10話:・・・落ちたな(茶番)
無事に黒い煙に追い付かれることなく、脱出することができた。
外には、エリオ、リタ、マルタが待って居てくれた。
「リョウ!無事だったんだね!」
「リョウ〜。あっ!怪我してるじゃん〜。気を付けてって言ったのに〜!」
「見せて下さい。・・・大丈夫です。これくらいなら私の魔法で治せます。」
良かった回復魔法あって。
あたしゃもう疲れたよ。
「あ、あぁ、すまない。心配かけたな。」
他にはジュスタン、他の捕まっていた子供達、何か見たこと無いおねいさん方6人組・・・あっ、コニーさんが居る。ってことはコニーさんの冒険者の仲間達かな?
マルタが回復魔法を掛け終わると、美少女が急に抱きついて来た。
「リョウ!良かったぁ〜。人質にとられた時はどうしようかと・・・ゴメンね・・・あたし強くなったつもりだったのに、あんな事に・・・。」
う、ウヒョーー!!この子積極的過ぎない?
まだ空は明るいですぞっ!みんなも見てるから!!
フワッと美少女の深紅の髪が鼻にかかり、いい香りがしてくる。
ふ、ふおぉぉ・・・いい香りじゃあ〜。何で女の子ってこんな無条件でいい香りするの?卑怯だよ!もっと臭くってもいいんだよ?ソレはソレで興奮するから。
・・・・・・ん?深紅の髪?深紅の髪の女の子?・・・何か記憶にあるような・・・。
「んも〜、カティナはホントにリョウが好きだよね〜。妬けちゃうな〜。」
「ホント、4年会ってなくても変わらないから凄いよね。」
「ふふっ。リョウ君。赤くなってますよ。カティナちゃん良かったですね。」
リタ、エリオ、マルタがそんな事を言う。
・・・・・・ん?カティナ??
「ホントっ!・・・あっ!違った!・・・。ふ、ふんっ!リョウに惚れられても嬉しくなんかないんだからね!」
「うぷぷ〜。カティナ〜、何それ〜?」
「え?リュドミラちゃんに、男の子はツンデレ?で攻めたらコロッといくって・・・。」
・・・・・・・・・。
ん?カティってこんな顔だっけ?
んん?別人じゃないの?骨格から変わってそうだけど?
え?鼻水ってなんか特殊な効果とかあるのかな?何か数年後に美顔にさせる効果とかある?
それ革命的な発見じゃん。元の世界で特許取って広めたら大儲け出来そう。
「え?お前カティなのか?」
「え?当たり前だよ。何言ってるの?」
「んん?君、整形でもしたん?」
「?? せいけいって何?」
とんでもなく失礼な発言だったが、意味が通じなかったようだ。
なんだろう。ホントにカティなのか?
新手の詐欺じゃないの?
皆騙されてない?
学園に居る内に、何者かと入れ替わった?
スティーグの手の者だったりしない?僕を油断させて、また誘拐するとか。
何か無いかな?コイツがカティだと証明する方法。
適当に質問してみるか。偽者なら直ぐ化けの皮が剥がれる筈だ。
「お前、誕生日は?」
「え?・・・えーっと・・・10月12日?」
僕に聞くな。
「僕の誕生日は?」
「えぇ!?う、う〜ん、う〜ん・・・2月30日!」
うん。そんな人存在しないよ。
「お前がオネショを隠した回数は?」
「さんじゅう・・・ちょ!ちょっと!!してない!!あたし、してないからっ!!」
皆の目が生暖かいゾ☆
「マルタのやおい本の隠し場所は?」
「書物室の魔物の本の裏!!」
「ええっ!?何で知って・・・いや!私のじゃありませんからっ!!」
油断してるからだゾ☆
「ついでに、エリオット君のもっこり本の隠し場所は?」
「簡単だよ。寝床の下。」
「う、うわあああああああああ!!」
だから、ベッドの下は止めとけと言っただろうに。
つーか、同じ部屋に他の子も寝てるっていうのに、その隠し場所はどうよ?
