無傷で生き返り、従魔紋も付けずに付いて来たと。・・・そこのスライムが喋れればその時の気持ちを聞けるのですがね。」
「え?喋りますよ。コイツ。」
「え?」
「え?」
僕とルナ様の間に沈黙が流れる。
カティに説明していたセリスも思わず黙ってしまった。
「・・・リョウ。そういった冗談は中二で卒業しなさい。」
ぐっ!!中二病ちゃうわ!!
確かに聞こえたんだよ!嘘じゃねぇ!!
「・・・・・・ぷぷっ!んふふふふっ。冗談ですよ、リョウ。言葉を喋る器官が無いので、貴方に意思を飛ばしているようですわね。」
はああああぁぁぉぉああああ!!!
こんのゲス女神があああああぁぁぁ!!!
穴という穴に当たり棒ぶち込んでグチャグチャのヘロヘロのペロペロしてやらおああああああああああ!!!
「ルナ様、スライムの言葉が分かるのですか?」
「セリス、貴方も分かる筈ですが?」
「わ、私はルナ様のように、心を読むのは達者では無いので・・・。集中しないと・・・・・・・・・。」
(・・・・・・。)
「・・・駄目です。分かりません。」
まぁ、今は喋って無いからね。
スライムも何か喋ってやればいいのに。
「まぁ、セリスは置いておきまして、そちらのスライムに話を聞きましょう。さぁ、スライムよ。この女神に話してもらえますか?」
(・・・・・・・・・・・・。)
「・・・・・・・・・・・・。 リョウ!!どういう事ですか!!!」
え?僕ですか!?
知らんがな。
「どうした、スライムちゃん?何でルナ様を無視するんだ?」
(・・・・・・何で?・・・・・・言うこと聞かないと、だめ?)
「・・・何故!?何故と言いましたか!?私は女神ですよ!!!」
「る、ルナ様!落ち着いてください!」
「セリス!これが落ち着いていられますか!?さっきのナポリタン味を返しなさい!あれは普通のではないんですよ!リッチなんですよ!!」
「ルナ様!私はまだ食べて無いので返しますから!」
「当たり棒も食べたでしょう!2本です!!リョウ!早く何とかしなさい!!」
何とかと言われましても。
この世界にガリガリ君が在る訳ないだろ。
ようは、ルナ様の言うことは聞く気が無い訳だろ?
主人である僕なら大丈夫だろう。
「スライム、僕もその辺の話を聞きたい。教えてくれ。」
(・・・・・・まず、なまえが先。)
そんなに名前付けて欲しいのか。
何かやたら名前に執着するよな。
魔物使いも従魔紋と一緒に名前を刻むらしいし、魔物にとっては大事なのかも知れないな。
「・・・まだ決めてないのですか!従魔に名前を付けると言う事はとても重要な事なのです!早く決めなさい!」
うるさいな!
ゆっくり考えさせなさいよ、ゲス女神!
いくら考えても全然出てこないんだよ!
「・・・スラ太郎じゃ駄目な・・・。」
(やだ。)
くっ!食い気味で否定しやがって!
「まずお前はオスなのか?メスなのか?」
(・・・・・・メス。)
おおぅ。マジか。
メスな事にも驚きだが、性別とかあったのか。
だったら、スラ太郎は駄目だな。
じゃあ、スラ子でいいじゃん。
(いや。)
まだ何も言ってねぇって。
じゃあ・・・スラ美?
(・・・・・・もっと、まじめに。)
・・・真面目なんだよなぁ。
「・・・リョウ。貴方、今後従魔になる魔物全員に、子とか美とか夫とかで終わらせる気ですか?」
・・・そうか。それは流石に酷いですね女神様。
分かったよ。ちゃんと考えるよ。
青いから・・・ブルー。なんか戦隊みたいだな。
プルプルしてるしな・・・プル。駄目だマルタが喜ぶだけだ。
スライムから考えて・・・ライム。在り来たりだなぁ。
でも、定番的な物が萌えるんだよな。
だから、子とか美でいいのに・・・。駄目なんですね。分かります。
やっぱライムかなぁ。
ライム・・・スライ・・・ライ・・・イム。
「よし、決めた。お前の名前は“イム”だ。」
(イム・・・・・・わかった。今からイム。)
「イムさんですね。私はセリスと申します。これから宜しくお願いしますね。」
(・・・・・・うん。)
「決まりましたわね。さぁ、イムとやら。この女神に当時の気持ちを話しなさい。」
(・・・・・・・・・・・・。)
「・・・リョウ!!早くしなさい!!」
何で僕が怒られるんだ?
