二章『彼女は自分の意思を口にする(1)』
そこまで話し終えると、ひなたは拳を握り締め、ぎりっと奥歯をかみ締めた。
「再会の日は、すぐに訪れました」
彼の表情の変化にユキナは鼓動が早まるのを感じた。それ以上は聞きたくないかのように、耳を押さえて首を横に振る。
「望んでいた形とは違う再会でした。その日、僕らはいつものように町の外れで稽古をしていました。僕は剣術を、みかげは銃を。しばらく淡々と訓練を続けた後、そろそろ帰ろうということになり、ふと町の方に目を向けると、もうすっかり夜だというのに町が異様に明るいことに気づきました。僕らは、いったい何だろう、と思いつつ、妙な胸騒ぎを感じて町に戻りました」
ユキナは身体を震わせてひなたから離れると、へたへたと腰から崩れ落ちてベッドに座り込んだ。顔はやや青ざめていた。
「僕らが着いたときには町はもうなかったといえます。燃え盛る家と泣き喚く人々。僕は一目散に家に戻りましたが、そこにあるはずの家は形を変え、家族の姿は見当たりませんでした。それは、みかげも同様のようで、ふらふらとした足取りで彼は僕に近づいてきました。そのとき――」
「もう、いい」
機械的な声が部屋中に響き渡った。圧倒的なまでに巨大な拒絶の気持ちが込められていた。
「やめて」
「すみません……」
ユキナの様子を察したひなたは小さく息をはくと、壁に寄りかかった。彼自身も内から込み上げてくる感情を抑え切れていないらしかった。
「フブキの話はいったんここで止めよう。ユキナが限界だ」
ハム吉はがたがたと震えるユキナに視線を向けて、ひなたの足元に近寄った。
「だいちとの関係について話を移してくれ」
「はい。僕とみかげは故郷を失った後、1つの町を作りました。事故や事件など、いえ、時代が時代ですから、ほとんどは事件に巻き込まれた者たちでしたが……。とにかく様々な理由で家族を失った者たちが、もう一度誰かと共に暮らせるようにと作った町です。彼とは、そこで出会いました」
「アンフォールか」
ひなたは驚いたように口を開けると、音もなくこくりと頷いた。
「よくご存知で」
「当然だ。お前とみかげの出身地だぞ。政府側が無視するはずないだろ。定期的に政府の役人たちや俺みたいな諜報部隊が調査に行っているはずだ」
「町のみんなに迷惑をかけてないでしょうね」
ひなたがじとっとした目をハム吉に向けて問いかけると、ハム吉は大きく首を縦に振った。それは自信の表れというよりはむしろ、そうあって欲しいという願いを含んだ頷きだった。
「それはまぁ大丈夫だろうよ。一応政府は“正義の味方”だぜ? さすがに民間人を危険な目に遭わせるほど腐ってないだろ」
「そう……ですね」
ひなたは宙に視線を浮かべるとしばらく目を閉じた。数年前に旅立った第2の故郷を思い出しているらしかった。
「ということは、だ。だいちも何かに巻き込まれたってことか?」
「詳しくは知りませんが、僕らと似たようなものだと思います。昔から、政府に入って悪人を残らず捕まえるのが夢だと言っていましたから」
ひなたは静かに目を開けると、ぐるりと首を動かしてハム吉を見た。
「その悪人に、お前は入ってるのか?」
「どうでしょうね。現時点で、彼の最大の目標はフブキの確保のはずです。その点において、僕やみかげも同一の目的を有している以上、彼がそんな無駄な動きをするとは思えませんが」
「なるほどな。そうなると、やっぱりお前が鍵だな」
「と、言いますと?」
ハム吉は、ふん、と鼻を鳴らすと、ぺちぺちとひなたの頬を叩いた。
「つまり、だいちは政府の役人という一般的に正義と思われている立ち位置でフブキを追い、みかげは無法者という悪の立ち位置でフブキを追っている。そして、お前はその間をうろちょろしてる感じだよな。まぁどちらに転ぶか分からないっていうのが、怖いところか」
「そうですかね? 僕は明らかにみかげ側の人間だと思いますが……」
「でも、みかげと違ってお前にはフブキを殺すつもりなんてないだろ?」
しばらく会話から遠ざかっていたユキナが、その言葉にはっとした顔をした。泣きそうな瞳がひなたに向けられる。そんな顔をされては否定の言葉を発することができるはずもなく、
「相変わらず、ずるいですね、あなたは」
と嫌味をふんだんに込めてぼやくのが精一杯だった。
ひなたはぼやくと同時に手早くメガネをかけると蒼髪をすっぽりと帽子の中に隠した。それから荷物の中から1枚の厚めの布を取り出すと、それをユキナの頭に被せた。
「では、そんな僕の最後の葛藤を壊しに行きましょうか」
「へ?」
ユキナは頭に被せられた布に触れながら間の抜けた声をあげた。ざわりとした感触がその手に伝わる。
「今度は表のやり方で情報を集めてみましょう。これだけ大きな街です。きっと、何か分かるはずです」
「んん?」
ハム吉がよく分からないといった表情を浮かべ、首をかしげた。しかし、ひなたはそんなことを気にも留めず、ユキナの手をとると部屋の扉を開いた。
「さぁ行きましょう。あの騒ぎが情報として伝わり終える前に」