「じゃあ〜、リョウがたまに寝る間を惜しんでやっていることはな〜んだ〜?」
「えーっと、覗きの予行演習だっけ?」
「・・・・・・何を言っているのか分からんな。実際覗いてるとこでも見たのか?」
リタめ・・・後で覚えてろよ。
僕は別にダメージは無いが、後ろでおやぢ達が震えているぞ?僕よりあっちの方がダメージがデカかったようだな。
「最後だ。そうだなぁ・・・九九の七の段でも言ってみ?」
「!!? ・・・・・・・・・そ、そんなの・・・こんな所で話すことじゃないでしょ?もっと・・・二人っきりの時に・・・ね?」
何言ってんだコイツ?
この返しはカティっぽくないな。さっき言ってた、リュドミラちゃんが吹き込んだ知識か?
さて・・・どうしたもんか・・・。
僕はカティの顎に左手を添え、軽くクイッと僕の方に向かせる。右手は勿論カティの頭の右に。カティの後ろに壁はねぇけど、様式美だからな。
コレが噂のKA BE DO NからのA GO KU Iである。
イケメンにしか出来ない芸当だ。
まさか、僕が壁ドンすることになるとは・・・前世の容姿じゃ考えられなかったな。
僕は顔を近づけ、こう言ってやった。
「カティ。僕は今。ここで。君のその可愛い口から。九九を聞きたいんだ。聞かせてくれるかい?」
カティが僕を色気でからかおうなんて百年早いね。
カティは顔から湯気が出そうな位に真っ赤っ赤で、目を回してアワアワしてる。
マルタもリタも顔が茹で蛸みたいになっている。
マルタは、「お二人共もう、そんな・・・ヒャー。」と小声で言いながら、両手で顔を覆いつつ、指の隙間からガッツリ見ている。
リタは、顔はこっちを発情した目で見ているが、股間を押さえて前屈みだ。馬鹿かコイツは。
どうだ?私の魅力を思い知ったかね?これからはあんまり舐めた口利くなよ。
何故かエリオも顔が真っ赤だが、コイツは放っておこう。
「あ、あわ・・・あヒョわぁ〜・・・い、イチイチがイチィ・・・イチニがニィ〜・・・。」
「おいおい、一の段なんて誰でもできるだろ。僕は。カティの。七の段が聞きたいんだ。」
「は・・・ハヒ・・・しょ、しょれはぁ・・・ごめんなしゃいィ〜・・・あ、あたし、まだ・・・かけ算もぉ・・・わりじゃんもぉ・・・出来ないのぉぅぉ・・・。」
「ウソついたのかい?それに僕をからかって・・・イ ケ ナ イ 娘だな・・・。」
「ふ、ふ、フシュ〜〜〜・・・・・・・。」
堕ちたな・・・。
さっきまでの勇ましさは何処へ行ったのやら。
コイツを倒すのに剣など要らんのですよ!
まあ、これで間違いないだろう。この溢れ出る残念さは、どうやらホントにカティのようだ。
・・・そうか。カティなのか・・・。何かドキドキして損したわ。
なんだろうね。超絶美少女なのは間違いないんだけどな。
鼻水もなくなって、別人レベルで可愛くなったわ。
剣の腕も凄かったな。クラス持ちの大人を圧倒してたぞ。
コイツはまだクラス持ってない筈だろ?何だ?やっぱりクラスってそんなに重要じゃないのか?
「む?茶番は終わったかね?」
茶番って・・・まぁ茶番だけどぉ・・・。
それより、あんたの娘が足元でパンツ丸出しで転がってるけど、ソレはいいのか?
どうやら待ってくれて居たようだ。
ディーノ氏様、誘拐されてた子供達、コニーさんのパーティーはもう帰ったようだ。
「黒い煙は風魔法で晴らしておいた。他の者達だが、誘拐されていた子達が衰弱していたのでな。連れて帰って貰った。後、賊が意外に多かったのでな、“百舌鳥の羽ばたき”には援軍を連れてきて貰うことになった。なので援軍が来る迄待機だ。エリオ、リタ。死んでいる者は捨て置けばいいが、気絶している者を縛り上げておこう。手伝ってくれ。」
「「はいっ!」」
いや・・・僕も衰弱してますよ?
僕の扱い酷くない?
