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三章『彼は1つの計画を企てる(1)』

「フブキの状況をある程度把握したとは言っても、別に居場所が分かったわけじゃないんだよな」

「そうですね。手当たり次第に捜すというのも骨が折れますし、いったいどうしましょうか」

「どうするも何も、やっぱ情報が足りないんだよな」

 今、彼らがいるのは小さな森の中であった。街を飛び出して随分長いこと荒野の上でバイクを走らせた後、前方に森が見えたのを確認したひなたは迷うことなくそこに向かった。身を隠したいというのが一番の理由であったが、もしかすると川や湖といった水が確保できる場所があるかもしれない、というのも理由の一つであった。さすがに荒野のど真ん中で一夜を明かすのは危険すぎた。

 そして、彼の予想通りその森には小さな滝があり、おかげで水を確保することができた。その場所の傍にテントを張ったひなたは、手際よく水を汲むと食事作りに取り掛かった。

 驚くべきことに、彼の持っている荷物はそのほとんどが料理道具であった。「食こそが、人間において最も重要な事柄である」と言い切る彼は、道中、食事を最優先して物事を考える。お金が少ししかなければ、宿をとらずに食材を買うのは彼にとって当然の行為であった。それがたとえ一般の旅人にとっては信じられないくらいにバカな行為であったとしても。

 さて、そんなひなたが作る料理は実に美味しかった。湯気の立つスープには、色とりどりの野菜が浮かんでおり、なんといってもその香りが食欲をそそった。先ほどの街で購入していたらしい魚は、網にのせて塩焼きにする。焚き火の音と魚の焼ける音が心地よく響いた。鍋で炊いたお米はふっくらと炊きあがり、つやのある白さが際立つ。

「今日はいろいろあって疲れましたし、早めに休みましょう」

 ユキナの器におかわりのスープを注ぎながら、ひなたが口を開いた。ユキナもハム吉もその意見には同意のようで、声をそろえて

「そうだね」「そうだな」

 と答えた。




 翌日、更なる事態が襲い掛かることを彼らはまだ知らない。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 朝。

 まず目覚めたのはひなたであった。1つしかないテントはユキナに使ってもらい、自分は大きめの木の下で寝袋を使って眠っていたひなたは、朝日の眩しさに身体を起こすことになった。

 顔を洗うと思いのほか、さっぱりした。ひなたは頬を数回叩くと、念入りに刀の手入れをし、朝食作りにとりかかる。包丁の音が朝早い森の中に響き渡った。

「……」 

 と、突然ひなたはその手を止め、辺りに意識を集中させた。これといって違和感はない。水の落ちる音と、風の音、あるいは鳥の鳴き声くらいしか聞こえない。


 しかし、ひなたにはそれが聞こえていた。


 彼は包丁を置くと、上着のポケットの中から小形のナイフを取り出した。息をひそめて近くの茂みに飛び込む。

 


 ザッ、ザッ。

 


 彼の耳に届いたのは、何者かの足音だった。集中して聞かなければ聞き取れないほどの小さな音だった。こんな風に足音を消して“獲物”に近づいてくるのは、略奪者か、あるいは……。