「あ〜・・・。最初からでいっか。イム、だいたい4年位前だ。僕と決闘した事は覚えているか?あの一時間くらい死闘を繰り広げた時だ。あの時は僕の事どう思ってた?」
(決闘・・・・・・?遊んでもらった、だけ。)
「・・・ぷっ、ぷぷぷっ!リョウww真剣に戦っていたと思っていたのは貴方だけだったようですねwwww」
・・・・・・。
「次だ次。イム、お前は僕が誘拐されていた時も一緒に捕まっていたが、その時はどう思っていたんだ?」
(檻は、関係ない。・・・・・・触れなければいい。・・・・・・でも毎日、エサ、くれた。)
餌が欲しくて居ただけかよ!
心配して損したわ!
「・・・んで?僕はカティ達に助けられて逃げたよな?あの時は何で付いて来たんだ?」
(リョウは、特別な、人間。・・・・・・だから、ついて行った。・・・・・・ピンチだったから、助けた。)
僕がイムにとって特別な人間・・・従魔になる素質の事かな?
それで気になったから、餌場を離れて付いて来たところ、僕が死にそうになっていたと言う訳か。
(けむり、しびれた。・・・・・・けど、リョウ、助けてくれた。・・・・・・うれしかった。・・・・・・けど、いっしょに行けない・・・・・・と思った。じゃまな奴も、いっぱい居た。・・・・・・だから、帰った。)
その後、誘拐犯のお頭・・・スティーグだったかな?ソイツが逃げる為に使った毒煙玉でイムが痺れちゃってたんだよな。
僕が助けた訳ではないんだが。魔法を使って治したのはゲバルド氏だったんだけど。
一緒に行けないと思ったってのは、僕にまだクラスが無かったから何だろうか?
おやぢ達から聞いたカーリンさんの話でも、ロックホークはクラスを得る迄は見ているだけだったと言っていたし、イムもそうなんだろう。
邪魔な奴ってのはカティやマルタ、ゲバルド氏の事か?
そういえば、カティはイムを触ろうとしてたんだったな。それかも知れない。
「・・・ここまでは、特に“魔物使い”と変わらないようですね。」
「・・・そうですわね。ただ、魔物使いの従魔の気持ちなど分かりませんが。レア種だと、知性があって助かりますわね。」
黙っていたセリスとルナ様がそんな事を言う。
まぁ、イムの心を読んでいたんだろうが。
「え?心が読めるんですよね?魔物の気持ちとか分からないんですか?」
「読めますわよ。でも、普通の魔物は、考えている事が単純ですからね。お腹空いたとか、敵は倒すとか。」
なるほど。あっちの世界のペットみたいなもんか。
イムも喋れる訳じゃないが、こんな具合に会話をしたりとかは、通常の魔物には出来ないと。
「では、リョウ。今日の事を。」
「分かりました、ルナ様。イム、今日の事だ。翡翠の湖で何してたんだ?」
(みずうみ、他の魔物、来ない。・・・・・・いやしの場所。・・・・・・おふろ、入ってた。)
お、お風呂・・・。やっぱあれ風呂の気分だったのか。
魔力スポットだから、他の魔物も来ないし、レア種にとっては癒しの空間なのだろう。
(いやされてたら、誰か来た。・・・・・・リョウ達だった。・・・・・・ちょっと、イラッとした。)
まぁ、癒されてるところに、喧しく喋っていたらな。
だいたいマルタとカティが悪い。カティは声がデカいんだよ。
そのカティだが、喋らないと思っていたら、セリスの膝枕で寝ていた。
ンモオオオオオオオオオオオ!!羨ましい!けしからん!タマランチっ!!
・・・。まぁ、この辺から僕は、クラスのお陰なのか、イムの気持ちがなんとなく分かっていたな。
「それで、何で戦うって事になったんだ?癒されていたのを邪魔されたから?」
(ちがう。・・・・・・リョウを、確めるため。・・・・・・イムにふさわしいか、試した。)
「・・・なんと!自分のパートナーに相応しい相手かどうか確める為に戦ったと?」
ルナ様がそう言って、ビックリする。
やっぱ普通じゃ無いんだな。こういう事。
(リョウ、傷付けるの、やだ。・・・・・・でも、絶対やらなければ、と思った。)
僕が主人になるのに相応しい人間か試したのか。
しかも、傷付けるのは嫌だったけど、やらなければならないと感じてしまったと。
(イム、まけた。・・・・・・しんだ。けど、何故か生きてた。・・・・・・。リョウと、一緒になれた。うれしい。)
「・・・魔物使いとは、やはり違いますわね。魔物使いは従魔になる筈の魔物と戦う事はありません。況してや、息の根を止めるところまで戦い、生き返るなど・・・。」
「ルナ様・・・。これは“魔物使い”と“魔物誑し”の違いなのでしょうか?それとも、イムさんがレア種だからなのでしょうか?」
「・・・色々考えられますわね。クラスが違うから従魔にする方法が違うのか。レア種だから違うのか。このスライムが特別なのかも知れませんし、魔力溜まりが関係しているかも知れませんわ。」
二人で色々言ってるが、ようは分からないと。
まだまだ魔物誑しは検証の余地があるな。
「あの・・・ルナ様。これは私の勝手な予想でしかないのですが、“勇者”は関係していないのでしょうか?」
セリスは自分の膝で、グースカ寝ている勇者を見て言った。
・・・僕の“魔物誑し”が、カティの“勇者”に影響を受けて変になってるって事?