ちなみに、“百舌鳥の羽ばたき”ってのは、コニーさんのパーティーの名前だよ。
マルタが好きそうな名前だな。
「リョウ、娘を頼むぞ。」
そう言って、ゲバルド氏はさっさと行ってしまう。
「ぶぅ〜ぶぅ〜。カティナがこんなじゃなかったら、ボクがもっと楽出来たのに〜。」
「早く行くよリタ。」
エリオがリタを引きずって行った。
さて、流石に放って置くのも可哀想だし、介抱してやるか。
なんで誘拐された後、人を介抱しないといかんのだろう?介抱されるべき人、間違ってるよね?
カティをお姫様抱っこしてやった。これならコイツも本望だろう。
「なぁ、マルタ。」
「・・・えっ?う、羨ましそうに見てませんからっ!」
「は?・・・それより頼みがあるんだが。」
「はぅ・・・な、なんでしょう?」
「洞窟の中で命の恩人を置き去りにしてしまってな・・・様子を見に行きたいんだがいいか?」
「ええっ!その人大丈夫なんですか!?早く行きましょう!」
まぁ人ではないんですけどね。
僕達は再び、洞窟に入っていった。
さっきまで居た、開けた場所まで戻って来た。
ゲバルド氏達はもう作業を終えて、賊達を見張っていた。目を覚ました賊も何人か居たが、痺れているのか、痙攣していた。
青いスライムを捜してみたが、もう姿は見えなかった。
「リョウ君。命の恩人の方は・・・?」
「あぁ・・・、もう何処かに行っちまったようだ・・・。」
黒い煙は何ともなかったのだろうか・・・。
何故、助けてくれたのか分からないが、御礼くらい言いたかったな・・・。
人を助けて、何も言わずに去るなんて、カッコいいスライムじゃない・・・か・・・??
・・・・・・居た。
通路の隅っこで、ミョ〜ンと体を伸ばして震えている。
どういう状況だ?
というか、折角カッコいいスライムだって締めてやったのに、何で出てくるんだよ。締まらねぇ奴だな。
「スライム?・・・何か、変なスライムですね。」
「ん、ンーー!ンガッ!」
このタイミングで、何故か馬鹿が起きたようだ。
「んあー・・・リョウ・・・リョウっ!近っっ!?・・・ホアッッ!!?お、お姫様抱っこっ!!!?」
何だコイツ。どんどん残念になっていくぞ。もう喋んなよ。
「おはよう。お前本当にカティだったんだな。」
「え?・・・あっ!・・・フ、フンッ!あたしは別にカティなんかじゃないんだからね!!」
「カティナちゃん。そこはツンデレを使うところじゃないです。」
マルタの冷静なツッコミがはいる。
リュドミラちゃんも知識を与えるのはいいが、相手がカティなだけに、完全に無駄になるのが分かんないかな?
つーか、今はカティの出る場面ではないのだ。
地面に下ろしてやると、ションボリしてしまったが、放っておこう。
「マルタ。悪いがこのスライムに、麻痺を治す魔法を掛けてもらえるか?」
「え?魔物に回復魔法を掛けるんですか?」
「あ・・・いや、すまん。やっぱいいんだ・・・。」
しまった・・・。マルタの母親は魔物に殺されてるんだった・・・。
「すまない。無神経な事を言ったな。」
「・・・あ、いえ。お気遣いありがとうございます。でも、大丈夫ですよ。別にこのスライムが私の母親を殺めた訳ではありませんから。ただ・・・私は麻痺を治す魔法が使えないので・・・。」
「あ〜、そっか・・・どうするかなぁ。」
「パパならできるよ!呼んでくるね!」
立ち直ったカティが司祭様を呼びに言ってくれた。
「リョウ君。どういうことなんです?このスライムが命の恩人なんですか?」
「あぁ、実はな・・・」
僕はさっきの出来事を説明してやった。
「そんなことが・・・魔物が人を助けるなんて・・・いえ、でも魔族でも友好的な方もいますし、お伽噺でも魔物は人を・・・。」
「む。まぁ、魔物にも色々いるということだ。・・・よし。これで痺れは取れたろう。」
カティに連れられて来たゲバルド氏がそう言いながら、スライムに回復魔法を掛けてくれた。
だが、スライムは体を元に戻して楕円形のような形状になると、フヨフヨしながらじっとしている。
此方を見ているのだろうか?相変わらず目は無いので分かりません。
「何でしょう?襲ってくる訳でもないし、逃げる訳でもないんですね。」
「・・・触っていいかな?」
カティが手を伸ばすと、スライムは出口の方にゆっくり移動していった。
別に逃げてる訳じゃないのね。終止、マイペースな奴だったな。
「あぁ、逃げちゃった・・・。友達になれるのかと思ったのに・・・。」
「・・・魔物とですか?」
「む。マルタよ。有り得ない事では無いんだぞ。」
「司祭様・・・それは・・・そうかも知れませんが・・・。」
「む。確かに、意思疎通できる魔族と違って、魔物と友好的な関係を築くのは、不可能だろう。お前達も魔物の事は少し勉強したな?魔物のほぼ100%が理性が無く、反射的に人類を襲うと言われているそうだ。」
「でしたら・・・。」
「だが、例外がある。お前達も読んだ事があるだろう。孤児院にある絵本だ。白い狼が獣人を助ける。あれは本当にあったことなのだぞ。」
ん?昔話だろアレ?