 足音が徐々に近づくにつれて、ひなたは集中力を高めていく。勝負は一瞬。相手に気づかれる前に、こちらから仕掛ける。



 ザッ、ザッ。



 数十メートル付近まで近づいてきたのを確信したひなたは、心の中で数を数えた。あと、3秒、2秒、1秒。



「!」



 死角から飛び出してきたひなたのナイフをぎりぎりのところでかわした何者かは、しりもちをつく形になった。

「ちょ、ちょっと待った!」

 緩急いれずに、その首にナイフを突き刺そうと腕を伸ばしたひなたに驚き、男は大声を上げて彼を制した。

「……何をやっているんですか?」

 首にささる数センチ前ほどでぴたりと腕を止めたひなたは、自分が襲い掛かった人物の顔を見て呆気にとられた。

「また会ったな」

 ズボンについた汚れをはたきながら立ち上がったのは、だいちであった。相変わらずの微笑み具合である。

「何か用ですか?」

「水の音がしたもんで……」

「1人ですか?」

「はい」

 ひなたはだいちを連れてテントの張ってある場所に歩を進めた。それから、切り株に腰掛けるように勧めると、自分は朝食作りを再開した。

「昨日の件だがな、全く君も派手にやってくれたものだ」

「僕はあれだけ派手にできて、久しぶりに興奮しましたよ」

 だいちは苦笑を浮かべると、懐から2枚の紙を取り出した。ひなたの予想通り、それは手配書であった。

「情報屋に自分を売るとは……。君らしいといえば君らしいが、これまでの私の苦労が水の泡になったじゃないか」

「すみません……」

「とにかくこれで、君も3億越えの仲間入りだ。おめでとう、というべきか? そんなことはどうでもいいか。とにかく君の額に関しては数年ぶりの更新だったということもあり、おかげさまで今朝から新聞屋は大盛況だ」

 ひなたはそんなだいちの言葉を聞き流しながら、まず1枚目に目を通した。見慣れた写真の下には更新された賞金額が書かれていた。その額、3億S。数年ぶりに2000万S上がったことになる。

「3億越えは3人目になりますか?」

「そうだ。政府側もいよいよ追い詰められたってことだ。君もご存知のように、現時点で、フブキ・みかげという高額賞金首が2人もいるもんで、これ以上の賞金首増大、賞金額上昇は、できるだけ避けなければならない事態なんだよ。3億越えが同時期に3人も存在するなんて、我が政府始まって以来の“汚点”だよ」

「汚点、ですか」

「賞金首の数も歴代最高記録を更新中だし、これでは政府の無能さを露呈しているようなものだろ?」

「それは、すみません」

 ひなたはさして悪びれた様子もなく謝ると、もう1枚に目を通した。

「そして、問題のもう1枚だ」

 そこに写っていたのは、いつのまに撮影したのかユキナの顔写真であった。賞金額も書かれている。その桁は、一、十、百、千、万、十万……。

「彼女はまだ少女といっても良い年齢ですよ? それに別に何か事件を起こしたわけでもない」

「私もそう主張したさ。だがな、上の奴らの意見は違う。一刻も早く、彼女を捕らえるためには、その額が適当な額であると言い切った」

「それはそうかもしれませんが。確かにこの額ならば高過ぎず、安すぎず……。政府に引き渡すために捕まえようと考える人が出てくるのに丁度良い額かもしれません」

「嫌な考え方だけどな」

「そうですね」

 記載された賞金額は、2,600万S。賞金首に懸けられている額の平均値とほぼ同等の額であった。しかも、その額がついているのはどこからどう見てもただの少女。お金に困った猛者どもが狙いにきても決しておかしくはない。

「それで、あなたが1人でここに来た本当の理由を聞かせてもらえませんか。さすがに、わざわざ手配書の件を伝えに来ただけではないでしょう?」

「まずは食事をいただくとしよう。久しぶりに君の手料理が食べたい」

「少し寒気のする言い方ですね、それ」

 湯が沸き、ひなたはそれをポットに移した。フライパンの上に卵を落とし、塩・こしょうをぱらぱらと振り掛ける。卵は半熟に仕上げるのがひなたのこだわりであった。

「2,600万は結構やばい額だな」

「起きてたんですか」

「朝っぱらから騒がしかったからな」

 ちゃっかりとだいちの隣に座ったハム吉はユキナの手配書をぱんぱんと叩きながら、つまらなさそうに舌打ちした。

「俺、コーヒー、ブラックで」

「生意気な小動物だな」

「うるせぇよ」

 だいちが眉をひそめ、ハム吉が煙たそうに手を振った。ひなたはハム吉用の小さなカップにコーヒーを注ぐと、それをそっと手渡してやる。

「どうぞ」

「どーも」

 ハム吉は香りを充分に楽しんでから、それを口に運んだ。幸せそうに鼻をひくひくと動かしてコップを脇に置く。

 ひなたは皿に乗せた目玉焼きとサラダ。それからいくつかのパンをだいちに差し出し、自分も同じものを持って向かい側の切り株に腰掛けた。

 だいちはひなたの作った料理を口に運んで満足げに頷くと、鋭い視線をひなたに向けた。

「では、本題に入るとしよう」

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