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まずすべきこと

心臓が脈打つたびに全身から鈍い痛みを感じる。

意識が浮上して、それから目を開けた。

目に飛び込んだ痛いくらいの白に、

ああ、ここ病院だ、と思った。とにかく頭がぼんやりしてて、まともな思考ができていなかった。

病院の几帳面な四角さに笑いがこみ上げて、私はうすら微笑んだ。

ドワーフの世界じゃ、こんな白さも、四角い部屋もないなー、人間ってやっぱすごいわー。

間抜けだけど、これが私の最初の感想なんですよね。

そのあとすぐにとてつもない眠気に襲われちゃってなんのきなしに眠って、今に至っているの。

感動的な前世の記憶蘇りデーなのに、特筆すべきことがなーんにもない。でも、その時にはもう私の中でのドワーフの世界の記憶には実体があった。その記憶は疑うべきものでも、驚くべきものでもなかった。そもそもいまの私の人間界とドワーフ界?の情報量はほとんど同じなのだ。人として、もしくはドワーフとして生きていくうえでの情報、いわゆるそれぞれの世界での常識が私の頭には詰まっている。でも、私個人としての情報はない。経験則としての常識もない。例外として、なぜかエリシアというドワーフであった頃の名前を覚えているくらいだ。もしかすると、性格的にも今はドワーフなのかもしれない。皮肉にも、この体は人間なのだが。

今から考えるとドワーフの世界のことと、人間界のこととを比較できるってことに鋭いツッコミを入れるべきだったんだけど、あの時は本当に脳内お花畑だった……。怪我をしてたからなのか、眠気がとにかくすごくて、違和感なんかを感じとることもできなかった。でも、すっかり意識が戻った今も、こうして落ち着いていられるのは人間の常識的なことを情報として持っているからかもられない。

ラッキーなことに?、この大怪我でベットからほとんど出られないし、体勢変えられないしで、考える時間だけはたくさんある。2日間私は自分の今後の身の振り方について考えた。そこで、時間的にもいま、決断すべきことがある。

それはすなわち、記憶喪失だと公表するかどうか、ということだ。今までは、怪我して頭打ってーと言えば看護師からの質問も切り抜けられることもあったが、意識が戻ってから2日、そろそろこの言い訳もきつい。人間的な私は早く看護師さんに記憶喪失を公表しろ、と訴える。しかし、ドワーフの私は決して言うな、訴える。人間界の常識的に、今記憶喪失をカミングアウトしてしまえば今後生きやすいだろう。そんなことはわかってる。わかりきっている。でも、私はもうほとんど言わない方に傾いている。私は、ドワーフの記憶を怖いと思っていない。それは当たり前に私に存在しているのだ。ドワーフの記憶が疑うべきものではないとすると、私が疑うべきものは、なぜ、私が、この記憶を、今、思い出したのか、ということだ。

思い出したことと、私の事故と何か関係があるとしたらどうだろうか。私の事故に加害者がいるとしたら?私が記憶喪失だということがわかったら、加害者に有利ではないか。

そこまで考えてしかし、不謹慎かもしれないが私はワクワクしていた。やってやろうじゃない。上手く立ち回る自信はある。情報をもっと増やしていかなくては。まずは聞き込み!看護師さんたちの会話で、少しでも有益な情報をいただく!さすがに名前はわからないとまずい。情報の優先順位はだいたいこんな感じかな。


1名前

2なぜ、こんな大怪我を負う羽目になったのか

3ここはどこなのか

4今何月何日目

ざっとこれくらいわかれば少しは安心できるんじゃないだろうか。もちろん、家族構成とか、学校のこととか、教えて欲しいことはたくさんあるんだけど、看護師さんに聞くことじゃないだろう。お願いします、人間だった私よ、フレンドリーな子であってくれ!

友達の怪我をお見舞いしにきてくれる子の一人二人持っててくれ!できれば、黒髪の清楚で優しく可愛い子でお願いします。

その夜私は来るかどうかもわからない架空の友人の容姿と性格をこと細かく神様に願いながら、病院の白いベッドに沈んだ。


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