勇者ってそんなクラスか?
そりゃ200年に1人のクラスだから、珍しいんだろうけどさ。
あっちの世界の知識だと勇者は、全部のパラメーターが高くて、カリスマがあってパーティーのリーダーって感じだけど。
「・・・確かに勇者も珍しいクラスですが、その可能性は低いでしょう。前勇者のオルダタ、それ以前の勇者にも、仲間のクラスに影響を与えた者など居ませんわ。まぁ、オルダタは少々特殊な勇者なので、参考なるかどうか分かりませんが。」
「そういえばそうでした。聞こうと思っていたんですよ。一昨日、司祭様に勇者の事を聞かれた時に、何か隠しているような言い方でしたね。」
ルナ様が此方をジロッと睨んでくる。
おー怖。
「あざといですわね。・・・そうですよ。オルダタは、200年前の魔王との戦争で、勝ち目の無い人類の為に、私がクラスを選び直したのですわ。元はクラス“盗賊”でした。」
えぇ・・・そんな事したんかよ。
散々、そう簡単に人類に手を貸したりしないとか、クラスは選び直さないとか言ってたじゃん。
・・・でも、ルナ様がそんな事するってもしかして・・・。
「・・・その通りですわ。オルダタは転移者です。あの時は本当に人類存亡の危機でした。オルダタとその仲間達はよく頑張ってくれましたわ。あの六代目魔王を打ち倒し、封印するまでに至ったのですから。」
やっぱり。先輩でしたか。
めっちゃ格好いいじゃん。
いいなー。僕も魔王倒してー。
今が八代目だっけ?ソイツかかって来ないかな?相手するよ?カティが。
「あの〜、ルナ様?もう1つ気になってる事があるんですが?」
「はぁ・・・。何ですか?」
呆れた顔をしているが、聞いてくれるようだ。
そんな顔もお美しいですよ!ルナ様!
「ルナ様は魔物や魔族の事、どう思ってるんです?僕には魔物の間引きをしろって言ってましたよね?200年前の戦争の時も、ルナ様は人類側に味方したって事なんですよね?」
「・・・まず、私は貴方に魔物の間引きをしろなどと言っていませんが?貴方が勝手に思っているのでしょう?・・・まぁ、別に間違いではありませんが。」
何だよ。間違いじゃ無いなら、いいじゃねぇか。
「魔物を倒す事は、この世界の人類は皆やっている事でしょう?それは当然です。この世界の大気中に魔力がある限りは、魔物は増え続けるのですから。魔物を減らさないと、人類は生活出来ませんし、資源にもなるでしょう?」
「はぁ。そうですよね。」
だから、僕みたいな人間をマルスルナに転移転生させるんだろ?
何か知らんが、ステータスが高いからっていって。僕は高くないけど。
「・・・んふふっ。心配しなくても、リョウは充分役に立っていますわ。・・・そうですね。さっきの質問の答えから言いますと、私は人類も魔物もすべて含め、マルスルナだと思っていますわ。魔物もマルスルナの大切な一部分です。」
「はぁ・・・。でも、数を減らせって言うんですよね?」
「さっきも言ったでしょう?魔物は増え続けるのですから、減らさないと人類は生活出来ませんよ?星にはそういったバランスが大事なのです。そのバランスが崩れそうになったのが200年前の“オシリ戦争”ですわ。」
・・・・・・・・・・・・。
・・・いやまぁ、オシリ王国が舞台の戦争だったんですね。
うん・・・。ルナ様も普通にオシリとか言うし・・・。なんかもう・・・いいや。
「・・・んふふっ。何ですかリョウ?真面目な話をしているのですよ?女神であるこの私を性的な目で見るのは止めてもらえますか?」
「なっ!?リョウさん!!!我が女神に向かってなんて事を!?そこになおりなさい!!!」
あーもう。
ルナ様はニヤニヤして傍観してるし、セリスは大鎌まで出してるし、カティはセリスが突然立ち上がるから頭を打つけど起きねぇし・・・。
「何だ!エカテリーナ!五月蝿い・・・むおッ!!め、女神様ッッ!!!?」
ゲバルド氏は入って来るし。
誰かなんとかしてくれ。
(・・・・・・ふぁいと。)