随分自信たっぷりに言うじゃん、ゲバルド氏。
「本当にって・・・言い切っちゃうんですね。昔話じゃないんですか?」
「む。リョウよ。昔ではあるが、7〜8年前の話だ。絵本の舞台になった獣人の里も王国内にあるのだ。当時の王国騎士だった者にも話を聞いた事がある。」
おお。それなら信憑性があるな。
あの絵本の出来事ってまだ最近の事だったんだな。つーか実話なのか。
むか〜しむかしとか書いてたような気がするんだが・・・、まぁ大げさに書いてあるのかね。内容もちょっと盛ってたりして。
「じゃあ、4年前に僕達が会った銀色の狼って、もしかして?」
「むぅ、それは分からんな。」
そうかぁ。
まぁ、あの銀色の狼が昔話の狼だったとしても、特に何かするって訳ではないんだが。僕はアイツに襲われたわけだし。
まだまだゲバルド氏の知っている話があるようだ。
「他にもあるぞ。リビングデッドという魔物のことを書いた絵本がある。アレもなかなかいい話だぞ。後は、一番有名な伝承だと・・・200年前の戦争の折に、人類に味方したヴァンパイアという魔族が居たそうだな。」
リビングデッドの絵本は、まだ常井 稜の記憶が無い時のリョウ君が読んでいたようだ。
魔物の生息地に迷い混んだ人間の子供を、見た目がグロテスクなリビングデッドが助け、他の魔物から守ってくれたり、里に送ってあげたりと言うお話だ。
この絵本は、相手を見た目で判断して蔑んではいけない。ってのを教えたいのだろうか。
確かに、絵本らしいと言えばらしい。子供の教育には良いのかも知れない。
が、本当にあった話・・・なのかなぁ・・・。
・・・いかんなぁ。元の世界のゾンビの先入観があるから、全く本当の話に思えないな。
この世界でゾンビの魔物を見ても、友好的に!なんて考えず、真っ先に頭部を狙うだろう。
銃がいるな・・・ナイフ縛りなんて絶対できねぇ!
この世界に銃ってあるのかな?その前にゾンビサバイバルなんて絶対やだぞっ!!
これそういう話じゃねえから!・・・え?無いよね?
何?ゾンビ?ハハハ・・・ゾンビなんて居るわけないじゃないですか。それより何時までここに居ればいいんだ!俺は1人で行かせてもらうぜ!ここを出たら彼女にプロポーズするって決めてるんだ!・・・ッッ!!・・・ハハハ、なーんだ気のせいか。ビビらせやがって・・・・・・。
200年前の戦争で人類に味方したヴァンパイア・・・。
前にマルタと200年前の戦争の話をした時は出てこなかったな。
かつての勇者様とは、行動を共にしていなかったのだろうか。
・・・しかしヴァンパイアか・・・金髪ロリとかがいいな・・・。
執事風の老人もありだな。いやでも、やっぱ女の子かな。
スタイル抜群の美女だなやっぱ。間違っても、悪魔的な城に居るような奴は出てくるなよ!
中途半端ですが、長くなったので切ります。